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最新記事一覧【デカくね!?】「ロン・ミュエク展」(森美術館)に行ってきました。
六本木・森美術館で9.23(水)まで開催中の「ロン・ミュエク展」に行ってきました。 もう、一歩足を踏み入れた瞬間から、空間の空気がピリピリと震えているのがわかる。 写真や言葉でどれだけ尽くしても、この記事では伝わらないほどの圧倒的な気配が、そこには漂っていました。 画面越しでは決して味わえない、空間そのものが放つゾクッとするようなリアリティ。人間とは何か、存在とは何かを五感で突きつけられる、まさに事件のような展示です。 この衝撃は、ぜひあなた自身の目で、その場に立って体感してほしいと思います。忘れないうちに、それぞれの作品で感じたリアルな衝撃をシェアします。 【展覧会概要(公式サイトより抜粋)】 本展は、作家とカルティエ現代美術財団との長きにわたる関係性によって企画されたもので、2023年パリの同財団での開催を起点とし、ミラノとソウルを経て、森美術館で開催されます。 大型作品《マス》(2016-2017年)など作家の主要作品を中心に初期の代表作から近作まで11点を展示し、作品の発展の軌跡を深く洞察します。 そのうち6点は日本初公開で、特に初期の代表作《エンジェル》(1997年)の出展はまたとない機会になるでしょう。 また、フランスの写真家・映画監督のゴーティエ・ドゥブロンドによる、作家のスタジオと制作過程を記録した貴重な写真作品と映像作品も併せて公開し、ミュエクの比類なき彫刻がどのように生み出されるのかを明らかにします。 違和感…… ロン・ミュエク「イン・ベッド」(2005年) ※本写真は合成ではありません。 展示室に現れる、長さ6.5メートルもの巨大なベッド。そこに横たわる中年女性を見た瞬間、脳がバグるような物凄い「違和感」に襲われました。圧倒的なスケールの大きさと皮膚の生々しさに、ただただ「ぞわっ」とする恐怖に似た感覚が全身を駆け巡ります。 モニュメントのような巨躯でありながら、その視線はどこか虚ろで、私たちの視線と交わることは決してない。 その圧倒的な孤独感に、最初から息をのむしかありませんでした。 本展でいちばん鳥肌が立った、最大のサスペンス ロン・ミュエク「若いカップル」(2013年) 一見、どこにでもいそうな初々しい10代のラブストーリー。 仲良く寄り添うカップルのように見える。 二人を見ていて、ふと「何か違和感があるな」と思い、背後に回り込んだ瞬間ーー心臓が跳ね上がりました。 ロン・ミュエク「若いカップル」(2013年) 少年は、彼女の手を優しく握っているんじゃない。 その細い手首を、逃がさないように「無理やり、力ずくでつかんで」いたんです。 一瞬で世界が反転する、不穏すぎる空気に包まれる。 この二人の間に、一体どんな歪んだ関係が隠されているのか……。 「これが天使……?」これまでの常識を一瞬にして打ち砕く衝撃 ロン・ミュエク「エンジェル」(1997年) 「これが天使……?」これまでの常識を一瞬にして打ち砕く衝撃が走ります。 私の中で天使といえば、綺麗で無垢な赤ちゃんのようなイメージでした。 ミュエクが最初に作ったという天使は、輝かしいイメージとは真逆で、全裸のまま力なく俯き、ただ悲しげに物思いにふけっています。 彼は一体、何を背負い、何を考えてこの姿で行き着いたんだろう? その孤独に、強烈に引きずり込まれます。 暗闇の不気味な「顔」 ロン・ミュエク「ダーク・プレイス」(2018年) ここは本当に美術館なのかと錯覚する、息が詰まるほどの暗闇……。 そこに、中年男性の頭部だけが不気味に浮かび上がっています。闇の深さそのものが、彼が心に抱える秘密や葛藤の大きさを物語っているかのよう。さらに恐ろしいのは、見る角度で「顔」が変わること。 正面から見たときと、下から見上げたときでは全く別人のようで、下から見ると胸が締め付けられるほど寂しそうなんです。 まっすぐ前を睨む彼の瞳は何を求めているのか……20代の私にはまだ解けない、大人の深い謎がそこにありました。 見る位置で主役の感情が入れ替わるドラマーー ロン・ミュエク「買い物中の女」(2013年) 重い買い物袋で両手を塞がれ、赤ちゃんを抱いて疲れ果てた母親……。 彼女の目は完全に光を失っているけれど、腕の中の赤ちゃんだけは、じっとお母さんを見つめているんです。 でも、お母さんはその無垢な視線を、冷酷に「見て見ぬふり」をして遠くを睨みつけている……。 本物の人間より小さく造られているからこそ、その「絶望」が極限まで濃縮されて迫ってきます。 実は、見る角度によってその見え方や捉え方がガラリと変わるんです。前から見ると、背負うものが重すぎる「お母さんの絶望」。 ロン・ミュエク「買い物中の女」(2013年) 横に回ると、すがりつくような「赤ちゃんの孤独」。 見る位置で主役の感情が入れ替わるこのドラマは、絵画では絶対に不可能な、彫刻だからこそ体感できる鳥肌ものの演出でした。 リアルすぎる大きな「顔」 ロン・ミュエク「マスクⅡ」(2002年) 台座の上に載せられた、眠りに落ちた大きな作家自身の「顔」。 皮膚の弛みからわずかに開いた口元まで、いまにも寝息が聞こえてきそうなほどのリアリティです。しかし、ひとたび作品の背後に回ると、そこはガラリと「空洞」になっている。 この男性は実在しているのか、それともただの虚構なのかーー。 リアルに捉えられた実像のようでありながら、所詮は作り上げられた仮面(マスク)に過ぎないのではないかという、アイデンティティの脆さを突きつけてきます。 100点もの巨大な頭蓋骨 ロン・ミュエク「マス」(2016-2017年) 最後に待っているのが、展示室を埋め尽くす、山のように積み重なった100点もの巨大な頭蓋骨(骸骨)です。 その異様な光景の真ん中を歩き回る時間は、言葉にできないほど強烈でした。どんな人間だって、最後はみんなこの骸骨で行き着き、終わるんだという絶対的な事実……。 それなのに、並ぶ骸骨たちの顔はどれもほとんど同じに見える。 その事実にハッとさせられると同時に、人間という存在そのものが持つ、底知れない「気味悪さ」がじわじわと胸に迫ってきて、最後の最後まで鳥肌が止まりませんでした。 おわりに どの作品も、あえて「答え」が書かれていないからこそ、観る側の年齢や立場で物語が全く変わってしまいます。 