Artist 鳥越一輝 Special Interview

田川美術館主催のタガワアートビエンナーレ「英展」にて作品「FACE」がグランプリを受賞。
第2回枕崎国際芸術賞展にて作品「INOCHI」がDream Come True賞を受賞など、「九州派の系譜を受け継ぐ若手アーティスト」として、最も注目を集めているアーティストの1人である鳥越一輝(とりごえ かずき)氏。

専門学校 日本デザイナー学院九州校の講師でもある鳥越氏にお話しを伺うことができました。

絵を描き始めたきっかけ

描くことに興味を持ったのは、保育園で昆虫を描いたときのことです。

自分でも上手に描けたと感じていた絵を、保育園の先生が、みんなの前で褒めてくれたことが本当に嬉しかったんです。この出来事が、私が絵を描きはじめたきっかけとなっています。

小学生になっても、学校の授業が終わると、すぐに家に帰り、絵を描いたり、粘土を触ったりと、創作することを続けていました。

中学生になって少しずつ進路を考え始めても、「大人になっても絵を描いていけるような進路」というものを重視していましたね。そんな中で、絵を描き続けることができる高校を探していたとき、デザイン科を有する「筑陽学園高等学校」を知り、進学をすることとなりました。今でも、筑陽学園高等学校で3年間、しっかりと美術の基本を学べたことが、私の礎になっています。

保育園の先生に褒められて創作をすることが大好きになった少年が、そのまま成長していった姿が今の「鳥越一輝」という感じですね。

師との出会い

高校を卒業した後に「専門学校 日本デザイナー学院九州校」に進学をしました。

学生時代は、日々の課題制作に追われる毎日を過ごしていましたが、それを苦に感じることはなかったですね。そもそも作品を制作することが大好きでしたし、将来に繋がる学びであるということも理解できていましたので。

一方で、描くことを理解して、それが楽しくなっていくに連れて、「どうやったら、今後も描き続けられるのだろう」という小さな不安のようなものも生まれてきました。そんなときに出会ったのが、恩師でもある吉浦拓三(よしうら たくぞう)先生です。

初めて吉浦先生が担当された授業を受ける日に、ご自身の作品を見せてくれたことがあったんです。

吉浦先生の作品を見た瞬間、私がこれから描いていきたい作品というものが見えたような気がしたんですよね。電流が走ったっていうやつです。

先生に出会ったあとは、絵の具などの画材も、吉浦先生が使っているものと同じものを揃えたりしていました。

学生時代から現在に至るまで、吉浦先生との出会いが、私のアーティスト活動に与えた影響は計り知れないです。

 

受賞と世界的アーティストとの違い

2007年に専門学校を卒業した後も、仕事をしながらアーティスト活動を続けていました。年に1回は個展を開催するなど、10年以上も吉浦先生と絵を描くことを追求し続けていました。

そして、2019年には「第1回タガワアートビエンナーレ英展大賞」「第2回枕崎国際芸術賞展Dreams Come True賞」を受賞することができました。

また、この2賞を受賞をした2019年には、ニューヨークで開催したグループ展にも参加しました。その際に、MoMAガゴシアンなどの世界的に著名な美術館やギャラリー、ダスティン・イェリン氏のアトリエなども訪問をさせていただき、その規模の大きさと、内容の充実度に驚きを覚えました。それと同時に、「このような場に作品を飾ってもらえているアーティストと自分の違いは何なのか」という疑問も浮かんできました。結局、ニューヨークにいる間に答えまでたどり着くことは出来ませんでした。

 

新たな出会い

その後、日本に戻り受賞記念展を村岡屋ギャラリーで開催させていただきました。そして、そこでの出会いが、ニューヨークで見つけた疑問の答えを見つける契機となりました。

その契機となった人物こそが、ギャラリーモリタのオーナー/森田俊一郎 氏です。当時、わたしの作品に惚れ込んでくれた中国人の李雨渓氏から森田氏を紹介していただきました。

この森田氏との出会いから、これまで知らなかった世界のアートシーンに触れることができた気がしました。それは、私にとって初めてとなるアートマーケットとの出会いでもありました。

長年活動をしてきた九州の地に、これほど多くの魅力的なアーティストがいるということを知れたのも、このタイミングです。

ただ、「アートは常に世界を意識していなければならない、ドメスティックで終わるのではなく、グローバルな感覚を養わなければならないんだ」という価値観を明確に認識できたのは、森田氏との出会いのおかげですね。

森田氏と何度もお話しをさせていただく中で、2020年の「博多阪急KyushuNewArt」にも出展をさせていただくことが出来ました。今だからこそお話し出来るのですが、実はこの企画展へのお誘いを最初にいただいた際、お断りをさせていただいていたんですよ。当時、お断りした理由は様々あったのですが、端的に言うと、新たな一歩を踏み出すことへのハードルを自分だけでは乗り越えることが出来なかったといった感じです。

ただ、そのハードルを越えさせてくれたのが「人との出会い」だったんです。そして、これこそがニューヨークで見つけた疑問の答えに近づく糸口であるということにも気づきました。

