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セバスチャン・サルガド氏のご逝去に寄せて vol.3 - 写真家・志村賢一より追悼文

先日、惜しまれつつこの世を去った世界的写真家、セバスチャン・サルガド。本校名誉顧問を務めていただいたご縁のあるサルガド氏への追悼企画といたしまして、今回は本校講師で写真家の志村賢一先生による追悼文を掲載いたします。 *   フィールドノートと、替えのシャツのあいだに、一冊の写真集が挟まっていた。 サルカドの『Workers』。 金鉱山の男たちが、まるで時空を超えてこちらを見ていた。 旅に出る直前、何の迷いもなく、それをリュックに入れた。重量のある本だった。だが、それを持たずに旅に出るわけにはいかなかった。それは私にとって、写真のバイブルだった。 サルカドのワークショップを初めて受けたのは、日本写真芸術専門学校の1年生のとき。講師の語る言葉のひとつひとつが、どこか遠い世界の響きのようだった。 「構図」「光」「関係性」。確かに、心を震わせる言葉もあった。だが当時の自分には、それらが実感として結びつかなかった。写真について語るには、まだ経験が浅すぎた。 それから2年が過ぎ、3年生の春、180日間のフィールドワークが始まった。 湿った風が吹いていた。舗装されていない道に、乾いた砂埃が舞っていた。朝は街の喧騒で目が覚め、昼は強い日差しが肌を焼いていた。毎日カメラをぶら下げて歩いた。 シャッターを切った。けれど、写真には何かが欠けていた。 そこに写っていたのは風景であって、関係ではなかった。 「コミュニティーに入ってから1ヶ月たってやっと、いい写真が撮れてくる」 それが、サルカドの言葉だった。 最初の数週間、距離があった。笑っていても、心の奥は閉じていた。 三週間を越えた頃、変化が生まれた。会話の中でこちらの話を聞かれるようになり、自然に語るようになった。笑うことが増え、黙って座る時間も心地よくなっていった。 その頃から、少しずつ「いい写真」が撮れはじめた。 「被写体と関係値を作りなさい。そのためには自分を語りなさい」 サルガド先生のその言葉が、ようやく身体に落ちてきた。 語ることが、撮ることにつながっている。それを実感するまでに、時間がかかった。 ある朝、インドのダージリンにいた。山にかかる霧が濃く、視界はぼやけていた。雨に濡れた葉がしっとりと光を弾いていた。茶畑のなかで、傘をさした女性がひとり、無言で茶葉を摘んでいた。 音がしなかった。霧が音を吸っていたのかもしれない。その静けさが全体を包んでいた。何もかもが止まったような時間だった。 そのとき、頭のどこかで「今だ」と言われた気がした。 「感情、光、構図、そして指先から頭の先まで物事を見なさい」 サルカドの言葉が、ふいに胸の奥で響いた。シャッターを押した。手は確かに動いたが、音は聞こえなかった。霧のなかに吸い込まれたようだった。 「写真は狩りと同じだ」 彼は、そうも言っていた。 じっと待ち、耳を澄まし、風の気配を読む。獲物が姿を現した瞬間、迷わず引き金を引く。撮るとは、そういう行為なのだと、あのとき初めて感じた。 15年経った今、私はもう一度、『Workers』を開いた。 ページをめくるたび、かつて旅のあいだに背負っていた重みが蘇る。金鉱山の男たちの顔は、15年前と変わらない。だが、それを見る自分の目が変わっていた。 それが旅の成果だったのかもしれない。そして旅のなかで、「撮る」という行為の奥深さを、サルカドという写真家を通して、ようやく少しだけ理解したのかもしれない。 彼の作品は、永遠に歴史を問い続ける。問いは止まらない。人間の尊厳とは何かと。 そして私もまた、問い続ける者でありたいと思う。  

