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最新記事一覧【写真学生による舞台裏レポート】《まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険》プレス内覧会・設営現場を歩いて
はじめまして、日本写真芸術専門学校(NPI)1年生の深田です。 現在、Bunkamura ザ・ミュージアムでは展覧会『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』が開催されています。今回は写真学生の視点から本展をレポートすべく、プレス内覧会、そして開幕に先駆けて行われた施工現場を取材させていただきました。 日本展担当キュレーターの竹内万里子さん、Bunkamura ザ・ミュージアム 学芸員の菅沼万里絵さん、そして本展の制作を担当しているミュージアム 運営室室長の田口紅さん。展示を形作る御三方のお話から見えてきたのは、本展に込められた並々ならぬ熱量です。そして時代を切り拓いてきた表現の数々は、圧倒されるほどのパワーに満ちていました。それでは、世代を超えてつながる展覧会の舞台裏をレポートします! 世界巡回を経て、ついに日本へ 一人ひとり「バラバラであること」を大切にした大空間 本展は、戦後の日本女性写真家をまとめた大型書籍『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』が出発点。フランスのアルル国際写真フェスティバルでの展示を皮切りに、オランダ、フランクフルト、ロンドンと世界を巡回してきました。この国際巡回展の内容をさらに拡大したのが、今回の東京展です。これほどの規模で日本の女性写真家を一堂に集結させる試みは国内初。「日本で披露するからには、絶対に妥協はできない」という強い思いから、展示の再構成には並々ならぬ配慮がなされたといいます。 キュレーターの竹内さんが展示構成において最も意識したのは、作家一人ひとりの異なる世界観を尊重することでした。「女性作家」という大きな言葉で一括りにするのではなく、彼女たちの異なる世界観をそのまま尊重し、魅せていくこと。そのため、全体を無理に一つのまとまりとして落ち着かせるのではなく、むしろ「バラバラであること」を大切にしながら空間を構成していったそうです。設営が終わった空間を見渡してみると、そこには不思議な一体感が生まれていました。 [caption id="attachment_29417" align="aligncenter" width="467"] 小松浩子氏のインスタレーション『繁殖模倣変換器』[/caption] 巡回展ゆえに生じていた作品サイズ制限からも解放され、今回は国内ならではのダイナミックな展示が実現しています。やなぎみわさんの〈案内嬢の部屋 1F〉は、借用時の木箱を含めた重量が380kgにも及んだという、舞台裏の驚きも。 展覧会が「形」になるまでの舞台裏 内覧会の前々日には、Bunkamura ザ・ミュージアム 運営室室長の田口紅さんに設営中の展示室をご案内いただきました。日本での開催にあたり、キュレーターの竹内さんは全体の構成を見直し、作家と話し合いながらそれぞれの作品を再検討していったと言います。せっかくの日本開催ですから、作家自身も中途半端なものは出したくないというこだわりもあり、竹内さんはその調整に奮闘されたそうですが、「最後には不思議と丸く収まるものですね」と笑顔で当時を振り返ってくださいました。 30人もの個性が一堂に会する現場では、予期せぬ事態が起こることもあります。たとえば石内都さんの作品コーナーは、当初別の壁を予定していたそうです。どれほど周到に準備をしても、壁の高さ、作品のサイズ、そして並べたときに受ける印象は、現場で実際に組み立ててみなければ分からないものです。 [caption id="attachment_29420" align="aligncenter" width="467"] キャプションや作品の位置は、鑑賞者の動線を考慮しながらギリギリまで微調整が重ねられていました。[/caption] [caption id="attachment_29421" align="aligncenter" width="750"] 内覧会当日は名だたる出展作家が一つの空間に。圧巻の光景。[/caption] 写真家・蜷川実花さんから受け取ったもの 熱気に包まれる会場内を巡っていると、蜷川実花さんが私の前を通りがかりました。もう4年前のことになりますが、写真コンテスト『IMA NEXT』のテーマ「WOMAN」(https://ima-next.jp/winners/woman/my-little-fingernails/)にて、私の作品を選出してくださったのが蜷川さんです。 思い切ってお声がけをすると「覚えてるよ!」と明るく応じてくださった蜷川さん。「爪じゃなくても、自分だけの表現!をね。なかなか難しいけど。」「撮り続けることも大事だね。頑張って!」そのカラッとした温かいアドバイスは、ただ愚直に撮り続けることの大切さを教えてくれました。 蜷川さんの作品といえば鮮やかな色彩のイメージが強いですが、今回展示されているのはモノクロ表現による水中撮影作品。白黒の世界であるはずなのに、なぜかそこに豊かな色を感じてしまうような、不思議な引力に満ちています。 のびやかな図録と年表の誕生 資料としての充実ぶりも見逃せません。松田貴子氏編集による100年の年表は、国内における女性たちの活躍を克明に辿る、圧倒的な見応えです。 また、赤々舎が編集を務めた図録は、「展覧会をただ記録する本」ではなく、より幅広い文脈を提供する一冊となっています。 作家たちをのびやかに見せる試みとして、作家自身の書き下ろしの言葉が収録されており、その一部は会場の壁面にも星空のように展示されています。さらに巻末には、厳選された50冊の写真集を紹介。3本のロングエッセイが3ヶ国語(日・英・仏)で掲載されているほか、東アジアにおける女性写真の歩みも網羅されており、歴史的に読み継がれるべき貴重な資料となっています。 [caption id="attachment_29425" align="aligncenter" width="750"] 長島有里枝氏による、ヒカリエホールの広い空間を生かしたインスタレーション。[/caption] 作品の中に入ったレスリー・A・マーティンさんらを、長島さんご本人が撮影している場面に遭遇! ※通常は展示保護のため柵が設置されており、作品内への立ち入りは禁止されています。プレス内覧会での特別な光景です。 「何度でも足を運び、自分の反応に率直に接してほしい」 この展示をどのように観てほしいか、来館者に向けて、竹内さんは次のように語ります。 「いっぺんにすべてを理解しようとしなくて構いません。ぜひ何度でも足を運んで、一人ひとりと向き合ってみてください。順番通りにきれいに見ようとしなくても大丈夫です。その時々の自分の反応に、率直に接してほしいと思います」 ー 日本展担当キュレーター・竹内万里子氏 写真家と鑑賞者のまなざしが交わる場所 日々、新しい何かが生まれていく展覧会に また田口さんは「まなざしが交差する場」として、鑑賞者が感じたことを共有したり、発信することで新たな行動の変化が生まれる場になってほしい、と語ります。 「今回はU-30割引・リピーター割もあるので、ぜひ若い人にたくさん観て、言葉を交わしてほしいです。