子どもをもつ人なら親の目線で「少女を救わなきゃ」とハラハラするかもしれないし、子どもの側に親近感の湧く若い世代なら、身近な人間関係のリアルな複雑さに胸がざわつくはず。デジタルな画面の中だけでは処理しきれない、肉体を持った彫刻と、自分だけのヒリヒリするような心理戦。 今思い返しても、「すぐにでもまた行きたい!」そう心から思える作品ばかりでした。写真や画面で見るよりも、実物は生々しいほどに何倍も大きく、圧倒的な存在感を放っていて、どの作品の前でも時間を忘れて見入ってしまいます。今、あの空間で、自分の目で目撃しないと絶対に後悔する。鳥肌の止まらない、最高の展覧会でした。 【開催概要】 「ロン・ミュエク」 会期:2026.4.29(水)~ 9.23(水)会期中無休 10:00~22:00 会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) PicoN!編集部 阪田 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
【内覧会レポート】もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち
神奈川県立近代美術館 葉山にて、『もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち』が2026年6月13日(土)より開幕しました。開幕前日の6月12日(金)に行われた内覧会で、本展を担当した三本松倫代氏(神奈川県立近代美術館 主任学芸員)にお話を伺いました。 本展は、1990年の再統一によって消滅したドイツ民主共和国(東ドイツ)で活動した15名の女性写真家を紹介する展覧会です。ベルリンを拠点とする現代美術コレクター、スヴェン・ヘアマン氏が所蔵するヴィンテージ・プリント・コレクションを中心に構成されており、ジビレ・ベルゲマン、エフェリン・リヒター、ウーテ・マーラー、グンドゥラ・シュルツェ・エルドヴィら、日本ではこれまで紹介の機会が少なかった写真家たちの作品が、まとまった形で初めて公開されます。 ブリギッテ・フォイクト《兄妹》1964年 Ⓒ Estate Brigitte Voigt. Courtesy Loock Galerie, Berlin ◎旧東ベルリンに眠っていたコレクション 今回の展示作品の主要な部分を占めているのは、ライプツィヒ美術大学の教授でキュレーターでもあったペーター・パフニケ氏の旧蔵品だそう。 三本松氏は次のように説明してくれました。 「パフニケは東ドイツが唯一ヴェネツィア・ビエンナーレに出品した際のコミッショナーとして知られています。ライプツィヒ美術大学での教え子や出身者の写真作品を多数所有していたことから、没後に市場に出た作品を収集したヘアマンさんのコレクションに多く含まれています。」 ヘアマン氏は、旧東ベルリンのシュプレー河畔にある元工場を改装し、ラインベックハレン財団を設立した収集家。三本松氏によれば、「東ドイツの女性写真家たちの仕事に強く共感したことから、重点的に集めてきたコレクター」だそうです。男性写真家やドイツ国外の作家の作品も収集しており、本展覧会にヘアマン氏自身も来日し、開会式でスピーチを行う予定とのことでした。 ジビレ・ベルゲマン《記念碑、ベルリン、1986年2月》1986年 Ⓒ Estate Sibylle Bergemann. Courtesy Loock Galerie, Berlin ◎社会主義リアリズムと、写真というメディアの自由 本展を読み解くうえで欠かせないのが、東西冷戦下における芸術の政治的な背景です。三本松氏は東側諸国の芸術動向についてこのように話してくれました。 「東側諸国では社会主義リアリズムという芸術様式が国家公認の表現とされていて、西側のポストモダニズムやアバンギャルドの動向と対立していました。人民に分かる表現で、社会のあるべき姿を伝えていくという綱領があって、それに従わない表現を望んだ芸術家たちは西側へと出国する動きがドイツにもありました」 社会主義リアリズムとは、社会が発展していくべき理想像を写実的に・わかりやすく描くという芸術理論です。アメリカを中心としたいわゆる西側諸国(資本主義諸国)では、個人(労働者と資本家)を主体とした自由経済を採用していました。そのため芸術においても、アーティストの自由な発想や内面的世界観を表現したムーブメントとなりました。ピカソの絵がわかりやすい例ですが、「写実的」であるよりも、「自由・個人的」であることが芸術の価値である。これがモダニズムやアヴァンギャルドの考え方です。 一方でソ連(現ロシア)を中心とした東側諸国では、国家を主体とした社会主義(共産主義)というシステムが採用されていました。経済は自由競争によってではなく、国家による計画・管理のもとで運営されるというものです。そのため「社会的リアリズム」(=理想の社会をリアルにわかりやすく描く芸術)は、国家が掲げる理想像を人民に伝える「国家公認の芸術」として採用されました。逆にモダニズム(=個人の自由な感性を描いた芸術)は「退廃文化」とされ排斥されていました。 そんな中、写真は比較的自由な表現ができる媒体だったそう。「写真は具象表現である媒体であるからこそ、逆に自由な表現ができた。体制批判のようなことはできなかったかもしれませんが、弾圧の少ない中で自由に制作ができた」と三本松氏は話してくれました。 ◎"仕事"として写真と向き合った女性たち 本展のもう一つの軸となっているのが、ジェンダーと労働の視点です。「東ドイツでは、女性も労働力とされていました。工場の労働にも携わるし、研究者にもなるし、写真家・アーティストにもなる。職業写真家としてキャリアを築いた彼女たちは、他の職業と同様に自立していた」と三本松氏は語ります。 出品作家の中には、パートナーも写真家でありながら、自身も同等にキャリアを築いてきた作家もいます。現像から焼き付けまでをすべて自らの手で行っていた作家も多く、職業人としての自立した姿勢が伝わってきます。 レナーテ‧ツォイン《フリードリヒシュタットパラスト》1985年 Ⓒ Renate Zeun. Courtesy Loock Galerie, Berlin ◎発表の場がなくても、撮り続けた記録 80年代に入るまで、仕事以外での発表の場はほとんどないまま写真家たちは撮影を続けていたそうです。三本松氏は「発表できないけれど、やはり自分の表現としての写真は撮り続けていた。