
カルチャーが生まれる街・渋谷の最前線「DIG SHIBUYA 2025」レポート
アートとテクノロジーの祭典「DIG SHIBUYA 2025」。2025年2月8日〜11日の4日間にわたり、渋谷を舞台に開催されました。
世界中のアーティストに公共空間や商業施設を開放し、実験的な取り組みを展開した本イベント。
会場を訪れた筆者が、クリエイティブテックの最前線をレポートします。
また、オープンなマインドでコミュニティを形成している点も、このイベントの魅力です。
今回は、「DIG SHIBUYA 2025」のPRを担当されている寺西藍子さんにお話を伺い、企画の背景や今後のビジョンをお聞きしました。
この記事では、「DIG SHIBUYA 2025」のオープンでグローバルな考え方をお伝えするとともに、アーティストとスタートアップによるクリエイティビティの数々をご紹介します。
世界から注目される渋谷でどんなカルチャーが生まれているのか、ぜひご覧ください。
(トップ画像キャプション:「DIG SHIBUYA 2025 presents: Shibuya Crossing Night Art」画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
多様性からカルチャーが生まれる街

「パイナップル・スクランブル by 大平龍一」渋谷公園通りで食事や交流を楽しむ人々の様子(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
2024年にスタートし、今年で2年目を迎えた「DIG SHIBUYA」。アートとテクノロジーを掛け合わせている点が非常にユニークですが、どのようなプロセスを経てイベントが作られたのでしょうか。企画の背景について、寺西さんに伺いました。
渋谷の文化的資産に着目
企画の発端となったのは、新型コロナウイルスの影響を受けたエンターテイメント施設のリサーチだったそうです。渋谷ではナイトタイムエコノミーが活発ですが、コロナ禍で閉鎖せざるを得ない店舗が相当数に上りました。
そこで、渋谷区の担当部署で調査したところ、カルチャーを生み出しているスポットが170ヶ所もあると分かりました。そのため、「そうしたベニュー(※行事または活動の現場のこと)を文化的資産と捉えて、街に活気を取り戻せないかと考えた」と言います。
また、渋谷区ではスタートアップの支援に力を入れており、ここ数年、海外から「渋谷で起業したい」という声が多く寄せられているそうです。その理由を尋ねたところ、多数のスタートアップが「渋谷にはカルチャーがあるから」と答えたとのこと。
そうした声を聞いて浮かんだのが、渋谷のカルチャーを広く発信して、世界中の人々にこの街に来てもらおうというアイデアでした。その後、人と人が出会って刺激を受けるようなイベントを企画しようという話に発展していきました。
テック系のスタートアップとアートの融合
イベントを企画するにあたり、渋谷で活動するテック系のスタートアップに焦点を当てることになりました。日本のスタートアップが自国に収まるのではなく、視野を広げて成長するためには、グローバルな視点をもつ海外の人たちと交流し、お互いに刺激し合うことがとても重要だと言われています。
渋谷区は「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」を基本構想とし、ダイバーシティを推進しています。異なる背景を持つ人々が交流する様子を見てきた寺西さんは、「多様性からカルチャーが生まれる渋谷の特性を、街に実装できないかと考えました」と話してくださいました。
加えて、起業家とアーティストの思想に共通点を見出したそうです。「『この街がこうなったらもっと良くなる』という理想の世界を描き、実現する方法を探る姿勢が似ていると感じます」と寺西さん。
そこで、XRやAI、Web3などのテクノロジーとアートを掛け合わせたプロジェクトにフォーカスし、テック系のスタートアップやアーティストの活動をショーケースする「DIG SHIBUYA」の企画が始動しました。
新たなカルチャーを育む土壌作り
さらに、「DIG SHIBUYA」は、当初から新たなカルチャーを育む土壌作りも進めてきました。
テクノロジー、アート、カルチャー分野におけるオリジナルの展示企画やイベント企画を毎年募集し、チャレンジャーに発表の機会を提供しています。この公募制度により、国内外の起業家やアーティストが、革新的なアイデアを形にする実験場としてプロジェクトを行うことで、さらなる飛躍を遂げるチャンスになるのです。
加えて、本イベントを運営するSHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会が、スペースの無償提供や広報PRのサポートなど、バックアップ体制を整えているのも魅力的です。このように、新たなカルチャーが生まれる場を形成し、「渋谷の特性を街に実装する」という目標に向けて計画が進んでいきました。
「DIG SHIBUYA 2025」レポート

