なんと魅力的な線!スヌーピーのデザイン的な魅力と人気の秘密
文・いとうみちろう(イラストレーター)
この記事では日本で大人気の海外キャラクター「スヌーピー」の由来を紹介し、その人気の理由を考察します。
おそらく知らない人はいのではないか?というほど有名ですが、スヌーピーのルーツは何かご存じでしょうか。あるいは実際に原作の原物を見たことはあるでしょうか。スヌーピーのバックグラウンドを掘り下げていくと知らないという人もいるのではないでしょうか。そんな超有名でありながら意外と広くは知れ渡っていない?スヌーピーの由来をまずは簡単にご紹介いたします。
Q:スヌーピーというキャラクターのルーツはなんでしょう・・・
a. アメリカ合衆国野球チームのマスコットとして作られた。
b. イギリスの子供向けアニメのキャラクターである。
c. アメリカの新聞に掲載されていた4コマ漫画のキャラクターである。
d. 何を言う、スヌーピーは実在する犬だぞ?
答えは・・・!
スヌーピーは新聞の4コマ漫画から
スヌーピーは、1950年にアメリカの新聞に掲載された4コマ漫画のキャラクターです。毎日更新のデイリー版、後から加わったコマ数の多い日曜版と合わせて、50年間一度も休むことなく続けられました。現在も75ヵ国、21の言語、2200紙で連載されており、世界中の人々から愛される作品です。『ピーナッツ』というのがその4コマ漫画の題名で、主人公であるチャーリー・ブラウンの飼っている犬が、かの有名なスヌーピーです。『ピーナッツ』の作者はチャールズ M.シュルツ氏。(1922年11月26日~2000年2月12日)資料収集からセリフの書き込みに至るまで、すべての作業にアシスタントをつけることなく、たったひとりで行っていたそうです。
Q:因みに、スヌーピーがモデルにされている犬種をご存じですか?
答えは・・・!
スヌーピーの人気の理由は?
家の中を探せば多くのご家庭で一つは何かしらのスヌーピーのグッズがあるのではないでしょうか。かくいう私も普段スヌーピーのマグカップを使っていますが、そんな私たちの日常にすでに溶け込んでいるキャラクターの人気の秘密を探っていきましょう。私の考えるスヌーピーの人気の理由は以下の3点です。
1. キャラクターのすぐれたデザイン性(絵柄の良さ、かわいさ、親しみやすさ、普遍性)
2. 作品の面白さ、キャラクターの魅力
3. 時代性(関連商品のひろまり)
では、ひとつひとつ見ていきましょう。
1. キャラクターのすぐれたデザイン性
スヌーピーの日本公式X(旧Twitter)のアカウント のタイムラインを見てみるとオシャレでカワイイ製品がたくさん並んでいます。どんなグッズにも応用できるシンプルな絵柄の汎用性の高さ、世代を問わず親しまれる愛らしさ、連載開始から70年以上たってもまったく古くならない絵の普遍性・・・そういった点がスヌーピーのデザイン性がすぐれている所以なのでしょう。
こちらはアメリカの公式サイトの画像です。まずはその線に注目してみましょう。軽妙でありながら丁寧、そこにわずかな震えが加わり何ともいえない魅力を醸し出しています。またところどころ線画が太かったり細かったり、強弱の違いがあるのも大きな特徴の一つです。実はこの特徴的な線が、チャールズ M.シュルツ氏は手が震える病気を患っていたことから生まれました。シュルツ氏は描くことでさえ困難な震えを克服し、コミックスを一人で描き続けました。
次はシルエットです。上のイメージは一般的なビーグルとスヌーピーの違いですが、二頭身の大きな頭、細い首、誇張された手足のもつリズミカルなフォルムが実に特徴的です。
この二つの画像はいかがでしょう。実に自由自在。大胆に変形したシルエットとコミカルな発想で表現された表情、耳や足の表現が織りなす仕草がなんとも愛らしいです。
こちらはスヌーピーの姿の年代ごとの変遷です。どの年代も魅力的ですが、初期はまだ「犬らしさ」が目立ち、犬をシンプルにかわいく描くとこうなる!的な姿をしています。また線画がすっきりとしている印象です。それがだんだんと輪郭のカーブにより強弱が生まれ、線はわずかに震えて揺らぎ、いつしか四足歩行を忘れ、より「スヌーピーらしさ」が出てきました。50年間休むことなく毎日描かれ、体の形からちょっとした目の位置、鼻の位置、あるいは仕草や性格といった要素まで、磨くに磨かれ、洗練されていったのでしょう。
2. 作品の面白さ、キャラクターの魅力
皆さんはスヌーピーの出てくる4コマ漫画『ピーナッツ』を実際に読んだことはあるでしょうか?主人公が子供(基本、作品に大人は出てこない)、かわいらしい絵柄である・・・からといって必ずしも子供向けではありません。それが新聞に掲載されていた4コママンガであるということで、むしろある意味大人向けなのです。時に哲学的で人生訓があり、時には時事ネタも盛り込み、安心して楽しんで読める一方でウィットなギャグに考えさせられることも多い、そんな奥深く味わい深く大人も子供も楽しめる作品、それが『ピーナッツ』なのです。
またキャラクターのよさも作品の大きな魅力です。主人公のチャーリー・ブラウンはアメリカの大人気漫画の主人公でありながら、ぜんぜんスーパーマンではありません。内気でシャイ、悩みがちでむしろ何事も上手くいかないという感じです。しかしながら私たちはそんな彼の弱い部分に親しみを感じます。あるいは妹のサリー、いつもおもちゃのピアノを弾いているシェロダー、少し粗暴で根はいい子のペパーミントパティとそんな彼女とつるんでいる対照的なおとなしい印象のマーシー・・・と、どのキャラクターも個性が際立ちます。またいつも毛布を持ち歩いているライナス、強気で勝手なルーシーなど、作者の身の回りの人物がキャラクターのモデルになっていることも多く、それだけに存在感があります。あと忘れてはいけないのがスヌーピーの親友で黄色い小鳥のウッドストックです。
Q:ウッドストックはスヌーピーの冒険のパートナーで親友です!そのウッドストックの設定はご存じでしょうか。
a. アメリカ合衆国の国鳥、オスの白頭鷲(ハクトウワシ)です。
b. 飛ぶのが得意なアヒルのヒナ。
c. 子供たちに助言をするのが好きなスズメの女の子。
d. 鳥の種類も性別も、なんだっていいじゃないか!
