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藤ちょこ先生イラストメイキング講座レポート—プロのイラストレーターからテクニックとキャリアを学ぼう

本校が主催する人気イベントのひとつ、イラストメイキング講座。2025年3月22日(土)に開催された講座に、国内外で活躍するイラストレーター・藤ちょこ先生が登壇されました!

藤ちょこ先生は、ライトノベルの挿絵やカードゲームのイラストをはじめ、様々なジャンルで活躍。たとえば近年では、ゲーム『アズールレーン クロスウェーブ』のキャラクター「駿河」のデザイン、ライトノベル『八男って、それはないでしょう!』挿絵なども手がけました。

また、日本に留まらず海外でも作品を展示し、関連イベントでライブペイントも行うなど、幅広く活動中です。

この記事では、着彩をメインとしたイラストメイキングの制作プロセスを、藤ちょこ先生のポイント解説を交えて詳しくご紹介します。

テクニックを磨くためには、どんなことをしたらいいの?
どうやったらプロのイラストレーターになれるの?

など、イラストレーターを目指す方が知りたい情報も満載です。

藤ちょこ先生の作品が完成していく過程を体感しながら、プロの視点や技術に触れてみてくださいね。

取材・文/浜田夏実

ライブで学ぶ 藤ちょこ先生の着彩テクニック

この講座はオープンキャンパスのイベントのひとつで、本校の志望者を含む20名以上の方来場されました。

登壇されたのは、藤ちょこ先生と、株式会社ピージーエヌの柳澤さんのお二人。

株式会社ピージーエヌは、ペイントツールFireAlpacaの開発や運営、ライブペインティングのイベント企画、さらにはクリエイターの支援も行っている企業です。

会場の正面に映像が投影され、参加者はイラスト制作の実演をライブで学ぶことができます。ペイントツールFireAlpacaの画面と先生の手元の映像を並行して見られるので、先生がどの部分をどんな方法で描いているのかよく分かります。

今回は1時間30分ほどで作品を完成させるため、予め用意したラフの上に色を塗り、仕上げながら線画も整えていきます。

普段はラフの後に線画を描いて、そこから塗りの作業に入ることが多いです。手順はいつもと同じように進めていきます」と先生が説明しました。

キャラクターやモチーフに影の色を着彩した状態

イラストを見ると、額縁以外は一色で着彩されていることに気づきます。影を同じ色にすると、作品に統一感が出るそうです。

最初に塗り始めたのは、キャラクターの顔の部分。「キャラクターイラストでは、キャラクターの表情が一番大事なので、顔まわりから描いていきます」。

先生は、顔をある程度描いてから他の部分に移るそうです。また、目などのパーツをレイヤーで分ける方法はあまり使わないと話していました。

全体に影を付けている様子

少女の目をライトブルーで塗った後、少し灰色がかった寒色で全体に影を付けていきます。
「固有色ではなく、まずは全体の陰影をつけておくと、立体感がつかみやすくなります。この後、色を塗る時のガイドにもなりますよ」と藤ちょこ先生。

先生は、色を混ぜる時に黒やグレーは極力使わず、ある程度色味の入った色を選んでいるそう。

絵柄によっては、重厚感を出すためにモノトーンを入れるのが有効な場合もあります。私は水彩画のような仕上がりにしたいので、濁らないように少し色味のあるカラーを使っています」と説明しました。

背景の花を虹色のグラデーションで塗っている様子

キャラクターの髪の色や陰影を付けたら、背景を塗っていきます。
少女の背後にあるのは、額縁からこぼれんばかりの花々。カラフルな花束をイメージしているそうです。
虹色のグラデーションにするため、ベースカラーを入れます。

ここまでの工程で印象的だったのは、藤ちょこ先生が全体のイメージを少しずつ作っている点です。

「キャラクターの着彩が途中でもOKで、背景にベースカラーを入れたり、再びキャラクターに戻ったりしながら、全体を把握していきます」と解説。

頑張って細かく描いたのに、画面全体を表示して確認したらイマイチだった……ということは誰しも経験があるでしょう。

先生は、ナビゲーターで常に全体を表示したり、サムネイルのサイズに縮小したりして、全体のイメージを確認していました。

背景の花をさらに描き込み、質感まで見事に表現

解説に聞き入っているうちに、あっという間に背景が仕上がっていきます。

色の鮮やかさだけでなく、花の質感まで見事に表現されています。筆のタッチを残すと質感が出るそうです。先生は、美術館で見た絵画の筆跡を思い出しながら着彩して、質感を出していると言います。