ハチ公前広場 DIG SHIBUYA サイン(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
多様性からカルチャーが生まれる街という特徴に注目して企画された「DIG SHIBUYA」。
ここでは、「DIG SHIBUYA 2025」のレポートを通して、各スポットでどのような作品が展開されたのかご紹介します。
渋谷区立北谷公園

渋谷区立北谷公園 入り口
渋谷区立北谷公園は、人々の交流や発信を促すスポットで、イベントスペースとカフェが併設されています。この会場で行われた展示やイベントを3つご紹介します。
パイナップル・スクランブル by 大平龍一

「パイナップル・スクランブル by 大平龍一」(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
彫刻家・大平龍一によるプロジェクト「パイナップル・スクランブル by 大平龍一」。彼が魅了され続ける「パイナップル」をモチーフにした大きな彫刻作品が、まちなかに登場しました。この彫刻は、神南小学校の子どもたちとアクションペインティングの手法で彩色したもので、パイナップルの山車「移動する彫刻」として制作されました。
また、2月9日には、渋谷公園通りを交通規制して、道路のあちこちに「移動する彫刻」を出現させ、イベントや特別ライブなどを行ったそうです。来場者がライブやキッチンカーでの食事を楽しみ、散策して彫刻に出会うというシチュエーションは、まさにカルチャーが生まれる瞬間だったと言えるでしょう。
TYO「DO the XR(Shibuya XR festival)」

TYO「DO the XR(Shibuya XR festival)」「舞踏石井組」の舞踏
TYOは、広告映像を中心としたコミュニケーションコンテンツの戦略立案・企画・制作を手掛けるプロデュースカンパニーです。
今回のイベントでは、「DIG SHIBUYA」の公募団体として採択され、XRカルチャーフェスティバル「DO the XR(Shibuya XR festival)」を開催しました。XRテクノロジーの技術を活用し、様々なジャンルのアーティストを、デバイスを通して公園に出現させました。
タブレットを利用すると、現実の風景にアーティストが登場し、間近でパフォーマンスを鑑賞できます。また、VRデバイスとヘッドホンを装着し、よりリアルな体験ができるコーナーも。
実際に試したところ、どの角度から見ても動きが滑らかで、目の前にアーティストがいるかのようなダイナミックさに圧倒されました。
現実とバーチャル空間が混ざり合った新鮮な体験でした。
SHIBUYA PARK MUSIC Silent Live

「SHIBUYA PARK MUSIC Silent Live」
渋谷の公園で行うアーティスト応援プロジェクト「SHIBUYA PARK MUSIC」。公園で自由に演奏したり、気軽にライブを楽しんだりできる場を創出しています。
今回の「Silent Live」は、ライブをヘッドホンで聴くユニークなイベントです。観客がヘッドホンで没入感を味わえるとともに、近隣の環境に配慮することで、都市と音楽が共存できるという取り組みです。
筆者も体験しましたが、音質が非常にクリアで、アーティストの息遣いまで聞こえるため、配信される楽曲を聴くのとはまったく異なる感覚でした。パフォーマンスを見ながらじっくりと音楽に耳を傾けられるので、ライブを独り占めしているような贅沢なイベントでした。
SLOTH JINNAN

SLOTH JINNAN 入り口
次にご紹介するSLOTH JINNANは、「クリエイティブな日常を共につくる」がコンセプトのコワーキングサロンで、ギャラリーや多目的スペース、バーなどが併設されています。人々が交流する場を作り出しているのが特徴です。
ここでは、AIの技術を活用した作品を2つご紹介します。
Florian Zumbrunn with Jetski「Odysseys」

