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渋谷周辺エリアで古美術を楽しむ—五島美術館「中国の陶芸展」でクリエイティブを広げよう

渋谷駅から電車に乗って約20分。上野毛駅へと向かう電車から景色を眺めると、高層ビルが立ち並ぶ街並みから閑静な住宅街へと、風景が移り変わっていきます。
上野毛駅から歩いて5分の場所にある五島美術館は、静かな住宅地と豊かな自然に囲まれ、繁華街に近いエリアとは思えないほど、落ち着いた雰囲気です。

五島美術館は、1960年にオープンし、絵巻物や古写経をはじめ茶道具や陶磁器に至るまで、日本や東洋の貴重な美術品を公開しています。

また、作品を分かりやすく解説するキャプションが設置されていたり、季節の移ろいを味わえる庭園を散策できたりと、気軽に楽しめるスポットでもあります。
「日本や東洋の美術に興味があるけれど、敷居が高いのでは」と感じる方にとっても、親しみやすい美術館です。

この記事では、渋谷にほど近い場所で、本格的な古美術を堪能できる五島美術館の魅力をご紹介します。
また、2025年3月30日(日)まで開催中の「中国の陶芸展」をレポートするとともに、初めて中国陶磁に触れる方が楽しめるポイントを解説します。
古美術に触れて、クリエイティブなアイデアや表現を発見してみてくださいね。

※トップ画像キャプション:重要美術品 黒釉木の葉文碗 吉州窯 南宋時代・12~13世紀 五島美術館蔵(画像提供:五島美術館)

季節の移ろいを味わえる五島美術館の魅力

五島美術館 正面入り口

五島美術館は、東急グループの礎を築いた五島慶太(1882〜1959年)がコレクションした貴重な美術品をもとに、1960年に開館しました。
現在の所蔵品の総数は、国宝5件、重要文化財50件を含むおよそ5,000件にのぼります。

約6,000坪という広大な敷地に、平安時代の寝殿造のデザインを取り入れた建築と、武蔵野の自然を活かした庭園があります。
吉田五十八(よしだいそや、1894〜1974年)が設計した美術館本館は、近代建築史の重要な建造物として注目されています。

五島美術館の庭園にある茶室「古経楼(こきょうろう)」

庭園には2つの茶室が併設され、現在も様々な茶会で利用されているそうです。(※通常は非公開)
なお、美術館本館と茶室は、国の登録有形文化財(建造物)として登録されています。

五島美術館 庭園のシダレザクラ(画像提供:五島美術館)

五島美術館の展覧会は、シーズンごとに異なるテーマを楽しめるのが特徴です。年間で6〜7回の展覧会が開催され、コレクションの絵画や茶道具などを鑑賞できます。
また、毎年春には国宝「源氏物語絵巻」、秋には国宝「紫式部日記絵巻」を公開しており、楽しみに来場する方も多いとのこと。
訪れる時期によって見頃となる花や樹木が異なるため、展覧会と庭園が移り変わる様子を両方とも楽しめるのが、五島美術館の魅力です。

「中国の陶芸展」の見どころ

五島美術館「中国の陶芸展」展示室(画像提供:五島美術館)

現在開催中の「中国の陶芸展」も、毎年行われる企画のひとつです。漢時代から明・清時代まで、2000年にわたる中国の陶磁器コレクションが約60点も公開されます。

ここでは、「中国の陶芸展」の作品を3つピックアップし、見どころをお伝えします。
今回は、学芸員の菅沢そわかさんにお話しを伺い、初めて中国の陶磁器に触れる方にも分かりやすく解説していただきました。
やきものの特徴や制作方法もご紹介しますので、気になる作品を見つけてみてくださいね。

モノクロームの独創的な文様「白釉黒花牡丹文梅瓶」

重要美術品 白釉黒花牡丹文梅瓶 磁州窯 宋時代・12世紀 五島美術館蔵(画像提供:五島美術館)

本展のメインビジュアルとしても掲載されている作品「重要美術品 白釉黒花牡丹文梅瓶 磁州窯」(宋時代・12世紀、五島美術館蔵)。
白土や白泥などを素地の表面に薄く掛ける「白化粧」という技法が使われています。
菅沢さんに伺って驚いたのは、その制作方法です。鉄絵具で全体を黒く塗ってから、白い地の部分を鋭い刃物で掻き落としているそうです。細やかな白い線も、同じ方法で表現されています。
実際に作品を見ると、上部には筆の勢いがありながらも、底面に近い部分は細かく意匠が彫られていると分かり、動と静の絶妙なバランスによって気品が感じられました。

