Awitchが日本語ラップを再定義する『Wax On Wax Off -Japan Remix-』クリエイティブ圏外漢のクリエイティブを感じる何か……〈vol.47〉
おはようございます。こんにちは。こんばんは。そして、あけましておめでとうございます。
新年早々世界情勢はなかなかきな臭い状況ですが、正月明けらしく今回は景気が良い楽曲のMVをご紹介。
今回ご紹介するのはAwitchが昨年11月にリリースした『OKINAWA Wuman』のラストを飾る曲であり2026年1月7日に超豪華なMVが公開された『Wax On Wax Off -Japan Remix-
feat. R-指定, NENE, 鎮座DOPENESS & C.O.S.A.』です。
Awich – Wax On Wax Off feat. FERG & Lupe Fiasco (Prod. RZA)
結論から言うと本曲が面白いのは、単なる“国内向け客演差し替え”ではなく、オリジナルが掲げた「自己鍛錬=反復が精神を磨く」というテーマを、日本語ラップの身体感覚に引き寄せて再定義している点だ。RZAのビートが持つ武道的ミニマリズム/反復の呪術性の上で、
Awichは“世界へ向かう沖縄の物語”を語る者であると同時に、日本のヒップホップが自分たちの「型」を持った文化であることを、R-指定/NENE/鎮座DOPENESS/C.O.S.A.という異なる流派の同席によって証明してみせているのである。
1. Awichの半生が生む世界観の確立
まず本作を作ったAwichですが彼女は沖縄・那覇出身です。沖縄という土地柄、幼少期から米軍基地由来の英語、アメリカ文化に触れ、10代でラップを書き始めました。のちに米国(アトランタ)へ移り、出産や学業を経て、伴侶の喪失を経験し、日本へ帰還する——
このハードな現実の厚みが、彼女のラップを“強い”だけで終わらせない。強さが必要になった人間の声、という質感があります。
近年のAwichは、国内シーンの中心に居ながら、同時に“国外の規格”にも接続してきた。RZA全面プロデュースのアルバム『Okinawan Wuman』は、その接続が偶然ではなく、意志と設計の結果であることを明示します。Awich自身のコメントも、沖縄の魂とヒップホップの精神を結び、文化を越えて響くことを願う——という、かなり明確な宣言になっています。彼女のキャリアについては同じくラッパーである漢a.k.a GAMIとDOとの動画がおすすめです。
【Awich×漢 a.k.a. GAMI&D.O】デビュー当時からアメリカ生活、YENTOWN加入、RZA&FERGとの邂逅までを描く半生語り1時間!
2. 核となる“反復の道場”であるRZAのビート
この曲の核にいるのは、プロデューサーのRZA。
RZAはニューヨークの伝説的ヒップホップ集団Wu-Tang Clan(ウータン・クラン) の“事実上のリーダー”であり、グループと各メンバーの重要作の多くを手掛け、90年代以降のUSヒップホップの音像そのものを作った人物である。彼のプロダクションは、ソウル由来の断片を大胆に切り出し、音数を削り、暗い映画のような質感と余白で緊張を作る。
つまり、派手に盛り上げて“勝たせる”のではなく、反復のなかでラッパーの骨格を露出させる——そういうビートだ。
Wu-Tang Clanはストリートのリアリズムに武術/カンフー映画の神話 を接続し、「型」「修行」「流派」「奥義」といった身体言語を、ヒップホップの集団美学へ変換してきた存在だ。1992年にスタテンアイランドで結成され、RZA、GZA、Method Man、Raekwon、Ghostface Killahらが名を連ねたこのクルーはメンバーそれぞれがスタイルを持ちながら、一枚のアルバムを“道場”のように成立させた。
だから「Wax On Wax Off」の修行メタファーは飾りではない。Wu-Tang=RZAの文脈において、鍛錬とはロマンではなく、今日を生き延びるための手続きなのだ。
そんなWu-Tang Clanの代表曲はこちら。
Da Mystery of Chessboxin’ (Official Audio)
「Wax On Wax Off」というタイトル自体が映画『ベスト・キッド』の有名な修行フレーズに由来する。意味が分からない反復練習が、後から身体に効いてくる——あの構造を、本作でRZAはビートで再現している。
さらに重要なのは、ビートが東映映画の主題歌「ジーンズぶるうす(梶芽衣子)」を公式にサンプリングしている点だ。
ジーンズぶるうす (東映映画「明日なき無頼派」より)
日本の昭和の影と、NYヒップホップの骨格(=RZA)が繋がる。
ここで鳴っているのは“和風”ではなく、時間の層だ。古い歌が新しく聴こえるのではない。新しいラップが、古い歌をフレッシュにするという王道のヒップホップ的な創作なのだ。
3. 「日本語ラップの地図」のような客演
このJapan Remixの客演は、ニュース的には“豪華”で済む。だが本曲を聴いてすぐわかるのは日本語ラップの異なる勝ち筋を一曲の中に配置していることの意志を感じる点だ。
R-指定:言葉の格闘技としてのラップ
Creepy NutsのメンバーでMCバトルでも結果を出してきた彼は、“言葉の瞬発力”をキャリアの核に置く存在だ。ここでは、修行メタファーをバトル的な攻撃性へ接続し、曲全体の緊張感を一段上げる。