Florian Zumbrunn with Jetski「Odysseys」
マルチメディアアーティストのFlorian Zumbrunnと、元Googleのクリエイティブ3人で立ち上げたクリエイティブ集団Jetskiによる作品「Odysseys」。Zumbrunnは、ジェネラティブアートや絵画・印刷の手法を駆使して、デジタルとアナログを横断する作品を制作しています。
ジェネラティブアートとは、コンピューターのアルゴリズムを利用して生成する作品のことです。また、データを学習させたジェネレーティブAIを活用すると、予測不可能な結果が生まれるのがユニークな点です。
繊細なモザイク画のように見える「Odysseys」は、ルールと偶然性、そしてアナログを融合させて、新しさと「慣れ親しんだ絵画を見ている安心感」を同時に生み出していると感じました。
NFFT「NFFT2025」

NFFT「NFFT2025」(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
NFFT(New Future AI Fashion Technology )は、世界で活躍するAIクリエイターの最新ファッション作品を集め、Digital AI Fashion Movie 展を開催するプロジェクトです。
会場では、AI Prompt DirectorやAI Filmmakerが手がけた、世界トップレベルのAIファッションMovie 作品が公開されました。
“Regeneration”をテーマに、32名のクリエイターが創作した作品の数々。彼らの美意識から生まれた世界観が、生成AIによってリアルに立ち上がる様子は圧巻です。
また、モデルや風景、音楽に至るまで、すべて生成AIの技術を使って制作されたそうです。映像の中のファッションやビジョンが現実に変わっていくような感覚を味わいました。
勤労福祉会館

勤労福祉会館
筆者が次に訪れた勤労福祉会館は、渋谷区で働く人の学びや福祉を向上させるための施設です。スポーツやサークル活動をしたり、コワーキングスペースを利用したりできます。
ここでは、仮想空間に焦点を当てた映像作品を2つご紹介します。
XRT「Around The Corner」

XRT「Around The Corner」(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
XRTの「Around The Corner」は、集合的記憶が作られていく様子をビジュアル化した作品です。
1970年代の香港の公共住宅を舞台にデジタル空間を再構築し、当時の住民と観客がバーチャルで交流することで、記憶を形成します。
当時の風景は失われつつあるそうですが、仮想空間では時間の概念を超えて人々がつながりを持てるのです。
大きなスクリーンに投影された映像を前にすると、過去と現在の境界が薄れていき、自分も記憶の一部だという感覚になりました。
サイバー南無南無「サイバー南無南無@渋谷」

サイバー南無南無「サイバー南無南無@渋谷」(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
サイバー南無南無は、仏教とテクノロジーアートが融合する体験を生み出すクリエイターグループです。
「サイバー南無南無@渋谷」では、テクノミュージックにアレンジされた読経と、立方体を組み合わせて作られたボクセルアートで、独自の世界を出現させました。
仏教の荘厳さとテクノロジーアートのポップさという異色のコラボレーションが魅力的で、思わず見入ってしまいます。
渋谷は都会のイメージがありますが、仏教の寺院や施設も多く存在します。街の背景にある文化を思い起こし、現代に重ねる試みでもあると感じました。
MIYASHITA PARK

MIYASHITA PARK 宮下公園北バイク駐車場(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
最後にご紹介するのは、MIYASHITA PARKです。MIYASHITA PARKは、公園やショップ、ホテルなど、人々の憩いの場やカルチャーに触れられる施設が充実しています。
そんなMIYASHITA PARKの地下で、NEORT株式会社による「 BYOD² – BRING YOUR OWN DATA & DISPLAY」という展覧会が開催されました。
ここでは、宮下公園北バイク駐車場で行われた展示の様子をお届けします。
NEORT「 BYOD² – BRING YOUR OWN DATA & DISPLAY」