写真

「商品づくりは人間づくり」デザイナー・カトウヨシオ先生に学ぶキャラクターとデザインの関係

日々多くの商品が発売され、コンビニエンスストアの棚に所狭しと並ぶ風景が当たり前になった現代。そんな中でも、気になって手に取るものが必ずありますよね。 今回、本校の特別講座に登壇されたのは、多くの人たちに愛される商品を生み出してきた、デザイナーのカトウヨシオ先生です。 カトウ先生は、サントリー飲料の『BOSS』『なっちゃん』『伊右衛門』をはじめ、数々のヒット商品のパッケージデザインを手がけてきました。 この記事では、2025年5月11日(日)に開催された特別講座をレポートし、キャラクターとデザインの関係やアイデアの生み出し方についてお伝えします。 講座で行われたミニワークショップの様子もお届けしますので、創造性を刺激する楽しさを味わってみてくださいね。 ※本記事で語られる商品コンセプト等は、カトウ先生がパッケージデザインを手掛けられた当時のものです。現在の商品コンセプトとは異なる可能性があることを、あらかじめご承知おきください。 「商品づくりは人間づくり」 まずスライドに映し出されたのは、外側に何も印刷されていない飲料の缶です。 パッケージがないと中に何が入っているのか分からず、安心して手に取ることができません。 カトウ先生は「パッケージデザインの仕事では、中味が何なのかを外側に表現し、説明だけではなく、その本質を表現することが重要です」と話します。 たとえば、先生がアートディレクターとしてデザインを手がけたサントリー飲料の『なっちゃん』(初代パッケージはデザイナー:柴戸由季子、クリエイティブディレクター:藤田芳康、アートディレクター:加藤芳夫)。 [caption id="attachment_24770" align="aligncenter" width="750"] 画像出典:サントリー公式HP カトウ先生は初代から引き続き歴代パッケージのデザインも担当。[/caption] 多くの人がこの商品に魅力を感じるのは、パッと見てオレンジジュースだと分かるだけでなく、親しみを感じるからではないでしょうか。 「ジュースをパッケージで表現するよりも、『なっちゃん』という人格をつくることを目指しました」とカトウ先生。 人間の外見に内面が映し出されるように、内なる要素に注目して商品の姿をつくること、つまり「商品づくりは人間づくり」だと話します。 [caption id="attachment_24771" align="aligncenter" width="750"] カトウ先生の講座スライドより[/caption] ここでは、先生が制作されたサントリー飲料のパッケージデザインを通して、商品の人格をつくるとはどういうことなのかをご紹介します。 夏休みのおいしい記憶から生まれた『なっちゃん』 1998年に発売された『なっちゃん』。当時小学生だった筆者は、かわいらしいパッケージと優しい甘味に夢中になり、母親に頼んで何度も買ってもらいました。 販売開始から25年以上が経った今も、多くの子どもたちに愛されている商品です。 『なっちゃん』の発売当時のコンセプトは、「夏休みに田舎に帰省して出会う、いとこのような存在」。 ジュースをどんな時に飲みたいかをチームで話し合い、コンセプトのアイデアが出てきたそうです。 「おばあちゃんの家でお手伝いをした後に、ご褒美として冷たいジュースを飲む。そんな思い出がありますよね。そこからイメージが生まれ、『なっちゃん』という人格が少しずつ形づくられていきました」 当時、サントリーの自動販売機では『サントリー烏龍茶』や『BOSS』など、大人向けの商品が充実していましたが、子ども向けの飲料もラインナップに加えたいということで『なっちゃん』が誕生。 カトウ先生は「家族で出かけた時に、お母さんが烏龍茶、お父さんが缶コーヒー、子どもがジュースを買う。そういった商品をつくりたいと考えていました」と、当時の思いを教えてくださいました。 豊かな自然の恵みを表現した『サントリー天然水』 次にスライドで紹介されたのは、『サントリー天然水』。 [caption id="attachment_24774" align="aligncenter" width="750"] 画像出典:写真AC/つくね_1st-[/caption] 1991年から販売している商品で、パッケージには、豊かな水源と安心安全のイメージが表現されています。南アルプスの山並みから流れる、透き通るような雪解け水が印象的です。 質の良いきれいな水というイメージを消費者に持ってもらうために「山々に降った雨が木の根元に注ぎ、やがて地中に染み込み、それを汲み上げたのが『サントリー天然水』だと分かるデザインにしました」とカトウ先生は説明します。 さらに、パッケージで自然の豊かさを表現するだけでなく、環境への負荷を減らせるよう、ラベルにも工夫が施されています。 ボトルや、ラベルの厚みを薄くし、ラベル面積も小さくすることで、商品のコンセプトに沿った設計を考えました。自然の中で暮らす動物や植物がパッケージに描かれていることからも、環境に優しい商品だと伝わります。 消費者の安全性と環境負荷の減少を考えて開発された『サントリー天然水』は、発売当初から大人気となりました。 現在では南アルプス、北アルプス、奥大山、阿蘇と、採水地も増えているそうです。 あそびゴコロとデザインの関係 [caption id="attachment_24746" align="alignnone" width="750"] カトウヨシオ先生がチームで制作したコンセプトモデル。パッケージデザインの国際的なコンペティション&アワード「Pentawards(ペントアワード)」受賞作品。[/caption] カトウ先生がパッケージデザインの仕事で大切にしているのは「あそびゴコロ」。 