私の場合は、李氏の熱意に背中を強く押してもらい、森田氏が腕を引っ張って、世界のアートシーンの入口に私を連れ出してくれた感じです。

この企画展への参加を決意したときから、自分の活動テーマの1つに「自分のやれることは全てやる!昨日まで自分が作っていたちっぽけな世界の殻を打ち破り、新しい明日を作るんだ」という意識が根付きました。それはわたしの作品作りのテーマにも繋がります。つまり、「九州派」の方々が目指した前衛であり革新なんですね。 

TORIGOE WATER STROKE

森田氏との出会いは、「九州派」のアーティストや、彼らから産み出された作品との出会いも引き連れて来てくれました。

奇跡の前衛集団と言われた「九州派」との出会い、そして、それを調べていくことで、自分が描く際の「素材」についての認識も変化してきました。 

私は、様々な素材を理解して、制作に生かせるように研究を行なっていきました。まずは、珪藻土や漆喰、石膏など、容易に手元に揃えられるものから素材を集めて、そこから自分は何を表現出来るかを考えて試してみる。こういったことの繰り返しです。

私にとっての当面の課題はオリジナリティの追求です。これまでの世界で生み出された作品にはない「勢い」という痕跡を強く表したいと思いました。そして、さまざまな試みから導き出された結果、辿り着いたのが「」なんです。 

私は人間の手で表現するストロークの限界を打ち破りたいと思っていたんですが、「水」を使ったことで私の思う溢れるエネルギーを画面上に生み出すことが可能となりました。おかげさまで、最近スタートアップ企業の経営者の方々に、私の作品を会社内でよく展示していただいています。笑 

私の作品は、他のアーティストの方からも驚かれるくらい多量の水を利用するのですが、ただ闇雲に水をぶち撒けているというわけではなく、根底には吉浦先生から学んだ確かな技術があるんです。

私がこれまで積み重ねてきた経験と技術を最大限に活かして、素材に負けないような表現を思い通りに出すことが出来る。これが私の制作のポイントです。

 

鳥越作品のコンセプチュアルは
どのようなものか

私はアートの可能性を信じています。

私たちが暮らすリアルな世界には侵略、貧困、権利、経済など、あらゆる問題が存在しています。そんな憤りや怒りを感じることで、私はキャンパス上に全身全霊でエネルギーを注ぎ込みます。私の生み出す自由や革新、私の希いが強ければ強いほど、世界中のどこかで心を揺さぶられる人がきっといるはずだって思ってるんです。 

私の作品では、これまでも言葉ではなく、作品を通して「品性」や「知識」を視覚的に表してきましたが、それを更に言語化していくことも今後の課題だと思っています。 そのためにも、アーティストとして新たな経験を蓄積していくことを自分自身にも求めていきたいと思います。

 

鳥越一輝を語る上で外せない、
もう一人の人物

日本だけでなく世界のトップコレクターの1人としても有名である、宮津大輔氏は、現在の私についてお話しする際に外すことが出来ない人物の1人です。

私のようなアーティストとは違う目線で、私に世界中のアートと出会わせていただいております。 現在も福岡市アジア美術館にて宮津氏のコレクション展「エモーショナル・アジア」が開催中です。実はこの展覧会に合わせて、宮津氏のディレクションによる、私にとって夢のような企画展「2022.22のヌード」展をギャラリーモリタで行なうことが出来ました。

森田氏から以前、「99%の素人の方に気に入られることも大切だけれど、1%の玄人の方に認められる作品を作るべきだ」と言われたことがあり、私も同じ気持ちでした。

現在、私は宮津氏から直接アートにおける世界で一番刺激的な話を聞けるもっとも恵まれた者の1人だと認識しています。この体験を活かさなければなりません。

 

これからチャレンジしたいこと

まずは、絵画だけではなく、立体や映像、インスタレーションなどもやっていきたいと思っています。そのような表現ができないと、世界に出ていけないだろうと感じています。

次に、色んな人との繋がりを持つことです。これまでにも、自分の表現を本当に多くの人と出会わせていただいておりますが、更に多くの方と出会い、表現に活かしていきたいと考えています。

 

最後に、次世代のクリエイターに向けて
メッセージをお願いします

私もまだまだ学び続ける者の一人です。

だからこそ私も実践していることなのですが、真っ先に伝えたいことは「行動し続けること」です。 アルバイトで時間がない、なんていう若いクリエイターの方もいるのではないでしょうか。 ただ、タフな心を持って、自分から行動していくことが大切なことです。 待っているだけでは誰も声をかけてくれません。ぜひ、自分から動き続けてください。

あと、自分をキャリアアップさせてくれるような人と繋がり続けることも、ぜひ大切にして欲しいと思います。

 

 

鳥越氏の作品や最新情報は
こちらからご覧いただけます。

鳥越一輝 Instagram

ギャラリーモリタ公式

【福岡市アジア美術館】
特別展 エモーショナル・アジア 宮津大輔コレクション×福岡アジア美術館

 

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