
暑さを忘れるダウンテンポ・カバー曲特集 – クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.43〉
おはようございます。こんにちは。こんばんは。9月9日現在、8月の熱気ががっつり居座っておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか?
今年の気候に関して日本の気象庁は「観測史上もっとも暑い夏」を正式に記録。平均気温の偏差は+2.36℃まで跳ね上がったそうです。しかも記録的猛暑の余韻を抱えたまま、列島は上陸数が多い9月の台風期へと季節は移ります。
暑さの記録更新が、私たちに“夏の終わり”の節目を曖昧にする。こんな年の「夏の終わり」は夏でなくなったことを区切るのではなく、暑さを感じつつもダウンテンポで心拍を落としてくれるロックステディ/ラバーズロックでも聴いて沁み入ることで、心象風景だけでも秋にするしかない。
ということで先月の記事と記事構成も推薦ジャンルも変わらず、またしてもコピー曲たちを紹介いたします(同じ事をやりたくなるくらい暑さにうんざりしていて音楽に救いを求めるしかないんですよ……)。ただし今回は特定の曲というよりも、あらゆる楽曲をロックステディ/ラバーズロック化するのが得意な(つまり心象風景の夏を終わらせてくれる)レコードレーベルとその所属アーティストをご紹介。
そのレーベルは日本のインディペンデントな現場で10年以上鳴らし続け、多摩ニュータウンを拠点とするPARKTONE RECORDSです。
PARKTONEに通底する手触り
PARKTONEを語る上で欠かせないのは、彼らが7インチ・アナログの制作と直販を徹底しており、 “何枚買っても1カート300円” というミニマムな物流哲学まで含めたパッケージから届け方までに、一つの美学が通底している点。
またロックステディ/レゲエ/ダブの語法で、邦楽・洋楽の名曲に “いま” の呼吸を吹き込んできた。7インチには毎回ダウンロードコードも封入。フィジカルの手触りとデジタルの利便を、肩の力の抜けたやり方で両立させている。選曲のレンジは広いが、刻む歩幅は一貫している。それはレーベルの大抵の作品に関わり、音の方向性を決定づける所属アーティストの井の頭レンジャーズによる所が大きい。
鍵盤奏者・高木壮太を中心に結成されたロックステディ/レゲエ・バンド”はどの作品にも音の芯に常にジャマイカン・グルーヴが走る。またモノラル録音/ミックス/マスタリングを志向した作品が多く、アナログ的な芯の太さと可聴帯域の整理が渋い。
名曲は時代を超えるが、その“鳴らし方”は時代とともに変わる。PARKTONEは、過去のヒットを消費財としてではなく、上述した通底するこだわりにより現在の気分に合ったテンポと音像で再提示する。
“夏の終わりの気分”という普遍的な瞬間に、確実に差し込んでくる所以だろう。
ソフィア真奈里という声
このPARKTONEレーベルにおいて夏の終わりにこそ聴きたくなる声がある(と偉そうに書いたが最近知りました)。それは日本とコロンビアのルーツを持ち、東京都小平市で生まれたソフィア真奈里だ。
ソフィアは10代後半から音楽活動を始め、のちに井の頭レンジャーズと出会い、レーベルの“歌の顔”の一人になっていく。ディスコグラフィー上のプロフィールでも “Japanese-Colombian singer” と記され、本人サイトでも生年・出身を明記。ミドル〜ロウに気怠さを残すハスキー、子音の抜けが良いピッチ、そして微笑むようなヴィブラート——その声はPARKTONEの「夏の残り香」ともっとも相性がいい。
音楽的なジャンルは明解で歌謡/シティポップの名旋律に、レゲエやロックステディのリズムを接続する。PARKTONEにおけるファムファタルのよう!
言葉にすればそれだけだが、歌が “無理をしていない” 音数を減らし、ダブ的に空白を置く編曲の中で、ソフィアの母音がふわりと伸びる。その“間”が、夏の終わりの湿り気と驚くほど噛み合う。そして生活感を感じさせる安心感があるのが不思議。
作品で辿る、夏の終わりの聴き方
ここからは、ソフィア真奈里が関わった7インチを中心に、終夏の情景とともにいくつかピックアップいたします。興味ある方はPARKTONEのオンライン直営や全国の取扱店で!
「ラブスコール / プラスティックラブ」
井の頭レンジャーズが十八番とするアニメ〜シティポップの名旋律と、夜更けの都会の湿度を片面ずつに落とし込んだ一枚。再発で手に取りやすくなったのも嬉しい。
「悲しみが止まらない / Sunday Morning」
杏里の名曲とヴェルヴェット・アンダーグラウンドの朝靄。モノラル仕立てのロックステディは、輪郭をやや丸め、感傷のエッジをやさしく包む。休日の午前、陽の角度が少しだけ秋めいたタイミングに是非。
ソフィア真奈里と井の頭レンジャーズ – 悲しみが止まらない / Sunday Morning (Digest)
「First Love / It’s For Real」
宇多田ヒカルの “不朽のバラード” を、軽快で涼やかなロックステディに翻訳した異色作。B面はドナ・サマーの“It’s For Real”。A面に残る初恋の湿度と、B面の足取りの軽さ。この両義性こそ、夏の終わりぽくないですか?
First Love /This Time I Know It’s For Real
「ギブス / 渚のバルコニー」
椎名林檎と松田聖子。選曲のスリルはそのままに、「誰のカヴァー?」と質問が殺到するほどDJユースなロックステディな仕上がり。
BPMは上げすぎず、でもちゃんと身体は揺れる。海風で髪が塩っぽくなりながら聴きたい一枚。
ギブス / 渚のバルコニー – ソフィア真奈里 & 井の頭レンジャーズ
「喝采 / マイ・ウェイ」
ちあきなおみの絶唱と、あの “マイ・ウェイ” を日本語詞で! レゲエのグルーヴに乗るソフィアの熱唱は、センチメンタルの手前で踏みとどまるクールさを保つ。カラオケ用トラックつきという遊び心も最高。
喝采 / マイ・ウェイ – ソフィア真奈里と井の頭レンジャーズ
「木綿のハンカチーフ / 恋におちて」
リクエストNo.1曲の待望リリース。数々の“夏の終わり歌”の系譜ど真ん中に、直球の疾走レゲエで切り込む新作。あの湿度のない秋晴れの日が、早く来い……。
ソフィア真奈里と井の頭レンジャーズ – 悲しみが止まらない / Sunday Morning (Digest)
終わりに——“季節の残照”を音で記録する
歴史的な猛暑を更新した夏のあと、私たちは少しずつ“普通の体温”を取り戻していく。けれど、気候危機の足音も、9月の台風の接近リスクも、もう遠い出来事ではない。
そんな時代の「夏の終わり」に、PARKTONEの7インチは、生活の音量のまま、ささやかに現実をやわらげる。ソフィア真奈里の声があなたの部屋の湿度にふっと合う瞬間をぜひ確かめてみてほしい。
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