R&B/ソウルを再構築、音楽史を推進する期待の新人。- クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.44〉
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
ノーベル賞に2名の日本人が選出されたり、26年続いた連立政権が崩壊したり、ガザでの停戦合意の発効(これはひとまず喜ばしい)と国内外あわただしいですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
世情の話をしたあと極私的な話で恐縮ですが、10月8日は私の誕生日でした。どうでもいいのですが同じ誕生日がイエモンの吉井和哉で翌日がジョン・レノンの誕生日となかなか音楽にゆかりがある誕生日。今年で41歳になるのでめでたくも無いのですが、これを機に自分へのプレゼントは欠かせません。
最近は物欲がなくなり、レコードでも欲しいと思う新譜を購入することが恒例となっております。
そんな極私的な買い物から2枚のアルバムをご紹介。奇しくもどちらもPitchforkは9.0(Best New Music)。
ジャンルは違えど今年のあらゆる媒体でのベストアルバム上位ランカーも間違い無い作品です。そして両作品とも共通するのがジャンルの規範にズレることで開放と身体性を回復させています。
今回ご紹介する作品は『Getting Killed』/Geeseと『Baby』/Dijonです。
品の良さが漂うGeese。ニューヨークのブルックリンで高校時代の友人同士によって結成されたロック・バンド。
現在の編成はキャメロン・ウィンター(Vo/Key/Gt)エミリー・グリーン(Gt)ドミニク・ディジェス(Ba)マックス・バッシン(Dr)。デビュー作『Projector』(2021)と『3D Country』(2023)でポストパンク〜オルタナ・カントリーを横断し、2025年には新作『Getting Killed』へ到達。レーベルはPartisan。
初期からのNY由来の知性と衝動を併せ持つ所作はそのままに、作品ごとに編成感や音響のラディカルさを更新してきました。表現が適切ではないかもしれないが、中流~上流の家庭で育ったが故に保有する文化資本と品の良さみたいが作品に漏れ出ているタイプのバンドです。
*ディスではなく、本人達も自認したコメントを残してます。
『Getting Killed』‐掛け違いの豊潤さ‐
『Getting Killed』はKenny BeatsことKenneth Blumeをプロデューサーに迎えロサンゼルスのスタジオで超速で録音された “断片と推進力” のロック・アルバムです。
先行曲「Taxes」を皮切りに、「Trinidad」「Husbands」「100 Horses」「Au Pays du Cocaine」など全11曲を収録。リリースは9月26日、Partisan/PIAS から。サウンドの核は、循環的なビートと断続的な爆発。リフや合唱が「作曲された曲」よりも、むしろ曲の終盤に伸びていくフェードアウトの陶酔や、その場での即興に回収されていく——そんな感覚。
ウィンターのしゃがれた語り口は、愛の宣誓と不安の絶叫を往復し、メロディは意図的に “掛かりの悪い” フックとして機能します。
結果、従来のロック的構造を迂回しつつ、祝祭的な「Taxes」といったアンセムも同居させる稀有な構図が生まれています。
同作は各メディアで高く評価され、米音楽メディアPitchforkで、10点満点中9.0の高評価(Best New Music以下BNM)。ドラムのリズム設計を軸に、エミリー・グリーンのギターとディジェスのベースが自由曲線を描く「Husbands」「Bow Down」、戦時下の将軍の視点を歌詞に封じ込めたという「100 Horses」など、語りの断片がそのままグルーヴの断片と呼応する作りも刺激的です。
発売直後には『Au Pays du Cocaine』のビデオを公開し、テレビ出演(Jimmy Kimmel Live!)や全米ツアーも始動。フロントマンのソロ作『Heavy Metal』(2024末)で露わになった内面性が、バンドのアンサンブルに重力として働いたことも聴き取れる。
Geese – Getting Killed (Official Audio)
称賛の嵐Dijon
本名Dijon Duenasはメリーランド出身、LA拠点のシンガー/ソングライター/プロデューサー。かつてのデュオAbhi//Dijonを経て2017年頃からソロへ。
EP『Sci Fi 1』(2019)、『How Do You Feel About Getting Married?』(2020)を経て、デビュー・アルバム『Absolutely』(2021)で注目を集めた。ジェイムス・ブレイク以降の最も刺激的な新人。フランク・オーシャンの不在を埋める存在。ディアンジェロの後継者……。最上級の評され方をしている人物。
最近はBon Iver『SABLE, fABLE』Justin Bieber『SWAG』への貢献やPTA監督の映画への出演など多方面に活躍。
『Baby』‐漏れ出続ける祝祭感‐
4年ぶりの2作目『Baby』は8月15日にR&R/Warnerから突如リリース。最近では珍しく先行シングルも一切なし。
自宅で新たな家族と過ごしながら、Andrew Sarlo、Henry Kwapis、Michael Gordon(Mk.gee)ら旧知と少人数で作り上げた “家庭のドキュメント” で、トラックリストは表題曲の「Baby!」はじめ全12曲。
本作全体に通底する要は、R&B/ソウルを “コラージュ” として再構築する挙動だ。
強いリバーブ、ひしゃげたノイズ、チョップされたギターやビート、エラーに見える継ぎ目をあえて可視化し、断片が断片のまま快楽を生む。歌詞は判読可能なフレーズと意味の霞みの間を往復し、モチーフは性愛、子の誕生、生活の混乱と歓喜。ミニマルで陽光が差す「Yamaha」エモーショナルな轟音に沈む「FIRE!」最もアクセスしやすい終曲「Kindalove」など、即効性と撹乱が同居する。
Pitchforkは9.0(BNM)で “現代R&Bの縫い目を敢えて見せる作法” を高く評価。The FADERは「人生の歓喜と危うさを祝う狂おしいソウル」と喝采した。
発表前には公式サイトのカウントダウンや “サンプルが通らなければ未発売” といった遊び心のあるアナウンスでも話題となった。
レコードの発売日の関係で、まだフィジカルは届いていないのですがどちらも発売日間もないのにも関わらずヘビロテしている傑作です。おすすめです!!