身近な道具の形と特徴的なデザインが融合「青磁鳳凰耳瓶」

重要文化財 青磁鳳凰耳瓶(砧青磁)龍泉窯 南宋時代・13世紀 五島美術館蔵(画像提供:五島美術館)

「重要文化財 青磁鳳凰耳瓶(砧青磁)龍泉窯」(南宋時代・13世紀、五島美術館蔵)は、東洋を代表するやきもの・青磁(せいじ)の作品のひとつです。
青磁は、草木の灰を溶媒とした釉薬である灰釉を原料として、中国の後漢時代後期(2〜3世紀頃)に生産が始まったそうです。

砧(きぬた)と呼ばれる布を打つ道具の形をした瓶に、鳳凰をかたどった耳がついているのが、作品の特徴です。
菅沢さんに伺ったところ、やきものは各部分を人間の身体になぞらえて呼ぶことが多く、「耳」とはやきものの横に付いているものを表すそうです。
また、細い部分は「首」、上部の開いているところは「口」と呼ばれるとのこと。身体の部位をイメージすると、やきものがより身近に感じられるようになりました。

本物の葉を置いて焼成した碗「黒釉木の葉文碗」

重要美術品 黒釉木の葉文碗 吉州窯 南宋時代・12~13世紀 五島美術館蔵(画像提供:五島美術館)

「重要美術品 黒釉木の葉文碗 吉州窯」(南宋時代・12~13世紀、五島美術館蔵)は、木の葉を茶碗の内部に置いて焼き上げた作品です。(使用されたのは、桑の葉と考えられています)
実際に見ると、葉脈がはっきりと浮かび上がっており、数百年前の自然がそこに凝縮されているように思えました。

また、作品のキャプションを読むと、「口縁部にはごく細い覆輪(金属の口覆い)がある」と書かれていました。
よく観察すると、茶碗の口の周りに、わずかに金色の部分が見えます。作品を詳しく知ると、繊細な表現まで丁寧に見られるようになると感じました。

名前や技法に注目すると面白い「中国の陶磁器」

五島美術館「中国の陶芸展」チラシ(画像提供:五島美術館)

中国のやきものには様々な形や表現があると分かりましたが、初めて触れる方が作品をさらに理解しやすくなるポイントを、菅沢さんにお聞きしました。

作品の名前の付け方と表現方法の違いを知ると、本展をより楽しむきっかけになるでしょう。

名前を見れば文様や形の特徴が分かる!

中国陶磁の作品名には漢字が多く、難しそうだという印象を持つかもしれません。しかし、名前の付け方が分かれば、きっと感じ方が変わりますよ。

菅沢さんに伺ったところ、本展で紹介しているのは、基本的に大量生産された作品なので、作者不明のものが多いそうです。
そのため、ルールに従って、文様や形状などの情報を順番に並べて名称が付けられているのです。
たとえば、黒い牡丹が印象的な「重要美術品 白釉黒花牡丹文梅瓶 磁州窯」であれば、次のように分解できます。

①「重要美術品」→文化財指定を示す
②「白釉黒花(はくゆうこっか)」→装飾技法を表す
③「牡丹文」→文様を表す
④「梅瓶(めいぴん)」→作品の形状を表す
⑤「磁州窯(じしゅうよう)」→産地の名前を示す

このように、名前を見れば、その作品の特徴が分かるようになっています。
本展では、展示室のキャプションでも作品の詳細を知ることができますので、初めて中国のやきものに触れる方も安心して鑑賞できます。

技法を知るとさらに楽しめる!

