クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.14〉―LADY AICHA & PISKO CRANES「N’DJILA WA MUDJIMU」
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
突然ですが、皆さんはジャケ買いをしたことはありますでしょうか?
ECでの購買の一般化やデジタルデータの普及により、本や音楽をジャケットだけ見てフィジカルを購入する機会が少なくなっているかと思います。
しかし、インターネットサーフィン(懐かしい響き!死語?)、Twitterのタイムラインから意図せず遭遇して、
ビジュアル一発(+コピーや商品の説明)だけで購入することもまれにあります。
先日読み終わった「黒人音楽史-奇想の宇宙」後藤護(著)もそれである。
本書で取り扱われている
黒人霊歌からブルース、ジャズ、ファンク、ホラーコア、ヒップホップの驚異と奇想が通底する巨人・才人たちを、市川洋介が装画しているジャケ。
Twitterのタイムラインで本書のジャケを見た瞬間
本書内容が黒く染み出た感じのジャケにやられて条件反射的に購入しました。
「アフロ・マニエリスム」という概念を中核に置いて
驚異と奇想を再発見させるブラックミュージック解釈は非常に面白い。
本書のことをもっと書きたいのだが、話をジャケ買いに戻します。
音楽でも昨年ではございますが一目見て
「ヤバい!なんかカッコいい!そしてどんな音楽なの!?」
とジャケ買いをしてしまったのが今回ご紹介する
LADY AICHA & PISKO CRANESの「N’DJILA WA MUDJIMU」です。
本作を産んだNyege Nyege Tapesレーベル
リリース元の Nyege Nyege Tapes (ニエゲ・ニエゲ・テープス)
こちらは東アフリカのウガンダを拠点に、アフリカの民俗音楽とエレクトロニック、ヒップホップ、メタル…何でもござれ他ジャンルを結び付けた最先端のアフリカン・ミュージックを発信する気鋭の音楽レーベル。
アフリカ最大級の野外フェス Nyege Nyege Festival も主催しており、22年で7回目を開催。
アフリカ地域のアーティストを中心に世界各国の多彩なアーティストも参加。
22年には日本からも TYO GQOM やEYE(EX:BOREDOMS)が参加するなどで、耳の速い音楽ファンに認知されてきています。
バンドメンバーと本作の経緯
中心人物の Pisko Crane はコンゴ共和国のキンシャサのスラム街に生まれ、2003年に友人達と6人組のバンド Fulu Miziki を結成。
英訳すると“Music from the garbage”というバンド名の通り、楽器は全て古い PC やオイル缶、金属パイプ、チューブ…廃材で自作。
何年もかけてアフリカの伝統的な音楽を習得し、 DIY に音楽活動を行う。
ストリートでの評価を確立し、 Nyege Nyege Festival への出演を果たすに至る。
そこにファッションデザイナー/彫刻家としても活動する Lady Aicha が参加。
Fulu Miziki の持つDIY精神、パフォーマンス、ビジョンに感銘を受け、ボーカル兼アートワーク担当としてバンドと活動を共にするようになる。
上のアルバムジャケットにもある通り、
まるで MARVEL 映画の「ブラック・パンサー」のウガンダの人々のような、アフロフューチャリスティックなヴィジュアルは Aicha の手によるもの!
このような衣装をまとったライブが2020年にネット上で拡散され、世界中から大きな反響を得る。
それを機にバンドは自らの音楽をフィジカルで残すことを決意。
Nyege Nyege Tapes のスタジオにて1年をかけてレコーディングし、完成したのが今作なのだ。
廃材を使った楽器でバンドを組んでいるという共通点として Konono Nº1 などと通底しつつも、
多種多様な狂乱的なパーカッションが2~4分尺で目まぐるしく曲が変化。
立体的にデジタル処理をしており全曲が4つ打ちのキックが
ハウス/トランス的な享楽性がありつつも、
ツインボーカルとバンドのエネルギーはハードコアの狂暴さをもつ…
嬉しい音楽の渋滞はコチラ↓
ちなみに今作のレコーディング終了後に Fulu Miziki から
Pisko Crane 以外のオリジナルメンバーが脱退。
現在 Lady Aicha と Pisco Crane は新たなメンバーを迎えて別のプロジェクトを始動し、脱退したメンバー達はヨーロッパを拠点に Fulu Miziki とよく似た名前のバンドを結成。
*見た目での類似性もあるP-FUNKでもこのムーブがあるのが興味深い…
なかなかジャケ買いをする機会も減ってますが
たまにはジャケを見てPicoN!ときたら
本でもレコードでもノリで購入しちゃうのもオススメです。
文・写真 北米のエボ・テイラー