「遊び心を持ってそれを味方にして仕事をすると、とても楽しくなってきます」 ここでは、仕事を面白くするという視点から、遊び心とデザインの関係を見てみましょう。 あそびゴコロはひとつの価値 [caption id="attachment_24776" align="aligncenter" width="750"] 「Pentawards」カトウヨシオ先生の受賞作品「JAPAN STYLE GREEN TEA」(画像出典:PENTAWARDS|the:winners)[/caption] 上の写真は、カトウ先生が「コンセプトモデル」として制作したお茶のペットボトルです。 コンセプトモデルとは、概念をデザインに落とし込んだものを指します。必ずしも商品化を目指すわけではなく、考え方やその表現に重きを置いているのが特徴です。 カトウ先生が手がけたこのペットボトルの作品は、優れたパッケージデザインを表彰する世界的なコンペティション&アワード「Pentawards(ペントアワード)」で受賞しました。 作品のアイデアを思いついたのは、仕事で、飲料ボトルの製造工場を訪れた時だったそうです。試作機の周りを見ると、不思議な形状をしたペットボトルがたくさん転がっていたと言います。 工場で働いている方に尋ねたところ、製造の過程で意図しない形で出てくることが時々あるのだとか。 そこで先生は「これは失敗ではなくて、見方を変えれば面白いアイデアになるかもしれない」と考えました。 そして、ペットボトルの形を活かしながら、織部焼のようなシュリンクでお茶を表現したデザインが生まれました。 [caption id="attachment_24763" align="aligncenter" width="560"] 織部焼(黒織部)/ロサンゼルス郡美術館蔵[/caption] デザインを制作する過程で「このペットボトルを誰もが面白いと感じるにはどうすれば良いか」と思案し、遊び心を入れて、ボトルを逆さまにしてパッケージをつけたら、他にはない作品が出来上がったと言います。 「いびつな形のペットボトルを見て、『これは失敗だ』と思うか、それとも『こんなものができるなんて面白い』と感じるか。違う角度で見つめると、新しい価値の発見がありますよ」   次にスライドに映されたのは「あそびゴコロ」のイメージ。 「遊び心」には多くの意味がありますが、あまり良くない印象を持つ方もいるのではないでしょうか。いい加減で真面目ではなかったり、軽い気持ちでしっかり考えていなかったり……。 しかし、その逆もあると先生は説明します。 「いい加減が『良い加減』に変わる可能性もありますし、軽い気持ちは洒落っ気があって良いかもしれません。遊び半分でやったことが、ユーモアとして捉えられれば、価値が生まれます。仕事をしないと生きていけませんが、仕事を面白くするために遊び化するよう心がけると、辛いことも少し楽になるのではないかと思います」 遊び心はひとつの価値であり、前向きにデザインと向き合う秘訣でもあるのです。 手を動かして脳を働かせる体験 [caption id="attachment_24780" align="aligncenter" width="750"] ミニワークショップの様子[/caption] ここでは、創造性を働かせる体験をするために、ミニワークショップが行われました。 はじめに、カトウ先生は、著書『デザインのココロ』(六曜社、2013年)から、こんなテキストを紹介してくださいました。 脳と手はつながっている。 手を動かすと 脳も働きだす。 「手考足思」は河井寛次郎の言葉。 足も脳とつながっている。 脳を働かせば アイデアが出る。 (後略) 引用元:カトウヨシオ『デザインのココロ』(六曜社、2013年、p.118)   [caption id="attachment_24781" align="aligncenter" width="750"] 著書『デザインのココロ』を紹介するカトウヨシオ先生[/caption] 手を動かすと頭が動き出すことを実感するために、参加者も白い紙に黒いペンで落書きをします。「目的を持って描くのではなく、意味もなくひたすら手を動かしてみましょう」と先生がアドバイス。 白い部分が残らないよう真っ黒に塗っている参加者もいれば、線の強弱を楽しみながら描いている姿もありました。 出来上がった落描きを眺めると、意図して形を描いたわけではないのに、模様が見えてきます。先生は、そうした模様がデザインのヒントになったり、そこからキャラクターのアイデアが生まれたりすると話します。 「人間は、手を動かすと楽しくなってくるようです。気分が乗らない時でも、何か触って手を動かしていると、良いアイデアを思いつくことがありますよ」 と教えてくださいました。 良い創造とは記憶に残る存在 落書きで創造力を刺激したところで、有名なキャラクターを描くミニワークショップも行いました。形や表情を思い出しながら、記憶を頼りに描くのがポイントです。 このワークショップを通して分かったのは、人気のあるキャラクターは私たちの記憶に強く残っているということです。 ここからは、記憶と商品づくりがどのようにつながっているのか学んでいきましょう。 記憶に残る商品=友達のような存在 [caption id="attachment_24782" align="aligncenter" width="750"] カトウ先生のスライドより[/caption] カトウ先生は、「記録に残るキャラクターや商品は、友達のような存在だと言えます。また、記憶は私たちのアイデンティティーでもあります」と説明。 たとえば、飲み物を飲んで「おいしかった」という体験を何度もくり返すことで、ブランドのイメージが私たちの記憶に刻まれます。 「ブランドは、メーカーや広告主が所有しているのではなく、お客様の頭の中、お客様の体験の中で生きていくのです」。 