NENE:フィメールの身体性と反骨を“日常語”で刺す
NENEはゆるふわギャングのメンバー。ユニットとしての空気感や反復するグルーヴ感を持ち込みつつ、ラインでは辛辣に切る。Japan Remixの中でNENEが担うのは“毒”ではなく、似てる音・似てる態度への拒否だ。ここら辺は昨年のBeefをご存知の方はニヤニヤもしただろう。
鎮座DOPENESS:HIPHOPの型を“遊び”で崩す職人
鎮座DOPENESSはラップの音価や間を操作することで、曲の見え方を変えるタイプのMCだ。武道が「守破離」だとすれば彼は「破」を自然にやる。修行テーマを、ストイック一辺倒にしないための装置にもなる。
C.O.S.A.:生活とラップを等価に繋ぐリアリズム
C.O.S.A.は愛知出身のラッパー/プロデューサーとして生活の温度を持ち込む強さがある。ここでの彼は、ビートに対して“乗る”というより“住む”。曲を道場ではなく、修羅場として語れるのはこの人の役回りだ。
ちなみにオリジナル側の客演:FERG & Lupe Fiascoオリジナル(2025年7月に先行シングルとして発表)は、NYハーレムのラッパーFERGと、グラミー受賞歴もあるシカゴのLupe Fiascoが参加し、“USの規格”に直で繋いだ。
Awich – Wax On Wax Off feat. FERG & Lupe Fiasco (Prod. RZA)
4. 「鍛錬」は美談ではなく、選び続ける技術だ
Japan Remixの冒頭は、ほぼ宣誓文に近い。
「型を繰り返し 魂を入れ直す」
ここで言う“型”は、保守ではない。魂を入れ直すための反復だ。
さらにAwichは「琉球」や「Wuのビート」を同じ文脈に置き、ローカルとグローバルを“交換可能な通貨”にしてしまう。これは英語ラップができる、という話ではない。自分のルーツを翻訳コスト込みで世界へ持っていける言語設計の話である。
R-指定のバースは文化的ステレオタイプの否定(サムライ/ニンジャ的な記号化)を踏み台にしながら、ラップそれ自体をパスポートにする。NENEは“敵は己”の修行原則を他者批判へ逃げる人間の弱さに刺してくる。
鎮座DOPENESSは道場がない“修羅場ストリート”という言い方で鍛錬をロマンではなく現場の技術へ引き戻す。C.O.S.A.は相撲メタファーで勝敗=キャリアの現実を具体化をヘッズへの言い聞かして締める。
要するにこの曲の“鍛錬”は熱血ではない。反復し続けるための冷静さだ。気合いは一瞬で燃えるが、型は毎日残る。だからビートの反復が効く。この反復性こそヒップホップの快楽でもあるからまぁビート、リリックともに精緻に組み上げられているのだ。
5. MVの5人の“鍛え方”が違うというコンセプト
MVは自己鍛錬をテーマにAwichを含む5人それぞれのリリックやキャラに沿った“自己鍛錬”を5者5様に描くという。監督はオリジナルと同じ堀田英仁。
ここがポイントでMVは「皆で一緒にトレーニング!」みたいな一致団結の映像ではない(少なくとも説明上は)。むしろ鍛錬の方法が違う人間が同ビート上で共存することを見せる。
これは日本のヒップホップにおける“ありがちな不毛”——流派・世代・美学の違いが、そのまま分断や冷笑に変換される状況——への、静かな反論になっている。「違う鍛え方がある」ことが、シーンの厚みになる。MVは、その編集方針自体がメッセージのように感じる。
6. Remixとオリジナルの比較
オリジナルは2025年7月に先行シングルとして発表され、RZAプロデュース、サンプリング、『ベスト・キッド』引用という作品の核を立てた。
Japan Remixは、その核を残したまま“語り手の身体”を日本語ラップに差し替える。さらにこのRemixはアルバム『Okinawan Wuman』のラスト(13曲目)に配置されている。ここにも意志がある。
| 観点 | オリジナル(feat. FERG & Lupe) | Japan Remix(feat. R-指定 / NENE / 鎮座 / C.O.S.A.) |
| 役割 | “世界に通す”ための規格提示(US客演で接続) | “国内の多流派”を束ね、日本語ラップの型を提示 |
| 言語の主導権 | 英語比重が高く、象徴語として東洋性が置かれる | 日本語で東洋性を“説明せずに”運用する(身体語になる) |
| テーマの質感 | 修行=世界で勝つための精神性 | 修行=日々の生存技術/分断を越える共存技術 |
| MVコンセプト | 監督同一(堀田英仁)で核の美学を継承 | 5者5様の鍛錬=多様性の同居を前景化 |
7. この作品は何を更新したか
「Wax On Wax Off -Japan Remix-」は、日本のヒップホップが“世界に見つかる”瞬間を狙っているのではない。もっと地味で、もっと強いことをやっている。それは、世界に出るための物語の書き換えだ。沖縄の物語が、NYのビートで更新され、日本語ラップの多流派が同じテーマで共存し、その共存自体がMVになる。
これが残すのはヒットだけじゃない。「日本語ラップは、誰が中心か」ではなく、「どう鍛えているか」で語れるという次の会話の型だ。
是非オリジナルとRemix版のMVを反復して聴くのをオススメです!!