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写真は何を映し、何を伝えてきたのか。鳥原学著『教養としての写真全史』

日本写真芸術専門学校講師の写真評論家鳥原学先生の著書『教養としての写真全史(筑摩選書/定価1900円+税)』が出版されました。

現代では報道や広告、ファッション、そして芸術表現に至るまでの幅広いカテゴリーにおいて写真が重要な役割をはたしています。時代の変化やメディアの発達とともに変化し続ける「写真」について、多角的な視点からその歴史と役割について広く深く解説されています。NPI1年次必修「現代写真論」のテキストです。

「21世紀に入って、写真のもつ意味と役割は劇的に変わった。スマートフォンが普及し、誰もが気軽に写真を撮ってSNSにUPするようになったからだ。だがこれまでも、機材やメディアの変化とともに写真の役割は常に変化してきた。単なる記録の手段として始まった写真が、次第に報道・広告・表現などへとその役割を広げていき、やがて芸術の一ジャンルとして確固たる地位を築くまでの道筋をたどる。歴史を知り、写真を読み解くリテラシーを身に着けるための一冊」

『教養としての写真全史/著・鳥原学』冒頭文より

 

本書を執筆するきっかけは10年ほど前に、NPIで「現代写真論」を担当し始めたことにあります。現代の写真の社会的な用途の多様性やその成り立ちを理解するための基礎、1年生の必修授業です。講義をどのように進めるかについて考えたとき、重要なのは、私たちと写真との普段の付き合い方だという結論に至りました。

写真はとても身近で便利なコミュニケーションツールです。私たちは毎日、写真を撮ったり、撮られたり、シェアしあったりしています。そんな私的な写真の在り方についてじっくり考えて見ると、じつは社会で必要とされている様々なジャンル(報道、広告、ファッション、ネイチャー、美術など)のそれとしっかり繋がっていることに気づきました。プロフェッショナルな写真家たちの活躍が私たちの写真に対する表現の基準を作り、同時に、私たちの日々の写真との関わり方から、先進的な写真の表現が生まれているのです。じっさい私自身も、学生からSNSにどんな写真をアップしているのか、どんなアプリを使って加工しているのかなどをよく教えてもらいます。それがヒントになって、最新の表現を理解できたことも少なくないのです。

またどのジャンルの写真についても、基本的には同じ撮影や画像加工技術を使っています。それをどのような社会的文脈に置くのかで、表現やメッセージの在り方が違ってくるのです。ですから写真を学ぶさいには、様々なジャンルの成立過程にも目を向けていく必要がある。私はそのように考え、NPIでの講義を重ねるなかで『教養としての写真全史』が誕生していったのです。

本書は「写真文化の基盤」、「ヴィジュアル・コミュニケーションとしての発達」、「写真表現の展開」の三部構成になっています。簡単に述べれば「写真文化の基盤」は写真技術の発展史と、写真の基本となる肖像やスナップショットについて書いています。「ヴィジュアル・コミュニケーションとしての発達」は写真を使った情報の伝達方法をどのように完成させ報道や広告といったシーンで活用されているのかについて。そして「写真表現の展開」は写真と芸術との関係のほか、ファッション、建築、自然、身体を表現してきたのかを取り上げています。また日本のほか、中国、台湾、韓国など他の東アジアの写真史についても簡単にですが触れています。

本書は、若い世代が写真を学ぶにあたっての入門的な内容であることを目ざしました。ここから初めて、より写真とその文化的な影響に興味を持っていただければ幸いです。

鳥原学

写真評論家鳥原学
NPI講師。1965年大阪府生まれ。近畿大学卒業。フリーの執筆者・写真評論家。写真雑誌や美術史に寄稿するほか、ワークショップや展示の企画などを手掛ける。2017年日本写真協会学芸賞受賞。著書に『時代を写した写真家100人の肖像』、『写真のなかの「わたし」:ポートレイトの歴史を読む』、『日本写真史』など多数。

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