80年代になると芸術としての写真の認識も進み、国営のギャラリーで個展ができるようになったり、出版ができるようになったりした」と振り返ります。それでも、芸術としての写真作品を売って生計を立てるという状況にはまだならなかったとのこと。 展示作品は、ロシアへの取材で撮影されたダンサーの写真、ドレスデンの美術館で「絵の前に立つ人々」を観察した一連の作品、プラッテンバウ(集合住宅)の室内を記録したシリーズなど、当時の東側社会の日常が静かに滲み出るものが多いです。体制の外側でひそかに育まれてきた、その記録としての強度こそが本展の見どころの一つといえるでしょう。 ◎世界が再評価し始めた、東ドイツ写真 出品作家のひとり、ガブリエレ・シュテッツァーはドイツで最も栄誉とされる現代美術賞のひとつカイザーリンク賞を今年受賞し、ベルリンのグロピウス・バウで大規模な回顧展が始まりました。ヘルガ・パリスも昨年ベルリンの写真美術館・フォトグラフィスカで回顧展が開催されるなど、東ドイツ写真への国際的な関心はいま急速に高まっています。三本松氏も「東ドイツ写真の見直しは今すごく盛んで、写真を含めた地下出版物などについても研究や収集が進んでいる」と話してくれました。 エフェリン・リヒター《ロシア》制作年不明 Ⓒ Erbengemeinschaft Evelyn Richter. Courtesy Loock Galerie, Berlin 日本でのドイツ現代写真の紹介は、これまで西ドイツ出身の写真家が中心でした。本展はその空白を埋める、またとない機会といえそうです。 会期中には、来日する出品作家と写真家・石内都氏によるクロス・アーティストトーク(6月20日※終了)、写真とジェンダーを専門とする笠原美智子氏によるゲストトーク(7月11日)などの関連イベントもあります。 "もはやない国"で、発表を期待されることなく撮り続けられた写真たち。その静かな強度に、ぜひ会場で触れてみてください。 ----------------------------------------------------------------------------- 《展覧会情報》 『もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち』 会期:2026年6月13日(土)〜8月30日(日) 時間:午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)※休館日:月曜日(7月20日を除く) 会場:神奈川県立近代美術館 葉山(〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1) 料金:一般1,200円/20歳未満・学生1,050円/65歳以上600円/高校生100円 https://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2026-unprecedented-women-photographers-from-the-gdr/ 取材協力:神奈川県立近代美術館 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
マンガ連載~第56話~ 「百聞<一見<一体験」編
マンガ制作の大事なプロセスである「インプット」。ネットで画像や情報を探して済ませてしまっていませんか? もちろんそれも大事なのですが、間接的に資料を見るより、できれば何事も実際に「体験」することでもっと活きた知見を得ることができます。 「百聞は一見にしかず」ならぬ「一見は一体験にしかず」というお話を今回はお届けします。 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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おすすめ記事一覧青春の上に立つ。 ーーー憧れたカルチャーの中で働く。好きなものを追いかけ続けた先で見つけた、フォトグラファーという生き方。
高校生の頃、憧れのアーティストを観るために通っていたZepp。あの頃は客席から見上げていた場所に、今はフォトグラファーとして立っている。 友人から譲り受けた一台のカメラ。SNSに広がった写真。 学生時代に撮り続けていた仲間たちの活躍とともに、自分の仕事も少しずつ広がっていった。 「自分はラッキーマンなんです」 そう笑う新谷さんの言葉の裏には、好きなものを追いかけ、人との出会いを大切にしてきた時間がある。 今回は、音楽シーンを中心に活躍するフォトグラファー・新谷隼人さんに、これまでの歩みと、今もシャッターを切り続ける理由について話を聞いた。 好きだったものを撮り続けた先に、今がある ー現在のお仕事内容について教えてください。 現在はアーティスト写真やジャケット撮影、ライブ撮影、グッズのビジュアル撮影、ファッションブランドのEC撮影などをしています。仕事の約9割は音楽関係です。 [caption id="attachment_29323" align="alignnone" width="750"] Billyrrom 1st Album「WiND」(Photo by Hayato Niiya)[/caption] 専門学校時代の友人を通じて知り合ったバンドを2021年頃から撮り続けています。 [caption id="attachment_29324" align="alignnone" width="750"] Billyrrom Artist Photo(Photo by Hayato Niiya)[/caption] ここ1〜2年で、そのバンドをはじめ、自分が撮り続けてきたアーティストたちが注目されるようになって、自分自身の仕事も少しずつ広がってきました。好きだったものを撮り続けてきたことが、今につながっているんだと思います。 「なんか楽しそう」から始まった写真との出会い ー写真はいつから始められましたか? はじめてカメラを手にしたのはいつですか? 高校2年生の頃です。 通信制高校のサッカーコースに通っていて、小学1年生から続けてきたサッカーをやっていました。ただ、高校1年生の冬にはプレーヤーとして続けるイメージが持てなくなって、マネージャーになったんです。同じクラスにはサッカー以外の進路を考えている友達もいて、そのうちの一人がカメラにハマり始めました。その姿を見て、「なんか楽しそうだな」と思ったのが写真を始めたきっかけです。