答えは・・・!
1人1人が世界中にたくさんのファンを持つような、そんなキャラクター達の魅力が作品の人気の大きな理由のひとつです。ちなみにスヌーピーにいたっては設定がすごすぎて?紹介しきれないのでアメリカの公式サイトの画像を載せておきます。
3. 時代性
スヌーピーのマンガを読んだことがない、スヌーピーのアニメを見たことがないという人はけっこう多いのではないでしょうか。一方、スヌーピーのグッズが人生で一度もご家庭にあったことがない、ましては見たことも無いという人はまずいないでしょう。そういった意味でスヌーピーの人気を定着させているのはさまざまな商品展開によるところが大きいと言えそうです。
『スヌーピーと生きる―チャールズ・M.シュルツ伝』の記載によると日本のスヌーピー関連商品の売れ行きは、世界中の全ライセンスの売上高の3分の1になり世界で一番だそうです、また新規のライセンス契約の申し込みに関しては、その40%が日本から来ているとこのこと(その他の参考記事:産経新聞|スヌーピー日本上陸50年 愛され続ける理由はこんなにあった!)。我が国においてスヌーピー関連商品がいかに人気であるかが伺えます。
ではそもそもスヌーピーが人気となるきっかけは何だったのか?以下ウィキペディア情報ですが次の記載があります。
・1964年4月、乳幼児・子供向けアパレル企業 ファミリアは、日本で初めて「スヌーピー」の商品化権を取得。
・1967年に谷川俊太郎による日本語翻訳で単行本を刊行したのが始まり。
・1968年に、サンリオがライセンス認可を受けた関連商品の製造・販売を開始したのが『ピーナッツ』のキャラクター商品の始まり。
もう早速記述に矛盾が見られますがおおよその時系列が把握できます。またネット情報をいろいろ見ていると日本でスヌーピー人気に火が付いたのがどうも1960年代後半から70年代らしい・・・ということでそのタイミングにも合っています。何よりこの頃にはTVアニメも放映され、チャーリー・ブラウンの声優さんの名前から『谷啓版』と言われるアニメを、私の親世代は誰もが見て知っていたようです。この時はネットやケーブルTV等の豊富なチャンネルはありませんから、地上波番組の影響力は今よりもさらに大きかったことでしょう。
戦後以降にアメリカの影響が大きい中で、コンテンツ産業が急速に発展していく時代です。そのタイミングに合わせて、豊富な関連商品の展開やTVアニメの放映もあいまって、多くの人々にその世界的に人気な作品の魅力が伝わったことが、時代性という切り口でのスヌーピーの人気の一因ではないでしょうか。
おわりに
さて、今回はスヌーピーって新聞の4コマ漫画だったんだよ!という話からはじめて、その人気の秘密として
1. 絵がステキ!(デザイン性)
2. 楽しくてキャラがステキ!(作品性、キャラの魅力)
3. 70年代には大人気になり関連商品が広まった (時代性)
・・・というような話をしてきました。
本当はもっともっと詳しく掘り下げて語れそうなのですが、今回は分かりやすさを重視してこれくらいにしておきたいと思います。デザイン面から、あるいは作品面から等、何かしらのスヌーピーの良さが少しでも伝われば幸いです。
(おまけでチャールズ M.シュルツ氏がコミックを描いているところが写しているインタビュー動画を入れます!)
(参考)
・リタ・グリムズリー ジョンスン(2002),『スヌーピーと生きる―チャールズ・M.シュルツ伝』,朝日新聞社
・マイケル・A. シューマン(著), 小松原 宏子 (翻訳)(2015),『スヌーピーと、いつもいっしょに: PEANUTSを生んだチャールズ・シュルツ物語』,学研プラス
・チャールズ・M.・シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ(監修), ちーこ (イラスト)(2019),『角川まんが学習シリーズ まんが人物伝 チャールズ・シュルツ スヌーピーの生みの親』,KADOKAWA
・PEANUTS(日本語サイト)
・PEANUTS(英語サイト)
・PEANUTS Friends Club
・X|snoopyjapan
・テレビ東京|実は6人きょうだい!?あなたはスヌーピーの秘密いくつ知ってますか?
・産経新聞|スヌーピー日本上陸50年 愛され続ける理由はこんなにあった!
・BBC Archive Youtube Channel|1977: Charles M. Schulz on CHARLIE BROWN | Everyman | Classic Interviews | BBC Archive
NDS講師 いとうみちろう
イラストレーター。児童書や絵本、教科書や雑誌、アプリ、カード、舞台美術などさまざまな分野を手掛ける。教育関係の仕事の傍らフリーランスとして活動をはじめ、これまでカルチャーセンターや美術学校などで、小学生から高齢者まで幅広い年代を対象に講師として指導。
HP:https://www.michiro-ito.com/
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