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“面白い” をつくりたいクリエイター必携の名著/『ヒトはなぜ笑うのか』 マシュー・M・ハーレーほか – PicoN!な読書案内

マンガのギャグシーンや、クスッと笑えるデザインのアイデアなど、「笑い」は優れたクリエイティブの一要素です。しかしユーモアというのは簡単そうで難しく、何かアイデアを出そうにも、なかなか取りつく島がないものですよね。

今回ご紹介する『ヒトはなぜ笑うのか』(マシュー・M・ハーレー,ダニエル・C・デネット,レジナルド・B・アダムズJr.,片岡 宏仁(訳),勁草書房 ,2015)は、心理学、哲学、認知科学の研究者たちが結集し、「笑い」という現象の謎に挑む野心作。

専門的な話題も多いため難しい箇所もあるものの、論旨は明快かつ、先人たちが考えたユーモア理論についても紹介してくれるため、特にユーモアやギャグを作風の軸にしたい人など、「笑い」の本質について理解を深めたい方にはオススメの本です。

文・佐藤舜(PicoN!編集部)

既存のユーモア理論と、その問題点

本書ではまず、過去の心理学者・哲学者などが考えたユーモア理論を紹介しつつ、その問題点(その理論では説明できないユーモアの存在)を挙げ、諸説を統一する「笑いの大統一理論」の構築を目指します。

ここでは、本書で挙げられている代表的なユーモア理論を紹介します(簡潔に紹介しているので、わかりにくいところもあると思います。興味が湧いた方はぜひ本書で詳細をご確認ください)。

抑圧の解放理論(フロイト)

心理学の祖、ジグムント・フロイトが提唱した説。私たちは社会生活を営むために、規則に従う、常識人らしく振舞うといったさまざまな「抑圧」に無意識的に縛られながら生きており、その抑圧が解放されたときに笑いが生じるとする理論。

(例)全校集会のような緊張感のある場面で、校長先生がマイクに頭をぶつけるなど。

(問題点)たわいもないダジャレやギャグ、親しい友達との冗談など、「抑圧」に関係のない笑いを説明できない。

優位理論

自分より劣った人、対象に対して、優越感を感じたときに笑いが生じるとする理論。

(例)誰かの失敗を見て笑う。

(問題点)これもやはり、優越・劣等関係を含まない笑いを説明できない。

機械的こわばり理論(ベルグソン)

哲学者ベルグソンが『笑い』(岩波文庫)という著書の中で提唱した理論。笑いは「生命が機械のようにこわばる」ときに、それを社会が矯正するために生じるという説。人間は、行動や振る舞いなどに「柔軟性」があることで環境に適応でき、社会生活や生存競争に有利になるとベルグソンは考えた。機械のように一定の動作や信念などに人が固執したとき、その「不利」なこわばりを矯正し、生命本来の柔軟性を取り戻すために「笑い」が生まれたと提唱する。

(例)石につまづいて転ぶ人(臨機応変に石をよけるべきなのに、機械のように一直線に歩いているために失敗する)。

(問題点)やはりダジャレなど、「機械的こわばり」を含まない笑いを説明できない。

不一致理論

ある心理的「フレーム」(物事を理解・解釈する認知の枠組み・文脈)に対して、それと一致しないものが現れたときに笑いが起こるとする説。たとえば「ハンバーガー屋」という状況で、「ご一緒にホタテはいかがですか?」と勧められる(サンドイッチマンのコントより)など。現在最も有力な「定説」とされているもので、本書の理論もこの「不一致理論」を土台に修正を加えるかたちで構築されたものです。

(例)ハンバーガー屋で「ご一緒にホタテはいかがですか?」と勧められる。

(問題点)具体的にどのような「不一致」が笑いになるのかが曖昧。

本書の主張:「メンタルスペース理論」

上記の定説とその問題をすべてカバーできるものとして、本書では「メンタルスペース」という脳科学の概念を用いた理論を提唱しています。繰り返しになりますが、本書の理論は最後の「不一致理論」を土台に、批判的に継承して考案されたものです。したがって、大まかな主張は「不一致理論」と共通しています。

一言でいえば、笑いとは「予測の裏切り」であるというのがメンタルスペース理論の主張です。

「メンタルスペース理論」の概要を簡単にまとめると以下のようになります。

・メンタルスペースとは、何かを考えたり見たりするときに開く「心の中の空間」のようなもの。
・メンタルスペースでは、過去の経験や学習で得た常識・信念をもとに「予測」が立てられる。
(たとえば、ハンバーガーショップにはテーブルがあり、レジがあり、メニュー表があり……という予測が生まれる)
・その予測に反する事象を発見したとき、笑いになる
(ハンバーガーショップにホタテが売られていたらおかしい)

つまり先ほどの「不一致理論」をより精密にし、「予測が立つ」→「予測が裏切られる」という構造に解釈し直すことで、より正確に笑いという現象の本質を説明することに成功しています。

本書の中では、その「予測=信念」の強度や、その「裏切り」が身の危険に関わるかどうかなどさらに細かい要因を分析することで、どんな場合に笑いになり、笑いにならないかということを詳しく明らかにしています。

詳細な解説は本書に譲りますが、このメンタルスペース理論を使うことで先ほどの「抑圧の解放理論」「不一致理論」「機械的こわばり理論」「優越理論」なども説明できます。たとえば「優越の笑い」とは、「人は普通こう振舞うべきなのに(予想)、こんな失敗をしている(予測の裏切り)」という事象が生む笑いとして再解釈できるでしょう。

心理学や脳科学の本としても興味深い『ヒトはなぜ笑うのか』。図書館や本屋さんでぜひ手にとってみてくださいね。

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