そして、ここで得たものが自分や誰かの行動を変えるきっかけになれば嬉しいですね。」「かつて読んだ小説を今読み返すと、全く違うことを感じるように、この展示も見るたびに感じるものが変わるはずです。深く考えすぎず、経験したことは、すぐに形にならなくても、どこかで必ず自分の『隠し味』として生きてきますから」 ― Bunkamura ザ・ミュージアム 運営室室長・田口紅氏 [caption id="attachment_29426" align="aligncenter" width="750"] 澤田知子氏の観客参加型作品『OMIAI♡』人気投票ブース[/caption] [caption id="attachment_29427" align="aligncenter" width="750"] 川内倫子氏の長編映像作品『Illuminance』[/caption] 取材を終えて:とにかく、撮り続けよう プレス内覧会の会場を見渡して嬉しかったのは、そこに多くの女性たちの姿があったことです。その中には若い女性作家の顔も見受けられ、彼女たちがまとう爽やかな風が会場に心地よく吹き込んでいるのを感じました。 しかし、展示された作品群や、名だたる作家ご本人たちと対面するうちに、その輝きにすっかり圧倒されている自分がいました。「すべての経験がいつか自分の『隠し味』になる」という田口さんの言葉が、じんわりと胸に響きます。焦る必要はないのかもしれない。彼女たちがそうしてきたように、私もまずは自分のペースで、とにかく写真を撮り続けていこう。モチベーションがぐっと高まるひとときでした! 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」 会期:2026年7月4日(土)〜8月26日(水) 時間:10:00〜19:00 休館:会期中無休 入場料:一般 2200円、U-30 1500円、高校生・中学生・小学生 1000円 会場:渋谷ヒカリエホール 住所:〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ9F https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/26_kiseki/ NPI在学生 深田 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
【内覧会レポ】『いのちの未来+』〜100年先へ文化をつなぐ〜文化の実験的ミュージアム MoN Takanawa 開館記念プログラム
「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」の開館記念プログラムとして、⼤阪・関⻄万博のシグネチャーパビリオンとして⾼い評価を得た、⽯黒浩プロデュース「いのちの未来」をアップデートした 「いのちの未来+」が2026年7⽉25⽇(土)〜9⽉25⽇(⾦) 開催されます。今回は、内覧会へお邪魔しました。 [caption id="attachment_29594" align="alignnone" width="750"] ©FUTURE OF LIFE[/caption] 本展は、ロボット⼯学・アンドロイド研究の第⼀⼈者である⽯黒浩(大阪大学教授/ATRいのちの未来研究所客員所長)の監修のもと、万博で多くの人々を魅了したあの深い感動はそのままに、MoN Takanawaの会場に合わせて内容を再構成。 [caption id="attachment_29595" align="alignnone" width="750"] 石黒浩教授[/caption] ■いのちの未来研究所 (ATR|株式会社 国際電気通信基礎技術研究所) について いのちの未来研究所は、2025年に開催された大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちの未来」の取り組みや研究の一部をレガシーとして継承するための研究活動、アンドロイドとの共生・みらいのいのちのあり方について広く主体的な考えを持てるようになるための活動(アンドロイドの展示など)を行っています。 さらに、来館者が“いのちの未来の選択”に向き合う新たなシナリオを追加し、より深く考える体験へと更新します。万博で描かれた50年後の物語に、ある高齢の女性とその孫娘の物語のストーリーから、「人間とは何か」「いのちとは何か」という問いに向き合います。人間がアンドロイドとして永遠の命を得ることが可能になった世界を舞台に、「いのちって何?」という哲学的問いを投げかけられる内容になっています。 展示は、ゾーン1~3に分かれており、各パートごとに違ったストーリーや演出を楽しむことができます。目の前で動く数々のアンドロイドも見どころのひとつです! (プレスリリースより抜粋) 本展は、ロボット工学・アンドロイド研究の第一人者である⽯黒浩(⼤阪⼤学教授/ATRいのちの未来研究所客員所長)の監修のもと、万博での深い感動はそのままに、来館者が“いのちの未来の選択”に向き合う新たなシナリオを追加しました。⼤阪・関⻄万博で来場者を魅了したヤマトロイドやモモなどの最新型アンドロイドたちが東京・⾼輪の地に舞台を移し、さらに進化した体験を創出します。また、会期中はトークショーやワークショップなどのイベント、ドリルや図録などオリジナルグッズの販売も予定しております。科学と人文を横断しながら、「⽣を受けた者として⼤切な問い」と向き合う本企画は、世代を問わず、多くの⽅々に⽣命(いのち)の根源を揺さぶる知的体験を提供します。 本展の中で、余命いくばくとなった女性が「人間として天寿を全うするか」「アンドロイドとして永遠の命を得るか」選択を迫られる物語が語られます。 [caption id="attachment_29596" align="alignnone" width="750"] ©FUTURE OF LIFE[/caption] 個人としての彼女は、人間として自然に死んでもいいと思っている。しかし孫娘のそばにいたいという思いがその選択を思いとどまらせる……。テクノロジーの問題を超え、「わたしとは何か?」「生きる意味とは何か?」という哲学的問いにさらされます。 ストーリーを題材に、アンドロイドたちの対話が展開されます。 ゾーン1では「土偶」に始まり「仏像」「文楽(人形浄瑠璃)」といった歴代の人形が展示され、その最先端として「アンドロイド」が据えられます。 [caption id="attachment_29597" align="alignnone" width="750"] ©FUTURE OF LIFE[/caption] つまり人間は古来から無機物にも「いのち」を見出してきた歴史がある。ひいては人間とアンドロイドの区別さえ、「肉体が有機物か機械か」という表層的なものにすぎないのではないか――という問いかけです。 いのちの本質は「愛」、筆者なりに言い換えれば「モノにいのちを見出すまなざし」に宿るのではないか――というのが、本展を通じて一貫して語られていた仮説だと感じました。そしてその「いのちを見出すまなざし」の持ち主は、必ずしも人間でなくてもいいのかもしれない。たとえ1000年後の世界に機械しか残っていなくても、それを “いのち” を認識するまなざしがそこにあれば、愛という感情は残り続けていると言えるのではないか。 [caption id="attachment_29606" align="alignnone" width="750"] ©FUTURE OF LIFE[/caption] アンドロイドの実用化が現実的になってきたいま、本展示を通じて人間とアンドロイドの関係性を熟考するのはたいへん有意義な時間になるはずです。 以下、本展のプロデューサーで人工知能研究者の石黒浩さんのインタビューを掲載します。 *** Q. 展示の最後のフィナーレのシーンで、3体の少女たちが繋がっている場面がありました。あの場面はどのような未来を表現されているのでしょうか。 石黒)1000年経てば、人間は肉体の制約から解放され、機械の体や人工生物的な体を自由に選べるようになります。あのシーンは、そうなったときにどんな体を選ぶか、という一つの選択肢を表現したものです。誰が見ても魅力的で美しい体になり、空中を歩きながら光と戯れるような存在になれたらいい、という思いを込めています。ただもう一つ重要なのは、どんな存在になっても、ちゃんと目を合わせ、人との関係性、心を通わせる感覚は失わないということです。そうした生き物こそが、1000年後の人間の姿だと考えています。人と心を通わせながら、より魅力的な体と美しい世界を、様々なアーティストと一緒に作っていきたいと思っています。 Q. 本日の展示の大きなテーマの一つに、「関係性」や「愛」があったかと思います。肉体が朽ちても、その愛や関係性というものは残っていくとお考えでしょうか。 石黒)意識というものがある以上、それは肉体や人間という条件に定義されるものではないと思います。ただ、そもそも意識とはどういうものなのか、まだよくわかっていない部分が多いのが正直なところです。意識がどのような仕組みなのか、AIに意識があるのかどうかも含めて、正確にはまだ答えられません。研究はまだ途中の段階です。 Q. 人とアンドロイドが共生していくことで、社会の人間関係にポジティブな影響も起こりうるでしょうか? 石黒)実際に、高校生にロボットを使ってもらい、そのロボットをアバターとして学校に通ってもらうという取り組みを行ったことがあります。結果として、その生徒はヒーローのような存在になりました。ロボットがかっこいいので、今まで周りから話しかけてもらえなかった子が、みんなから話しかけられるようになったのです。 別の取り組みとして、ロボットが子どもたちの社会関係をきちんと理解した上で、孤立している子どものところへ行って話しかけるようにしたこともあります。すると、その周りに他の子どもたちも自然と集まってくるようになり、子どもたちの関係づくりに役立ちました。 Q. 会場内で公開された「漱石アンドロイド2.0」も素晴らしい対話性能でした。今後アンドロイドが相談役など、コミュニケーションの役割を担っていくことにもなりそうですね。 石黒)その通りです。人のネットワークの中に入り、人と人をつなぐことが、アンドロイドの大きな役割の一つです。ただ、それは本来、人間がやってきたことでもあります。ただし、理性的だからといって必ずしも相談しやすいわけではなく、共感してもらえるかどうかも重要な要素です。理性的なアンドロイドに相談したい人もいれば、共感してほしい人もいて、人によってニーズは様々です。そのため今後は、人に応じていろいろなタイプのAIが登場してくるはずです。フィジカルな面も含め、コミュニケーションはよりリアルなものになっていくでしょう。 現在もChatGPTやGeminiなど、少しずつ性格の異なるAIが存在していますが、今後はさらに多様なタイプのAIが登場してきます。言語化できない部分でも、よりリアルになっていくはずです。そして、これから必ず登場してくるのが、非常に共感性の高いAIです。「共感」という仕組みそのものについての研究も、すでに進み始めています。 『いのちの未来+』は、9⽉25⽇(⾦)まで 【開催概要】いのちの未来+ ■会期:2026年7月25日(土)~9月25日(⾦) 第1期会期中 休演日 8月3日(月) ※休演日は変更・追加となる可能性がございます。詳しくは公式サイトをご覧ください。 ■会場:MoN Takanawa: The Museum of Narratives (Box1000) ■主催:いのちの未来研究所 (ATR|株式会社 国際電気通信基礎技術研究所)、MoN Takanawa: The Museum of Narratives、株式会社パルコ ■共催:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 ■特別協力:京都府 ■協賛:長谷工グループ、岩瀬コスファ株式会社、社会福祉法人慶⽣会、塩野義製薬株式会社 ■技術協賛:株式会社ハートスホールディングス ■技術協力:⼤阪⼤学⼤学院基礎工学研究科知能ロボット学研究室、株式会社国際電気通信基 礎技術研究所 インタラクション技術バンク、ムーンショット型研究開発事業目標1アバター共 ⽣社会プロジェクト、国立研究開発法人理化学研究所 ■展示協力: 一般社団法人全国介護事業者連盟万博コンソーシアム 2025、シスメックス株式会社、学校法人 二松学舎
ムンク・フェルメール・ゴッホの名画を読み解く|名画探検室
専門学校日本デザイナー学院講師の原 広信(はらひろのぶ)です。 このコーナーは世界的にも有名な名画とされる作品に潜む裏側の謎を私の独断と偏見でズバリ解読しようという限定企画、名付けて『名画探検室!』です。 4点の作品を取り上げてみます。 [toc] エドヴァルド・ムンク 『叫び』 さて、みなさん。「ムンク」といえば…美術に興味のある方ならどこかで一度は眼にしたことのある、こちら_ [caption id="attachment_29540" align="aligncenter" width="446"] 【 エドヴァルド・ムンク Edvard Munch 『 叫び / The Scream 』1893年 91×73.5cm 厚紙にテンペラ・クレヨン Nasjonaimusst オスロ王立美術館所蔵 Oslo / ノルウェー 】 ※ソース/画像引用元:Nasjonalmuseet[/caption] エドヴァルド・ムンク。この画家はノルウェー出身(1863年生まれ)で、愛や絶望、嫉妬、孤独など人間の内面をテーマに描いています。 その中の代表作がこの作品。実は『叫び』というタイトルの作品は一つだけではないのですが、今回は、オスロ王立美術館が所蔵する作品を取り上げることとします。 【新説・珍説:発見ポイント!】 ◉どうして叫んでいるように見えるの? ◉そして何に叫んでしまうの? それを作品から読み解こうというアプローチです。 この絵画全体を見てみましょう。 欄干(らんかん・手すり)のある橋にその人物(叫ぶ人)がいます。(※実は叫んでいるのではない等、諸説があります) 両耳を塞ぐように両手を顔にあてがい、眼が点に描かれ、口はOの字に開いていますね。 叫ぶ人の身体の上体はくの字に曲がり、その曲がりに呼応するように頭部の後ろの青色の部分が中央から右に揺れて上にあがり、更に中央を貫いて左端まで伸びています。 夕景にも見える赤黄色から柑色の空の下にこの青い部分は河川にも海にも山並みにも見え、そのブルーゾーンは左端に繋がっています。その左端にちょうど「二人」が描かれていますね。 それはまた叫ぶ人の後方の欄干の線を伝ってその「二人」に鑑賞者の目線が導かれています。 