その友達から、オリンパスのカメラを譲ってもらって、本格的に撮影を始めました。その後、親にCanon EOS 80Dを買ってもらい、どんどん写真にのめり込んでいきました。 ーフォトグラファーを職業として意識したのはいつ頃ですか? 高校2年生の冬頃です。 当時はまだInstagramが今ほど普及していないような時代でしたが、自分が撮った写真を友達がSNSのアイコンに使ってくれたり、その写真を見た知らない人から撮影の依頼をいただいたりするようになりました。 「自分には才能があるのかもしれない」 そう思えた瞬間でした。 その頃からサッカーチームの試合や集合写真、クラブチームのホームページ用写真などの仕事も受けるようになりました。高校生のアルバイトよりも稼げたこともあって、「写真を仕事にできるんだ」という成功体験になりました。 海外への憧れが、進路先の決め手になった ー専門学校へ進学しようと思った理由を教えてください。 もともとは美大に進学したいと思っていました。でも出願時期を逃してしまっていて、浪人するか迷ったんです。そんな時に東京近辺にある写真の専門学校を何校か見学しました。僕は愛知県出身ですが、高校進学のタイミングで東京へ出てきました。中学時代はほとんど学校へ行っていなかったんですが、サッカーを続けたくて東京を選びました。高校時代から東京のファッションや音楽などのカルチャーに触れていて、専門学校を選ぶ決め手になったのは海外研修制度でした。 「海外へ行きたい」 その思いがすごく強かったんです。学校見学で教務課長の奥先生から海外研修について聞いて、「NPIに進学しよう」と決め、学校見学の翌日には願書を記入していました。 残念ながら、新型コロナの流行があり、海外研修には行けなかったのですが、現在、仕事で海外ツアーの撮影もよく入るので、1年の半分くらいは海外にいます。明日からチェコへ行く予定です。 [caption id="attachment_29320" align="alignnone" width="750"] Photo by Hayato Niiya[/caption] 音楽カルチャーが写真の原点 ー学生時代に影響を受けた写真家やクリエイターはいましたか? 写真家では奥山 由之さん、嶌村 吉祥丸さん、小見山 峻さんに影響を受けました。 実は写真だけではなくて、音楽から受けた影響もすごく大きいです。SuchmosやYogge New Waves、King Gnuなどの音楽をよく聴いていました。音楽だけではなく、その世界観をつくるファッションやグラフィック、アーティスト写真にも惹かれて、「この写真は誰が撮っているんだろう」と写真家を調べるようになりました。 写真だけじゃない。現場で学んだ「仕事」のこと ー学生時代に転機となった出来事はありますか? 『SHUKYU Magazine』との出会いです。高校生の頃、代官山 蔦屋書店によく通っていて、そこでロシアワールドカップ特集号を見つけました。 SHUKYU Magazine 12 FUN ISSUE サッカーの楽しみ方は一つではありません。プレーすること、観ること、着ること、読むこと、聴くこと、集めること、食べること、語ること…。そのどれもがサッカーの一部です。 12号目のテーマは「FUN」です。順次発売を開始しております。https://t.co/KpvWXddkp4 pic.twitter.com/SWVACa3hd2 — SHUKYU (@shukyumagazine) May 28, 2026 サッカー雑誌だと思って手に取ったら、試合写真が一枚も載っていなかったんです。代わりに載っていたのは、人や街、ファッション、カルチャーの写真ばかりでした。「サッカーをこんなふうに表現できるんだ」と衝撃を受けました。 当時はサッカーが好きだけれど、プレーヤーとして続ける未来は見えていませんでした。でも、サッカーを文化として伝える仕事があることを知って、「サッカーを別の形で表現する道もあるんだ」と感じたんです。 ちょうど求人が出ていたので、NPI1年生の冬休み明けからスタッフの一員として働き始めました。 ーSHUKYU Magazineでの経験は、現在のお仕事にもつながっていますか? すごくつながっています。撮影だけじゃなくて、商品の撮影やイベントの設営、物販、スタイリング、キャスティングなど、本当にいろいろなことを経験しました。一般的なスポーツメディアは試合や結果を伝えることが中心ですが、『SHUKYU Magazine』はその周りにあるカルチャーや人を大切にしていました。そこで学んだ「写真だけじゃ仕事は成り立たない」という考え方は、今でも自分の軸になっています。スタジオ勤務やカメラマンのアシスタント経験がないことにコンプレックスを感じていた時期もありましたが、今振り返ると、あの経験が自分にとってのアシスタント期間だったと思っています。 ー在学中にこれはやってよかった、逆にやっておけばよかった事はありますか? 写真集は本当にたくさん見た方がいいと思います。 新しいものを生み出すと言っても、過去の表現の積み重ねなんですよね。先生からも「写真集を読め。スクラップしろ」と言われていました。今になって、その意味がよく分かります。 ー学生のうちに身につけておいた方がいいことはありますか? 写真以外のことだと、例えば、確定申告やギャラ交渉、お金のこと。フリーランスになると、自分の仕事にどれくらい価値があるのかを自分で判断して、相手と話をしなければいけません。そういう知識は学生のうちに学べたらよかったなと思います。 遊びの延長線上に、仕事があった ーフォトグラファーという仕事の魅力を教えてください。 僕はずっと遊んでいる感覚なんです。 [caption id="attachment_29360" align="alignnone" width="750"] Photo by Hayato Niiya[/caption] もちろん仕事なので責任はあります。クライアントの要望に応えることや、いい写真を撮る責任もあります。でも、自分が好きだった音楽やカルチャー、人とのつながりの延長線上に今の仕事があります。 遊びの中で人と出会って、その出会いが仕事につながって、また新しい人とのつながりが生まれる。 [caption id="attachment_29361" align="alignnone" width="750"] Photo by Hayato Niiya[/caption] 振り返ると、自分は本当にラッキーマンだなと思います。 