キャラクターの髪や服、額縁の凹凸などを細かく描き込んでいる様子

イラストが完成に近づいてきましたが、藤ちょこ先生はさらに手を加えていきます。

「ラフに色を塗ったので、ざっくりした部分がまだ残っています。これから細部を描き込んでいきます」と説明。

驚いたのは、先生がキャラクターの髪や服を描き込む際に、イラストを反転させていたことです。

左右が逆になってもまったく違和感がなく、「左右反転して描くとバランスが整います」という先生のお話に納得しました。見え方が変わると、直すポイントも分かると言います。

そして、額縁の部分も立体的に仕上がってきました。先生によると、「黒や暗い色よりも、黄土色を使ったほうが金属っぽさが出ます」とのこと。陰影をはっきりさせるのも、金属のモチーフを描く時のポイントです。

すでに完成しているように見えますが、遠近感を表現するなど、最後までこだわって仕上げていきます

いよいよ、仕上げの段階へ。額縁の左下にブルーのエアブラシで色を付けたり、全体の陰影を調整したりと、細部に手を入れて遠近感を表現します。

エアブラシで着彩する時は、レイヤーのモードを「焼き込み」に変更し、透明度を下げて薄くするというテクニックも披露。

これは、空気遠近法と言って、奥にあるモチーフの彩度を下げたり、薄いフィルターをかけたりすることで遠近感を生み出す手法です。先生が用いるテクニックのひとつでもあります。

イラストにサインを入れて完成

そして、ついに作品が完成!透き通るような色彩やキャラクターの立体感など、藤ちょこ先生の魅力が詰まったイラストが誕生しました。
講座の最後には、参加者から大きな拍手が沸き起こりました。

「見てもらう」意識を持ってスキルアップ

ライブペインティングを通して、いくつものテクニックを教えてくださった藤ちょこ先生。

メイキングを真剣に見ていた参加者からは、先生の表現方法について、多くの質問が寄せられました。

さらに、先生がプロのイラストレーターとしてデビューするまでのお話を聞きたいという声も。

ここでは、質問への回答を中心に、先生の技術やキャリアについて詳しくご紹介します。

見る人の視線の動きを意識

藤ちょこ先生のイラストは、広大な風景で世界観が表現され、水彩画のような色彩や緻密に描かれたモチーフに目を奪われます。

空間の広さとモチーフの精密さをほどよいバランスで成立させるために、一体どのような技術を使っているのでしょうか?

先生が意識されているのは、「絵を見る人がどのように視線を移動させるか」ということ。色味や構図、視線誘導を考えて描いていると話します。

視線誘導とは、イラストを眺める時の目の動きを考え、効果的に要素を配置したり、パースを工夫したりする手法です。

色味の軽さと重さを利用する、パースを付けて見え方を調整するなど、先生はいくつかのテクニックを取り入れて表現しているそうです。また、「浮遊するモチーフをリズミカルに並べるなど、要素の置き方を工夫するのもおすすめです」と解説。

さらに、描き込みの密度を設定するのも重要です。はじめに、どこを見せたいかを設定し、「密度を濃くしたい部分は120%くらい描き込みますが、メインではないところは70〜80%程度にします」とのこと。
密度を設定すると、視線が画面のあちこちに向いてしまうのを防ぎ、メインの要素が明確になると言います。

先生の作品を改めて観察すると、キャラクターの表情や目立たせたいモチーフが真っ先に目に入り、そこから広大な景色に視線が移っていくことを実感できました。

観察力によって磨かれる技術

藤ちょこ先生の作品には圧倒的な立体感があり、まるで現実に存在する風景のように感じられます。

先生は、「平面を立体的に見せるためには、光と影の表現が不可欠です」と話します。そして、光と影を描くためには、画面の中で光源を設定するのがポイントです。

光がどこから入るのかを意識的に表現できるようになれば、三次元的な広がりのある描写にもつながります。

すると参加者から、「陰影の付け方の練習で、効果的な方法はありますか?」と質問が。

実生活で光の入り方を観察するのが良いと思います。街を歩いている時に光源を観察すると、『朝は光がここに当たっていたけど、夕方はこういう風に影が入るのか』など、たくさんの発見があります」と答えていました。

