「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑳ ― 『モネ 睡蓮のとき』展 <国立西洋美術館・東京/上野> について
『モネ 睡蓮のとき』展 <国立西洋美術館・東京/上野> について
専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。
今回は東京都、上野の国立西洋美術館で開催されている(2024年12月現在)『モネ 睡蓮のとき』展についてです。私自身が日本デザイナー学院東京校の「総合イラストレーション科」の3年生とともに見学に出かけましたので、その展覧会の展示作品からいくつかをご紹介します。
印象派の代表格であるクロード・モネ ( Claude Monet 1840~1926 ) についてはこのコラムでも何度も登場しています。第2話でもこの画家の紹介と『印象派』という呼称の由来等にも触れましたが、今回ご紹介するこの展覧会もフランス・パリの「マルモッタン モネ美術館」からの日本初公開となる重要作を多く含むおよそ50点に日本各地に所蔵される作品を加えた展示になります。
※下線部展覧会リーフレットより引用
では、晩年の作品を中心にモネの描いた風景の世界を一緒に見ていきましょう~。
ほの白い可憐な睡蓮の花と葉が池に浮かんでいます。水面は細やかな筆のタッチ(筆致)によって描かれていて、空の色や雲の明るさを反映している色調です。そして青や淡い紫色に織りなされた水面に次第に近づく日没『夕暮れ』の光量の翳りに、花弁の白さが一層明るさを増しているかのようです。こうした時間の経過によるモチーフの変化を画面に表現しようとするのはモネの絵画の特徴の一つだと思います。
続いては、
縦長のカンヴァスに池の奥行きを感じます。池に落ちる木陰の濃い緑と空が映り込む水面に睡蓮の葉の明るい黄緑系と花の鮮やかな赤が印象的です。比較して近景(画面の下の方)には力強いタッチ(筆跡)に色彩にコントラストをもたせ、画面中央から上の遠景には柔らかく淡い色使いで描くことで、視覚的な遠近感をもたらしています。四角いカンヴァスに切り取られた光景ですが、池の広がりを感じる作品です。
「 睡蓮、柳の反映 / Nymphéas, reflets de saule 」という画題の作品をモネは複数描いていて、今回の展覧会でも同名のタイトルの他の作品も鑑賞することができます。この作品は2メートル四方の正方形をしたカンヴァスに、睡蓮の浮かぶ池の水面に映り込んだ柳の枝葉が画面の上から下に大きくカーブをしている様子を主に青系の色調で描いています。それは睡蓮の葉と重なり合うことで、かろうじて水面であることと、柳の枝葉が風に揺れそよいでいることを表現しています。その荒々しいほどのタッチ(筆跡)は刻々と移り行くこの水面の表情を一刻も早く描き止めようとしているかのようです。この一瞬の光景ですがこれをほど3年かけてモネは描くのです。
そしてここには具体的な描写から離れた抽象性を感じます。「美術のこもれび」第5話でご紹介した現代アート作家「ゲルハルト・リヒター」の描く抽象作品の表現にも通じると感じています。
こちらは展示室の中で撮影が認められている一室があり、そこで展示されていた作品を筆者が撮った作品です。
モネは1916年~1919年頃の時期に同名の作品を複数制作しました。深い緑系の色で描かれている水面には柳の枝葉がもはや判別が難しいほどに同系色で描かれています。こうした区別がしにくいほどに刻々と夕暮れが深まる池に二つの睡蓮の花が鮮やかさ放っていて印象的です。時間の経過を惜しむように画面の端は描こうとせず、モネはこうした時のうつろいをカンヴァスに刻もうとするかのように繰り返し描いていきます。
睡蓮の白い花と点々と浮かぶ丸い葉に、水面に逆さに映り込んだ水生植物と青空、そして白い雲が明るい色調で描かれています。池を吹き渡たり水面を揺らすような風もない静寂さに、明るい雲だけがゆっくりと移動しているかのようです。晩年のモネがこの作品の画面に一つだけの白い花とこの静寂さを描く1914年から1917年頃とは、フランスはまさに大きな戦争(第一次世界大戦)に参戦の最中だったのです。
色々な思いを持ちながら、ゆっくりと鑑賞することができた展覧会でした。
最後に東京、上野公園内「国立西洋美術館」での『モネ 睡蓮のとき』展のエントランスの画像です。【筆者撮影】
この展覧会はJR上野駅【公園口改札】から出て徒歩1分。駅から最も近い美術館での開催です。銀杏も紅葉しています。
開館時間は17:30まで、基本的に月曜日が休館日(※日程はサイトで確認しましょう)。
日本デザイナー学院は国立美術館キャンパスメンバーズ加盟校ですから、学生証の提示で学生1,200円で観覧できます。
さあ芸術の秋にモネの描く『睡蓮のとき』を満喫しに出かけましょう!
展覧会情報
『モネ 睡蓮のとき』展
会 期:2024年10月5日(土)~2025年2月11日(火・祝)
場 所:国立西洋美術館(東京都・台東区上野公園内)
公式HP:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2024monet.html
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