そう、この絵画は中央の人物よりも左端の「二人」に視線が誘導される仕掛けが巧みに仕込まれていました。 それは、二人が後方から徐々に一歩一歩と詰め寄ってくる心理的な圧迫感を醸し出しているのです。 「二人」は圧迫と絶望感の象徴だったのです! 刻々と迫る絶望感に耐えきれず、耳を塞いでも伝わる足音。声にならない叫びが…! そういった視覚的な構成が叫んでいるかのように見せている、と言えると思います。 試しに画像から二人を指で隠して見てみましょう………、いかがですか? これで叫びの正体がお分かりでしょう! この二人とは…? そのことはムンク自身が『友人』と後に日記に記しているそうです。これも驚きですね。 ところで、有名な『叫び』、かわいいグッズになっていました。 [caption id="attachment_29541" align="aligncenter" width="332"] ※ソース/画像引用元:https://hmm.tobi-museumshop.com/items/46810523 東京都美術館MUSEUMSHOP(hmm,)[/caption] このショップのオリジナル商品とのこと。東京都美術館にお越しの際はミュージアムショップでチェックを! ヨハネス・フェルメール『真珠の耳飾りの少女』 続いてこちらも大変人気のある名画です! [caption id="attachment_29542" align="aligncenter" width="737"] 【 ヨハネス・フェルメール Johannes Vermeer 『 真珠の耳飾りの少女 / Meisje met de parel 』1665年頃44.5×39cm カンヴァスに油彩 Het Mauritshuis マウリッツハイス美術館所蔵 オランダ 】 ※ソース/画像引用元:https://www.mauritshuis.nl/ontdek-collectie/kunstwerken/670-meisje-met-de-parel[/caption] まずはこの絵画の解説から_ 大きな灰青色の瞳でこちらを振り返る《真珠の耳飾りの少女》。暗い背景に浮かび上がる少女の顔と、東洋的な青いターバン、耳元に輝く大きな真珠により、見る者は一瞬で引き込まれる。フェルメールが33歳の頃に描いた本作は、特定の人物ではなく性格やタイプを表現する「トローニー」と呼ばれるジャンルに属し、理想化された表情と異国風の装いは時代を超えた神秘性を湛える。色彩は青と黄色のみにほぼ限定されているが、青はラピスラズリから作られたウルトラマリンという非常に高価な絵具が用いられている。わずか数筆で描かれた真珠の輝きや、柔らかな光に包まれた少女の表情には、フェルメールの卓越した光の表現が凝縮されている。 ※引用『フェルメール 真珠の耳飾りの少女展』大阪中之島美術館HPより抜粋 https://vermeer2026.exhibit.jp/works/ 【新説・珍説:発見ポイント!】 ◉この絵の魅力は何? ◉顔に眉毛がないのは何故? やはり、少女の顔(表情)でしょう! モデルの少女はこのポーズでいながらも画家の前でいろんな表情だったことでしょう。おしゃべりしてたかもしれませんね。リラックスしている感じがします。まだ写真技術のない時代ですから、フェルメールは「これぞという表情」に描きながら仕上げていったのだと思われます。 ブルーを帯びた瞳にくっきりとした鼻筋と少し歯の覗く赤い唇、そして耳元の真珠の光沢。光を左側から右への方向とし、顔を含む頭部はほぼ左半分は陰影となっています。 まさに顔の表情に注目させる構成です。 そしてフェルメールは敢えて眉を描いていない。この絶妙な表情には必要ないと思ったのでしょう。 ◉なぜ背景を描いてないの? この時代の肖像画には背景をダークな色調を塗りこめてしまうパターンは割とよくみられます。 この作品の場合は、もしかすると過去には何か背景に描かれていたのかもしれませんが、最大の見せ場である少女の顔の表情に焦点を当てるために、闇のような空間としたのでしょう。 またまた同じフェルメールの名画を取り上げます! ヨハネス・フェルメール『牛乳を注ぐ女』 [caption id="attachment_29543" align="aligncenter" width="708"] 【 ヨハネス・フェルメール Johannes Vermeer 『 牛乳を注ぐ女 / Het melkmeisje 』1660年頃 45.5×41cm カンヴァスに油彩 Rijksmuseum アムステルダム国立美術館所蔵 オランダ 】 ※ソース/画像引用元:https://www.rijksmuseum.nl/en/collection/object/Het-melkmeisje--42dd0e658c2979aec8e144d2357c55c0[/caption] 【新説・珍説:発見ポイント!】 ◉なぜこの女性は牛乳を注ぐのか? 食事の用意をしています。注がれている牛乳の前にわざわざ描かれている数々のパンが窓からの光に照らされています。それらは重たそうなパンで、硬そうです。小麦粉が主なフランスパンとは違いそう。おそらくライ麦のパンでしょう。 注がれている牛乳の側に見える青い器の中に、砂糖が入っているなら…! この女性がこれから作ろうとする料理は、『ブロードパップ (Broodpap)』です! これは牛乳でパンを煮込んだ「パン粥」で、砂糖やバターなどで甘くします。食べやすいサイズに分けて平鍋に入れて牛乳で煮ようとしているのです!(たぶん) 誰に作っているのかって?それは自分のためでしょう(たぶん)。どんな料理なのかはブロードパップを検索しよう! ◉なぜ牛乳に注目してしまうのか? この絵には画家の計算があるんです。下に掲載した画像図をご覧ください。 女性の立ち姿のシルエットとテーブルを含めてほぼ直角三角形が形成されています(細い点線①)。そして画面左上の角から、格子状の窓から始まり、壁にかけられた籠、金属製のランタン、そして女性のスカートの裾、それらをつなぐ線(太い点線②)。その2本の点線が交錯しているのが牛乳を注ぐ女性の手元になります。こうした見ている側の目線を考慮しながらフェルメールは作品の構図を検討します。これを「視線誘導」と言われています。 私個人的に気になるのは、女性の右側のスペースですね。白い壁と床にある足温器(中の容器に焼いた炭を入れて使ったそう)だけです。 おそらく女性の背後、壁に何かが描かれていたのを、消し去ったのかも!? この絵の雰囲気、もう誰が描いているのか分かりますよね! フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』 [caption id="attachment_29544" align="aligncenter" width="368"] 【 フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh 『 夜のカフェテラス / Terrasse du café ie soir 』1893年 91×73.5cm カンヴァスに油彩 Kröller Müller Museum クレラー・ミュラー美術館所蔵 オランダ 】 ※ソース/画像引用元:https://grand-van-gogh-tokyo.com/highlights/[/caption] ゴッホの作品の登場です。 【新説・珍説:発見ポイント!】 ◉なぜ、夜なのにこんなに明るいのか? 