
専門学校卒業からフリーへ挑む、イラストレーター「イツキ」さんの現在地
専門学校日本デザイナー学院 総合イラストレーション科を卒業後、2024年4月からフリーランスのイラストレーターとして活動中のイツキさん。PRマンガをはじめ、マスコットデザインやVtuberのキャラクターデザインなど幅広い仕事を手がけています。
今回は、7月にイツキさんが参加したグループ展にお邪魔し、フリーとして働くリアル、そしてこれからの夢までたっぷりお話を伺いました。

会場には人気イラストレーターたちの作品がずらり

イツキさん

右手がイツキさんの作品
「クラスで一番」と思っていた高校時代。入学直後の衝撃。
ーイツキさん、本日はよろしくお願いします。最初にうかがいたいのは、制作の“ビフォーアフター”です。高校生の頃に描いたイラストと、専門学校で仕上げた卒業制作を並べると、その成長が一目でわかりますね。

Before(高校生の頃に描いたイラスト)

After(卒業制作作品)
自分でも見返すと、ここまで変わるんだって驚きますね…。
これでも高校生の頃は、「クラスの中で自分より上手い人いないでしょ」って思って専門に入学したんですけど、 入学すぐのオリエンテーションで早速挫かれました。クラスメイトに信じられないくらい上手い人がいて、「この人に追いつきたい」って強く思いましたね。
―そこから3年間、必死に描き続けたんですね。
はい。最初は線もぎこちなくて、キャラクターをただ描いているだけという感じでした。でも卒業制作では、一枚に200時間くらいかけて、構図や色、ストーリー性まで考え抜きました。先生に何度も相談しながら形にしたので、“やり切った”という自信につながりました。
比べてみると、“描ける”から“伝わる”に変わった気がします。これは専門学校でしか得られなかった経験だと思います。
「やっぱり絵を描くのが好きだから」──怖さも糧に変えて、専門卒業後はフリーランスの道へ
―現在のお仕事について教えてください。
卒業後に受けた最初の大きな仕事は、美容室のPRマンガ。単発の予定が好評で長期契約になり、今も月1回の打ち合わせで継続しています。
SNSや知り合いの紹介を通じて仕事をいただくことが多く、パフェ屋のマスコット、アイドルの生誕祭Tシャツ、Vtuberのキャラクターデザインなど、多彩なジャンルを任せてもらっています。
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―フリーランスとしてお仕事をする場合、お金の話って少し難しそうですが、料金設定はどんなふうに考えていますか?
フリーランスでは案件ごとに条件が違うので、僕は料金表は作らず柔軟に対応しています。提示額が明らかに安い場合は「その金額ならここまでしかできません」と伝えますし、逆に希望をすべて叶えるには「このくらい必要です」としっかり説明します。安く引き受けると自分が消耗してしまうし、後から値上げするのは難しい。だからこそ、最初から適正価格で向き合うことが、お互いにとって一番いい関係につながると考えています。

これはサスペンス映画のポスター制作の際、リサーチをした時のメモ。
調べることは大切で、根拠を持って表現することが説得力に繋がります。
仲間とのつながりがチャンスを呼ぶ
―フリーランスとして活動する中で、人とのつながりはどんな意味を持っていますか?
作品の価格感や方向性を相談できる仲間がいるのは本当に大事だと思っています。人の話を聞くことで自分の基準や相場感も固まってくるし、知り合いが増えると「この業者いいよ」と紹介してもらえたり、展示やイベントに呼んでもらえたりする。そうやって広がったご縁が、次のチャンスにつながっていきます。
―展示やイベントに参加しようと思った最初のころは、ハードルが高く感じませんでしたか?
人が集まっている場所に参加するのは、最初はめちゃくちゃ怖かったです。知らない人と話すのも緊張するし、場の空気も分からない。でもある時、「怖いのは自分だけじゃなくてみんな同じなんだ」と気づいた瞬間、気持ちが軽くなりました。どうしても行ってみたい展示やイベントがあったら、深く考えずに足を運んでみる。
実際に行ってみると「思ってたのと違ったな」という日もあるし、「めちゃくちゃ楽しかった!」という日もある。でも、どっちも経験として残ります。そこで一人でも知り合いができたら、それだけで大きな財産。その出会いからSNSでつながったり、別の場で再会してさらに仲良くなったり。小さな一歩が、気づけば大きな道につながっている感覚があります。
だから最初から完璧を求めなくても大丈夫です。人脈を作ろうとか、イベントを100%楽しもうなんて思わなくていい。「ちょっと顔を出してみる」だけで十分。SNSだけでは得られないリアルな空気や偶然の出会いがあって、怖さは残るけど、その分得られる発見や刺激が必ずある。僕自身、そうやって少しずつ挑戦を重ねてきたし、これからも怖さごと受け止めて、一歩ずつ進んでいきたいと思っています。