サッカーが好きじゃなかったら、『SHUKYU Magazine』にも出会っていなかったし、その経験が今の仕事につながることもなかったと思います。 ー10年後、どんなフォトグラファーになっていたいですか? レッドカーペットを歩いてみたいですね。 アーティスト、クリエイター、レコード会社スタッフ、コンサートプロモーター、音楽出版社、海外音楽賞審査員など、各分野の音楽関係者より構成される5,000名以上の投票メンバーにて厳正なる投票を行ない、受賞作品/アーティストを決定する音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」には、アルバムのデジタルのアートワークを評価する「最優秀アートワーク賞( in association with 日本グラフィックデザイン協会)」という賞があるんです。 ━━🏆 #MAJ2026 受賞速報 🏆━━ 最優秀アートワーク賞 in association with 日本グラフィックデザイン協会 ━━━━━━━━━━━━━━━ 平林奈緒美 / Martin Holtkampの 「怪獣 | サカナクション」に決定!#MUSICAWARDSJAPAN pic.twitter.com/i1EaE4XDMb — MUSIC AWARDS JAPAN公式 (@MAJ_CEIPA) June 13, 2026 そういう場所で、自分の仕事が認められるようなフォトグラファーになりたいです。 青春の上に立つ。 ー今、大切にしていることや、これから先も変わらず持ち続けたい想いはありますか? 韓国のバンド・HYUKOH(ヒョゴ)の「一生青春」という言葉がすごく好きなんです。 最近、その言葉の意味が自分の中ですごく腑に落ちていて。 高校生の頃、憧れのアーティストのライブを観るために通っていたZeppで、今はフォトグラファーとして撮影をしています。当時、「いつかここで写真を撮れたらいいな」と思っていた場所に、自分が仕事で立っている。不思議な感覚ですよね。しかも、憧れていたSuchmosのメンバーや、その周りで活動していたアーティストたちも、今では仕事を通して身近な存在になりました。 [caption id="attachment_29362" align="alignnone" width="750"] Photo by Hayato Niiya[/caption] ライブ会場へプライベートで遊びに行ったとき、自分が撮影やデザインに携わったライブグッズのナップサックを背負っているファンの子を見かけたことがあるんです。あれは本当にうれしかったですね。 [caption id="attachment_29328" align="alignnone" width="600"] 新谷さんが撮影した写真が使用されているグッズ[/caption] 高校生だった頃の僕が、憧れのアーティストのグッズを身につけてライブへ行っていたように、今度は誰かにとって、そのグッズが特別なものになっている。「今の高校生にとっての憧れ」が、自分の仕事とつながっているんだと思うと、すごく不思議な気持ちになります。だからこそ、高校生だった頃の自分に恥ずかしくない大人でいたい。 あの頃の自分が見ても、「かっこいいな」と思える生き方を続けていきたいんです。遊ぶことも、人と出会うことも、写真を撮ることも、全部つながっています。 だから僕は、これからも遊び続けながら、シャッターを切り続けたい。 ーもし学生時代の自分に声をかけるとしたら? 実は、あまり声はかけないかもしれません。後悔していることがほとんどないんです。もちろん、「授業はもっと出ておけばよかったな」とか、「写真集はもっと読んでおけばよかった」と思うことはあります(笑)。 でも、あの頃に好きだったもの、夢中になっていたこと、人との出会いがあったから今があります。 だから、「そのまま楽しんでこい」くらいですかね。 PROFILE photographer 新谷 隼人 2000年愛知県生まれ。 17歳の時に写真を撮り始め、日本芸術専門学校を卒業後、東京を拠点に主にファッション・音楽の分野で写真家として活動中。 取材/PicoN!編集部 市村 撮影/内山慎也 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
香りが導き、質感が語る。五感で体験する藤ちょこイラスト展『祝彩巡礼』展示レポート
繊細な色彩設計と、背景まで緻密に描き込まれた世界観が魅力の藤ちょこ先生。その作品群が一堂に会した展示「祝彩巡礼」が、東京・渋谷の西武渋谷モヴィーダ館にて開催され、先日その幕を閉じた。 個展「#祝彩巡礼」の開催が決定しました✨ 3rd画集収録作品を中心に描き下ろしやサイン会もあります!よろしくお願いします! 会期:2026/6/5~6/28 会場:西武渋谷店モヴィーダ館6F ▶ https://t.co/ZDxTNgxMOh pic.twitter.com/0LPcl7onUY — 藤ちょこ@個展6/5~ (@fuzichoco) April 10, 2026 本展示は、2025年に刊行された画集『祝彩巡礼』の発売を記念して企画されたものであり、単なるイラスト展示にとどまらず、「作品を体験する」というコンセプトのもと構成されている。 本稿では、現地での体験をもとに、展示空間の設計や作品の見せ方、そして特殊加工によって藤ちょこ作品がどのように“体験として拡張されていたか”について記録する。 《アーティスト情報》 ■藤ちょこ fuzichoco イラストレーター 透明感あふれる色彩と、圧倒的な情報量を誇る緻密な世界観で国内外から高い支持を集める。書籍やゲーム、トレーディングカード、VTuber関連など幅広い分野で活躍し、その幻想的で物語性豊かな作品は、多くのクリエイターにも影響を与え続けている。 胡蝶の夢 pic.twitter.com/ytpn4m57JZ — 藤ちょこ@個展6/5~ (@fuzichoco) February 23, 2025 喧騒を抜けて、世界の入り口へ 訪れたのは展示最終日だった。 前日に台風が通過したにもかかわらず、渋谷の街は変わらず人の流れに満ちていた。濡れた路面に光が反射し、都市の喧騒だけがいつも通りの速度で流れている。 会場となる西武渋谷モヴィーダ館は、無印良品が入るビルとして知られるが、その上階に広がる展示空間は、日常の延長線上にありながらも、どこか異なる静けさを持っていた。 