【今月の図書】意地悪で皮肉、でも愉快なワンダーランド。「鏡の国のアリス」で広がる想像の世界。

読書が好きです。今ではあまり信じてもらえないかもしれませんが、おとなしくて身体もあまり丈夫でなかった幼少期、読書とお絵描き、着せ替え遊びばかりして過ごしていました。そして、大人になってイラストレーターになりました。イラストレーターの頭の中は大忙し。私は講師もさせてもらっていますからそれはもういよいよです。この仕事が締め切りが近いからこの日までに仕上げよう。その後この仕事を片付けましょう。明日の打ち合わせは何時だっけかな?ああ、そうだ課題の説明プリントを作らなくちゃ。あの本を学生のみんなに見せてあげよう!準備しなくちゃ。等々、頭の中はいつもグルグル。

困ったもので頭がグルグルしているとなかなか眠れないものです。そんな時ありがたいのは読書です。

主人公に感情移入し、イラストレーターである私という存在であることを一旦やめて、著者の書く情景、感情をそのままただ味わっているとだんだんと眠くなって、もっと読みたいなあ!と思うのにいつの間にかあんぐりと口をあけてグウスカと眠ってしまいます。稀に面白過ぎて逆に大興奮、涙止まんないよ!ってそのまま読み進めてしまって気がつくと窓の向こうが白々と夜明け。なんていうことも。それはそれで、読書好きには堪らないことです。

 

序文が長くなりましたが、一冊おすすめの本を紹介しますね。たくさん読んできたのでとても悩んだけれど、皆さんの中に「不思議の国のアリス」が好きっていう人は少なくないと思いますが、「鏡の国のアリス」は読んでますか?私はこっちの方がお気に入り。映画などでは「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」の不思議なエピソードを合わせたストーリーになっていたかと思います。

 

唐突に様々な不思議な出来事に巻き込まれる「不思議の国のアリス」。一方で「鏡の国のアリス」は、奇天烈な登場人物にアリスが困惑させられるのは同じですが、こちらはチェスのルールに則って計算されている言葉の冒険物語だと思うのです。登場人物たちはわざと言葉を間違えて聞き取り、事態をややこしく愉快にしていきます。さらにアリスは子供なのに(子供だから?)物事を見たままでなく見えない部分を想像する力を持っているよう描かれています。

鏡を覗いて映らない部分についてこちらの世界と違うものがあるかもしれない。こちらの世界で火を焚くと鏡の向こうでも煙が立つけれど、ただ真似っこしているだけかもしれないと想像します。物事を真っ直ぐに見る素直さはとっても良いことですが、想像を巡らせて人の痛みを感じたり、必要なものを察したり、見えるもの言われたことの上下左右裏側を想像できる大人になりなさい。と言っているように思えます。

 

そして、中でも私のお気に入りのシーンは赤の女王様の素敵な意地悪。走りに走らされて喉がカラカラのアリスに女王様は「ビスケットはどう?」と言うところ。なんて愉快な意地悪でしょう!と思ったけれどここは鏡の国、おそらく本当に親切で言っているのです。ここでも物事の裏側を考えることを教えてくれている気がします。

生きていくと鏡の国よりもっと訳のわからない理屈の通じない人に出会うこともあるでしょう。女王様のビスケットみたいに欲しくない時にはあったものが、欲しくなると途端に無くなったり。人生はもっともっと意地悪で皮肉、でも愉快なワンダーランド。ぜひ予行練習をどうぞ♪

 

最後に。この文章を書くために読み返しておこうと電車で「鏡の国のアリス」を開いたとき、私は白いワンピースなんか着ちゃって赤毛のアンみたいなカンカン帽をかぶっていました。ラブリーのスリーカードが揃っちゃってこれはちょっと怯えるぞ!と慌てて本を鞄にしまいこみました。皆様、読書時のコーディネートにはくれぐれもご注意を!

文・トシダナルホ
NDS講師。イラストレーター。日本デザイナー学院Ⅱ部グラフィックデザイン科卒業。在学中からフリーランスとして活動を始め、現在は『an・an』などの女性ファッション誌や情報誌、書籍、広告、Webなど多方面で活躍中。

 

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