カトウ先生は「良い創造は記憶に残る存在であり、記憶に残る商品としてパッケージデザインをつくるのが大切です」と話し、冒頭で紹介した「商品づくりは人間づくり」というテーマに立ち返りました。 商品と人間をつなぐのがキャラクターであり、「お友達になりたい存在」をお客様の前に提示するのが大切だと、カトウ先生は話します。 「商品をつくる仕事は、人をつくる仕事に近いと感じます。商品はキャラクターと近い存在です」 売り込もうと前のめりになるのではなく、「お客様のお友達をつくる」という意識でパッケージをデザインするのが重要だと語りました。 コンセプトを中心に据えた商品づくり ここでは、サントリー飲料『BOSS』の制作プロセスに注目し、30年以上にわたってお客様に愛され続ける存在をどのようにつくっていったのか、見てみましょう。 サントリーの商品開発チームの特徴は、コンセプトを中心に据えて、それぞれのセクションを一体として考えている点です。デザイン、中味の開発、マーケティングなどを個別に進めるのではなく、コンセプトを軸に各分野の専門家が集まり議論したと言います。 『BOSS』は「働く男を応援する、永くつきあえる相棒のような存在」として、パッケージデザインやネーミング、中味を表現しました。 [caption id="attachment_24803" align="aligncenter" width="855"] 画像出典:サントリー ※現在は販売終了[/caption] 『BOSS』のターゲットは外で働く人々です。喫茶店に入る暇がなく、外で缶コーヒーを飲むお客様が想定されました。コンセプトに沿って開発を進めたことで、ターゲットとなる人々が相棒のように感じる商品が完成したのです。 さらに、カトウ先生は、マイナスの状態を知らないと、プラスになる商品は生み出せないと説明します。 「飲料は乾きをゼロに戻す存在であり、喉が乾いて困っている人を助けようという思いからつくられます。マイナスの気持ちは、商品化のアイデアに役立つのです」 いち消費者として普段の生活に目を向けると、ターゲットの心を掴む商品を生み出せると話しました。 生活者の視点から生まれるアイデア 「商品の提案は負の状態の解決」だと説明したカトウ先生。人々の暮らしを見つめ、不満や不安を解決するために、仕事の仕組みを考える姿勢が大切だと言います。 講義の最後に、参加者から「日常でどのようにアイデアを生み出しているのでしょうか?」と質問がありました。 「頭の片隅に宿題がずっと残っているイメージで、四六時中考えていました。電車の中で吊り広告を見ながら、ネーミングを考えたこともありますね」と先生。   もうひとつ大切なのは、生活者の視点を忘れないこと。 [caption id="attachment_24792" align="aligncenter" width="750"] 画像出典:Unsplash/Joshua Rawson-Harris[/caption] 店舗の売り場を訪れる際、仕事のモードで商品を見ると、お客様が本当に欲しいものを判断できなくなってしまうと言います。 「自分が開発したものが置いてあるとか、この商品はよく目立つなとか考えてしまうと、まったくアイデアが出てきません。お客さんになった気分で、『あっ、これいいな』という感覚で見ていると、ひらめくことがあります」。 さらに、学生が課題に取り組む時に、視点を広げる意識を持つのが大事だとアドバイス。 たとえば、グラフィックデザインの課題の参考として、ブランディングデザインの本ばかり読むと、似たような表現になってしまう場合もあります。 一見すると関連のない、建築や自然、ファッションのグラフィックなどを眺めているうちに、ふとアイデアが浮かぶそうです。 「アイデアは、違うものと違うものの掛け合わせでできているので、似たもので掛け合わせると同じようなものしかできないのです。なるべく異なるジャンルを見た方が、新しいものを生み出せますよ」 カトウ先生のお話から、日常生活を見つめる大切さとお客様に寄り添う姿勢を学んだ参加者。キャラクターとデザインの関係を通して、パッケージデザインの本質をじっくりと理解できました。 今回の学びが、参加者それぞれの創造性を刺激し、クリエイティブなものづくりへとつながっていくでしょう。 《講師プロフィール》 カトウヨシオ(加藤芳夫) クリエイティブディレクター・アーティスト 大阪芸術大学客員教授/愛知県立芸術大学非常勤講師/広島市立大学非常勤講師/日本パッケージデザイン協会会員(元理事長)/パッケージデザインの学校校長/日本グラフィックデザイン協会会員/元サントリーデザイン部長/デザインのココロ研究室代表 1989年頃よりアートディレクターとして様々なブランドを開発。サントリー『鉄骨飲料』『BOSS』『天然水』『C.C.Lemon』『デカビタC』『ダカラ』『なっちゃん』『伊右衛門』『ペプシネックス』『ザ・プレミアム・モルツ』『金麦』、サントリーCI「水と生きる」など 2012年ペントアワード名誉賞殿堂入り 2020年パッケージデザイン功績賞 2020年サントリーを卒業・フリーランス アート&デザインの制作と教育活動を続け、2023年、東京・南青山のギャラリー5610で個展「ココロデッサン」を開催。 《参考文献》 カトウヨシオ『デザインのココロ』六曜社、2013年 文/浜田夏実 アートと文化のライター。武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科卒業。行政の文化事業を担う組織でバックオフィス業務を担当した後、フリーランスとして独立。「東京芸術祭」の事務局スタッフや文化事業の広報、アーティストのサポートを行う。2024年にライターの活動をスタートし、アーティストへのインタビューや展覧会の取材などを行っている。 note X ↓PicoN!アプリインストールはこちら

