現代音楽のパイオニア、ブライアン・イーノの個展が京都で開催。

アンビエント・ミュージックの創始者であり、デヴィット・ボウイやU2などの音楽プロデューサーとしても知られるブライアン・イーノ。音楽シーンに影響を与えるだけでなく、空間芸術作品にも積極的に参画してきた。そんな彼の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が京都中央信用金庫 旧厚生センターにて9/3まで開催されている。今回はそのレポートを行う。

ブライアン・イーノ

1948年イングランド生まれの音楽家。
ロックバンドRoxy Musicにシンセサイザー奏者として加入。ソロ転向後は前衛的な作風により、「アンビエント・ミュージック」と呼ばれる音楽ジャンルを開拓。
デヴィット・ボウイの名盤であるベルリン三部作の制作や、トーキング・ヘッズ、U2等のアルバムにもプロデュースとして参加。
音楽のキャリアと並行して、映像での様々なインスタレーション作品を発表。
音と光が交差し、絶え間なく変化し続ける空間芸術「ジェネレーティブ・アート」の提唱者でもある。

<アンビエント・ミュージックとは?>
環境音楽とも呼ばれることが多い。微細な変化を加えることで、特定の場所に雰囲気を添える指向の音楽。イーノはエリック・サティ《家具の音楽》やジョン・ケージの作風や思想に影響を受け、アンビエント・ミュージックの概念を構築していった。

個展の会場は京都駅近くに立地する<京都中央信用金庫旧厚生センター>。築90年の歴史を持つ建造物だ。
3階建の建物全体を使った展示となっており、イーノの代表作3作品『77millions Paintings』『The Ship』『Light Boxes』に加え、世界初公開作品が公開されている。とりわけ印象的だった作品を紹介する。

『77millions Paintings』

1階の暗幕を潜ると、順番に案内される。会場内では音と光が途絶えることなく変化し、スクリーンに映し出される絵柄はタイトル通り7700万ものパターンを有している。
鑑賞者には放射線状にソファ席が用意され、銘々自由に時間を過ごす。

空間のどの瞬間もが唯一無二である本作は、光の芸術的表現と新しいテクノロジーの美的可能性への探究心から誕生したそうだ。

『The Ship』

タイタニック号の沈没(1912)、第一次世界大戦(1914−1918)、慢心と変質的な恐怖心の間を揺れ動く人間の姿をコンセプトとして制作された作品。
薄暗い会場内に多数のスピーカーが点在するように配置され、音楽に呼応して照明がゆっくりと変化していく。深みと厚みのある音響に、詠唱される低いヴォーカル。ノイズや囁き声が重なり、不穏に感じる瞬間もあれば、茫洋とした音の広がりに、非日常的な心地よさを感じる場面もある。
鑑賞者は設置された四角いソファの好きな場所に座ってじっくりと音楽を聴くことも出来るし、会場内を歩きながらその世界観を堪能することも出来る。

『Face to Face』

世界初公開作品の本作。実在する21人の人物の顔を、特殊なソフトウェアを使い、本物の顔から別の顔へとピクセル単位でゆっくりと変化させていく。毎秒30人ずつ、36,000人以上の新しい顔を誕生させることが出来るという。

年代や性別、人種を組み合わせて出来上がる様々な顔の変化を単純に楽しむこともできるが(アンドロイドっぽい質感の顔や、陰影により不気味な印象の顔も生まれる)、昨今の差別や偏見、視覚主義の社会の在り方についても考えを整理する契機にもなり得る作品だ。

会場入り口に設置されたパネルには、イーノからのメッセージが下記のように記されている。

私達が過ごす「ありきたりな日常」は、情報過多で、意味や価値に重きが置かれたり、損得が判断記事になってしまいがちだ。
そんな中、本展は、能動的に聴く・観ることに集中し、音と映像の環境に身を委ねるという稀有な体験だった。五感を使って目の前の物事に集中する感覚は、昨今のマインドフルネスや瞑想にも近いものがある。
筆者にとっては、心の豊かさを日常的に感じるヒントを持ち帰ることが出来た。
東京から離れているが、興味がある方は足を運んでほしい。

文・写真:ライター中尾

展覧会概要

「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」
会期:2022年6月3日(金)〜9月3日(土)
会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター
住所:京都府京都市下京区中居町七条通烏丸西入113
開館時間:11:00〜21:00(入場は閉館30分前まで)
展覧会URL:https://ambientkyoto.com/

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