「ハリーポッターと魔法の歴史」展 J.K. ローリングの創作の秘密に迫る 後編

東京ステーションギャラリーで開催されている「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展。前編では物語の始め、第1~4章までをお届けしました。

後編からは第5~10章(「呪文学」・「天文学」・「占い学」・「闇の魔術に対する防衛学」・「魔法生物飼育学」・「過去、現在、未来」)までを旅していきたいと思います。

今回もハリーポッター好きの筆者と専門学校日本デザイナー学院(以下、NDS)イラストレーション科講師の原先生で解説していきます。

 第5章「呪文学」Charms

原)アブラカタブラ…などポピュラーな呪文もありますが、ハリー・ポッターのシリーズでは実に様々な呪文が登場しますね。この章での展示の一つであるスケッチです。

J.K.ローリング(J.K.Rowling)作 『ダイヤゴン横丁の入り口のスケッチ』[ Drawing of the opening to Diagon Alley ] 1990年/J.K.ローリング蔵

原)ダイヤゴン横丁への入り口がレンガの壁を傘で叩くことによって出現する様子を著者のJ.K.ローリング自身がペンによって描いています。結構、絵を描くのも好きな方みたいです。入り口の出現を6つの段階で描いているのですが、変化していく壁に置かれたゴミバケツがあることで、壁の向こうへの遠近感が生まれています。

筆)ここからは展示方法にも注目です!入り口すぐ現れるのは「金のスニッチ」。飛び回る様子は映画そのもので捕まえるのは難しそう。特に興奮した展示は「透明マント」、是非現地で見てほしい1つでしたね!

第6章「天文学」Astronomy

原)天文学は現在でも成果が生まれている研究分野ですね。規則的な天体の動きや神秘は古代から人類に影響を与え、今でも様々な星座が親しまれています。

ヨハン・ガブリエル・ドッペルマイヤー(Johann Gabriel Doppelmayr)『天球儀』[ Globus coelestis novus] ニュルンベルグ,1728年/大英図書館蔵

原)「天球儀」とは恒星や星座の天球上の位置を球の表面に書き込んだ模型のことです。天球の運動や時刻、季節による星座の位置と移動を知るために使われました。展示された天球儀には、天体の動きから様々な知見を得ようとしたことが分かります。

筆)登場人物の名前の由来など、天文学と関係していたことは驚きでした!例えば「ルーナ・ラブグッド」や「シリウス・ブラック」など。文献に基づいてキャラの設定が決められていることはファンにはたまらない情報でした。

第7章「占い学」Divination

原) 「占い」は現在でも親しまれています。自分のこと、将来のことについて何か手がかりを得たいという心境は今も昔も変わらないようです。ハリー・ポッターの物語にも「占い」は重要な役割を担っていました。この章での展示品も「水晶玉」や「タロットカード」に「手相」、そして「茶葉占い」など、いろんな物が展示されてその占いのバリエーションが楽しかったですね。

筆)占い学と言えば、ホグワーツで授業をしている「シビル・トレローニー」先生を姿を思い浮かべました。会場にはジム・ケイ(Jim Kay)による「シビル・トレローニー教授の肖像」も飾ってあるので、是非会いに行ってほしいです。

第8章「闇の魔術に対する防衛学」Defence Against the Dark Arts

原)この章は邪悪な魔法に対して防御の魔法についての学問のことですが、こちらも面白かったです。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(John William Waterhouse)画 『魔法円』[ Magic Circle] 1886年/ロンドン テート・ブリデン所蔵

原)これはジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの絵画です。神話などを題材にした美しい女性を多く描いていて、人気のあるイギリスの画家です。この絵は油彩画ですが、釜の周囲を杖で円を描くとともに立ち昇る煙が何かに変化(へんげ)しようとしている様子が不思議なタッチで描かれています。魔術を操るこの女性は全く血の気のない肌の色が印象的です。

筆)このような絵画だけでなく、原作者J.K.ローリングによる「ハリー・ポッターと賢者の石」初期草稿をはじめ、魔法の杖、日本の瑞龍寺からの河童のミイラ、エチオピアの魔術書など盛り沢山でしたね。

第9章「魔法生物飼育学」Care of Magical Creatures

 原)この章はドラゴン、一角獣、不死鳥など魔法界に登場する動物に関する資料が見応えある展示でした。

筆)ホグワーツの世界では重要な存在の魔法動物たち。これらはハリーポッターシリーズの『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』でも大活躍してますよね。中でも驚きだったのは「ヘビ」の扱いでした。作品の中でも1番印象強い動物ですが、昔は脱皮をする姿から「再生」「復活」「癒し」の象徴でもあったそうです。

第10章「過去、現在、未来」Past, Present, Future

第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』がロンドンのブルームズベリー出版社から1997年に刊行されてから今日までの様々な国の言語に翻訳された書籍の数々の展示が素晴らしかったです。そしてこのシリーズの続編である舞台劇『ハリー・ポッターと呪いの子 パート1,2』が東京でも封切られるそうです。そもそもこの展覧会が企画され、2017年から2019年にかけてロンドンとニューヨークで開催されて、ようやく日本にやってきました。この物語はこれからも様々な展開を期待させてくれますね。

原)今回の展覧会ではジム・ケイ氏による主要なスケッチが展示してあります。これらの絵は文学である小説の世界を映像として可視化するための作業としてとても重要な役割だったと思います。そしてこの展覧会の内容は中世15~17世紀までの古い書物やミイラの展示、ヨーロッパだけでなく日本、タイ、中国の物品など幅広い展示物で、「ハリー・ポッター」シリーズから距離のある人(知らない人、映画を見たことがない人)でも楽しめ、展示の世界に引き込まれる体験でした。また水彩画、アクリル絵具、カラーインク、デッサン、油絵、コラージュなど多彩な手法で描かれたものが展示されていました。

最後に、かつての人々の羨望と研究の対象であった『魔法』への様々なアプローチと探求の軌跡が大英博物館の所蔵資料と書物によって、私たちにその力の魅力が伝わる展覧会です。キングスクロス駅から東京駅に魔法学校への出発を楽しんで見ましょう。

「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展
会期:2021年12月18日(土)~2022年3月27日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
開館時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
主催:東京ステーションギャラリー[公益財団法人東日本鉄道文化財団]、大英図書館、読売新聞社
協力:静山社、日本航空

文:原広信
NDS講師。造形作家。多摩美術大学大学院修了。在学中よりインスタレーション作品や抽象表現を軸とした現代美術作品の制作、発表活動を続ける。また、イラストレーターとして音楽ソフト制作会社でパッケージデザインとキャラクター制作を担当する。専門学校日本デザイナー学院で常勤講師・職員を経て、2021年よりデッサン・ドローイング等描画系科目を担当する。同時に美術作品を制作している。

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