コント師が語る「面白い」のつくり方。かもめんたる岩崎う大『偽りなきコントの世界』レビュー
「面白い」ものをつくりたい。それはクリエイターにとって究極の望みと言えるかもしれません。
しかし「面白い」とはあまりに身近で、あまりに自明(そうに見える)がゆえに、改めて「面白い」って何だろう?と考えると、答えるのはけっこう難しいものです。プロとして、作品のクオリティの再現性(ある程度の水準の作品をコンスタントにつくれること)を高めるには、「面白いとは何か?」という問いに対する自分なりの答えをもっておくことは重要です。
『偽りなきコントの世界』は、2013年のキングオブコントを制覇した実力派コント師・かもめんたるのボケ兼ネタ作り担当の岩崎う大さんが、標題通り、面白いコントをつくるヒミツを語り尽くした本です。マンガや映像など物語性のある作品をつくりたい人はもちろんのこと、その他のクリエイティブ分野に活かせるヒントもたくさん詰まった本書のエッセンスをお届けします。
文/編集部 佐藤舜
「面白さ」を構成する2つの条件
まず大前提として、著者であるう大さんは、コントにおける「面白い」をどのように定義しているのでしょうか? 明快に語っている部分があったので、少し長いですが引用してみます。
基本的に僕のネタは二人の間に争いを生じさせるというのが常套手段なんです。(中略)奇人同士の正義を衝突させる。互いの正義が特殊であればあるほどお互いに相容れることができず、摩擦が生まれます。すると摩擦により熱が発生する。そのときの熱量の多寡がそのままコントの盛り上がりにつながっていくのです。
(出典:岩崎う大(著)中村計(筆).『偽りなきコントの世界』.株式会社KADOKAWA.2023年.)
一般に面白さや笑いとは、「普通」からの「ズレ」が起きたときに生まれる感情と考えられます。たとえば運動オンチな人の動きが可笑しいのは、理想的なフォーム(普通)から「ズレ」ているからだし、先生のモノマネがクラスでウケるのは、そのモノマネが本物の先生の姿(普通)から「ズレ」ているからです。「普通はこうなのに○○」という状況が生じたとき、私たちはそれを「面白い」と感じるのです(芸人言葉で言うところのフリ/オチ)。
日本人の誰もが知る国民的ギャグマンガ『ドラえもん』の例で言うとこんな感じです。
・歌がヘタクソなのに自分では天才だと思い込んでいる(ジャイアン)
・ネコ型ロボットなのにタヌキにしか見えない(ドラえもん)
・便利なひみつ道具を手に入れた、なのに調子に乗ってしっぺ返しを食らう(のび太)
う大さんの言う「二人の間の争いによって生じる摩擦熱」というのも、このズレを生むための方法論と解釈できそうです。つまり、登場人物A(ツッコミ役)を「普通」としたとき、その「普通」から登場人物B(ボケ役)がズレているとき、そこに笑いが生まれるというということです。お笑いの基本フォーマットがコンビ(ピンでもトリオでもなく)なのは、「普通vsズレ」という対立構造が明確なために笑いを生み出しやすいからなのかもしれません。
さらにう大さんは「奇人同士の正義を衝突させる」ことを好むと述べています。つまりAさんから見るとBさんが「ズレ」ているけれど、Bさんから見るとAさんが「ズレ」ている。というか観客から見たら2人とも「ズレ」てんだけどね……という、二項対立が二重にも三重にも重なる構造が、かもめんたるの独特な面白さのヒミツなのでしょう。
この「対立による摩擦熱」理論を前提としたうえで、さらに本書の内容を深掘りしていきましょう。う大さんは「面白いコント」の構成要素として大きく2つの条件、①「キャラクター」と②「構成」を挙げています。
①キャラクター=「明確な行動原理」
笑いは「普通からのズレ」による摩擦熱であると述べました。しかしズレていれば何でもよい、適当に無茶苦茶をやればいいというわけではありません。舞台上で何の脈絡もなくオシリを出したり、奇声を発したりしても、それはただただサムいだけです。「普通からのズレ」を伴う行動なのに、サムい。それはなぜなのか? う大さんの答えは「キャラクターの行動原理」と、それによるリアリティーの有無です。