画家が夜を描く時、夜景は作者の意思次第でどんなにも暗くすることができます。この作品においてゴッホは明るい秋の一夜のひと時を描きたかった。そのことが画面から読み取れると思います。夜空に瞬く星々も、そして背景に灯る窓の光も、カフェテラスの背景を全体として明るいものとして描いています。 ◉なぜ、星空よりもカフェの灯りに目がいくのか? この絵は南フランスで地中海に面する街、アルルの一角『フォルム広場』で描かれていることは広く知られています。このカフェは暮れ沈んでいくアルルの街の一角に開いています。その明るさとお店から聞こえる声と香りに導かれて人々は束の間の時間を楽しもうと集うのです。この意識が鑑賞者の眼をカフェの灯りに誘うのです。 ◉ゴッホはどこからこの景色を見ていたのか? この絵の構図として、ゴッホはこのカフェに向かい歩く一客人としての視線の高さを選んで描いています。カフェに向かいながら、この店でどんな時間を過ごそうか、この店のテラスの明るさに誘われて近づいている人の眼に映る情景が描かれています。 ◉なぜ、この瞬間を描こうと思ったのか? この絵のテーマは? それは暖色のイエロー系と寒色のブルー系との画面構成を意図的に構成しています。それは刻々と夜のとばりを深めていく時間。あたりが暗くなるにつれてカフェは明るい光に包まれていく。それに人々が集い、憩い、語らう空間。この時間だからこその空間の描こうとしたのです。これがゴッホが作品に求めたテーマです。 実はこの作品、今東京に来ています! ぜひ本物のイエローとブルーの対比を見に美術館に出かけましょう~ 【展覧会情報】 ■ 『大ゴッホ展 夜のカフェテラス 』 2026年 5月29日(金)~ 8月12日(水) 上野の森美術館 (東京都・台東区) https://grand-van-gogh-tokyo.com/ 筆者:原 広信(はらひろのぶ)多摩美術大学卒業同大学院終了 現代アート作家 抽象作品を制作発表 現代アート青枢(せいすう)会副会長 またアクリル絵具でのリアルイラストレーションも手掛ける。 専門学校日本デザイナー学院(東京校)講師 ドローイング系授業を担当 ▽関連記事 [clink url="https://picon.fun/art/20260614/"] ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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繊細な色彩設計と、背景まで緻密に描き込まれた世界観が魅力の藤ちょこ先生。その作品群が一堂に会した展示「祝彩巡礼」が、東京・渋谷の西武渋谷モヴィーダ館にて開催され、先日その幕を閉じた。 個展「#祝彩巡礼」の開催が決定しました✨ 3rd画集収録作品を中心に描き下ろしやサイン会もあります!よろしくお願いします! 会期:2026/6/5~6/28 会場:西武渋谷店モヴィーダ館6F ▶ https://t.co/ZDxTNgxMOh pic.twitter.com/0LPcl7onUY — 藤ちょこ@個展6/5~ (@fuzichoco) April 10, 2026 本展示は、2025年に刊行された画集『祝彩巡礼』の発売を記念して企画されたものであり、単なるイラスト展示にとどまらず、「作品を体験する」というコンセプトのもと構成されている。 本稿では、現地での体験をもとに、展示空間の設計や作品の見せ方、そして特殊加工によって藤ちょこ作品がどのように“体験として拡張されていたか”について記録する。 《アーティスト情報》 ■藤ちょこ fuzichoco イラストレーター 透明感あふれる色彩と、圧倒的な情報量を誇る緻密な世界観で国内外から高い支持を集める。書籍やゲーム、トレーディングカード、VTuber関連など幅広い分野で活躍し、その幻想的で物語性豊かな作品は、多くのクリエイターにも影響を与え続けている。 胡蝶の夢 pic.twitter.com/ytpn4m57JZ — 藤ちょこ@個展6/5~ (@fuzichoco) February 23, 2025 喧騒を抜けて、世界の入り口へ 訪れたのは展示最終日だった。 前日に台風が通過したにもかかわらず、渋谷の街は変わらず人の流れに満ちていた。濡れた路面に光が反射し、都市の喧騒だけがいつも通りの速度で流れている。 会場となる西武渋谷モヴィーダ館は、無印良品が入るビルとして知られるが、その上階に広がる展示空間は、日常の延長線上にありながらも、どこか異なる静けさを持っていた。 時間まで待つようスタッフからアナウンスがあり、待機列は少しずつ進んでいく。入り口のモチーフや、最初に目に飛び込んでくる大迫力の一枚絵、展示タイトルが印字された壁面の横に添えられた直筆サインが視界に入り、まだ会場に入っていないはずなのに、すでに世界の入口に立っているような高揚感が生まれていた。 鮮やかな色彩と緻密な描き込み|藤ちょこ作品が愛される理由 多数のキャラクターデザインを手掛けたイラストレーターとしても有名な藤ちょこ先生ですが、作品の魅力は、緻密に設定された世界観に他ならない。建築物、植物、光、水、空気といった要素が等しく描き込まれ、それらが一枚の画面の中で有機的に結びつくことで、「ひとつの世界」として成立している。 [caption id="attachment_29242" align="aligncenter" width="750"] 藤ちょこ特殊印刷アート「祝彩巡礼」[/caption] そのため鑑賞者の視線は一点に留まらず、画面全体を巡りながら作品の中を歩くような感覚を得ることになる。 これは単なるイラスト鑑賞ではなく、“世界を読む体験”に近い。 香りから始まる没入体験|五感で切り替わる展示空間 会場に足を踏み入れた瞬間、まず感じたのは香りだった。 [caption id="attachment_29243" align="aligncenter" width="750"] 入り口を潜るとふわりと優美な香りが包み込んでくれる[/caption] 上品でありながら過剰ではない香りが空間全体に広がり、外の世界と展示空間の境界が明確に切り替わる。 イラスト展示において嗅覚までを設計に取り込む試みは多くない。本展は空間そのものを作品として成立させていた。 展示だからこそ体験できる、特殊加工が生み出す作品の魅力 SNSや画集を通して、藤ちょこ先生の作品に触れたことがある人も多いだろう。画面越しでも、その鮮やかな色彩や緻密な描き込み、幻想的な世界観は十分に伝わってくる。しかし、本展で作品を前にした瞬間、その考えは大きく覆された。本展では、複数の印刷会社による多彩な特殊加工が作品に施されており、光を受けて表情を変えるもの、見る角度によって印象が変化するもの、質感によって空気感や奥行きを際立たせるものなど、印刷そのものが表現の一部として機能していた。 [caption id="attachment_29261" align="aligncenter" width="562"] 藤ちょこオーロラポスター「さいはての空、彼方の教室」[/caption] スマートフォンやパソコンの画面では、イラストはそれぞれのデバイス環境や閲覧状況に左右されながら鑑賞される。一方、展示では、作品は物質として確かな存在感を持ち、同じイラストでありながら受け取る印象は大きく異なる。光の反射や素材の質感によって、画面越しでは感じ取れなかった空気や奥行きが作品に宿る。