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「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑯ ― コンスタンティン・ブランクーシ『接吻』について

コンスタンティン・ブランクーシ『接吻』について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

今回の作家の名前ですが、あれ?前にも見たような…、という方もいらっしゃると思います。そうです。実は5回ほど前の第11回にも『眠れるミューズ』という作品でご紹介した彫刻家です。そのコラムではクロード・モネ(印象派)やジョルジュ・ブラック(立体派)、そしてアンリ・マチス(野獣派)といった同時代のパリで絵画の革新をもたらした作家の作品とともに取り上げておりました。

それがこちらの作品です。

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 眠れるミューズ / La Muse endormie 』1910年 16×27.3×18.5cm 磨かれたブロンズ ポンピドゥセンター蔵 Centre Pompidou / Paris,フランス ※画像引用元:Centre Pompidou HP

 

この作品は具象表現から抽象表現への移行期(具象性と抽象性の混在)の面白さとして取り上げています。

 

今回はブランクーシ作品に焦点を当ててじっくり見てみましょう。

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 空間の鳥 / Bird in Space (L’Oiseau dans l’espace) 』1932-40年 台を含めた高さ151cm 磨かれた真鍮 ソロモン・R・グッゲンハイム美術館蔵 Solomon R.Guggenheim Museum / NY, 米国 ※画像引用元:Solomon R.Guggenheim Museum HP

 

上へ上へと伸び上がっていくフォルム(形状)が特徴的なこの作品。真鍮(しんちゅう)という金属を磨いた材料でできています。真鍮の輝きに微妙な弓形が美しい彫刻です。この作品、タイトルである鳥の個体というより、空間への『飛翔』そのものをシンプルに表現しているように見えます。円柱形の台座が繊細かつ力強いフォルムを支えています。ブランクーシは同じタイトルを持つ作品を繰り返し制作していることも多く、この「空間の鳥」もグッゲンハイム美術館の他にフランス、パリのポンピドゥーセンターなど各地の美術館に収蔵されています。

では次の作品です。

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 魚 / Fish (Poisson) 』1926年 台を含めた高さ934mm×502mm×502mm ブロンズ,金属と木材 テート・ギャラリー蔵 Tate Gallery / London, 英国  ※画像引用元:Tate Gallery HP

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 魚 / Fish (Poisson) 』1926年 台を含めた高さ934mm×502mm×502mm ブロンズ,金属と木材 テート・ギャラリー蔵 Tate Gallery / London, 英国 ※画像引用元:Tate Gallery HP

 

イギリス、ロンドンの代表的な美術館テート・ギャラリーに収蔵されている作品で、二点の画像は同じ作品を角度を変えて撮られています。『魚』というタイトルからすれば、一番上位にある形体がそのような雰囲気のように見えますね。そのすぐ下の円盤上の金属に一点で接していて磨かれたその円盤に姿が反射して映っているのが緊張感のある美しさを醸し出しています。磨かれた円盤から下の台座の形状も面白い造形で、むしろ台座という区別ではなく、最上部のブロンズ製との一体性が楽しい。そこがブランクーシの独自性だと感じます。

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 マイアストラ / Măiastra 』1912年? 73×20×20cm全体 石灰岩のベースに真鍮 ソロモン・R・グッゲンハイム美術館蔵 Solomon R.Guggenheim Museum / NY, 米国 ※画像引用元:Solomon R.Guggenheim Museum HP

 

この作品も形状がユニークで可愛らしさがありますね。前出の『空間の鳥』と同じ真鍮製で台座は石灰岩という組み合わせです。このタイトル「マイアストラ(Măiastra)」とは、彼の故郷ルーマニアの伝説の鳥であるようです。丸みを帯びた全体の一部に下部から連動した直線的な造形で結ばれています。この作品も2つの異なる素材(真鍮・石灰岩)であっても一体性を持ったフォルムだと見るべきでしょう。