デザイン

気象用語に秘めた反逆。ブラジルポップスの先駆者・Marcos Valle ― クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.40〉

おはようございます。こんにちは。こんばんは。 6月といえば梅雨の季節ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか? なんでも今年の梅雨は異例続きらしく、統計史上初めて沖縄や奄美より先に九州南部が全国で最初の梅雨入り、統計史上最早(さいそう)タイで沖縄は梅雨明けとのことです。 また九州では梅雨末期のような災害級の大雨。異常気象が通常気象化している昨今、我々はスマホのアプリなどで時間単位の天気予報に右往左往しています。天気予報は現代人にとって腕時計感覚で常日頃ウォッチし続ける重要なものになっております。 そんな中、皆様はウォッチではなくリッスンする天気予報はご存じだろうか? 今回ご紹介するのは天気予報に無理やりつなげたMarcos Valle の『Previsão do Tempo(天気予報)』というリッスンし続けられる名盤です。 MPBを推し進めたMarcos Valle(マルコス・ヴァ―リ) MPB※を推し進めたMarcos Valle(マルコス・ヴァ―リ:以下ヴァ―リ)は1943年9月14日、リオ・デジャネイロ生まれ。5歳でピアノを始め13年間クラシックを学び、63年に『Samba Demais』でデビュー。65年の「Samba de Verão」が世界的ヒットとなり、ボサノヴァの旗手として脚光を浴びる。 ちなみにMPBというのはざっくりいうと1960年代ロック、反戦、ヒッピー文化に影響を受けたブラジル音楽のジャンル。 ※MPB……ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ。「ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック」の意。ロックンロールなどの要素に、サンバなどブラジル的な感性や伝統音楽が融合された。 70年代初頭にはファンク、ソウル、ジャズ、電子音……果敢に導入し、『Garra』『Previsão do Tempo』などでMPB電化の先端を切り拓いた。兄で作詞家のパウロ・セルジオと1000曲以上を共作! 歴史的名盤『Previsão do Tempo』の概要 ヴァ―リ10作目『Previsão do Tempo』(1973)は、軍事政権下のブラジルで録音され、気象用語に政治比喩を織り込んだコンセプト盤アルバム。 水中セルフポートレートのジャケットはブラジルの軍政下の生活の「息苦しさ」を象徴している。 なお、レコード原盤は数十万円という高値になり、再発でも8,000円近くのお値段という人気盤。 アルバムの制作背景とスタジオでの科学反応  “MPB後期第一波”という座標 60年代にトロピカリアが政権の検閲と真っ向から衝突した後、70年代前半のMPBはより〈コード化された抵抗〉へと姿を変える。 政治メッセージはメタファーに包み、サウンド面ではフェンダー・ローズとシンセ、ギターが絡む 粘着質なエレクトリックなファンクを積極導入するとともにと甘美なメロディが凝縮されている。 セッションの中核・アジムス José Roberto Bertrami(Keys)、Alex Malheiros(Bass)、Ivan Conti “Mamão”(Drums)――のちに独立するアジムスが本作で初めてフル参加。 BertramiのARPストリングスとヴァーリのローズが重なる瞬間、リオの灼熱を帯びた特異なファンクが生まれた。 ミキシングと音像 エンジニアのジョルジ・テイシェイラは、当時まだ珍しかった16トラック録音を駆使。アナログテープの温度感を保ちつつ、各パートを左右に分散させるパンニングが気象図の等圧線のように絡み合い、“天気予報”のコンセプトを音像で可視化した。 気象メタファーと社会批評 アルバム全体に散りばめられた〈風〉〈雨〉〈湿度〉の単語は、軍政下の不安定さを暗示する。たとえば〈Samba Fatal〉の一節「雲間から差す光はまだ遠い」は、検閲で直接語れない閉塞感を迂回的に表現。 アルバムの楽曲で体感温度を設定し使用する楽器、楽曲内での気候変化も設計するという徹底っぷり! ここまで記載するととても面倒臭そうな作品に思えるかもしれないが是非アルバム冒頭の3曲を聴いてほしい。 Flamengo Até Morrer Nem Paletó, Nem Gravata Tira A Mão どうだろう? 多様多色なトロピカルな印象がないだろうか? ジャケットや梅雨に近いコンセプトとは相反して晴れやかな気分になる楽曲に感じないだろうか? アティチュードやコンセプトが政権批判に関わらずご機嫌で夢見心地な気持ち良さを感じる。 この圧倒的な楽曲の素晴らしさがLight in the Attic再発を促し、PitchforkやThe Guardianは本作を紹介することになる。 日本でもフローティングAORという文脈で再発見し2020年代に多数のLo-fi HipHopプロデューサーがサンプリング源にして、Spotifyの再生回数統計で2024年7月「Flamengo Até Morrer」が月間100万回を突破する歴史的快挙を成し遂げている。 梅雨時のどんよりした今こそドリーミーでトロピカルな本作で晴れやかな気分になるのがオススメです! 文・写真 北米のエボ・テイラー ↓PicoN!アプリインストールはこちら

アート

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「商品づくりは人間づくり」デザイナー・カトウヨシオ先生に学ぶキャラクターとデザインの関係

