プロダクトデザイナーが「SPY×FAMILY」表紙に登場する椅子を徹底解説! 第一巻

漫画「SPY×FAMILY(スパイxファミリー)」の単行本の表紙には、巻ごとに漫画の登場人物が様々なデザインの椅子に腰掛けている様子が描かれています。その椅子のどれもが20世紀に活躍した有名デザイナー・建築家によってデザインされたもので、表紙に登場する椅子を街中で見かけたり実際に座った経験のある読者も多いのではないでしょうか。

本記事では漫画の内容には言及せず、表紙に登場する名作椅子をデザイナーの生い立ちやその椅子が作られた時代背景と共に紹介してゆきます。

第一巻 ル・コルビュジエが手掛けたLC2

単行本第一巻で主人公のロイド・フォージャーが腰掛けている一人がけソファは、イタリアの家具ブランド”カッシーナ”で生産・販売されているル・コルビュジエが手掛けたLC2です。コルビュジエと聞くと、建築家・デザイナーを志すものなら誰もが知る20世紀を代表する巨匠建築家です。

Wikipedia 引用

1887年スイスの小都市で生まれた彼は、時計職人である父の職を継ぐために地元の美術学校に通いだすも視力が悪かったため職人の道を諦めてしまいます。しかし、彼の建築家としての才能にいち早く気づいた美術学校校長は彼に建築家の道を志すよう勧めます。
1907年に美術学校で教鞭をとっていた建築家のルネ・シャパラとの出会いもあり彼の協力の元、コルビュジエが最初に手掛けた最初の住宅である「ファレ邸」を設計します。当時わずか19歳にして建築家デビューとは、コルビュジエの底知れぬ才能にも驚きですが、彼を建築の世界に導いた人々の先見の明にも感心するばかりです。

その後パリへ渡ると、当時としては真新しかった鉄筋コンクリートを専門とする建築家のオーギュスト・ペレの元で新素材・新工法への関心を深め、ヨーロッパ各地や世界各国を回りながら見聞を広め、様々な建築家のもとで修行を重ねたのち、1910年代前半には本格的に建築家として活動し始めます。

1914年にはそれまでの学びを昇華させるように、近代建築工法の基礎となる「ドミノシステム」や「近代建築の五原則」の考え方を生み出します。石やレンガを積み重ね、壁が建物を支える工法が主流だった当時、彼は鉄筋コンクリート製の柱と床が建物を支える新しい工法を見出すことで、制約ばかりで形式的な旧来の建築様式の壁を文字通り壊し、建築の世界に新様式を生み出しました。

LC2の歴史

Wikipedia 引用

そんな彼の、古典様式を排除し合理的でミニマリズムを追及する姿勢は家具デザインにも見られ、それが顕著に表現されている家具がLC2です。

当時、ヨーロッパでは絵画の分野において、見たままの風景を忠実に描く写実主義が高く評価され、その他の絵画は低俗なものとする風潮がありました。しかし、これまでの常識を疑問視し型破りな表現手法を模索する芸術家や前衛芸術運動が、第一次世界大戦の影響も相まって各国で生まれた、美術史において革命の時代でもありました。

家具の世界においては、産業革命によってこれまでの手工業から機械による大量生産への変革の時代でしたが、安価に大量生産することが求められた時代に、人々が長く使用するためには合理的で美しい製品を作る必要があるとモダンデザインの基盤を作ろうとする運動や教育活動が生まれた時代でもありました。

当時のソファと言うと、木工職人が一つ一つ組み立てた木製フレームに綿などのクッション材を詰め布地で包んだ一体型の伝統的なものが主流でした。そんな中、コルビュジエは、従兄弟のピエール・ジャンヌレシャルロット・ぺリアンと共に当時の最新技術を使い装飾的要素を排除したミニマルで新しい家具制作を試み、その取り組みがLC2を生み出しました。

金属のフレームに革張りのクッションを差し込んだだけの単純・明解な構造のLC2は、1929年パリで開かれた展覧会のサロン・ドートンヌで初めて発表されましたが、当時の人々にとっては目新しく奇抜に見えたせいか決してすぐに受け入れられたものではなかったようです。その後、時代が追いついたのか、イタリアの老舗家具ブランドであるカッシーナが1964年に三人とLCシリーズの復刻生産を契約し、現在に至るまでカッシーナで生産・販売され世界中のユーザーに愛されている製品です。

第二巻に続く!

岩元 航大
鹿児島県生まれ。2009年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科入学後、デザインプロジェクト「Design Soil」に在籍し、イタリアのミラノ・サローネやフィンランドのハビターレ等、海外の展示会に多数参加。
卒業後、スイスのローザンヌに移り、Ecole cantonale d’art de Lausanne(ECAL)のMaster in Product Designに進学。
卒業後、東京を拠点に国内外の企業と製品活動を進めつつ、精力的に作品制作を行なっている。

関連HP
プロダクトデザイン | 岩元航大デザイン事務所 / Kodai Iwamoto Design (kohdaiiwamoto.com)
Home | Studio Hakkotai | 東京都 (studio-hakkotai.com)
DesignSoil

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