その変化は写真では決して再現しきれず、実際にその場に足を運び、一定の距離を保ちながら見つめることで初めて成立する体験だった。 そしてこのひと作品において特に印象的だったのは、アナログ着彩によって生まれる透明感と、その筆致そのものである。デジタルで構築されたイメージに対して、重ねられた色の層やにじみ、わずかな揺らぎが加わることで、画面では見えなかった質感が立ち上がってくる。 [caption id="attachment_29260" align="aligncenter" width="563"] 藤ちょこ自然紋「福の神」[/caption] 何より惹かれたのは、その筆さばきである。線の流れ、塗りの方向、絵の具の重なりといった“描く行為そのもの”が、そのまま作品の一部として残されている。それらは画面越しでは決して気づくことのできない情報であり、会場に足を運び、その作品と同じ距離で向き合うからこそ初めて見えてくるものだ。デジタル表現に施された加工とはまた異なる次元で、このアナログ着彩そのものが、このひと作品の“完成形”を成立させていた。そして何より重要なのは、この体験そのものが「現地に足を運んだからこそ成立している」という点である。画面越しでも作品は十分に鑑賞できる。しかし、光の揺らぎや素材の質感、筆致の細部といった情報は、実物と対峙したときにしか立ち上がらない。この作品が示していたのは、イラストは見る場所によって完成形が変わるという事実だった。だからこそ、展示という場に足を運ぶ意味がある。そこには、画面では得られない“もう一段階上の作品体験”が確かに存在していた。 特殊加工で作品は更に輝く イラストを描き上げたら、それで完成だと思っていないだろうか。もちろん、一枚のイラストとして完成させることは作品づくりの大きなゴールだ。しかし、その作品を「どう届けるか」まで考えたとき、表現の可能性はさらに大きく広がる。本展では、複数の印刷会社による多彩な特殊加工が作品に施されていた。箔を貼った作品は一層豪華な印象を受けた、時間の経過で変化する作品、見る角度によって印象が変わるもの、その表現は実にさまざまだ。 印象的だったのは、作品と額が複数のアクリルで制作された作品「水没都市」。 あらかじめ模様のついたカスミアクリルという素材に、青系グラデーションを印刷する事で水面をイメージしたアクリルフレームにしたとの事。(藤ちょこイラスト展「祝彩巡礼」パンフレットより引用) イラストを描く人にとって、作品は完成した瞬間がゴールではない。紙や素材を選び、印刷方法を選び、加工を選ぶ。その一つひとつの選択が、作品を「見るもの」から「体験するもの」へと拡張していく。もし、いつか自分の作品を展示する日が来たなら──。作品をどう飾るかだけでなく、「どう輝かせるか」という視点も、ぜひ持ってほしい。 鏡になる作品|鑑賞者が作品へ取り込まれる体験 筆者が本展で一番衝撃を受けたのは、入口すぐに展示されていた作品「胡蝶の夢」である。 額装の中にはキャラクターが描かれているが、角度や時間の経過によってその姿は消え、鏡へと変化する仕掛けになっていた。 [caption id="attachment_29245" align="aligncenter" width="563"] 藤ちょこチェンジングプリント「胡蝶の夢」[/caption] [caption id="attachment_29246" align="aligncenter" width="563"] 時間が経過すると、キャラクターが消え、ミラーに変化する。[/caption] そこに映るのは作品の続きではなく、自分自身の姿である。 この瞬間、鑑賞者は「見る側」から「作品の中にいる側」へと立場を変えることになる。 イラストと鑑賞者の境界が曖昧になる、非常に象徴的な体験だった。 触覚によるイラストの拡張 さらに本展では、刺繍によって表現された作品にも触れることができた。 イラスト展示において作品に触れることができる機会は極めて少ない。 しかし本展では、触覚を通じて作品を理解するという新しい鑑賞方法が提示されていた。 糸の立体感や質感は、視覚だけでは伝わらない情報を補完し、作品世界の解像度をさらに高めていた。 画集『祝彩巡礼』|展示体験の“種明かし” 展示を見終えたあと、グッズ販売エリアで藤ちょこイラスト展「祝彩巡礼」パンフレットを手に取った。 このパンフレットは単なる展示作品が羅列された画集ではなく、特殊加工や制作工程に関する解説を含んだ構成となっている。 展示で感じた「なぜこの表現なのか」という疑問が、ページをめくるごとに言語化されていく。 展示体験の延長線上に“理解”が用意されている構造であり、作品への理解が一段階深まる内容だった。 イラストは“体験”へと拡張できる イラストは本来、視覚によって鑑賞されるものだ。 しかし『祝彩巡礼』は、その前提そのものを静かに拡張していた。 香りによって世界へ導かれ、特殊加工によって視覚体験が変化し、刺繍によって触覚へと広がり、鏡の仕掛けによって鑑賞者自身が作品へと取り込まれる。 そのすべてが連続したひとつの体験として設計されていた。 そして何より印象的だったのは、この展示が「イラストはどこまで拡張できるのか」という問いを提示していたことである。 イラストは、描いた瞬間が完成ではない。 紙、印刷、加工、空間。 それらの選択によって、作品はさらに豊かな体験へと育っていく。 『祝彩巡礼』は、美しいイラストを鑑賞する展示であると同時に、「作品はここまで体験へ拡張できる」という可能性を示してくれる展示だった。 だからこそ私は、この展示をイラストが好きな人だけでなく、これから作品を生み出すすべてのクリエイターに届けたい。 あなたの作品も、きっと“体験”へ拡張できる。 『藤ちょこイラスト展 -祝彩巡礼-』は既に終了しています。 《展覧会情報》 『藤ちょこイラスト展 -祝彩巡礼-』 ⽇程:2026年6月5日(金) 〜 6月28日(日) 時間:11:00 〜 20:00(最終入場19:30) 会場:西武渋谷店モヴィーダ館 6F 料⾦:入場券:1,000円(税込) 取材・撮影/PicoN!編集部 市村 [clink url="https://picon.fun/design/20260612/"] [clink url="https://picon.fun/design/20211004/"] [clink url="https://picon.fun/illustration/20240115/"] ↓PicoN!アプリインストールはこちら
お気に入りの一匹を探そう。『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』展ではじめる浮世絵入門
