手にとって触れることのできる、物質としての『印刷物』の楽しさ〈日本写真芸術専門学校パンフレットデザイン〉
普段はブックデザイン、パンフレットデザイン等、主に紙を使った印刷物を中心としたグラフィックデザインをしていますグラフィックデザイナーの武田と申します。SOUVENIR DESIGN というデザイン事務所を主宰しています。
今回は、デザインを担当している日本写真芸術専門学校のパンフレットデザインについて、どのようなコンセプトで制作しているのかをお話ししていきます。
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デザインのコンセプト
日本写真芸術専門学校の学校案内のパンフレットデザインは、リニューアルをした2020年度募集版からデザインを担当しています。リニューアル時のコンセプトは、パンフレットを見る高校生や入学を検討している人が、手に取りたい・持って帰りたくなるようなもの、そして明るく前向きな気持ちになれるものを作るということをテーマにしました。
学校の内容は正確に伝えつつも、「この学校を見てみたい」「この学校に行ってみたい」と興味を持ってもらうことが大切だと考えました。
また、表紙と本文の用紙については、物としての存在感のある風合いのある紙を選ぶことで、「手にとってもらいたい」「持っていたい」写真集のような存在になるようにイメージしました。
表紙のデザイン
2020年度・2021年度募集版は、フジモリメグミさんの写真を活かした写真と文字のシンプルな構成にしています。
2022年度募集版は、女鹿成二さんの写真のまわりに白い枠を作り背景にグレーを敷いて、作品としての写真をより強調する方向性にしています。
2023年度募集版は、2022年度募集版と同じく女鹿成二さんの写真とともにグラフィック要素をプラスすることで、写真の見え方の広がりを意識したデザインにしています。
2023年度募集版表紙のラフデザイン
2023年度募集版の表紙のデザインについて、完成までのプロセスについてもご紹介します。最初にコンセプトを決めた後に4つのデザイン案を提案しました。
提案した4案の中で、一番右上の案がよいということになり進行することになりました。
フォントやあしらいを工夫して新しい印象をつくる
本文のデザインも毎年、見え方が新しくなるようにしています。フォント(書体)やデザインの要素を変えることで毎年印象が新しく見えるようにしています。
(上)2021年度募集版(下)2022年度募集版のカリキュラム導入部分。グラデーションや枠線を使ってイメージを変えています。
(上)2021年度募集版(下)2022年度募集版の総合写真研究ゼミページ。背景に薄い四角形を敷いたり罫線の使い方を工夫しています。
途中のページの紙とサイズを変えてひと工夫を施す
所有したい仕掛けとして、2020・2021年度募集版は、ゼミの講師と学生との対談ページと、学生・卒業生の学生生活の様子を紹介するPHOTO LIFEのページを、本体の誌面サイズよりも左右の幅が少し小さいページにして、他のページとの差別化をしています。用紙も本文よりもざらっとした軽い紙に変えて、誌面構成に遊びを入れています。
取り外し可能なインタビュー冊子「BRIGHT」について
2022年度募集版からは、ベテランから若手までいろんなジャンルの写真家のこれから写真に取り組む人に向けてのメッセージを収録した、「BRIGHT」とという名前の、パンフレットからとりはずし可能な冊子をとじ込みました。
「BRIGHT」のデザインは、余白を活かした写真と文字のみのシンプルな構成にして本体のデザインと見せ方を差別化しています。
また前後のページネーションによって印象は変わってくるので、それぞれの写真家の作品の特徴がより生きるように点数や配置等も工夫しています。
用紙についても、パンフレット本体の風合いのある紙とは変えて、つるっとした写真の表現性の高い高級マットコート紙を使用して写真の強さと美しさを見せることで本文と差別化しています。
印刷物の物質感
実際に手にとって見ることができるのが紙のパンフレットの強みの一つであると思っています。そのために、紙の質感等を感じてもらえるように2つの種類の紙を使ったり、サイズを変えたり、綴じ込みの冊子を入れたりというような物を意識してもらえるような工夫をするようにしています。
武田厚志(SOUVENIR DESIGN INC.)
アートディレクター/グラフィックデザイナー東京造形大学卒業後、サイトウマコトデザイン室を経て、独立。書籍・雑誌などのブックデザインやパッケージデザイン、パンフレット、ロゴのデザインを含めた企業のブランディングなど、グラフィックデザインを軸に活動している。
https://www.souvenirdesign.com