日々多くの商品が発売され、コンビニエンスストアの棚に所狭しと並ぶ風景が当たり前になった現代。そんな中でも、気になって手に取るものが必ずありますよね。 今回、本校の特別講座に登壇されたのは、多くの人たちに愛される商品を生み出してきた、デザイナーのカトウヨシオ先生です。 カトウ先生は、サントリー飲料の『BOSS』『なっちゃん』『伊右衛門』をはじめ、数々のヒット商品のパッケージデザインを手がけてきました。 この記事では、2025年5月11日(日)に開催された特別講座をレポートし、キャラクターとデザインの関係やアイデアの生み出し方についてお伝えします。 講座で行われたミニワークショップの様子もお届けしますので、創造性を刺激する楽しさを味わってみてくださいね。 ※本記事で語られる商品コンセプト等は、カトウ先生がパッケージデザインを手掛けられた当時のものです。現在の商品コンセプトとは異なる可能性があることを、あらかじめご承知おきください。 「商品づくりは人間づくり」 まずスライドに映し出されたのは、外側に何も印刷されていない飲料の缶です。 パッケージがないと中に何が入っているのか分からず、安心して手に取ることができません。 カトウ先生は「パッケージデザインの仕事では、中味が何なのかを外側に表現し、説明だけではなく、その本質を表現することが重要です」と話します。 たとえば、先生がアートディレクターとしてデザインを手がけたサントリー飲料の『なっちゃん』(初代パッケージはデザイナー:柴戸由季子、クリエイティブディレクター:藤田芳康、アートディレクター:加藤芳夫)。 [caption id="attachment_24770" align="aligncenter" width="750"] 画像出典:サントリー公式HP カトウ先生は初代から引き続き歴代パッケージのデザインも担当。[/caption] 多くの人がこの商品に魅力を感じるのは、パッと見てオレンジジュースだと分かるだけでなく、親しみを感じるからではないでしょうか。 「ジュースをパッケージで表現するよりも、『なっちゃん』という人格をつくることを目指しました」とカトウ先生。 人間の外見に内面が映し出されるように、内なる要素に注目して商品の姿をつくること、つまり「商品づくりは人間づくり」だと話します。 [caption id="attachment_24771" align="aligncenter" width="750"] カトウ先生の講座スライドより[/caption] ここでは、先生が制作されたサントリー飲料のパッケージデザインを通して、商品の人格をつくるとはどういうことなのかをご紹介します。 夏休みのおいしい記憶から生まれた『なっちゃん』 1998年に発売された『なっちゃん』。当時小学生だった筆者は、かわいらしいパッケージと優しい甘味に夢中になり、母親に頼んで何度も買ってもらいました。 販売開始から25年以上が経った今も、多くの子どもたちに愛されている商品です。 『なっちゃん』の発売当時のコンセプトは、「夏休みに田舎に帰省して出会う、いとこのような存在」。 ジュースをどんな時に飲みたいかをチームで話し合い、コンセプトのアイデアが出てきたそうです。 「おばあちゃんの家でお手伝いをした後に、ご褒美として冷たいジュースを飲む。そんな思い出がありますよね。そこからイメージが生まれ、『なっちゃん』という人格が少しずつ形づくられていきました」 当時、サントリーの自動販売機では『サントリー烏龍茶』や『BOSS』など、大人向けの商品が充実していましたが、子ども向けの飲料もラインナップに加えたいということで『なっちゃん』が誕生。 カトウ先生は「家族で出かけた時に、お母さんが烏龍茶、お父さんが缶コーヒー、子どもがジュースを買う。そういった商品をつくりたいと考えていました」と、当時の思いを教えてくださいました。 豊かな自然の恵みを表現した『サントリー天然水』 次にスライドで紹介されたのは、『サントリー天然水』。 [caption id="attachment_24774" align="aligncenter" width="750"] 画像出典:写真AC/つくね_1st-[/caption] 1991年から販売している商品で、パッケージには、豊かな水源と安心安全のイメージが表現されています。南アルプスの山並みから流れる、透き通るような雪解け水が印象的です。 質の良いきれいな水というイメージを消費者に持ってもらうために「山々に降った雨が木の根元に注ぎ、やがて地中に染み込み、それを汲み上げたのが『サントリー天然水』だと分かるデザインにしました」とカトウ先生は説明します。 さらに、パッケージで自然の豊かさを表現するだけでなく、環境への負荷を減らせるよう、ラベルにも工夫が施されています。 ボトルや、ラベルの厚みを薄くし、ラベル面積も小さくすることで、商品のコンセプトに沿った設計を考えました。自然の中で暮らす動物や植物がパッケージに描かれていることからも、環境に優しい商品だと伝わります。 消費者の安全性と環境負荷の減少を考えて開発された『サントリー天然水』は、発売当初から大人気となりました。 現在では南アルプス、北アルプス、奥大山、阿蘇と、採水地も増えているそうです。 あそびゴコロとデザインの関係 [caption id="attachment_24746" align="alignnone" width="750"] カトウヨシオ先生がチームで制作したコンセプトモデル。パッケージデザインの国際的なコンペティション&アワード「Pentawards(ペントアワード)」受賞作品。[/caption] カトウ先生がパッケージデザインの仕事で大切にしているのは「あそびゴコロ」。 「遊び心を持ってそれを味方にして仕事をすると、とても楽しくなってきます」 ここでは、仕事を面白くするという視点から、遊び心とデザインの関係を見てみましょう。 あそびゴコロはひとつの価値 [caption id="attachment_24776" align="aligncenter" width="750"] 「Pentawards」カトウヨシオ先生の受賞作品「JAPAN STYLE GREEN TEA」(画像出典:PENTAWARDS|the:winners)[/caption] 上の写真は、カトウ先生が「コンセプトモデル」として制作したお茶のペットボトルです。 コンセプトモデルとは、概念をデザインに落とし込んだものを指します。必ずしも商品化を目指すわけではなく、考え方やその表現に重きを置いているのが特徴です。 カトウ先生が手がけたこのペットボトルの作品は、優れたパッケージデザインを表彰する世界的なコンペティション&アワード「Pentawards(ペントアワード)」で受賞しました。 作品のアイデアを思いついたのは、仕事で、飲料ボトルの製造工場を訪れた時だったそうです。試作機の周りを見ると、不思議な形状をしたペットボトルがたくさん転がっていたと言います。 工場で働いている方に尋ねたところ、製造の過程で意図しない形で出てくることが時々あるのだとか。 そこで先生は「これは失敗ではなくて、見方を変えれば面白いアイデアになるかもしれない」と考えました。 そして、ペットボトルの形を活かしながら、織部焼のようなシュリンクでお茶を表現したデザインが生まれました。 [caption id="attachment_24763" align="aligncenter" width="560"] 織部焼(黒織部)/ロサンゼルス郡美術館蔵[/caption] デザインを制作する過程で「このペットボトルを誰もが面白いと感じるにはどうすれば良いか」と思案し、遊び心を入れて、ボトルを逆さまにしてパッケージをつけたら、他にはない作品が出来上がったと言います。 「いびつな形のペットボトルを見て、『これは失敗だ』と思うか、それとも『こんなものができるなんて面白い』と感じるか。違う角度で見つめると、新しい価値の発見がありますよ」   次にスライドに映されたのは「あそびゴコロ」のイメージ。 「遊び心」には多くの意味がありますが、あまり良くない印象を持つ方もいるのではないでしょうか。いい加減で真面目ではなかったり、軽い気持ちでしっかり考えていなかったり……。 しかし、その逆もあると先生は説明します。 「いい加減が『良い加減』に変わる可能性もありますし、軽い気持ちは洒落っ気があって良いかもしれません。遊び半分でやったことが、ユーモアとして捉えられれば、価値が生まれます。仕事をしないと生きていけませんが、仕事を面白くするために遊び化するよう心がけると、辛いことも少し楽になるのではないかと思います」 遊び心はひとつの価値であり、前向きにデザインと向き合う秘訣でもあるのです。 