時間まで待つようスタッフからアナウンスがあり、待機列は少しずつ進んでいく。入り口のモチーフや、最初に目に飛び込んでくる大迫力の一枚絵、展示タイトルが印字された壁面の横に添えられた直筆サインが視界に入り、まだ会場に入っていないはずなのに、すでに世界の入口に立っているような高揚感が生まれていた。 鮮やかな色彩と緻密な描き込み|藤ちょこ作品が愛される理由 多数のキャラクターデザインを手掛けたイラストレーターとしても有名な藤ちょこ先生ですが、作品の魅力は、緻密に設定された世界観に他ならない。建築物、植物、光、水、空気といった要素が等しく描き込まれ、それらが一枚の画面の中で有機的に結びつくことで、「ひとつの世界」として成立している。 [caption id="attachment_29242" align="aligncenter" width="750"] 藤ちょこ特殊印刷アート「祝彩巡礼」[/caption] そのため鑑賞者の視線は一点に留まらず、画面全体を巡りながら作品の中を歩くような感覚を得ることになる。 これは単なるイラスト鑑賞ではなく、“世界を読む体験”に近い。 香りから始まる没入体験|五感で切り替わる展示空間 会場に足を踏み入れた瞬間、まず感じたのは香りだった。 [caption id="attachment_29243" align="aligncenter" width="750"] 入り口を潜るとふわりと優美な香りが包み込んでくれる[/caption] 上品でありながら過剰ではない香りが空間全体に広がり、外の世界と展示空間の境界が明確に切り替わる。 イラスト展示において嗅覚までを設計に取り込む試みは多くない。本展は空間そのものを作品として成立させていた。 展示だからこそ体験できる、特殊加工が生み出す作品の魅力 SNSや画集を通して、藤ちょこ先生の作品に触れたことがある人も多いだろう。画面越しでも、その鮮やかな色彩や緻密な描き込み、幻想的な世界観は十分に伝わってくる。しかし、本展で作品を前にした瞬間、その考えは大きく覆された。本展では、複数の印刷会社による多彩な特殊加工が作品に施されており、光を受けて表情を変えるもの、見る角度によって印象が変化するもの、質感によって空気感や奥行きを際立たせるものなど、印刷そのものが表現の一部として機能していた。 [caption id="attachment_29261" align="aligncenter" width="562"] 藤ちょこオーロラポスター「さいはての空、彼方の教室」[/caption] スマートフォンやパソコンの画面では、イラストはそれぞれのデバイス環境や閲覧状況に左右されながら鑑賞される。一方、展示では、作品は物質として確かな存在感を持ち、同じイラストでありながら受け取る印象は大きく異なる。光の反射や素材の質感によって、画面越しでは感じ取れなかった空気や奥行きが作品に宿る。その変化は写真では決して再現しきれず、実際にその場に足を運び、一定の距離を保ちながら見つめることで初めて成立する体験だった。 そしてこのひと作品において特に印象的だったのは、アナログ着彩によって生まれる透明感と、その筆致そのものである。デジタルで構築されたイメージに対して、重ねられた色の層やにじみ、わずかな揺らぎが加わることで、画面では見えなかった質感が立ち上がってくる。 [caption id="attachment_29260" align="aligncenter" width="563"] 藤ちょこ自然紋「福の神」[/caption] 何より惹かれたのは、その筆さばきである。線の流れ、塗りの方向、絵の具の重なりといった“描く行為そのもの”が、そのまま作品の一部として残されている。それらは画面越しでは決して気づくことのできない情報であり、会場に足を運び、その作品と同じ距離で向き合うからこそ初めて見えてくるものだ。デジタル表現に施された加工とはまた異なる次元で、このアナログ着彩そのものが、このひと作品の“完成形”を成立させていた。そして何より重要なのは、この体験そのものが「現地に足を運んだからこそ成立している」という点である。画面越しでも作品は十分に鑑賞できる。しかし、光の揺らぎや素材の質感、筆致の細部といった情報は、実物と対峙したときにしか立ち上がらない。この作品が示していたのは、イラストは見る場所によって完成形が変わるという事実だった。だからこそ、展示という場に足を運ぶ意味がある。そこには、画面では得られない“もう一段階上の作品体験”が確かに存在していた。 特殊加工で作品は更に輝く イラストを描き上げたら、それで完成だと思っていないだろうか。もちろん、一枚のイラストとして完成させることは作品づくりの大きなゴールだ。しかし、その作品を「どう届けるか」まで考えたとき、表現の可能性はさらに大きく広がる。本展では、複数の印刷会社による多彩な特殊加工が作品に施されていた。箔を貼った作品は一層豪華な印象を受けた、時間の経過で変化する作品、見る角度によって印象が変わるもの、その表現は実にさまざまだ。 印象的だったのは、作品と額が複数のアクリルで制作された作品「水没都市」。 あらかじめ模様のついたカスミアクリルという素材に、青系グラデーションを印刷する事で水面をイメージしたアクリルフレームにしたとの事。(藤ちょこイラスト展「祝彩巡礼」パンフレットより引用) イラストを描く人にとって、作品は完成した瞬間がゴールではない。紙や素材を選び、印刷方法を選び、加工を選ぶ。その一つひとつの選択が、作品を「見るもの」から「体験するもの」へと拡張していく。もし、いつか自分の作品を展示する日が来たなら──。作品をどう飾るかだけでなく、「どう輝かせるか」という視点も、ぜひ持ってほしい。 鏡になる作品|鑑賞者が作品へ取り込まれる体験 筆者が本展で一番衝撃を受けたのは、入口すぐに展示されていた作品「胡蝶の夢」である。 額装の中にはキャラクターが描かれているが、角度や時間の経過によってその姿は消え、鏡へと変化する仕掛けになっていた。 [caption id="attachment_29245" align="aligncenter" width="563"] 藤ちょこチェンジングプリント「胡蝶の夢」[/caption] [caption id="attachment_29246" align="aligncenter" width="563"] 時間が経過すると、キャラクターが消え、ミラーに変化する。