また、イラストの資料として、自分で撮影した写真やイメージに近いモチーフを用意するのも有効だと言います。

私は広大な風景が好きなので、広角レンズを使用して、描きたい構図に近い状態で撮影しています」と先生。

自分で撮影した写真であれば、著作権を気にせずに使えるのも大きなメリットです。イメージ通りの写真を探す手間も省けますね。

なお、モチーフを用意できる場合は、実物を購入することも多いそうです。「虹色の傘を描きたいと思った時に、ちょうどイメージに合う商品があったので購入しました。光の当たり方や色の散り方を観察し、イラストを制作しました」。

インターネットで多くの写真やイラストを検索できる時代になりましたが、自分の目で見て観察することが技術の向上につながるのだと感じます。

積極的に作品を投稿しキャリアをスタート

ライトノベルの挿絵からバーチャルライバーのデザインまで、幅広いお仕事を手がけられている藤ちょこ先生。

しかし、初めからイラストレーターを目指していたわけではなく、もともとは漫画家を志望していたそうです。

高校生の頃から漫画雑誌に投稿していましたが、漫画にもカラーイラストのページがあるため、その練習をしようと思い立ったことが、イラスト制作のきっかけになったと言います。

そして、せっかくカラーイラストを描いたので、イラスト投稿雑誌に応募することに。

今ではSNSなどで個人が自由にイラストを発信していますが、当時は多くの人に作品を見てもらうメディアとしては、イラスト投稿雑誌が主流でした。

そこで、色々な雑誌に投稿し続けた結果、掲載される機会が増加。ある時、雑誌を見た編集者の方から仕事の依頼を受けたことで、漫画よりもイラストのほうに興味が向いていったと話しました。

先生は、駆け出しの頃に、Pixivを見た方から連絡を受けたこともあるそうで、「どこにチャンスがあるか分からないので、作品をどんどん投稿するのがおすすめです」とアドバイス。

株式会社ピージーエヌの柳澤さんも、お二人が仕事をするきっかけになった出来事を振り返りました。

「作品をインターネットで拝見して、先生が出展されているイベントに足を運びました。そこで会ったのが最初でしたね」。

イラストレーター本人に会うことを大事にしている企業の方も多いそうで、SNSでの発信やイベントへの参加を積極的に行うと、道が開けるかもしれません。

得意を極めて描く未来

藤ちょこ先生の回答で印象的だったのは、「色々な絵を練習するよりも、どういう仕事をしたいかを定めるほうが大事かもしれない」というお話です。

これは「様々な絵を描くのと、方向性を決めて練習するのでは、どちらがおすすめでしょうか?」という参加者の質問に対するアドバイスです。

先生によると、オンラインゲームやカードゲームなど、ジャンルによってイラストのテイストはまったく異なるそうです。そのため、自分がそのジャンルを好きだとしても、必ずしも得意とは限りません。

「自分が得意なところを伸ばすのも大事です得意な分野を極めていくと、クライアントさんが『あの作家さんにお願いしよう』と思い浮かべてくださる機会が増えると思います」と話しました。

先生が最後に触れたのは、学生時代の過ごし方について。「学生のうちに、表現の幅を広げることをおすすめします。社会人になると時間が限られてしまうので、学び直すのは大変です。自分の表現に必要なものは、積極的に取り入れてみましょう」。

様々な絵柄を身につけたほうが良いと考えていましたが、まずはどんな仕事に就きたいかを見据えて、必要なスキルを学ぶのが大事だと分かりました。

藤ちょこ先生の講座は、イラスト制作のプロセスに加えて、プロのイラストレーターとして活躍するために必要な視点やスキルについても深く学ぶ機会となりました。

先生の解説を参考に、身の回りを観察したり表現の引き出しを増やしたりしながら、ぜひご自身の制作に活かしてみてくださいね。

《講師プロフィール》
藤ちょこ
千葉県出身、東京都在住のイラストレーター。
ライトノベルの挿絵や、カードゲームのイラストなど様々なジャンルで活動し ているほか、国内外での展示や、関連イベントでのライブペイントも定期的に 行っている。最近の主な仕事に『アズールレーン クロスウェーブ』駿河デザイン、『八男って、それはないでしょう!』挿絵、バーチャルライバー『リゼ・ ヘルエスタ』デザインなど。
X(旧Twitter) @fuzichoco
Instagram fuzichoco31

文/浜田夏実
アートと文化のライター。武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科卒業。行政の文化事業を担う組織でバックオフィス業務を担当した後、フリーランスとして独立。「東京芸術祭」の事務局スタッフや文化事業の広報、アーティストのサポートを行う。2024年にライターの活動をスタートし、アーティストへのインタビューや展覧会の取材などを行っている。
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