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理想の椅子は “一塁手ミット” ? SPY×FAMILY8巻表紙「イームズラウンジチェア」を深堀り!

漫画『SPYxFAMILY』単行本表紙に描かれた名作椅子についてご紹介する企画。第3回目となる本記事で、惜しくも最終回となりました。

最後にご紹介するのは、第8巻の表紙に描かれている「イームズラウンジチェア。大トリに相応しく、巨匠チャールズ&レイ・イームズ夫妻がデザインした名作です。

SPY×FAMILY8巻表紙

『SPY×FAMILY』8巻表紙の椅子「イームズラウンジチェア」。 チャールズ&レイ・イームズ夫妻作

駅のホームの「あの椅子」、元ネタはイームズだった

アメリカンミッドセンチュリー(※1)を代表する巨匠、チャールズ&レイ・イームズ。成形合板やFRPなど当時のあらゆる最新技術や新素材を巧みにデザインに落とし込み、いくつもの名作椅子を世に送り出してきました。

※編集者注)アメリカンミッドセンチュリー……1950年代にアメリカで生まれたデザインの潮流。「機能的でシンプルなデザイン」「プラスチックなど近未来的雰囲気の素材の使用」などが特徴(参考:小学館『デジタル大辞泉』)。

イームズといえば、背と座が一体成型の「イームズシェルチェアが有名です。これは1950年、チャールズ・イームズがハーマンミラー社から発売した椅子。よく駅のホームやバス停でも、このイームズシェルチェアに似たフォルムのFRP(繊維強化プラスチック)製ベンチを見かけますよね(下写真)。

駅のホームによくある “あの椅子” (シェルチェア風ベンチ)

実はこれ、イームズのシェルチェアに、日本を代表するインテリアデザイナー・剣持勇が影響を受けたもの。国内企業と協力して製造を始めるや、その耐久性の高さから、公共用の椅子やベンチに採用されるようになりました。

今もなおさまざまな場所で、ジャパナイズされたシェルチェアを見ることができます。駅のホームで古びた青いシェルチェアを見るたびに、当時の日本人が西洋の最新技術を取り入れようとした情熱が感じられ、どこかノスタルジックな気分になります。

イームズ最初のヒット作は、負傷兵用の「添え木」

さて、話を本題のイームズラウンジチェアに戻しましょう。

イームズは1940年、ニューヨーク現代美術館が主催したデザインコンペ「Organic Design in Home Furnishing」に、友人のフィンランド人デザイナー、エーロ・サーリネンと共に出展しました。このコンペでは、当時の成形合板技術を自らアップデートした三次元立体成形技術を使用。座面・背もたれ・ひじかけがシームレスにつながった椅子や家具を出展し、複数の部門で優勝しました。

その後もイームズは合板用の成形装置や様々な発明を生み出しましたが、当時のアメリカは第二次世界大戦の真っ最中。政府や軍は戦争を有利に進めるために、軍事転用できる新技術を求めていました

そこでイームズの三次元成形技術が注目され、負傷兵のケガを固定する「添え木」に活用されました。この添え木は、イームズにとって初めてとなる量産向け商品のデザイン。驚くべきことに15万本以上が生産・販売されたんですよ。

目指したのは「一塁手ミット」の包み心地

戦争が終わると、イームズは添え木の製造経験を人々の生活に役立てることに。10年の歳月をかけて、本記事のテーマである「イームズラウンジチェア」を完成させました。

このチェアは、立体成形合板のシェル、レザークッション、アルミダイキャスト製の脚部から構成されているもの。複数の難しい素材を使用しながらも、それぞれの特性を見極めて、見事ひとつのチェアに組み合わせることに成功しています

とはいえ当時、イームズラウンジチェアは世間に受け入れられなかったと言います。デザインが奇抜でしたし、立体成形合板もまだ新しい技術でしたから。

それでも、開発者イームズが込めた思いである「よく使い込まれた一塁手のミットのような温かく包み込む感じ」が徐々に浸透。今では世界中で愛されるロングセラー商品となっています。

最近では “リプロダクト製品” と称した、イームズチェアのコピー品も多く見かけるようになりました。しかしハーマン・ミラー社製の正規品と比べると、違いは歴然。座り心地に至っては当然、圧倒的な違いがあります。職人が一点ずつ丁寧に作っているクラフトマンシップが随所に見られるんです。

読者のみなさんも、きっとどこかでイームズラウンジチェアに出会う機会があると思います。その際はぜひ、レザーのクッションにゆったり体を預け、匠の技を五感で感じてみてはいかがでしょうか。

岩元 航大
鹿児島県生まれ。2009年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科入学後、デザインプロジェクト「Design Soil」に在籍し、イタリアのミラノ・サローネやフィンランドのハビターレ等、海外の展示会に多数参加。
卒業後、スイスのローザンヌに移り、Ecole cantonale d’art de Lausanne(ECAL)のMaster in Product Designに進学。
卒業後、東京を拠点に国内外の企業と製品活動を進めつつ、精力的に作品制作を行なっている。

関連HP
プロダクトデザイン | 岩元航大デザイン事務所 / Kodai Iwamoto Design (kohdaiiwamoto.com)
Home | Studio Hakkotai | 東京都 (studio-hakkotai.com)
DesignSoil

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