※下線部引用:美術手帖HP

引用に使用した美術手帖には、面白い記事も載っています。

抽象彫刻の代表的な作例のひとつに挙げられる「空間の鳥」シリーズは、過去にニューヨークへ持ち運ばれた際、関税がこれを美術作品と認めなかったために裁判にまで発展し、工業製品と美術作品の境が問われる出来事となった(裁判はブランクーシ側が勝訴)。

※下線部引用:美術手帖HP

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 若い鳥 / Young Bird 』1928年 40.5×21×30.4cm [高さ23.5cmの石灰石と高さ60.3cmのオーク材の二つの部分からなる台座 ]ブロンズ MoMA ニューヨーク近代美術館蔵 Museum of Modern Art / NY, 米国 ※画像引用元:Museum of Modern Art HP

『若い鳥(Young Bird)』というこの作品の最上部には周囲を映すほどによく磨かれたブロンズがありますね。その下の石灰石・オーク材で構成された部分(美術館のクレジットでは:Brass on limestone base)も含めて作品の一体性を持った造形と見た方が良いでしょう。この作品は私の感想としては、先出の「空間の鳥」での垂直方向への飛翔感とは別のポテンシャル(潜在能力や可能性)を感じさせてくれます。いかがでしょうか?
この作品もいろんな方向から鑑賞してみたいですね。

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 視覚障がい者のための彫刻[I] / Sculpture for the Blind [I] 』1920年 17×29×18.1cm 縞模様のある大理石 フィラデルフィア美術館 Philadelphia Museum of Art / フィラデルフィア, 米国 ※画像引用元:Philadelphia Museum of Art HP

20cm×30cm弱の大きさのこの大理石で作られた作品は、何かを連想させるような細部の表現がありません。強いて言えば「卵」のような形に見えます。またこの形は大きな河川の河原に転がる石のひとつとも見れますね。この特定の具体性を帯びない抽象性がむしろ面白いと言えます。この造形は全く私の個人的な意見としては、大理石を削って作り出した造形物なのか、例えば、川の流れの果てにあった自然物のフォルムをこの彫刻家は価値を見出したのか、この双方ともありえるように思います。また、どこか最初の紹介しました『眠れるミューズ』にも通じます。
作品タイトル「視覚障がい者のための彫刻 [I] (Sculpture for the Blind [I]) 」について、引用先のフィラデルフィア美術館HPでは特に記載がないようですが、もしかしたら、大きさからしても触れて鑑賞することも前提にブランクーシは制作したのかもしれません。

さて、いよいよ今回の作品です。

コンスタンティン・ブランクーシ Constantin Brâncuși『 接吻 / Le Baiser 』1923-25年 36,5×24.5×23cm 石材(褐色の石灰岩) ポンピドゥセンター蔵 Centre Pompidou / Paris,フランス ※画像引用元:Centre Pompidou HP

 

この作品はまさにタイトルが具現化しています。このダイレクトさとユーモラスさが圧巻の存在感です。

これまで紹介した作品では純粋化に向かう方向性もありつつ、どこかユーモラスさもあるこの異なる要素が同居しているところがブランクーシ作品が見せる魅力の一つと言えると思います。この密着度が面白いですよね!
このポンピドゥセンター所蔵の作品と同タイトルの「接吻」作品が東京のアーティゾン美術館に所蔵されています。

そして「接吻」を含めて、コンスタンティン・ブランクーシの作品が観覧できる展覧会がこちら 『ブランクーシ 本質を象る』展。東京中央区の京橋にあるアーティゾン美術館で開かれています。
2024年の3月30日(土)から開催されているこの展覧会。さっそく桜の花見がてら、東京・京橋に出かけてみてはいかがでしょうか!
(入館が日時指定予約制なので、ウェブ予約チケットサイトで予約をします。そして大学生・専門学校生・高校生は、入館時に「学生証」・「生徒手帳」を提示すれば「無料」になります)

展覧会情報

 『ブランクーシ 本質を象る』展

会 期:2024年3月30日(土)~ 7月7日(日)
場 所:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館(東京・京橋)
公式HP:https://www.artizon.museum/exhibition_sp/brancusi/

 


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