NEORT「 BYOD² – BRING YOUR OWN DATA & DISPLAY」
NEORT株式会社は、デジタルテクノロジーを駆使した新しいアートのためのプラットフォームを運営する組織です。
「 BYOD² – BRING YOUR OWN DATA & DISPLAY」は、誰もが自由にデジタル作品をアップロードしたり、作品を投影する機器を持ち込んだりできる、オープンな展覧会です。世界中から集まった作品がモニターにランダムに映し出され、刻々と変化していきます。暗闇の中で無数の作品に囲まれていると、渋谷のスクランブル交差点に佇んでいるような感覚になりました。
開かれた場でクリエイティビティが重なり合い、多様性からカルチャーが生まれる渋谷を体現していると感じる展示でした。
グローバルでオープンなコミュニティ

「DIG SHIBUYA 2025 オープニングイベント& ミートアップ」の様子(画像提供:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会)
ここまで、「DIG SHIBUYA 2025」で展開された様々なプロジェクトをご紹介してきました。
本イベントを通して見えてきたのは、誰もが積極的に関われるオープンな考え方です。
来場者が単に作品を鑑賞するのではなく、インタラクティブな展示を楽しんだり、会場にいるアーティストと話したりと、コミュニケーションに重きを置いたイベントだと感じました。
寺西さんは、「『DIG SHIBUYA』にWeb3のマインドを取り入れ、オープンにすることを目指しています」と話します。Web3とは分散型インターネットの概念で、組織がデータを管理する中央集権型ではなく、ユーザーがデータを管理して分散させるのが特徴。誰かがルールを決めるのではなく、色々な人とコミュニケーションしながら決定していくWeb3の考え方は、渋谷の特性と共通しています。
また、「DIG SHIBUYA」のオープンなマインドは、海外のアーティストが参加するきっかけにもなっていると言えます。今回の公募プロジェクトに応募したグループのおよそ半数が、海外の団体だったそうです。
前回は日本の団体が多くを占めていたため、「グローバル化が進んできたと感じます」と寺西さん。海外のアーティストが渋谷に魅力を感じているのはもちろん、「DIG SHIBUYA」が誰にでも場を開いていることが、彼らのモチベーションに大きな影響を与えているのでしょう。
まとめ
「DIG SHIBUYA」は、作り手だけでなく、来場者にとってもオープンな場です。寺西さんは、「ほとんどの展示を無料にしているのは、多くの方々に気軽に見ていただきたいからです」と話します。
また、「アートやテクノロジーは敷居が高いと感じる方もいらっしゃるため、まずは気軽に楽しんでいただきたいです」と言います。
来年の「DIG SHIBUYA」の開催が決定したら、会場を訪れてみてくださいね。
また、プロジェクトの公募には、アートやカルチャーなどに最新テクノロジー(Web3、 AI、XR等)を絡めた活動実績があれば、団体・企業(スタートアップを含む)で応募が可能です。
本イベントに興味を持った方は、ぜひ情報をチェックしてみてください。
渋谷では、クリエイティブな人々の交流や活動があちこちで行われています。カルチャーが生まれる瞬間に立ち会うと、あなたの中にも新たなクリエイティビティが芽生えるかもしれません。
渋谷のカルチャーベニューで、多様な人々とのコミュニケーションを楽しみましょう。
(取材協力:「DIG SHIBUYA 2025」PR担当 寺西藍子様、取材日:2025年2月11日)
《イベント概要》※イベントの会期は終了しました
「DIG SHIBUYA 2025」
会期:2025年2月8日(土)〜11日(火・祝)
開催場所:渋谷公園通りを中心とした徒歩15分圏内の公共空間や商業施設
主催:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
共催:渋谷区
文/浜田夏実
アートと文化のライター。武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科卒業。行政の文化事業を担う組織でバックオフィス業務を担当した後、フリーランスとして独立。「東京芸術祭」の事務局スタッフや文化事業の広報、アーティストのサポートを行う。2024年にライターの活動をスタートし、アーティストへのインタビューや展覧会の取材などを行っている。
note
X