【写真学校教師のひとりごと】vol.26 村越としやについて

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼前回【写真学校教師のひとりごと】
【写真学校教師のひとりごと】vol.25 田村俊介について


この男はわたしの学生ではない。だが日本写真芸術専門学校の卒業生である。
そして現在わたしとは教師仲間だ。もう15年もやっているという。
東京国立近代美術館をはじめとして、サンフランシスコなどいくつかの美術館にも彼の作品は収録されている。
シブヤの学校の卒業生としてはまだ若輩なのかもしれないが、それなりに存在が知られた男だ。
自分が出た学校を誇りに思う、という言い方がある。その学校が輩出した卒業生が、自身が受けた恩恵によって使う言葉だ。
いまや関東の写真学校としては学生数で、シブヤは多分業界一ではないだろうか。それは学校の所在地が渋谷であるということが大きく影響しているのは事実だ。
またコースによっては、在学中に授業として海外へ数ヶ月旅ができるというのも売りのひとつだろう。

そこでこの村越としやである。
今のところ日本写真協会の新人賞以外に主な受賞歴はないが、木村伊兵衛賞には2回ノミネートされている実力の持ち主だ。
自身の出身地である福島をネタに写真を撮っている。モノクロでアンダーな画像だが、陰惨なイメージはない。
先日、彼の「あめふり」をはじめとする写真集を閲覧した。全部で10冊あった。正直に言ってそんなに数多くだしているのは失礼ながら驚きだった。

先に彼のことを若輩と発言したのは取り消したほうがいいのかもしれない。
最初の写真集「あめふり」の話にもどる。
シリアスでなかなかの写真だ。情感もある。
その数年後に東北大震災だ。


そのころにだした「大きな石とオオカミ」では、「あめふり」に比べてかれの表現方法はかなりというか、大きく進化していた。
風景のなかに犬や人物が登場してくる。
わたしにはなかなか好感が持てる写真群に映った。


「あめふり」から考えてみると進化のスピードが少々のんびりしているように思えるが、これは環境によるものだろう。
わたしも同じ写真を撮る身なので、ほかの人の写真について云々するのはあまり好ましいことではない、と思う。写真評論家ではないのだから。
だが、彼に教師としてもっと責任ある立場に立ってもらうようにしたらいいのにと、部外者であるわたしは勝手にやきもきしながら見ている。
「あめふり」の写真を見れば、かれの写真に対するセンスは十分に理解できる。
経験の浅い学生の写真に接しても、あの写真を撮れるのならば、その人間の持っている可能性に気づくことができるはずだ。
自信を持って自分の勘を信じることが大切だが。
また、「あめふり」に始まる村越の写真はいまの時代の若者たちにも十分共感を呼び、理解することができるだろう。
そのあとはその学生との1対1の信頼関係だけだ。
そうすれば学生にとってもいい目標になるし、彼にも学校にもプラスになると思うんだけど。
学校は学生という可能性をあずかり、その芽を見いだし、育て上げるのがその目標だ。

卒業生が、ただ愛するだけの学校ではなく、誇りに思える学校になって欲しいと思う。




[追記] 前回の「田村俊介について」に記事の訂正がありますので、以下に記します。
わたしの文では『自分の想いと写真を見ての他者の感想が大きく食い違うことが多く、想いがすんなり伝わらないので、他人に向けて発表する意味合いが感じられなくなったのでと発表するのをやめた』と書いたが本人から記事の訂正がきた。
作品を発表するとそれに対して感想がよせられる。
田村の言によると、どんな感想を「善し」とし、どんな感想を「悪し」とするかは自分で決めていることに気がついた。
だったら発表しようがしまいが作品の価値は変らない。
極端に言えば「作品に対する感想が必要ないから発表をやめた」ということになる。
というふうに発表をやめた理由を表明した。
彼の考えをきちんと理解しないで、勝手な解釈で書いたことは、心から詫びます。
自分の近くにいた学生だからという甘えがあったのだと思う、スンマセン。
だけど、人がどう思おうが思うまいが思ったこと、感じたことを自由に世の中に向かって吐き出そうよ!
かまわないんじゃあない、自分の心の自由をもとめて!
それをしたとしても、自分にマイナスになるわけじゃあないし。
それによって勇気を得る者もいるんじゃあないかな!

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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