手を動かして脳を働かせる体験 [caption id="attachment_24780" align="aligncenter" width="750"] ミニワークショップの様子[/caption] ここでは、創造性を働かせる体験をするために、ミニワークショップが行われました。 はじめに、カトウ先生は、著書『デザインのココロ』(六曜社、2013年)から、こんなテキストを紹介してくださいました。 脳と手はつながっている。 手を動かすと 脳も働きだす。 「手考足思」は河井寛次郎の言葉。 足も脳とつながっている。 脳を働かせば アイデアが出る。 (後略) 引用元:カトウヨシオ『デザインのココロ』(六曜社、2013年、p.118)   [caption id="attachment_24781" align="aligncenter" width="750"] 著書『デザインのココロ』を紹介するカトウヨシオ先生[/caption] 手を動かすと頭が動き出すことを実感するために、参加者も白い紙に黒いペンで落書きをします。「目的を持って描くのではなく、意味もなくひたすら手を動かしてみましょう」と先生がアドバイス。 白い部分が残らないよう真っ黒に塗っている参加者もいれば、線の強弱を楽しみながら描いている姿もありました。 出来上がった落描きを眺めると、意図して形を描いたわけではないのに、模様が見えてきます。先生は、そうした模様がデザインのヒントになったり、そこからキャラクターのアイデアが生まれたりすると話します。 「人間は、手を動かすと楽しくなってくるようです。気分が乗らない時でも、何か触って手を動かしていると、良いアイデアを思いつくことがありますよ」 と教えてくださいました。 良い創造とは記憶に残る存在 落書きで創造力を刺激したところで、有名なキャラクターを描くミニワークショップも行いました。形や表情を思い出しながら、記憶を頼りに描くのがポイントです。 このワークショップを通して分かったのは、人気のあるキャラクターは私たちの記憶に強く残っているということです。 ここからは、記憶と商品づくりがどのようにつながっているのか学んでいきましょう。 記憶に残る商品=友達のような存在 [caption id="attachment_24782" align="aligncenter" width="750"] カトウ先生のスライドより[/caption] カトウ先生は、「記録に残るキャラクターや商品は、友達のような存在だと言えます。また、記憶は私たちのアイデンティティーでもあります」と説明。 たとえば、飲み物を飲んで「おいしかった」という体験を何度もくり返すことで、ブランドのイメージが私たちの記憶に刻まれます。 「ブランドは、メーカーや広告主が所有しているのではなく、お客様の頭の中、お客様の体験の中で生きていくのです」。 カトウ先生は「良い創造は記憶に残る存在であり、記憶に残る商品としてパッケージデザインをつくるのが大切です」と話し、冒頭で紹介した「商品づくりは人間づくり」というテーマに立ち返りました。 商品と人間をつなぐのがキャラクターであり、「お友達になりたい存在」をお客様の前に提示するのが大切だと、カトウ先生は話します。 「商品をつくる仕事は、人をつくる仕事に近いと感じます。商品はキャラクターと近い存在です」 売り込もうと前のめりになるのではなく、「お客様のお友達をつくる」という意識でパッケージをデザインするのが重要だと語りました。 コンセプトを中心に据えた商品づくり ここでは、サントリー飲料『BOSS』の制作プロセスに注目し、30年以上にわたってお客様に愛され続ける存在をどのようにつくっていったのか、見てみましょう。 サントリーの商品開発チームの特徴は、コンセプトを中心に据えて、それぞれのセクションを一体として考えている点です。デザイン、中味の開発、マーケティングなどを個別に進めるのではなく、コンセプトを軸に各分野の専門家が集まり議論したと言います。 『BOSS』は「働く男を応援する、永くつきあえる相棒のような存在」として、パッケージデザインやネーミング、中味を表現しました。 [caption id="attachment_24803" align="aligncenter" width="855"] 画像出典:サントリー ※現在は販売終了[/caption] 『BOSS』のターゲットは外で働く人々です。喫茶店に入る暇がなく、外で缶コーヒーを飲むお客様が想定されました。コンセプトに沿って開発を進めたことで、ターゲットとなる人々が相棒のように感じる商品が完成したのです。 さらに、カトウ先生は、マイナスの状態を知らないと、プラスになる商品は生み出せないと説明します。 「飲料は乾きをゼロに戻す存在であり、喉が乾いて困っている人を助けようという思いからつくられます。マイナスの気持ちは、商品化のアイデアに役立つのです」 いち消費者として普段の生活に目を向けると、ターゲットの心を掴む商品を生み出せると話しました。 生活者の視点から生まれるアイデア 「商品の提案は負の状態の解決」だと説明したカトウ先生。人々の暮らしを見つめ、不満や不安を解決するために、仕事の仕組みを考える姿勢が大切だと言います。 講義の最後に、参加者から「日常でどのようにアイデアを生み出しているのでしょうか?」と質問がありました。 「頭の片隅に宿題がずっと残っているイメージで、四六時中考えていました。電車の中で吊り広告を見ながら、ネーミングを考えたこともありますね」と先生。   もうひとつ大切なのは、生活者の視点を忘れないこと。 [caption id="attachment_24792" align="aligncenter" width="750"] 画像出典:Unsplash/Joshua Rawson-Harris[/caption] 店舗の売り場を訪れる際、仕事のモードで商品を見ると、お客様が本当に欲しいものを判断できなくなってしまうと言います。 「自分が開発したものが置いてあるとか、この商品はよく目立つなとか考えてしまうと、まったくアイデアが出てきません。お客さんになった気分で、『あっ、これいいな』という感覚で見ていると、ひらめくことがあります」。 さらに、学生が課題に取り組む時に、視点を広げる意識を持つのが大事だとアドバイス。 たとえば、グラフィックデザインの課題の参考として、ブランディングデザインの本ばかり読むと、似たような表現になってしまう場合もあります。 一見すると関連のない、建築や自然、ファッションのグラフィックなどを眺めているうちに、ふとアイデアが浮かぶそうです。 「アイデアは、違うものと違うものの掛け合わせでできているので、似たもので掛け合わせると同じようなものしかできないのです。なるべく異なるジャンルを見た方が、新しいものを生み出せますよ」 カトウ先生のお話から、日常生活を見つめる大切さとお客様に寄り添う姿勢を学んだ参加者。キャラクターとデザインの関係を通して、パッケージデザインの本質をじっくりと理解できました。 今回の学びが、参加者それぞれの創造性を刺激し、クリエイティブなものづくりへとつながっていくでしょう。 《講師プロフィール》 カトウヨシオ(加藤芳夫) クリエイティブディレクター・アーティスト 大阪芸術大学客員教授/愛知県立芸術大学非常勤講師/広島市立大学非常勤講師/日本パッケージデザイン協会会員(元理事長)/パッケージデザインの学校校長/日本グラフィックデザイン協会会員/元サントリーデザイン部長/デザインのココロ研究室代表 1989年頃よりアートディレクターとして様々なブランドを開発。サントリー『鉄骨飲料』『BOSS』『天然水』『C.C.Lemon』『デカビタC』『ダカラ』『なっちゃん』『伊右衛門』『ペプシネックス』『ザ・プレミアム・モルツ』『金麦』、サントリーCI「水と生きる」など 2012年ペントアワード名誉賞殿堂入り 2020年パッケージデザイン功績賞 2020年サントリーを卒業・フリーランス アート&デザインの制作と教育活動を続け、2023年、東京・南青山のギャラリー5610で個展「ココロデッサン」を開催。 《参考文献》 カトウヨシオ『デザインのココロ』六曜社、2013年 文/浜田夏実 アートと文化のライター。武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科卒業。行政の文化事業を担う組織でバックオフィス業務を担当した後、フリーランスとして独立。「東京芸術祭」の事務局スタッフや文化事業の広報、アーティストのサポートを行う。2024年にライターの活動をスタートし、アーティストへのインタビューや展覧会の取材などを行っている。 note X ↓PicoN!アプリインストールはこちら

