
デザイン深化論──携帯電話から生まれたエモーションの美学 【Vol.1】携帯電話のデザイン改革
文 / 写真:砂原哲
コーディネート:竹島弘幸 / 竹内基貴
PicoN!読者のみなさん、こんにちは。砂原哲と申します。「au Design Project」 のプロデューサーをしています。今回はその「au Design Project」のご紹介をしたいと思います。
みなさんは、「INFOBAR」という名前の携帯電話をご存知ですか?「INFOBAR」は2003年10月にauから発売された携帯電話です。
今年成人式を迎えた人たちが生まれた2004年~2005年の例えば表参道あたりにタイムスリップすると「INFOBAR」を手に歩く人とすれ違うかもしれません。iPhone登場前夜の東京の風景です。「INFOBAR」のカラーバリエーションは4色。それぞれ「NISHKIGOI」「ICHIMATSU」「BUILDING」「ANNIN」とユニークなカラー名称がついています。

出典:ⓒKDDI
「INFOBAR」はアニメや漫画にも多く描かれています。最近だと『東京卍リベンジャーズ』に登場します。稀咲鉄太の使っている携帯電話が「INFOBAR」です。『東京卍リベンジャーズ』のストーリーは2007年の設定らしいです。だとすると稀咲は3~4年「INFOBAR」を使っている計算になります。1年ごとに携帯電話を買い替える人も多かった時代ですから、稀咲は当時としては結構長く大切に使ってくれている。これはすごく嬉しいですね(笑)
「INFOBAR」は私が立ち上げた「au Design project」から生まれました。デザインを手がけたのは日本を代表するプロダクトデザイナーの深澤直人さん。当時の女子高生たちはケータイをラインストーンなどでキラキラにデコってファッションアイテムとして楽しんでいました。いわゆる「デコ電」ですね。今だとスマホカバーがその役割をしていますが、当時は携帯電話本体に装飾を施すのが一般的でした。そして授業中みんな画面を見ないでキーを打っていました。「INFOBAR」の特徴的なキーデザインはこれがヒントになっています。
一方、世界中でインテリアデザインに注目が集まっていた時代でもありました。裏原宿などに生息していたファッション感度が高くお金のある人たちはイームズやプルーヴェの椅子などで自分の部屋を飾る。ただそのお洒落な空間に合う家電がない。冷蔵庫もダサい、固定電話機もダサい、炊飯器もダサい、日本の家電のデザインはどれもこれもダサい、見えないように隠すしかない。そんな不満に応える家電が登場し「デザイン家電」ブームが起こります。
パソコンの世界ではインテリアに溶け込むトランスルーセント(半透明)な筐体がポップで美しい初代iMac (1998年)が登場していました。

画像引用元:Wikimedia Commons|the first computer from Apple
しかし携帯電話は家電同様の有り様でした。感度の高い人たちセンスに合致する携帯電話デザインが皆無。そうした人たちは海外製の携帯電話、モトローラとかノキアとかエリクソンといったメーカーの携帯電話を愛用していました。私自身も携帯電話デザインに不満を抱いている一人でした。女子高生たちはデコることで自分たちの欲望に叶うものにしていましたが、そもそもの携帯電話本体のデザインをなんとかしたかった。

出典:AdobeStock
「au」という携帯電話サービスのブランドがスタートしたのは2000年7月。誕生したばかりでドコモやJ-PHONE(現ソフトバンク)と比べ見劣りするところも多かったんです。この新ブランド「au」のブランド力向上の任を担った部門に当時の私は所属していました。デザインの力で「au」をおしゃれでセンスのいいブランドにしたい!できる!その思いで2001年2月、「au Design project」の前身となるプロジェクトを始動させたのでした。
(vol.2へ続く)
砂原哲 | SUNAHARA Satoshi
デザインプロデューサー / KDDI株式会社 エキスパート
2002年、携帯電話のデザインを革新するプロジェクトau Design projectを始動。2003年、第1弾モデルINFOBARをリリース。以降、深澤直人氏、マーク・ニューソン氏、草間彌生氏など数多くのデザイナー、アーティストとの協働により、70機種を超えるau Design project / iidaブランドの携帯電話・スマートフォンの企画・プロデュースを手がける。INFOBAR、talby、neon、MEDIA SKINがニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されるなど、プロデュースした携帯電話・スマートフォンは数多くのミュージアムにコレクションされている。グッドデザイン賞金賞、DFAアジアデザイン賞大賞など受賞歴多数。著書に「ケータイの形態学」(六耀社)がある。
au Design project ウェブサイト