きいろとあおはまざるとみどりになる④

前回のお話↓

「ザ・ファミリー・オブ・マン」

1955年、ニューヨーク近代美術館の開館25周年を記念してエドワード・スタイケンが企画した「ザ・ファミリー・オブ・マン」という展覧会が開催された。《ウィルソン天文台の望遠カメラによるオリオン星雲の大写真で始まり、ブレッソンを筆頭としたマグナムのメンバーを中心に構成され、「天国の道」と題するユージン・スミスの娘アニタを撮った写真をエピローグとするこの「人間家族」展は戦争への回答として、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で一九五五年に開催されたもので、「地球のすべての人間はひとつである」というメッセージに貫かれた壮大なフォト・ストーリーだった。─『20世紀写真史』伊藤俊治、筑摩書房》という内容の展覧会だった。68カ国、273人、503点の写真を集めた写真展のテーマは、結婚、誕生、遊び、生活、死……さまざまな国のひとの人生の縮図をあらわしていてる。この図録のデザインはレオ・レオーニが担当している。表紙のデザインは、ユージン・ハリスのペルーのフルート奏者の写真で、そのまわりを色とりどりの四角形が囲んでいる。白、黒、青、黄、グレー、赤、橙、緑、黄緑。レオ・レオーニがオリベッティの広告で多用する得意の配色や左右非対称の構成ではあるがここにも「Unfinished Business」や『Little Blue and Little Yellow』と共通するメッセージを感じる。

『The Family of Man』図録と『Little Blue and Little Yellow』の「 Ring-a-Ring O’s Roses!」のページはつながっていく。

Clasp the hands and know the thoughts of men in other lands

『The Family of Man』の図録のなかに、見開きでひとびとが手をとりあって回りながら踊っている18点の写真がレイアウトされている。時計回りに、イスラエル(ロバート・キャパ撮影)→ソビエト連邦→日本(濱谷宏撮影)→アメリカ→中国→ドイツ→イスラエル→フランス→→イタリア→アメリカ→フランス→ドイツ→ペルー→ルーマニア→ソビエト連邦→アメリカ→スイスと。重複する国があり、必ずしも世界の各地と言えないのかもしれないが。そして図録の1点1点は小さな写真なのでよく目を懲らしてみないとわからないが、少なくともアメリカの写真は白人と黒人が手をつないで踊ってはいない。レオーニは当然この写真から、アメリカののぞまれる未来は、こうではないと考えたはずだ。見開きの真ん中にイギリスの詩人、ジョン・メンスフィールドの一文がそえられている《Clasp the hands and know the thoughts of men in other lands 手を合わせれば、異国の人の思いがわかる》。

『The Family of Man』図録のなかの「 Ring-a-Ring O’s Roses!」のページ

アニー・レオーニ氏の記事にもでてくる『Cold War Confrontations: US Exhibitions and their Role in the Cultural Cold War』という本をネットで検索するとレオのパビリオン「Unfinished Business」の模型写真と実際のパビリオンの写真をみることができる。6メートルの3つのジグザグな三角形の突起の箱をつないだパビリオンの外観の色は、『The Family of Man』的な色をしていた。1955年『The Family of Man』→1958年「Unfinished Business」→1959年『Little Blue and Little Yellow』という順番で「 Ring-a-Ring O’s Roses!」はつながっていく。

参考・引用文献一覧
『The Family of Man』created by Edward Steichen for The Museum of Modern Art, New York
『20世紀写真史』伊藤俊治、筑摩書房
『写真術 21人の巨匠』ポール・ヒル、トーマス・クーパー著 日高敏、松本淳訳、晶文社
『A.T.A. Type Comparison Book』Frank Merriman、Advertising Typographers Association of America, Inc.
『欧文書体百花事典』組版工学研究会編、朗文堂
『EXPO 58 Between utopia and reality』Under the leadership of Gonzague Pluvinage、EDITION Racine

文:守先正
装丁家。1962年兵庫県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科卒業。
花王、鈴木成一デザイン室を経て、‘96 年モリサキデザイン設立。
大学の先輩でもある鈴木成一氏にならい小説から実用書まで幅広くデザインする。
エリック・カール『ありえない!』偕成社、斉藤隆介、滝平二郎、アーサー・ビナード『he Booyoo Tree モチモチの木』などの絵本のデザインも手掛ける。

 

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