オリジナルグッズは展示会場やイベントで販売
アイデアはChatGPTも活用!
―普段の制作ではどんなふうにアイデアを広げているのですか?
例えば、実際に携わっているパフェ屋さんのマスコットデザインの仕事だとこんな感じでアイデア出してます。
- LINEスタンプなどSNS上のコンテンツを見て研究
- フルーツの特性を調べてキャラクター化
- 依頼者と「こんなキャラいいよね」と意見交換しながら広げる
- アイデアがまとまったらChatGPTに「もっと広げられることある?」と相談して、さらに広がるポイントを探す
AIを“自分専用データベース”として使う
―ChatGPTはどのように役立っていますか?
僕なりのChatGPTの使い方としては、まず自分の中で思いついたことをどんどん言葉にします。
そして、そのやりとりや相談内容をChatGPTに入力していくうちに、AIの中に自分の嗜好や表現傾向が蓄積されていくんです。
長くやり取りを重ねた後で「これまでの会話をもとに、僕の絵のスタイルや得意な表現を言語化してください」とお願いすると、
「あなたはこういうタッチで、こういう感情表現を得意にしていて、こういうモチーフを好む」といった分析が返ってくる。これは、単なる思いつきメモとは違って、客観的かつ体系的に自分を見せてくれる“鏡”のようなツールになります。
自分では気づいていなかった強みや一貫性を発見できるのが面白くて、今では作品づくりの自己分析に欠かせない存在になっています。
一方で、SNSでいいな!と思った絵がAIだったこともありました。少なからず怖さはありますが、人が描いた絵には感情や温かみがある。だからこそ人の絵に価値が上がっていると思うし、むしろ自信を持って描き続けたいですね。
専門学校時代に学んだこと
―専門学校での学びが、今の活動にどんな影響を与えていますか?
信頼できる先生に相談できたのは本当に良かったです。独学ではここまで来られなかったと思います。
あとは、イラストだけじゃなく3Dやデザインについても幅広く学べたのが大きかったです。正直、“これは自分には要らない”と言って3Dの授業をサボっている人もいました。
でも学生のうちに“これは要らない”なんて分かるわけがない。幅広く学んでおいた方が得だと思います。キャラクターもロゴデザインもできれば、仕事の幅はぐっと広がりますから。
幅広く学んでいたこともあって、フリーでやっていくことにも自信が持てたと思います。
―在学中からSNSで作品を発信していたそうですね。
はい。「週1投稿」を目標にSNSで作品を公開し続けてきましたね。
SNSにアップするのを躊躇する友達もいたけど、「勿体なくない?」って。確かに反応は怖いですけど、自分の絵を描いたらちゃんと投稿しよう!ガンガン人に見せちゃえよ!って気持ちでアップしてました。
絵を続けるということ
―長く描き続ける中で、大切にしている考えはありますか?
いまの画風が確立するまで5年かかりました。でも無駄なことは一つもなかったです。アニメや映画、本、日常のメモ…全部が自分の世界観を作る材料です。絵のスタイルは焦らなくても時間をかけて育っていきます。
好きで始めたイラストも、時には嫌いになる時期もありました。
でも好きな小説に、“嫌いになってもまた好きになる”っていう言葉があって。ああ、時には嫌いになってもいいんだって思ったんです。だから悩んでもいいし、楽しんでもいい。全部ひっくるめて絵を描き続けていきたいですね。
将来の夢は音楽フェス公式Tシャツをつくること!
―イツキさんのこれからの目標や夢を教えてください。
音楽が大好きなので、ロッキンみたいなフェスの公式Tシャツをデザインするのが夢です。音楽とイラストってすごく相性がいいと思うんですよね。
あと最近だと、ロボットデザインをしてという依頼をもらいました。ロボットなんて描いたことないけど、「サイバーパンク系の女の子描けるようになるのも強くね?」って切り替えました(笑) 標本買って調べるところからやってみようかなって。
結局大事なのは、まずはやってみること。怖さも含めて飛び込むこと。その一歩が、自分の未来を大きく変えていくんだと思います。
―イツキさん、ありがとうございました!未知の分野にも臆せず飛び込む姿勢がとても印象的でした。今日のお話が、挑戦を迷っている誰かの“最初の一歩”につながれば嬉しいです。
イツキ 2001年生まれ。群馬県出身・東京都在住。とあるイラストレーターの影響を受け、2020年から絵を描き始める。感情の揺らぎや孤独、夢と現実の境界をテーマに作品を制作。リアル寄りの厚塗りで繊細な表情や空気感を描く一方、デフォルメされたポップなイラストも手がけるなど幅広い表現を行っている。デジタル・アナログ双方を活用し、暗さの中に潜む美しさや野望を表現している。
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取材/PicoN!編集部 濱田・撮影/市村
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