[/caption] そこに映るのは作品の続きではなく、自分自身の姿である。 この瞬間、鑑賞者は「見る側」から「作品の中にいる側」へと立場を変えることになる。 イラストと鑑賞者の境界が曖昧になる、非常に象徴的な体験だった。 触覚によるイラストの拡張 さらに本展では、刺繍によって表現された作品にも触れることができた。 イラスト展示において作品に触れることができる機会は極めて少ない。 しかし本展では、触覚を通じて作品を理解するという新しい鑑賞方法が提示されていた。 糸の立体感や質感は、視覚だけでは伝わらない情報を補完し、作品世界の解像度をさらに高めていた。 画集『祝彩巡礼』|展示体験の“種明かし” 展示を見終えたあと、グッズ販売エリアで藤ちょこイラスト展「祝彩巡礼」パンフレットを手に取った。 このパンフレットは単なる展示作品が羅列された画集ではなく、特殊加工や制作工程に関する解説を含んだ構成となっている。 展示で感じた「なぜこの表現なのか」という疑問が、ページをめくるごとに言語化されていく。 展示体験の延長線上に“理解”が用意されている構造であり、作品への理解が一段階深まる内容だった。 イラストは“体験”へと拡張できる イラストは本来、視覚によって鑑賞されるものだ。 しかし『祝彩巡礼』は、その前提そのものを静かに拡張していた。 香りによって世界へ導かれ、特殊加工によって視覚体験が変化し、刺繍によって触覚へと広がり、鏡の仕掛けによって鑑賞者自身が作品へと取り込まれる。 そのすべてが連続したひとつの体験として設計されていた。 そして何より印象的だったのは、この展示が「イラストはどこまで拡張できるのか」という問いを提示していたことである。 イラストは、描いた瞬間が完成ではない。 紙、印刷、加工、空間。 それらの選択によって、作品はさらに豊かな体験へと育っていく。 『祝彩巡礼』は、美しいイラストを鑑賞する展示であると同時に、「作品はここまで体験へ拡張できる」という可能性を示してくれる展示だった。 だからこそ私は、この展示をイラストが好きな人だけでなく、これから作品を生み出すすべてのクリエイターに届けたい。 あなたの作品も、きっと“体験”へ拡張できる。 『藤ちょこイラスト展 -祝彩巡礼-』は既に終了しています。 《展覧会情報》 『藤ちょこイラスト展 -祝彩巡礼-』 ⽇程:2026年6月5日(金) 〜 6月28日(日) 時間:11:00 〜 20:00(最終入場19:30) 会場:西武渋谷店モヴィーダ館 6F 料⾦:入場券:1,000円(税込) 取材・撮影/PicoN!編集部 市村 [clink url="https://picon.fun/design/20260612/"] [clink url="https://picon.fun/design/20211004/"] [clink url="https://picon.fun/illustration/20240115/"] ↓PicoN!アプリインストールはこちら
お気に入りの一匹を探そう。『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』展ではじめる浮世絵入門
浮世絵にはさまざまな動物や妖怪が登場する。ペットとして親しまれたネコやイヌ、不気味な姿で人々を恐れさせた鬼や土蜘蛛。さらには、擬人化された動物たちや、思わず笑みがこぼれるユーモラスなキャラクターまで、その表現は実に多彩だ。 太田記念美術館で開催中の「アニマル&モンスター」展では、「かわいい」「怖い」「ちょっと変」をキーワードに、浮世絵に描かれた個性豊かな動物や怪物たちを紹介。人気作品から新収蔵品として初公開される作品まで、約140点が展示されている。 今回は内覧会に参加し、浮世絵初心者でも楽しめる本展の魅力を、PicoN!学生編集部とともにレポートする。 原宿の太田記念美術館では明日6/23(火)より「アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変」を開催いたします。前後期合わせて140点(前後期で全点展示替え)を展示。人気の作品から初出品の作品までお楽しみいただけます。詳しくは→https://t.co/A6pe89Spos pic.twitter.com/GxUZLHyzRg — 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) June 22, 2026 原宿の喧騒の先に佇む、浮世絵の時間 JR原宿駅の表参道口を出ると、多くの人々が行き交う原宿らしい賑わいが広がる。流行のショップには若者たちが集い、修学旅行で来たと思われる高校生や、国内外から訪れた観光客の姿も目立つ。次々と新しいトレンドが生まれるこの街は、今なおさまざまなカルチャーを発信し続ける場所のひとつだ。 そんな活気に満ちた駅前から数分歩き、表参道沿いの喧騒を離れて路地へ入ると、街の空気は少しずつ穏やかさを帯びていく。その先に静かに佇むのが太田記念美術館である。 1980年に開館した太田記念美術館は、東邦生命保険相互会社社長を務めた五代太田清藏が蒐集した浮世絵コレクションを基礎として設立された、国内でも数少ない浮世絵専門の美術館だ。現在は約15,000点のコレクションを有し、葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳をはじめ、浮世絵の歴史を彩る数々の名品を所蔵している。 館内では収蔵作品を中心に多彩な企画展が開催されており、風景画や美人画、役者絵といった王道のテーマはもちろん、現代的な視点を取り入れたユニークな切り口の展示も人気を集めている。専門性の高い内容を扱いながらも、浮世絵に馴染みのない来館者でも楽しめる展示づくりが同館の大きな魅力だ。 現代カルチャーの発信地である原宿の一角で、江戸の人々が親しんだ大衆文化に触れる。時代こそ異なるものの、「流行」や「表現」を楽しむ人々の姿は今も昔も変わらない。そんな思いを胸に、今回の展示会場へと足を踏み入れた。 かわいい、怖い、ちょっと変。浮世絵のアニマル&モンスター大集合 浮世絵と聞いて、どんな作品を思い浮かべるだろうか。 葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》や歌川広重の名所絵など、有名な作品の名前は知っていても、「なんだか難しそう」「美術の知識がないと楽しめない」と感じている人も少なくないかもしれない。 