浮世絵にはさまざまな動物や妖怪が登場する。ペットとして親しまれたネコやイヌ、不気味な姿で人々を恐れさせた鬼や土蜘蛛。さらには、擬人化された動物たちや、思わず笑みがこぼれるユーモラスなキャラクターまで、その表現は実に多彩だ。 太田記念美術館で開催中の「アニマル&モンスター」展では、「かわいい」「怖い」「ちょっと変」をキーワードに、浮世絵に描かれた個性豊かな動物や怪物たちを紹介。人気作品から新収蔵品として初公開される作品まで、約140点が展示されている。 今回は内覧会に参加し、浮世絵初心者でも楽しめる本展の魅力を、PicoN!学生編集部とともにレポートする。 原宿の太田記念美術館では明日6/23(火)より「アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変」を開催いたします。前後期合わせて140点(前後期で全点展示替え)を展示。人気の作品から初出品の作品までお楽しみいただけます。詳しくは→https://t.co/A6pe89Spos pic.twitter.com/GxUZLHyzRg — 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) June 22, 2026 原宿の喧騒の先に佇む、浮世絵の時間 JR原宿駅の表参道口を出ると、多くの人々が行き交う原宿らしい賑わいが広がる。流行のショップには若者たちが集い、修学旅行で来たと思われる高校生や、国内外から訪れた観光客の姿も目立つ。次々と新しいトレンドが生まれるこの街は、今なおさまざまなカルチャーを発信し続ける場所のひとつだ。 そんな活気に満ちた駅前から数分歩き、表参道沿いの喧騒を離れて路地へ入ると、街の空気は少しずつ穏やかさを帯びていく。その先に静かに佇むのが太田記念美術館である。 1980年に開館した太田記念美術館は、東邦生命保険相互会社社長を務めた五代太田清藏が蒐集した浮世絵コレクションを基礎として設立された、国内でも数少ない浮世絵専門の美術館だ。現在は約15,000点のコレクションを有し、葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳をはじめ、浮世絵の歴史を彩る数々の名品を所蔵している。 館内では収蔵作品を中心に多彩な企画展が開催されており、風景画や美人画、役者絵といった王道のテーマはもちろん、現代的な視点を取り入れたユニークな切り口の展示も人気を集めている。専門性の高い内容を扱いながらも、浮世絵に馴染みのない来館者でも楽しめる展示づくりが同館の大きな魅力だ。 現代カルチャーの発信地である原宿の一角で、江戸の人々が親しんだ大衆文化に触れる。時代こそ異なるものの、「流行」や「表現」を楽しむ人々の姿は今も昔も変わらない。そんな思いを胸に、今回の展示会場へと足を踏み入れた。 かわいい、怖い、ちょっと変。浮世絵のアニマル&モンスター大集合 浮世絵と聞いて、どんな作品を思い浮かべるだろうか。 葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》や歌川広重の名所絵など、有名な作品の名前は知っていても、「なんだか難しそう」「美術の知識がないと楽しめない」と感じている人も少なくないかもしれない。 そんな人にこそおすすめしたいのが、太田記念美術館で開催されている『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』展だ。 本展の主役は、猫や狐、蛙といった動物たち、そして妖怪や鬼、龍などの怪物たち。浮世絵の中に描かれた個性豊かなキャラクターたちにスポットを当てた展覧会である。 会場を歩いていると、思わず笑ってしまうような表情の猫や、どこか人間らしい仕草を見せる動物たち、迫力満点の妖怪たちが次々と現れる。作品ごとに異なる物語やユーモアが込められており、浮世絵の知識がなくても自然と引き込まれていく。 可愛さあふれる動物や妖怪たち PicoN!学生編集部:今回の展覧会テーマは、「動物と妖怪」。学芸員の方は、可愛い・怖いだけでなく、ユーモラスに描かれている作品を多く集めたと語っていました。 個人的に好きだったのは、歌川芳虎の『神功皇后三韓征伐之御時韓兵計飢虎追放官軍猛禽投撃亦生捕帝覧備(じんぐうこうごうさんかんせいばつのおんときかんひょうはかってうえたる とらをはなつ かんぐんもうきんをなげうちまたはいけどりてていらんにそなふ)』という作品です。 [caption id="attachment_29198" align="aligncenter" width="750"] 歌川芳虎「神功皇后三韓征伐之御時韓兵計飢虎追放官軍猛禽投撃亦生捕帝覧備」[/caption] 多くの虎たちと兵が戦っているという殺伐とした場面を描いた武者絵のはずですが、大きな虎たちのもふもふしたお腹や肉球など、まるで猫を連想させるような可愛らしいポーズとのギャップが新鮮でした。ぜひ実際に足を運んで、虎たちの愛らしい「にこげ(柔らかい毛)」の質感を感じてみてほしいです。 擬人化された「人まねアニマル」 PicoN!学生編集部:浮世絵では、ネコやウサギ、タコといった動物たち、さらにはホオズキやカボチャのような植物までもが、まるで人間のような姿かたちに大変身しています。 [caption id="attachment_29153" align="aligncenter" width="750"] 歌川国芳「ほふづきづくし 八そふとび」[/caption] なかでもネコは蕎麦屋やウナギ屋、 銭湯など、さまざまなお店でくつろいでいる姿がたくさん描かれています。 この章では、様々な動物が擬人化されて描かれている浮世絵を見ることができます。 歌川芳藤の「しん板猫のあきんどづくし」では、猫たちが人間さながらの姿になって、町でさまざまな商品を売り歩いています。 [caption id="attachment_29201" align="aligncenter" width="750"] 歌川芳藤『しん板猫のあきんどづくし』[/caption] 特に、シャボン玉売りに走り寄っていく子供の猫たちの姿は、可愛らしくて印象的でした。 小さな画面の中にたくさんの猫たちが描かれているので、よーく目を凝らしてみると新しい発見があったりします。ぜひ、お気に入りの一匹を見つけてみてください。 思わず「これなに?」と言いたくなる「ちょっと変」なキャラクター 浮世絵に描かれるのは誰もが知る動物や妖怪ばかりではありません。石から虎の手足と尻尾が生えた空想上の生き物である「虎子石」や、人間の顔をした人面魚、十二支が一つに合体した動物、 さらには、病気や薬、お金が人間の姿になったものなど、ヘンテコで不可解なキャラクターたちがさまざまに登場する。 [caption id="attachment_29157" align="aligncenter" width="519"] 落合芳幾「見立似たかきん魚」(前期)[/caption] 浮世絵師たちの豊かなイマジネーションが満載。 約5分の1が新収蔵品 太田記念美術館ではこれまで「浮世絵お化け屋敷」や「江戸にゃんこ 浮世絵ネコづくし」、「浮世絵動物園」など、動物や妖怪をテーマに展覧会を開催してきた。今回の展覧会では、これまで人気の高かった作品はもちろん、まだ紹介していない初お披露目の作品も多数展示されている。 [caption id="attachment_29158" align="aligncenter" width="504"] 歌川国芳「木曽街道六十九次之内 京都 鵺 大尾」※新収蔵品[/caption] PicoN!学生編集部:「浮世絵」と聞くと少し難しそうなイメージがあり、あまり興味が湧かない学生も多いかと思います。しかし、カラフルで賑やかな錦絵には、現代の私たちにも通じるユーモアがたくさん散りばめられていました。今のアニメやゲーム作品でお馴染みの「擬人化」の手法や、イラスト・グラフィックデザインの参考になる秀逸な構図など、クリエイティブを学ぶ学生にとって刺激になる要素が盛りだくさんです。展示会場はコンパクトな造りで、気軽に鑑賞できるのも魅力です。