「中国の陶芸展」の作品を眺めていると、鮮やかな色や模様が目に留まります。しかし、よく見ると、表面の模様が凸凹している作品もあれば、滑らかでツルツルしている作品もあります。

やきものの表面には、ガラス質の釉薬が掛かっていますが、どのタイミングで絵を付けるのかによって仕上がりが異なるそうです。

菅沢さんに本展のやきものの技法をお聞きしたところ、次のようなものがありました。

・顔料で彩色してから釉薬を掛ける→表面が滑らかになる
・釉薬を掛けて焼成した後に絵を付ける→表面に絵の具の凹凸が出る

表面の質感や凹凸があるかどうかは、実際に作品を見るとよく分かります。作品を見比べながら鑑賞すると、楽しみ方が広がりますよ。

このように、中国陶磁の名前や技法に着目すれば、作品の特徴をつかむきっかけになるでしょう。

初心者から古美術ファンまで楽しめる学びの場

五島美術館 庭園側の入り口

本格的な古美術を味わえるとともに、初心者の方も親しみやすい展覧会を開催している五島美術館。
実は、作品を公開するだけではなく、ギャラリートークや「美の友会」など、古美術に興味を持った方が学べる場も開かれています。

本展でも、「はじめての中国陶磁」というテーマのギャラリートークを行い、担当学芸員が中国のやきものについて分かりやすく説明しました。
ギャラリートークは、展覧会ごとに2〜4回ほど行っているそうです。聴講は無料なので、作品をもっと詳しく知りたい方におすすめです。(要事前予約)

さらに、五島美術館では、「美の友会」という制度があり、入会すると、1年間に何度でも無料で展覧会を見られたり、学芸員による「月例美術講座」に参加できたりします。
講座は月3回ほどあり、展覧会のギャラリートークとは異なるテーマでお話しするそうです。

また、年に3回ほど陶芸講座も開催され、陶芸家の先生に手びねりでの作陶を指導してもらえる機会もあります。(※別途、材料代がかかります)

五島美術館を訪れて展覧会に興味を持った方は、ギャラリートークや「美の友会」に参加すると、日本やアジアの美術をより深く知ることができるでしょう。

(※「美の友会」は、五島美術館の受付で年会費4,000円を納めると入会できます。また、「月例美術講座」は別途100円程度の資料代がかかります。
詳細は、五島美術館ホームページをご覧ください)

まとめ

五島美術館前の道路と東急大井町線が交差する場所にある「富士見橋」からの景色。中央に富士山が見えます。

この記事では、貴重な古美術を堪能できる五島美術館と「中国の陶芸展」の魅力をご紹介しました。

五島美術館は、日本や東洋の美術が好きな方も、初めて触れる方も気軽に訪れることができるスポットです。
また、寝殿造の意匠を取り入れた建築や、武蔵野の豊かな自然に触れられる庭園など、日本文化を丸ごと味わうこともできます。

渋谷からほど近い場所にある五島美術館を訪れて、展覧会や庭園を楽しんだり、ギャラリートークを聞いてみたりと、ご自身の制作に新しいアイデアを取り入れてみてくださいね。

《渋谷周辺エリアで日本美術・日本文化を楽しめるスポットの紹介》
五島美術館も連携するプロジェクト「渋アート」では、渋谷エリアを中心とする日本美術・日本文化の美術館や文化施設を、Webサイトで紹介しています。
Xの公式アカウントでも情報を発信しているので、渋谷エリアを訪れる際はぜひチェックしてみてくださいね。

※取材協力:公益財団法人 五島美術館 菅沢そわか様(学芸員)、渋アート

《展覧会情報》
展覧会タイトル:「[館蔵]中国の陶芸展」
会場:五島美術館(東京都世田谷区上野毛3-9-25)
会期:2025年2月22日(土)〜3月30日(日)
開館時間:午前10時〜午後5時(入館受付は午後4時30分まで)
休館日:毎月曜日
入館料:一般1100円/高・大学生800円/中学生以下無料
https://www.gotoh-museum.or.jp/

※次回の展覧会情報
展覧会タイトル:「[館蔵]春の優品展 THE BEST」
会期:2025年4月8日(火)〜5月6日(火・振)
開館時間:午前10時〜午後5時(入館受付は午後4時30分まで)
休館日:毎月曜日(5月5日は開館)
入館料:一般1100円/高・大学生800円/中学生以下無料

《参考文献》
『時代の美—五島美術館・大東急記念文庫の精華— 第四部 中国・朝鮮編』公益財団法人 五島美術館、2013年

文/浜田夏実
アートと文化のライター。武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科卒業。行政の文化事業を担う組織でバックオフィス業務を担当した後、フリーランスとして独立。「東京芸術祭」の事務局スタッフや文化事業の広報、アーティストのサポートを行う。2024年にライターの活動をスタートし、アーティストへのインタビューや展覧会の取材などを行っている。
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