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「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art –No24:『素描コレクション展』 について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

今回ご紹介するのは『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』での展示作品をいくつかご紹介します。

『素描(そびょう)』とは、芸術家が作品の構想を練るための下描きであり、また作品の構図を模索するため描いた部分的なスケッチやクロッキーなどの事で、制作の事前準備やまた完成後に描く場合もあり、目的も画材も様々です。

完成度に関わらず作者の意図・思考やあわせて制作の過程などが見てとれて、たいへん魅力的です。

この展覧会はルネサンスからバロックという芸術様式の変化を楽しめるもので、ルネサンスの古典の模範とする調和の取れた均衡性、その静的な様式からバロックの感情的な表現と動的な様式までを鑑賞できる展覧会です。

展示の構成が「第1章:イタリア」・「第2章:フランス」・「第3章:ドイツ」・「第4章:ネーデルランド」

※展覧会展示作品の画像・クレジットは展覧会公式サイトからの引用です。

第1章『イタリア』

まずご紹介するのは、展示構成の第1章『イタリア』から_

【 フェデリコ・バロッチ Federico Barocci『 Head of a Man Seen from Behind / 後ろから見た男性の頭部』1612年 36.7×25.3cm 黒と赤のチョーク、混色したチョーク、黒の枠線、青色の紙 スウェーデン国立美術館蔵 (Nationalmeseum)  / Stockholm スウェーデン】 ※ソース/画像引用元:https://drawings2025.jp/highlight.html 『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』HP

こちら題名の通り、後ろから見た男性の頭部を軽快で素早いタッチで描いています。太い首や耳に使われているオレンジと茶系の色調が印象的です。この色合いですが、クレジットで「混色したチョーク」とありますね。この時代のチョーク、パステル、クレヨン等は作者自身が顔料や油分をこね乾燥させて自作しています。自分が必要とするカラーを作って描きました。それにしても、シンプルで荒いタッチで頭部のボリューム感や光の方向を表現し、素描にも画力を感じる一作です。そして、本展覧会公式サイトの解説文によると、現在ルーヴル美術館に所蔵される油彩《キリストの割礼》で、手前にひざまずく若い羊飼いの頭部習作。との記載があります。(※下線部引用:『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』HP 第1章イタリア)

こちらが、フォデリコ・バロッチ作の《キリストの割礼》です。さてどの部分の素描だったか分かりますか?

【 フェデリコ・バロッチ Federico Barocci『 La Circoncision / 割礼 』1590年 ルーブル美術館蔵 (Musée du Louvre) / Paris フランス】 ※ソース/画像引用元:https://collections.louvre.fr/en/ark:/53355/cl010064437 Louvre Collections HP

そう!画面の左下に棒杖を露出した肩に掛けてひざまずく男性(解説文の「若い羊使い」)です。

空間に浮かぶ右の天使から左の天使へ、長い蝋燭をへてこの男性の後頭部に、さらに横たわる羊へと画面を大きくキリストを囲んでCの字を形作る視線誘導に欠かせない部分です。

続いても『イタリア』から_

【 パルミジャニーノ(フランチェスコ・マッツォーラ) Parmigianino (Francesco Mazzola)『 Study for the “Madonna dal collo lungo” with the Infant St. John and a Male Saint; a Man Walking to the Left / 聖ヨハネと男性聖人を伴う「長い首の聖母」のための習作、 左に向かって歩く男性 』1540年 9.0×9.5cm ペン、褐色インク、灰色の淡彩、赤チョーク、紙 スウェーデン国立美術館蔵 (Nationalmeseum)  / Stockholm スウェーデン】 ※ソース/画像引用元:『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』HP

わずか9センチ四方の紙に描かれた習作です。この小さな紙にペンやチョークで描かれています。作品のための構想イメージをかなりラフな状態で素描しています。展覧会の公式サイトの解説には、フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されるパルミジャニーノの油彩の代表作《長い首の聖母》に関連づけられる習作と記載されています。(※下線部引用:展覧会公式サイトhttps://drawings2025.jp/highlight.html

その油彩画がこちら、

【 パルミジャニーノ(フランチェスコ・マッツォーラ)Parmigianino (Francesco Mazzola)『 Madonna and Child with Angels (Madonna with the long neck) / 天使たちの聖母子(首の長い聖母) 』1534-40年 216.5 x 132.5cm 油彩画 ウフィツィ美術館蔵 (Gallerie degli Uffizi)  / Firenze イタリア】 ※ソース/画像引用元:https://www.uffizi.it/en/artworks/parmigianino-madonna-long-neck ウフィツィ美術館 HP

上に挙げた素描とはずいぶん構図が変わっています。構想を模索中の素描の一枚でしょう。最終的な構図がまとまるまではこうした素描を繰り返したことでしょう。

それにしても不思議な絵画です。画面の右下の隅に描かれている、巻物を両手で広げてた人物は、構図として幼子への視線誘導でしょうか、ただ描く大きさとしては不思議な存在に見えます。また、聖母の膝の上で眠る幼子の胴もやや長いです。まるで磔刑の後のキリストの姿のように。観る者の視線が幼子の顔から胴へそして右足へとが移り、左端の聖母を見る天使が持つ金属の壺にまで移動します。その表面にはキリストの磔刑のイメージが映っています。分かりますか?