しかし、一枚一枚の浮世絵に目を向けると、愛らしい動物やどこか憎めない妖怪など、個性豊かなキャラクターたちが画面のあちこちに描き込まれています。細部までじっくり眺めながらお気に入りの一匹、一体を探していると、気がつけば時間を忘れて見入ってしまいました。前期と後期で全点展示替えが予定されている本展覧会。後期にはどのような作品が並ぶのか、今からとても楽しみです。 『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』は8月23日(日)まで 《展覧会情報》 『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』 ⽇程:2026年6月23日(火)~8月23日(日)前期 6月23日(火)~7月20日(月・祝)後期 7月25日(土)~8月23日(日)※前後期で全点展示替え 時間:午前10時30分 ~ 午後5時30分(入館5時まで) 会場:太田記念美術館(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10) 料⾦:一般 1200円 大高生 800円 中学生(15歳)以下無料 取材協力:太田記念美術館 取材/PicoN!学生編集部 中澤 撮影/PicoN!編集部 市村 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
お金をかけずに感性を磨く -東京でアートを無料で楽しむ3つの方法-
「アートに興味はあるけれど、最近の美術館や博物館の展示は入場料が高すぎる!」と、感じている人もいることでしょう。しかし、東京には無料で質の高いアートやデザインに触れられる場所・機会が数多くあります。今回は、学生でも気軽に楽しめる「無料でアート」の楽しみ方を3つご紹介します。 1. 企業ギャラリーを巡る 企業が運営するギャラリーは、無料でありながら質の高い展示を開催している穴場スポットです。 SHISEIDO GALLERY 資生堂ギャラリーは1919年にオープンした、現存する日本で最古の画廊といわれています。途中、震災や戦争、建物の改築による中断を除き、「新しい美の発見と創造」に取り組み、日本の芸術文化の振興に寄与してきました。これまでに開催した展覧会は3,100回以上、資生堂ギャラリーを作品発表の場として、後に日本美術史に大きな足跡を残した作家も数多くいます。 1990年代からは、現代美術に主軸を定め、前衛性と純粋性を兼ね備えた同時代の表現を積極的に紹介しています。 2001年には、「東京銀座資生堂ビル」の地下1階にリニューアルオープンしました。 5mを超える天井高をもつ銀座地区で最大級の空間は、様ざまな表現を可能にする場として、海外の作家からも注目を集めています。(引用元:SHISEIDO GALLERY|資生堂ギャラリー) Ginza Graphic Gallery(ggg) ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ginza graphic gallery)は、グラフィックデザインの専門ギャラリーとして3つのgの頭文字から「スリー・ジー(ggg)」の愛称で親しまれています。1986年、グラフィックデザインと密接なかかわりを持つ大日本印刷株式会社は、文化活動の一環として、創業の地であり、画廊のメッカでもある銀座に、gggを設立し、展覧会やレクチャーの開催、gggBooks等の出版活動を継続し、多くの方々にグラフィックデザインの素晴らしさと出会う機会をご提供しています。(引用元:公式HPギンザ・グラフィック・ギャラリー) グラフィックデザインを学ぶ学生なら一度は訪れたいスポットです。ポスターや広告、タイポグラフィ、ブックデザインなど、国内外の優れたグラフィックデザインを紹介しています。レイアウトや文字の使い方、コンセプトの伝え方など、多くの発見があります。企業ギャラリーは展示替えの頻度も高いため、何度訪れても新しい刺激を得られるのが魅力です。筆者も学生の頃、授業終わりによく足を運んでいました。資生堂ギャラリーとギンザ・グラフィック・ギャラリーは徒歩3分と場所が近く、展示の開催期間が重なっている場合はハシゴすることもオススメです。 2. 街を歩いてパブリックアートを探す アートは展示室の中だけにあるものではありません。渋谷駅には、岡本太郎の『明日の神話』巨大壁画、東京駅周辺の丸の内仲通りには、国内外の作家による彫刻作品が点在しています。普段は通り過ぎてしまう場所も、作品を探しながら歩くと違った景色に見えてきます。パブリックアートの魅力は、誰でも自由に鑑賞できることです。通学や通勤の帰り道でも楽しめるため、「なぜここにこの作家の作品が置かれているのだろう」「周囲の環境とどんな関係があるのだろう」と考えながら鑑賞すると、作品の見え方も変わってきます。筆者は、友人と作品の題名当てゲームをしながらパブリックアートを楽しんでいます。一度も当たったことはありません。 3. 美術館の無料開放日を活用する 多くの美術館では入館料がかかりますが、実は無料で入館できる日が設けられています。例えば、国際博物館の日(5月18日)には国立近代美術館、国立西洋美術館、国立科学博物館などの常設展(コレクション展)が無料公開されます。また、東京都現代美術館、東京都美術館などは都民の日(10月1日)に無料で鑑賞できる展示が開催されることがあります。企画展は入館料が年々値上がり傾向ですが、常設展や所蔵作品展はまだまだリーズナブルな料金設定であることが多く、無料開放日を活用すれば名作を気軽に鑑賞できます。美術館の公式サイトやSNSで最新情報をチェックしておくと、お得にアートを楽しむチャンスを見逃さずに済みます。無料の日をきっかけに「一度行ってみたい!」と思っていた美術館に訪れてみませんか。 番外編 キャンパスメンバーズ制度を活用する 意外と知られていませんが、多くの大学や専門学校は「国立美術館キャンパスメンバーズ」に加盟しています。加盟校の学生は、学生証を提示することで国立美術館のコレクション展を無料で観覧できたり、企画展の料金が割引になったりします。例えば、 東京国立近代美術館 国立西洋美術館 国立新美術館 などで特典を利用できる場合があります。もし、自分の学校が加盟校であれば「美術館をお得に活用できる環境」が用意されていることになります。まずは学校の教務課・学生課、公式サイトの加盟校一覧などで確認してみましょう。(公式HP:国立美術館キャンパスメンバーズ) アートを楽しむために、必ずしもお金をかける必要はありません。お金をかけても絶対に良い作品と出会えるとも限りません。「企業ギャラリーを訪れる」「街中のアートを探してみる」「無料開放日に訪れる」「キャンパスメンバーズ制度を活用する」まずは、足を運ぶ機会を増やして良い作品との出会いのチャンスを増やすことで、きっと有料級の経験を得られますよ。 PicoN!編集部 武田 ↓関連記事はこちら [clink url="https://picon.fun/art/20260614/"] [clink url="https://picon.fun/art/20221025/"] ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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