僕は、そのキャラクターの行動原理が見えないのが嫌なんですよ。どんな突飛な行動であっても、そのキャラクターがそれによってストレスを解消できるとか、心の安寧を得られるとか、何らかのメリットがあればいい。(中略)ボケがボケを言いたいだけのボケになっていると、途端にそのコントをどうやって観たらいいかわからなくなるんです。
(出典:同書)
人物を造形するとき、いちばん大事なのは、その人が何に快感を覚えるかということだと思うんです。(中略)おもしろいやりとりでも、そのキャラクターの行動原理に反しているとウケないんです。
(出典:同書)
その人物は何に快感を覚え、何を目的としているのか? そしてなぜその行動をしたのか? という行動原理が明確になることで、言動がリアリティーと説得力を帯びる。逆に行動原理があいまいだったりいい加減だったりすると、言動にリアリティーがなくなり「面白さ」が損なわれる。要するに言動がウソ臭くなって冷める、ということになるのです。
マンガの講義などでも「キャラクターをつくり込むのが大事」とよく言われますが、これはつくりものの世界を「本物っぽい」と読者に認識させ、心地よく物語に入り込ませるためにも必要なことなのですね。デザインやイラストなどでも、そこに描かれるビジュアルや風景などはつくりものだとしても、それらが「本当っぽい」と鑑賞者に思わせることで初めて心に訴えることも可能になるでしょう。
荒唐無稽な笑い話をつくるにしろ、あり得ないぶっ飛んだファンタジーの世界を描くにしろ、「リアリティー」はすべてのクリエイティブの基本なのです。
②構成=「大喜利の答え」
次に、面白いコントの「構成」、いわゆる設定の部分とはどんなものでしょうか? う大さんは端的にこう述べています。
「笑いの構造がしっかりしているネタって何?」と聞かれたら、シチュエーションが大喜利の答えになっているコントと答えます。
(出典:同書)
そのうえでう大さんが挙げている「笑いの構造がしっかりしているネタ」の例は、お笑いコンビさらば青春の光の『ぼったくりバー』というネタ。バーでお会計を頼んだら、その金額が「万、億、兆、京、垓……」と進んで、最終的に「200那由多(なゆた)3万円」を請求されてしまうというネタです。これは「こんなバーは嫌だ! どんなの?」という大喜利の答えになっているので、設定の時点で面白いのです。
優れた設定=大喜利の答え、というこの理論は、コントだけでなく、マンガの設定づくりやキャラ造形などあらゆるクリエイティブに応用できる考え方です。
・こんなロボットがあったら最高!どんなの?
→ポケットから魔法のような道具を出してくれる(『ドラえもん』)
・こんな海賊がいたらユニーク!どんなの?
→腕や全身がゴムのように伸びる(『ワンピース』)
・こんな上司は嫌だ!どんなの?
→身体が2等身で、息子を溺愛しすぎている(湯婆婆)
・こんな電話があったら最高! どんなの?
→小型のパソコンとしても使える(iPhone)
クリエイティブのコンセプトづくりなどに迷ったときは、「こんな○○は××だ!」といった “大喜利” を自分に出題し、それに答える方法を考えることで、いいアイデアが浮かぶこともあるかもしれません。
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普段あまり聞けない、お笑いのプロによる「ガチ」な創作論に触れられる本書。面白いことが好き!自分でも何かつくってみたい! という方はぜひ手に取ってみてくださいね。
(参考)
岩崎う大(著)中村計(筆).『偽りなきコントの世界』.株式会社KADOKAWA.2023年.
※書影はKADOKAWA様より使用許諾をいただいたうえで使用しております。