• HOME
  • ブログ
  • マンガ
  • 『描けない』からこそ描けた――第22回高校生マンガグランプリ受賞者インタビュー!

『描けない』からこそ描けた――第22回高校生マンガグランプリ受賞者インタビュー!

第22回 高校生マンガ・イラストグランプリで堂々の”マンガグランプリ”を獲得した、静岡県立島田商業高等学校2年生の杉浦福さんへインタビュー!
杉浦さんの創作の原点には、日常のリアルな感情を大切にする姿勢と、「描くこと」への揺るぎない想いがありました。
迷走の果てに見つけた“描けない漫画”とは?

高校生マンガ・イラストグランプリとは
過去10年で掲載&受賞、累計 3,800作品以上!
多くのマンガ家のデビュー実績を持つ“日本デザイナー学院”がマンガ・イラストの作品を募集する“テーマ不問”の全国規模マンガ・イラストコンテストです。

 

――マンガグランプリ受賞おめでとうございます!今回の作品について教えてください。

ありがとうございます! 作品のタイトル通り、『漫画が描けない時の漫画』です。これ、実際にめちゃくちゃ迷走して、ほんとに漫画が描けなくなった時の経験をそのまま作品にしたんです。個性的な作品がたくさんある中で、自分の漫画が埋もれちゃうんじゃないかって不安になって、描く手が止まってしまって…。「描けない壁にぶち当たっている自分自身をモデルにしよう!」って・・・やけくそというか(笑)。

もともとグルメ漫画やエッセイが好きで、実体験をストーリーに落とし込むと説得力が出るなと感じていたんです。エッセイ好きなのは、地元の先輩・さくらももこさんの影響もちょっとあります。さくらももこさんの文章って面白いし、日常の中のリアルな感情をすごく上手に表現されているなって。自分が経験していないことはうまく描けないタイプなので、「自分が本当に感じたこと」を大切にしました。


👑マンガグランプリ受賞作品「まんがが描けん時の漫画」

 

自分に合った土俵で挑む!

──コンテストにはいくつかチャレンジしていますか?

最近はJUMP新世界漫画賞に20~30ページの作品を1つ応募しました。結果はダメでしたが、1作品をしっかり描き上げるいい経験になりました。

ちゃんと漫画を描いて、初めてコンテストに出したのは高校1年生のとき。2023年大会の「高校生マンガ・イラストグランプリ」 です。結果としては準グランプリを受賞したんですが、それでも悔しかったです。

『高校生限定』というのは安心できて、挑戦しやすかったですね。ジャンプの手塚賞や赤塚賞のような大きな賞は敷居が高く感じて、まだ尻込みしてしまう部分もあって…。

「高校生の中で賞を獲っても…」と思われるかもしれませんが、ボクシングに階級があるように、自分に合った土俵で力を試すことも大事だと思います。まずは高校生向けのコンテストで自信をつけていきたいですね。

とはいえ、高校生の中でもライバルはたくさんいますし、将来プロを目指すなら、さらに世代を超えた競争に挑む必要がありますね!

――普段のスケジュールはどんな感じですか?

夜間高校に通いながら、3年間で卒業するために別の高校にも月2〜3回通い、単位を取得できるよう頑張ってます。朝はバイト⇒バイト後は、家や気分転換にカフェで作業⇒夜は学校⇒帰宅後も漫画を描く日々を送っています。

特に細かくスケジュールを決めているわけではありませんが、あえて余裕をなくし、「今やるしかない」環境を作るように工夫してますね。バイトは週3回で、ある日は2時間、ない日は最大6時間ほど作業しています。

 

描きたくないものから“逆算”する発想法

――アイデアはいつ出ますか?

主にアルバイト中ですね。仕事中に本当に申し訳ないけど、ひたすら「最近何か面白いことあったかな?」って考えています。

アイデアを出すときは、まず「自分が最後まで楽しく描けるか」を基準にしています。作者が「つまらない」「描きたくない」と思ったら、その漫画はもう死んでしまうと思うんですよ。そんな気持ちで描いた作品を、読者が面白いと思うわけがないんじゃないかなって。

たとえば、自分は食べることや言葉遊びやダジャレも楽しくて好き。そういう要素を軸にしながら、人と会話をしたりします。実際に言葉に出して話すと、自分の考えが整理されるし、伝えようとする過程で新しいアイデアが生まれることもあります。

また、反対に「描きたくないもの」を挙げて、「自分は死ネタが苦手だから登場人物は絶対生かす!」とか、「ストレス展開を長引かせたくないから、早くハッピーにするには?」と逆算して組み立てることも多いです。

こんなふうに、いろんな角度からアイデアを考えています。

「バイトがあるから描けない」は本当?

自分は「環境をとにかく味方につける」 ことを意識しているんです。環境のせいにしない。むしろ、今の状況を最大限に活かして、自分のものにする。

バイトの時間を「もったいない」って言う人もいるし、「バイトすると漫画が描けないからやらない」って決めている友達もいる。でも、じゃあバイトしてなかったら本当に漫画を描いているのか?って話なんですよね。実際に、その友達とは「結局、描いてないよね?」って話したばかりなんです。

「忙しい」ってネガティブに捉えるんじゃなくて、「充実している」 って考える。自分の時間を大切にして、自分を満たすことができれば、結局それが一番の近道なんじゃないかなって思います。

 

――漫画を描きたいと思ったきっかけはなんですか?

