いま、ニューヨークのアートを探る。メトロポリタン美術館 写真展「The New Woman Behind the Camera」

世界のアートの発信地ともいわれるアメリカ・ニューヨーク。今年からニューヨークに活動拠点を移し、フォトグラファーとして雑誌、広告、書籍などで活躍しているNPIフォトフィールドワークゼミ卒業生の岸本絢さんに、ニューヨーク・マンハッタンにある世界最大級の美術館、メトロポリタン美術館の写真展「The New Woman Behind the Camera」をレポートしていただきました。

7月2日からニューヨーク、メトロポリタン美術館で開催されている写真展 「The New Woman Behind the Camera (カメラを構える新しい女)」に行ってきました!

メトロポリタン美術館、通称「メット(The MET)」はセントラルパークの敷地内にある世界最大規模の美術館のひとつ。この日はコロナ禍の平日にも関わらず予想以上に多くの人が来館していました。

ニューヨークの新型コロナ感染症対策は日本と異なり、屋外ではマスクを外しても良いというルールがあります。マンハッタンの街を歩くと、道行く人のマスク着用率は1割ほど。東京ではマスクをして外出するのが当たり前だったので、なんだかそわそわしてしまいます。

一方、屋内施設や公共交通機関を利用する時はマスク着用が必須。デルタ株の感染拡大に伴い8月17日から、美術館や映画館、レストランやカフェなど、屋内施設を利用する際は新型コロナウィルスワクチンの接種が義務化されました。

さて、幅広い作品を収蔵するメットですがこの日は2階にある特設写真展スペースへ直行します。

「The New Woman Behind the Camera」では1920年代から活躍した、約120人もの女性写真家とその作品が取り上げられています。展示のポスターにもなったメインイメージは日本で初めての女性報道写真家、笹本恒子さんのポートレートです。


入り口付近に設置されたスクリーンには「マーガレットバークホワイトの写真を見て自分も報道写真家になりたいと思った」と話す笹本さんの映像が流れます。


その他にもベレニス・アボット、イモージン・カニンガム、ドロシア・ラング、ドラマール、ゲルダ・タローや、ライカの女王と呼ばれたイルゼ・ビング、シュルレアリスムやバウハウスに影響を受けたフローレンス・アンリ、メキシコ初の女性写真家ローラ・アルバレジ・ブラボー、インド初の報道写真家ホーマイ・ビャラワラ、アフリカ系アメリカ人の肖像を捉え続けたフロレスタイン・ペロー・コリンズなど、20カ国もの異なる地域出身の写真家たちの写真が展示されています。

そもそも「The New Woman (新しい女)」とは、19世紀後半から20世紀にかけてフェミニズムの理想を体現した女性たちのことで、彼女たちは自由な精神と豊かな教養を手に、男性に依存せず、女性に支配的な社会に挑み自らの道を開こうとしました。この現象は世界に広がり、生活様式や芸術の分野に大きな変革をもたらします。

こちらの展示では、写真を使って自己表現をし、同時に社会的地位の確立を目指した「カメラを構えた新しい女」について、セルフポートレート、スタジオワーク、ドキュメンタリー、前衛的表現、ファッション、広告など多様なジャンルからアプローチしています。


「ライフ」に掲載されたマーガレットバークホワイトのアフリカ系アメリカ人のスナップ。

イルゼ・ビングのセルフポートレート。


美術館内は基本的に写真撮影OK。みんな思い思いに気に入った作品の写真を撮っていて、写真撮影を禁止している美術館が多い日本との違いを感じました。


来館者は適度な距離を保って鑑賞します。新型コロナウィルス感染拡大の影響もあってか、館内はとても静かな印象を受けました。


ドロシア・ラングが捉えた日系アメリカ人強制収容の現場。


1920年~1950年という2つの世界大戦が起こった激動の時代を生き抜く「カメラを構えた新しい女」たち。彼女たちが社会的、政治的変革の現場を捉えるために最前線に立ち、性別、国籍、人種、宗教、国境などの壁を超えようとする姿勢が映し出されます。

写真展の概要をしっかり確認していなかったこともあり、見る前は女性写真家を一括りにすることに対して違和感を抱いていました。けれど、19世紀後半の男性優位社会において女性の自己実現がいかに困難だったかを、写真というメディアに限定して提示していており、展示の力強さを感じました。写真の点数も多く見応えがあり、満足度も高かったです。


同時に、写真が撮影されてから約100年がたった現代にも、当時となんら変わらない問題で溢れていることを考えさせられました。「カメラを構えた新しい女」たちを取り上げることで、社会のあり方に対して疑問を投げかけ、新しい流れの必要性を示唆する展示だったのではないかと思います。

メトロポリタン美術館 The MET Fifth Avenue
1000 Fifth Avenue, New York, NY 10028
https://www.metmuseum.org/exhibitions/listings/2021/new-woman-behind-the-camera

参考URL : https://www.bbc.com/culture/article/20210705-how-the-new-woman-blazed-a-trail-of-empowerment

 

文・岸本 絢
1989年大阪生まれ。上智大学在学中にブラジルへ留学。写真を始める。日本写真芸術専門学校フィールドワーク科卒業後、2015年より朝日新聞出版 写真部に所属。2018年に株式会社ミディアム 写真部に所属しその後フリーランスに。写真展に2015年 Nikon Salon juna21「彼の地」、2016年 台北 Wander Photography Art Space「彼地」、他グループ展に多数参加。現在、ニューヨークを拠点に雑誌、広告、書籍などのジャンルで活動中。

Aya Kishimoto

@ayakishimoto7

 

関連記事