デザイン

マンガ連載~第42話~ 「雷サージ」編

パソコンのクラッシュで、せっかく長時間かけた作業が台無しに……。 クリエイターが一度は経験したことがある「あるある」が今回のお話。 「雷サージ」という現象、皆さんはご存じですか?  作・藤田岳生(NDSマンガ講師)   ↓PicoN!アプリインストールはこちら 作・藤田岳生 マンガ・イラスト関係の専門学校を卒業後、マンガ作家のアシスタント業に就く。さまざまな作家さんの現場を渡り歩き、経験を積む。その後、イタリアのマンガ学校「LUCCA MANGA SCHOOL」の目に留まり、24歳での短期単身渡伊をはじめとして、幾度か現地の方を対象としたレッスンを行う。Web系など絵を描き始める方に向けての指導をはじめ多方面で活躍中。 Instagram ≫藤田先生の過去記事一覧   ↓PicoN!アプリインストールはこちら

マンガ

マンガ連載~第41話~ 「癖と書いてヘキと読む」編

「ヘキ(癖)」という言葉にはあまりいいイメージがないかもしれません。自分の趣味嗜好や好きなものが恥ずかしくて、表に出すのはなかなか……という人も多いでしょう。 しかし個性が強みになるクリエイターとしては、その「ヘキ」は立派な武器になることが多いのです。 だからこそ、隠したりせずにむしろどんどん出して磨いていこう!--という第41回、ぜひお楽しみください。  作・藤田岳生(NDSマンガ講師) ↓PicoN!アプリインストールはこちら 作・藤田岳生 マンガ・イラスト関係の専門学校を卒業後、マンガ作家のアシスタント業に就く。さまざまな作家さんの現場を渡り歩き、経験を積む。その後、イタリアのマンガ学校「LUCCA MANGA SCHOOL」の目に留まり、24歳での短期単身渡伊をはじめとして、幾度か現地の方を対象としたレッスンを行う。Web系など絵を描き始める方に向けての指導をはじめ多方面で活躍中。 Instagram ≫藤田先生の過去記事一覧   ↓PicoN!アプリインストールはこちら

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