パッケージ「包装」の原点 TSUTSUMU(包む) 岡秀行の魅力を語る

みなさんは、「岡秀行さん」を知っていますか?
岡秀行さん(1905-1995)は、木、藁、笹の葉などの自然素材を使った日本の「包む文化」に注目し、伝統パッケージの収集・研究をしたデザイナーで、国際的にも広く知られています。実は、NDS(日本デザイナー学院)の四代目校長も務めた方です。

今でも丁寧に包まれた和菓子やお手紙を目にすることがありますよね。
「包む文化」はいつから存在していたのでしょうか?また、昔の日本にはどんなパッケージがあったのでしょうか?
岡秀行さんの作品をパッケージデザイン協会の石井浩一さんに紹介していただきます。日本の伝統的なパッケージを見ていきましょう!

岡秀行「包装の原点」「〈包む〉コレクション」から
岡先生が校長を勤めていた時に、NDSでグラフィックデザインを学んでいました。学生数も少なく、講師との距離も近かったので、校長である岡先生の審査時の「デザイナーの心構え」「こだわり」についての教えは良く覚えています。
当時私の卒業制作が和菓子のパッケージであったこと、現在、日本パッケージデザイン協会会員であることなど、先生から多くの影響を受けました。

『藁』

先生が紹介したコレクションのシンボル的存在として「卵つと」があります。五つの卵が編んだ藁で包まれているものです。稲作と共に歩んできた我々にとても身近な存在であるで巧みに製作され、しっかりと卵を保護しています。卵を横、縦にパッケージしたもの、個数違い、あるいは取っ手を持つ形態など、時や地域によって違いがあるようですが、「卵と藁」の関係性が非常にうまく表現されていると思います。他には「米」「納豆」「日本酒」「魚」「餅」「車海老」「高野豆腐」などの包装に藁が使用されています。

「卵つと」

「卵つと」

「澤之鶴」

 

『笹』

笹を使用したパッケージの代表はご存知「ちまき」です。個装は非常にシャープな仕上がりで、束ねた状態では迫力のある存在感を感じさせます。開封は儀式にも似た適度な緊張感があり、笹の葉と中身の香りとが、五感を刺激します。他には飴や伸し餅などにも利用されています。

「道喜ちまき(献上)」

 

『竹』

小さい竹筒を使用した「薬味」は和紙のラベルでより商品性が高まり、こだわりを感じます。少し大振りな竹を用いた「鱧寿し」のシズル感も見逃せません。竹筒に入った日本酒を飲んだことがありますが、竹の香りが移り一段と美味しかったのを覚えています。

左上「彩の香」(菓子)・右上「御香煎」(飲料食品)・左下「やげん堀」(薬味)・右下「梅が香」(香)

 

『木』

加工度の高いならではの魅力的なパッケージがたくさんあります。樽、蓋物のボックスや木をくり抜いて使用する物、曲げもの、薄く削った経木、桜餅、柏餅など「葉」を使用した物など現代でも、多く見られる素材です。熟練した木工技術が生かされた桶、樽には驚かされます。

左「角樽(鶴)」・右「角樽(亀)」

「和三盆おちょぼ」

「千両」

 

『土』

特産品の食べ物の容器として魅力的なカタチを持つ物が多数あります。「酒」「味噌」「漬物」「釜めし」の容器がの焼き物の代表です。使用後に装飾品として、容器として再利用できるのも特徴です。

「鯛のわた塩辛」

「やきはま丼」

 

『紙』

丈夫な和紙を使用した「祝儀袋」「不祝儀袋」や「ぽち袋」などがあります。最近では、お菓子のピロー袋などプラスチック製品から紙製品へ素材変更で再度注目されています。

「文楽人形かしら集」(菓子)

「祝儀袋・不祝儀袋」

「結納目録」

 

『その他』

前記した複数の素材を組み合わせ、より心のこもった羊羹などの包装。変わったところではイカ徳利などの知恵を絞った容器などがあります。個人でも製作可能なので、チャレンジしている人も多いようです。

「白虎、朱雀、紫雲」

「いか徳利」

 

岡先生の「〈包む〉コレクション」は、素材の自然に対して、包む物に対して、渡す相手に対して持つ感謝の気持ちが表された物だと思います。工業化された今とはだいぶ違いがありますが、マインドはこれから少しずつ「〈包む〉コレクション」たちの時代に近づくのではないでしょうか。

「〈包む〉コレクション」は1988年に岡先生が目黒区美術館に譲渡した「日本の伝統パッケージ」の総称のことです。目黒区美術館の公式YouTubeチャンネル内に「〈包む〉コレクション」関連の動画がアップされていますので是非ご覧ください。

目黒区美術館サイト

参考文献:『包むー日本の伝統パッケージ』 目黒区美術館編/(株)BNN新社、2011年
図版:© 2022 Machiko Oka

写真の原版は、すべて岡秀行先生が保管されていたご著書用のポジフィルムです。

石井浩一
明治学院大学経済学部卒業
NDSグラフィックデザイン科卒業
NDSグラフィックデザイン科講師
公益社団法人日本パッケージデザイン協会会員
IDOイシイデザインオフィス株式会社・IDOライフデザイン研究所
motto「日本の包む文化を大切に」

 

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