そんな人にこそおすすめしたいのが、太田記念美術館で開催されている『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』展だ。 本展の主役は、猫や狐、蛙といった動物たち、そして妖怪や鬼、龍などの怪物たち。浮世絵の中に描かれた個性豊かなキャラクターたちにスポットを当てた展覧会である。 会場を歩いていると、思わず笑ってしまうような表情の猫や、どこか人間らしい仕草を見せる動物たち、迫力満点の妖怪たちが次々と現れる。作品ごとに異なる物語やユーモアが込められており、浮世絵の知識がなくても自然と引き込まれていく。 可愛さあふれる動物や妖怪たち PicoN!学生編集部:今回の展覧会テーマは、「動物と妖怪」。学芸員の方は、可愛い・怖いだけでなく、ユーモラスに描かれている作品を多く集めたと語っていました。 個人的に好きだったのは、歌川芳虎の『神功皇后三韓征伐之御時韓兵計飢虎追放官軍猛禽投撃亦生捕帝覧備(じんぐうこうごうさんかんせいばつのおんときかんひょうはかってうえたる とらをはなつ かんぐんもうきんをなげうちまたはいけどりてていらんにそなふ)』という作品です。 [caption id="attachment_29198" align="aligncenter" width="750"] 歌川芳虎「神功皇后三韓征伐之御時韓兵計飢虎追放官軍猛禽投撃亦生捕帝覧備」[/caption] 多くの虎たちと兵が戦っているという殺伐とした場面を描いた武者絵のはずですが、大きな虎たちのもふもふしたお腹や肉球など、まるで猫を連想させるような可愛らしいポーズとのギャップが新鮮でした。ぜひ実際に足を運んで、虎たちの愛らしい「にこげ(柔らかい毛)」の質感を感じてみてほしいです。 擬人化された「人まねアニマル」 PicoN!学生編集部:浮世絵では、ネコやウサギ、タコといった動物たち、さらにはホオズキやカボチャのような植物までもが、まるで人間のような姿かたちに大変身しています。 [caption id="attachment_29153" align="aligncenter" width="750"] 歌川国芳「ほふづきづくし 八そふとび」[/caption] なかでもネコは蕎麦屋やウナギ屋、 銭湯など、さまざまなお店でくつろいでいる姿がたくさん描かれています。 この章では、様々な動物が擬人化されて描かれている浮世絵を見ることができます。 歌川芳藤の「しん板猫のあきんどづくし」では、猫たちが人間さながらの姿になって、町でさまざまな商品を売り歩いています。 [caption id="attachment_29201" align="aligncenter" width="750"] 歌川芳藤『しん板猫のあきんどづくし』[/caption] 特に、シャボン玉売りに走り寄っていく子供の猫たちの姿は、可愛らしくて印象的でした。 小さな画面の中にたくさんの猫たちが描かれているので、よーく目を凝らしてみると新しい発見があったりします。ぜひ、お気に入りの一匹を見つけてみてください。 思わず「これなに?」と言いたくなる「ちょっと変」なキャラクター 浮世絵に描かれるのは誰もが知る動物や妖怪ばかりではありません。石から虎の手足と尻尾が生えた空想上の生き物である「虎子石」や、人間の顔をした人面魚、十二支が一つに合体した動物、 さらには、病気や薬、お金が人間の姿になったものなど、ヘンテコで不可解なキャラクターたちがさまざまに登場する。 [caption id="attachment_29157" align="aligncenter" width="519"] 落合芳幾「見立似たかきん魚」(前期)[/caption] 浮世絵師たちの豊かなイマジネーションが満載。 約5分の1が新収蔵品 太田記念美術館ではこれまで「浮世絵お化け屋敷」や「江戸にゃんこ 浮世絵ネコづくし」、「浮世絵動物園」など、動物や妖怪をテーマに展覧会を開催してきた。今回の展覧会では、これまで人気の高かった作品はもちろん、まだ紹介していない初お披露目の作品も多数展示されている。 [caption id="attachment_29158" align="aligncenter" width="504"] 歌川国芳「木曽街道六十九次之内 京都 鵺 大尾」※新収蔵品[/caption] PicoN!学生編集部:「浮世絵」と聞くと少し難しそうなイメージがあり、あまり興味が湧かない学生も多いかと思います。しかし、カラフルで賑やかな錦絵には、現代の私たちにも通じるユーモアがたくさん散りばめられていました。今のアニメやゲーム作品でお馴染みの「擬人化」の手法や、イラスト・グラフィックデザインの参考になる秀逸な構図など、クリエイティブを学ぶ学生にとって刺激になる要素が盛りだくさんです。展示会場はコンパクトな造りで、気軽に鑑賞できるのも魅力です。しかし、一枚一枚の浮世絵に目を向けると、愛らしい動物やどこか憎めない妖怪など、個性豊かなキャラクターたちが画面のあちこちに描き込まれています。細部までじっくり眺めながらお気に入りの一匹、一体を探していると、気がつけば時間を忘れて見入ってしまいました。前期と後期で全点展示替えが予定されている本展覧会。後期にはどのような作品が並ぶのか、今からとても楽しみです。 『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』は8月23日(日)まで 《展覧会情報》 『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』 ⽇程:2026年6月23日(火)~8月23日(日)前期 6月23日(火)~7月20日(月・祝)後期 7月25日(土)~8月23日(日)※前後期で全点展示替え 時間:午前10時30分 ~ 午後5時30分(入館5時まで) 会場:太田記念美術館(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10) 料⾦:一般 1200円 大高生 800円 中学生(15歳)以下無料 取材協力:太田記念美術館 取材/PicoN!学生編集部 中澤 撮影/PicoN!編集部 市村 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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