【写真学校教師のひとりごと】vol.2 倉谷卓について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。


 

倉谷卓はデビュー時に2年連続で個展をやった。
初回が「淵」、2回目が「After The Sunset」
当時若者の間で1、2の人気を争うコニカとニコンで交互に。快調なすべりだしである。

ところが、はじめはそうでもなかったのだが、時がたつにつれ達成感が刻一刻と薄れ、本人は納得できない気分につつまれていった。
これらは本当に自分が撮りたい写真だったのだろうか?教師の調子にのせられて撮ってしまったのではないのか。
以前にはパークレンジャーになりたいと思っていたこともあったので、自然界への興味があった。だから写真のテーマに自然を選んでしまったのか。
かといって、俗にいう「nature」を撮りたいわけでもなかった。
自然と人間の節理のからみとでもいうのだろうか、そんなよくある、曖昧ななにかがテーマであるべきのように思えた。

2008年 「淵」 コニカミノルタプラザ

2009年 「After The Sunset」 ニコンサロン

 

倉谷は2年制コースにいた。そしてもう少し学校で写真を勉強したいということで、3年制を担当していたわたしのところへ移ってきたのである。
倉谷は移ってきたときから、わたしにとって気になる存在だった。
なんでもない空き地の雑草に埋もれかかった土管を、さも意味ありげなもののように見る者の目の前にさしだす。
そういった表現力、人をゆさぶる能力においてかれは抜きんでていた。
ゆさぶるというと聞こえは悪いが、写真を撮るということにおいて必要な能力である。

連続して発表した1、2作の後しばらくしてから、高田馬場駅からちょっと歩いたところにあるギャラリー、オルトメディウムでの展示では、それまでの倉谷からは想像もつかないようなものを開示していた。

「Your Camera Is My Camera」
スマホにはデジカメが仕込んである。しかもそれを向けたほうばかりではなく、持ってる側を写すこともできる。
スマホを相手に渡し、倉谷を撮っているつもりで、その機能を利用して相手自身を撮るということをやったのだ。だから、このタイトルがある。こういったタイトルを考えだすセンス、なかなかのものだ。

かれはタイトルを外国語にすることによって、シリアスな感じを避け、明確でないものを前面に押し出している。
言っていることは
「Your Camera Is My Camera.」
「あんたのカメラはオレのカメラ」
何を言いたいのだろう。

倉谷を撮るつもりが、自分を撮ってしまった。
これが倉谷の真のネライなのだ。
撮られた側はそう思ってなかったので、ある種気の緩んだ表情をしている。
写真を徹底的に楽しんじゃえ!
これがかれのやりたかったことなのだ。

2017年 「Your Camera is My Camera」 Alt_Medium

2018年 「Ghost’s Drive」 ニコンサロン

>『Ghost’s Drive』作品はこちら

 

その翌年に発表した「Ghost’s Drive」はメーカー系ギャラリーで展示できたが、これからも目立つところで展示できるかが、今後の課題ではないだろうか。
目立たないところでの展示になると、自己満足だけにおちいってしまうのが怖い。
倉谷の「Your Camera Is My Camera.」でみせた言葉づかいのセンス、ウイット、アイデア力に一層の磨きをかけることを期待したい。

 

倉谷卓

1984年、山形県生まれ。2005年、日本写真芸術専門学校卒業。

個展
2008 「淵」 コニカミノルタプラザ(東京)
2009 「After The Sunset」 ニコンサロン新宿(東京)、ニコンサロン大阪(大阪)
2013 「カーテンを開けて」 birdo space(宮城)、No.401(東京)
2014 「カーテンを開けて」 Bloom Gallery (大阪)
2014 「Pets」 Broom Store (大阪)
2015 「Ghost’s Drive」 森岡書店(東京)
2015 「カーテンを開けて」 72gallery(東京)
2017 「Your Camera is My Camera」 Alt_Medium(東京)
2017 「Photographic Violence」 Hasu no hana(東京)
2018 「Ghost’s Drive」 ニコンサロン銀座(東京)、ニコンサロン大阪(大阪)
2019 「アリス、眠っているのか?」 Hasu no hana(東京)

受賞
2008 コニカミノルタ フォトプレミオ2007 特別賞
2009 ニコンサロン juna21 入選
2011 塩竈フォトフェスティバル2011写真賞 大賞
2012 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 2012 入賞
2013 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 2013 審査員賞
2014 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 2014 審査員賞

出版
「カーテンを開けて/A Glimmer of Light」(塩竈フォトフェスティバル)

他、グループ展多数。

HP:https://www.kurayatakashi.com/

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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