第2章『フランス』

次は第2章『フランス』からは1点取り上げました。

【 ウスタシュ・ル・シュウール Eustache Le Sueur『 Kneeling Shepherd / ひざまずく羊飼い 』 35.5 x 22cm 黒チョーク、白チョークによるハイライト、褐色の紙 スウェーデン国立美術館蔵 (Nationalmeseum)  / Stockholm スウェーデン】 ※ソース/画像引用元:『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』HP

頭部に比べて太い首、まくった袖から見える両腕、地面を踏む足、この羊飼いのたくましい肉体を如実に描いています。腿の上には一頭の羊が首をうなだれています。ハーフトーンカラー(中間色)の紙に黒白のチョークのみで描かれているにもかかわらず、この男性に存在感がやどっています。

たいへん力強い素描の例だと思います。

第3章『ドイツ』

第3章「ドイツ」から_

【 アルブレヒト・デューラー Albrecht Dürer『 Portrait of a Young Woman with Braided Hair / 三編みの若い女性の肖像 』1515年 42.3 x2 9.4cm 黒チョーク、木炭、紙 スウェーデン国立美術館蔵 (Nationalmeseum)  / Stockholm スウェーデン】 ※ソース/画像引用元:『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』HP

デューラーはたいへん写実的な絵画で名作を多く残したドイツのルネサンス期の画家です。タイトルは『三編みの若い女性の肖像ですが、決して「若さ」を感じません。この素描での対象(モデル)は若い方だったかもしれませんが、作者デューラーが見据えたものは若さではなく、その姿の内側に潜む内面性であり、どこか虚無な姿として描いており、その表情は繊細かつ精緻です。

第4章『ネーデルランド』

最後の第4章「ネーデルランド(現在のベルギー、オランダ北部)」から2点_

【ヘンドリク・ホルツィウス Hendrik Goltzius『 Selfportrait / 自画像 』1590-91年頃 36.5 x 29.2cm 黒、赤、黄のチョーク、白チョーク、黒の枠線、紙 スウェーデン国立美術館蔵 (Nationalmeseum)  /  Stockholm スウェーデン】 ※ソース/画像引用元:https://drawings2025.jp/index.html 『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』HP

ホルツィウス自身の自画像で特に頭部に集中して描いています。右方向からの柔らかな光を受けた顔面の青色の瞳に赤い耳、眉や口周りの髭など実に克明に描き出しています。当時の服装が大まかな描き方ですが、垣間見れますね。クレジットには載せられていませんが、その衣装の襟の部分のホワイトが描いた用紙の色であるなら、背景の方に黄緑色が使われているかもしれません。

【コルネリス・フィッセル Cornelis Visscher『 Sleeping Dog / 眠る犬 』17世紀半ば頃 12.2 x 17.2cm 黒と赤のチョーク、黒の淡彩、黒の枠線、紙 スウェーデン国立美術館蔵 (Nationalmeseum)  /  Stockholm スウェーデン】 ※ソース/画像引用元:『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』HP

力のない四肢を横たえて眠りこんでいる犬の姿を縦約12センチと横17センチほどの小さな紙に描かれています。起こさぬよう気遣いながら短い時間で描いたのかもしれません。顔から首へそして胸の辺りの赤のチョークの色合いが印象的で、呼吸で腹部がゆっくりと上下していそうです。この小さな素描はぜひ実物を見たいですね。北欧の都市ストックホルムにあるスウェーデン国立美術館のコレクションの一つです。

今回掲載した作品(参考画像は除く)はすべて『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』で観覧できます。この展覧会の展示は光や室温の変化に敏感な素描の保護のために照明を暗くしています。デッサンやクロッキーなど表現基礎を学んでいる方、必見ですよ!

この展覧会はJR【上野駅公園口改札】から出て徒歩1分、改札から出て最も近い美術館での開催です。その先しばらく歩くと東京都美術館もありますよ。

夏休みの間に本物の「素描」を見に出かけましょう!

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【展覧会情報】
『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展』
2025年 7月1日(火)~9月28日(日) 国立西洋美術館(東京都・台東区上野公園)

公式HP
https://drawings2025.jp/index.html


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