いとうみちろう先生が教える!「美術解剖学入門」ー肩を描くー

「解剖学+描き方」シリーズで今回はを扱います。

前回はこちら▼

 

肩はとても表情豊かなパーツで、肩でしっかりと演技ができるようになると表現の幅がグッと広がりますので、興味のある方はぜひご覧ください。

今回説明するのは次の点です。

・肩はそれ自体が動く
・肩は表情豊かで演技上手
・後は自分自身が求める解像度で細部を追求する

今回は細かな構造の説明にはあまり触れていませんが、私が個人的に「実践的で重要」と感じている部分をご紹介します。

肩はそれ自体が動く

肩はそれ自体が動く!上に下に、前に後ろにぐりぐり動く動く。それによって人体が見せる仕草や姿勢は実に表情豊かで深みのあるものになります。

私が肩の解剖学について一番お伝えしたいこと、あるいは人様に教えられるようなことは下図のこれだけです↓これだけ頭にはいっていればもう大丈夫?です。

え、バカにすんなって!?

いやもう少しだけ話を聞いてください(汗)。

骨格で見ると肩は体のパーツから少し離れて繋がっているというのが重要なのです。それによって肩は多様な可動域を得て、動き回ることができるのです。

さすがに単純すぎるのでもう少し見ていきましょう。

肩は体に直接つながっているというよりは、肩甲骨を通じて背中からジョイントしているように見えますね。鎖骨で人体の前面につながっています。

肩は表情豊かで演技上手

このボディと肩の隙間感と、それによって可動域が多くなっている感を意識することができれば、人体の表現がよりイキイキ、のびのびとしてきます。

あるいはネットで何気なく画像を見ていると、肩の位置が結構動いていることに気づくようになったりします。

(体育すわりの画像を見てみると、肩甲骨が柔軟に動いて、肩の位置がかなり動いていることが分かる)

肩に表情を付けることを覚えると、人物表現の幅がぐっと広がります。前に後ろに斜めにグリグリと動かしてイキイキとした動作を描いてみてください。

後は自分自身が求める解像度で細部を追求する

キャラ表現はリアルなものからディフォルメの効いたものまでさまざまですから、人体の構造についてどの程度抑えておく必要があるかは人それぞれでしょう。実は人体の細かな構造に詳しくなっても、必ずしもイキイキとしたキャラ表現ができるようになるわけではありません。そのためにはむしろ省略自分なりの解釈をプッシュする(前面に出していく)ことが必要になったりします。ただし、難しいものでそれだけだとリアルな説得力のある描写というのはなかなか得られませんから、あとは必要に応じて解剖学的知識を深めていく必要があります。

こうした図↑を筋肉で、骨格で、全体で、部分で、男で、女で、さまざまな角度でスケッチすることは人体について学ぶ上でとても有効です。一方で、それなりの量(ラフで数百とか数千とか)を描いても、ぜんぜん構造が頭に入らないこともありますし、どんどん忘れてしまいます。なんだか漢字練習に似ている?ような気がしていて、たくさん書いて一時的に覚えるけども、使わなければ忘れてしまいます。そして実用的に使っていると徐々に記憶に定着してきます。それでもやはり分からないこともあり、そういったときは資料で調べる・・・といったことの繰り返しです。

私はついつい美術解剖学系の本をいろいろ買ってしまってたくさん持っているのですが、自分で勉強する際は一冊「この本!」というのを決めてそれをしっかりやり込むのがおススメです。受験勉強と一緒で参考書をいっぱい持っているよりは一冊をちゃんとやったほうがいいのと同じパターンです。それなりに内容のある本なら、本当に一冊分を身につけたらすごく力がつくはずです。

私は「スカルプターのための美術解剖学https://www.amazon.co.jp/dp/B07C3D3FMJh)」という本が好きで、折に触れて読み直したり、授業の資料として使ったりしています。それでも一冊の分量でさえまったく頭に入りきらないくらい盛りだくさんな内容でまだまだ勉強のやり甲斐があります。皆さんにも困ったときに助けてくれる、自分なりのMy美術解剖学書と言えるようなものはありますでしょうか。そういったものを身近において読んだり、図を眺めたりスケッチしたりしていれば、あなたの表現はさらに高まることでしょう。

 

おわりに

せっかくなので少しだけ「豆知識」を紹介すると、男性でも女性でも鎖骨の下、大胸筋と肩の間に上の図に示したような三角構造が見られます。体形にもよりますがご自身の体でも確認できると思うのでチェックしてみてください。また肩の鎖骨より少し下がった位置に矢印で示したようなでっぱりが見えることがあります。ここに肩の骨があるんだなーと感じやすいです。どちらかというとやせ型の女性で分かりやすく、肩の筋肉が発達している男性とかだと見えづらいです。こういった小ネタの引き出しが増えるのも解剖学を勉強していて楽しいことの一つですね。

さて、「解剖学+肩」ということで以下の3点について主にお話ししました。

・肩はそれ自体が動く
・肩は表情豊かで演技上手
・後は自分自身が求める解像度で細部を追求する

本当は三角筋がどうとか、鎖骨と大胸筋が・・・とかいうような話もいいかなと思ったのですが、私自身の経験として「人体の細かな構造について詳しくなっても意外と人体が自由に描けない」ということがあったので、それだったら「肩が動く」という単純な基本を押さえて、そこからのびのびと人物表現したいと思って今回の話題を選びました。

肩は奥が深くて、私も未だに「難しー!!」と感じることも多く、もっと表現力を付けたいと思っています。皆さんもご一緒にいかがでしょうか。

それでは今回はここまでです。お読みいただきありがとうございました。

 

NDS講師 いとうみちろう
イラストレーター。児童書や絵本、教科書や雑誌、アプリ、カード、舞台美術などさまざまな分野を手掛ける。教育関係の仕事の傍らフリーランスとして活動をはじめ、これまでカルチャーセンターや美術学校などで、小学生から高齢者まで幅広い年代を対象に講師として指導。

 

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