気持ちに火をつけてくれたのは父だったと思います。

幼い頃、ゲゲゲの鬼太郎が大好きで、そんな中、父が鬼太郎と共闘する漫画を描いてくれたことがあり、それが本当に嬉しくて…まるで夢みたいで。

漫画の世界を「与えられる側」だった自分がいつか「作る側」になるなんて夢みたいだと思っていました。

小学校3年生の七夕で「漫画家になれますように」て書いてましたし、ネームのようなものを1冊仕上げたり、「締め切りだ!」と一人で盛り上がってました(笑)。今思うと、「何の締め切りだよ!」ってツッコミたくなりますが、当時は本気でした。

…正直、思い出すのがちょっと恥ずかしいですが(笑)、描いた漫画をみんなに「読んで!」と見せていました。

Ⓒ杉浦福

でも、そんな自分を周りの子たちはちゃんと見てくれていて、「漫画家になりたいんだもんね」と、みんなが普通に言ってくれるようになりました。

―――自己を省みる時に沢山救われた先生がいるとか?

杉村さんという漫画家さんなんですけど、この方は言語化や想いの漫画化が凄く上手くて、自分が伝えたいことを上手く描けないときに読んでは学びを得てます!父と同世代の方ですが最近商業施デビューをされています!たとえ芽が出ずとも、置かれた環境が苦しくとも夢を諦めない心も尊敬しています。


╭━━━━━━━━━━━━━╮
Xにて最新作品掲載中!
╰━━━━━━v━━━━━━╯
杉村 @sugiyan1192

 

目指すのは「ハッピーエンドの漫画」

――漫画家になりたい気持ちは変わりませんか?

なりたいです!手塚治虫先生みたいに、ストーリーと絵でいろんな人に届けられる作家になりたいですね。小学生の頃から『火の鳥』を読んでいて、読み返すたびに新しい発見があるのがすごいなって思っていました。

ただ、『火の鳥』って生と死の問題を扱っていて、読んでると気持ちがズーンとなることもあって…。だから「誰かを元気づけられる漫画」を描きたいなって思うようになったんです。

 

――影響を受けた作品はありますか?

この『とんがり帽子のアトリエ』は、緻密な描写と美しい光や自然の表現が印象的で、画力の高さが際立つ作品です。

とんがり帽子のアトリエ/白浜 鴎 (著) 講談社

 

✅縦に貼った付箋はコマ割りの秀逸さ、横の付箋は表現技法が美しいところ。見返すときにすぐ分かるようにしています。

 

あと、『ダンダダン』は描き込みの細かさや、効果音がなくても音を感じさせる画力がすごいです。これはグルメ漫画にも通じると思うんですよね。揚げている音がしないのに、油の音が聞こえるような説得力を持たせる技術は、絶対に習得しなきゃいけないです。

✅画材について特別なこだわりはなく、安い文房具を愛用しています。この小さい消しゴムは拾ったものです(笑)。

✅作業に欠かせないのがこの白ペン。修正やハイライトに使い、特に鼻やほっぺ、口元のツヤを表現するのに大活躍します。

 

「食べること」と「漫画」への想い

――これからのことについて教えてください。

グルメ漫画にこだわっているわけではないけれど、穏やかな漫画を描きたいと思っていて。食べることは生きることに直結していて、自然と大切なテーマになりました。

特に「食」をテーマに描くようになったのは、食に対するネガティブなイメージが嫌だったからです。例えば、摂食障害に苦しむ人がいることもとても悲しく感じます。食事は単なる栄養補給ではなく、家族や友人とつながる時間でもあるし、もっと楽しく、大切にしてほしいと願っています。

特別な料理じゃなくても、「授業終わりに食べたミンティアの味」とか、「お母さんが焼いてくれた卵焼きの端っこの美味しさ」とか、そんな日常の小さな幸せを描きたいんです。大きなイベントより、身近な幸せこそ意味がある気悲しくて

それに、悲しい話を描くのは向いていないと気づきました。鬱漫画は流行るけれど、人を悲しくするのは簡単で、幸せにするのは難しい。だからこそ、みんなが幸せになれる漫画を描いていきたいなって思っています。めちゃくちゃ綺麗事ですけどね(笑)。

✅新作の漫画を制作中。漫画家になったものの「好きなことを仕事にするのがこんなに辛いなんて思わなかった」と悩んでいる主人公。そんな彼が、小さな定食屋を営む女性と出会うところから物語が始まります。

 

「悩むこと」も漫画を作る上で大事なプロセスのひとつ

――同じく漫画を描いている、描きたい!と思っている方たちへメッセージをお願いします。

コンテストを通じて小さい頃からずっと好きで続けてきたものが、こうやって「誰かに見てもらうもの」になっていくことが、本当に嬉しかった。

自分にとって漫画は、一番楽しく表現できる手段だから描いています。でも、絵本も好きだし、教科書の端に載っているような小さな漫画も好き。正直なところ、自分の絵が誰かのためになったり、何かを伝えられる場所があるなら、どんな形でもいいと思っています。でも、やっぱり漫画にはこだわりたい。好きだから。

最初はなんとなく「楽しいからやる」って感じで描き始めていいと思うんですよ。深く考えずに。だけど、「なぜこの話を描きたいのか」「どんな漫画を描いていきたいのか」と考え始めると、だんだん自分の本質が見えてくると思います。

今回のインタビューを通して、なぜ漫画を描いているのかを改めて考えることができて、本当に勉強になりました。こういう時間を持てたこと、すごくありがたいなと思います。

――杉浦さん、ありがとうございました!今後の活躍を楽しみにしています!

取材:濱田

【告知】2025年も開催決定!🔥
第23回 高校生マンガ・イラストグランプリ

次回の応募締切は2025年9月9日。
詳細は4月以降、公式HPにてご確認ください。
マンガを通じてあなたの可能性を広げてみませんか?

主催 専門学校日本デザイナー学院

▽関連記事


 

関連記事