PicoN!な読書案内 vol.12 ― 『ハリウッド映画の終焉』

この連載では、出版業界に携わるライターの中尾がこれまで読んできた本の中から、アートやデザインに纏わるおすすめの書籍をご紹介します。
今回は、コロナ以降の海外の映画製作事情について知れる一冊。

『ハリウッド映画の終焉』
宇野維正(集英社)

宇野維正氏プロフィール
1970年東京生まれ。映画・音楽ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「リアルサウンド」「MOVIE WALKER PRESS」など連載多数。本年より、ゴールデン・グローブ賞の国際投票者に選出される。

 

著者である宇野氏は音楽出版社出身のジャーナリストだ。過去に宇多田ヒカルやくるり、小沢健二、Mr.Childrenといった名だたるアーティストに関する論考を書籍として発表するなど、国内外カルチャーの動向を長年に渡り追ってきた人物である。

本書は宇野氏がハリウッド映画界で昨今起こっている劇的な状況を、実際に公開された作品を参照しながらまとめたものだ。紹介されている映画は以下の16作品。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『カモン カモン』『ブラック・ウィドウ』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』『ピースメイカー』『フェイブルマンズ』『Mank/マンク』『リコリス・ピザ』『トップガン マーヴェリック』『TENET テネット』『DUNE/デューン 砂の惑星』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『TAR/ター』

近年の出来事として分かりやすいのが、「配信プラットフォームの普及」と「新型コロナウイルスの流行」だ。コロナ禍では多くの作品が劇場公開停止を余儀なくされ、大手配信プラットフォームでの公開にシフトしていった。しかし感染拡大が落ち着いたと判断された2022年以降も、劇場公開の作品数がコロナ以前に戻っていないそうだ。
配信プラットフォームの利用者数の伸び悩みや、配信による収益分配の問題などのビジネスモデルの変化は、ハリウッド映画の作品制作に大打撃を与えている。配信中心の収益構造に対して、裁判や制作・俳優陣によるストライキも発生した。

これらの状況にピンとこない人も多いかもしれない。日本国内ではアメリカの動向とは対照的に、国内アニメの大ヒットにより劇場収益が支えられているからだ。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編(2020年公開)』『すずめの戸締まり(2022年公開)』『THE FIRST SLAM DUNK(2022年公開)』など、ロングラン上映が記憶に新しいだろう。また、本年も『名探偵コナン 黒鉄の魚影』や『君たちはどう生きるか』などのアニメ話題作が劇場公開されている。

劇場収益の状況が日本と海外とでは異なることもあり、本書で取り上げられている論考はグローバルスタンダードを理解する一助になるので、是非オススメしたい。
本書では「#Metooとキャンセルカルチャーの余波」「スーパーヒーロー映画がもたらした荒廃」「『最後の映画』を撮る監督たち」「映画の向こう側へ」という4つのテーマを設け、現代映画の潮流や課題、また新たな指針を示す重要作を解説している。

特に、#Metoo運動によりハリウッドの映画界がどう変化していったか、制作陣の変化だけでなく作品の内容もここ数年で大きく変化していることが作品を通して知ることができる。また、日本ではまだまだ一般的に普及していない「キャンセルカルチャー」についても本書で理解を深めることが出来る。

本書を通じて、文化産業の発展のために、安定した制作環境を作るにはどうしたらいいか、
映画産業だけでなくカルチャー・コンテンツ産業全般に対しても同じような課題が浮き彫りになると感じた。変化が激しく不安定な世の中だが、創作に関わる人たちに新たな視点や知識を与えてくれる1冊だ。

文・写真:ライター中尾


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