• HOME
  • ブログ
  • マンガ
  • 『ドラえもん』に学ぶアイデア術! 1,600個のひみつ道具を生んだ、発想のヒケツとは?

『ドラえもん』に学ぶアイデア術! 1,600個のひみつ道具を生んだ、発想のヒケツとは?

どこでもドアにタケコプター、もしもボックス、タイムマシン……。

誰もが一度は憧れた、ドラえもんの「ひみつ道具」。その数はなんと1,600個にものぼるのだそう(小学館の公式ブック「ドラえもん 最新ひみつ道具大事典」の収録数)。マンガ『ドラえもん』は30年以上にもわたる長期連載だったとはいえ、1,600個ものアイデアを思いつける作者の発想力には驚かされますよね。趣味や仕事でマンガを描いている人や、企画などのアイデア出しに追われている人は、「そんなにぽんぽんアイデアが出ていいなぁ……」と羨ましくなるでしょう。

そこで今回は、日本マンガ界屈指のアイデアマンと言える藤子・F・不二雄先生(以下、F先生)のエッセイやインタビューを集めた本『藤子・F・不二雄の発想術』をひも解きながら、ユニークなアイデアの数々がどうやって生み出されたのか? 3つのヒケツを分析。マンガに限らず、ものづくりのアイデアに詰まっている方はぜひヒントにしてみてください(ドラえもん全巻を5周読んだドラえもんオタクである筆者が、独断と偏愛を交えながらお届けします)。

発想術1. 身近なものを組み合わせよう!

ひとつめのアイデア術は、身近なものや知っているものを「組み合わせる」ことです。F先生は、SF小説の大家、アイザック・アシモフの言葉を引き、
 ①数多くの断片をもつこと
 ②その断片を組み合わせる能力をもつこと
がアイデアをひねり出すコツであると述べています。

「断片の組み合わせ」。言われてみれば、まさしくそうでした。僕がやってきたのは、これだったのです。たとえば……。

「のび太の恐竜」という作品があります。「恐竜」という断片が核になっています。これが古代の生物であるということは、すべての人がもっている知識です。これを、「のび太」という現代の少年と組み合わせることから、「ナントカカントカ」が始まるわけです。

出典:『藤子・F・不二雄の発想術』

『のび太の恐竜』という独創的な物語も、「恐竜」+「現代の少年」という、誰もが知る “断片” の組み合わせから生まれたのですね。

とても不思議なひみつ道具の数々にしても、よくよく分解してみると、じつは既存の “断片” の組み合わせでできていることが見えてきます。タケコプターは「竹とんぼ」+「ヘリコプター」ですし、ドラえもんのデザインが「猫」+「起き上がりこぼし」からつくられたという創作秘話も有名ですよね。

■「断片の組み合わせ」で生まれたアイデアの例
・タケコプター = 竹とんぼ + ヘリコプター
・ドラえもん = ドラ猫 + 起き上がりこぼし
・どこでもドア = ワープ + ドア
(ちなみに連載当初のネーミングは「ヘリトンボ」だった)
・もしもボックス = 電話ボックス + パラレルワールド
・どくさいスイッチ = 独裁者 + スイッチ
・ほんやくコンニャク = 翻訳機 + こんにゃく

この「組み合わせる」という方法なら、誰でも比較的簡単に実践できそうです。

たとえばあなたがマンガを描いていて、どうしても敵キャラクターの設定が思い浮かばない……というとき。何か身の回りにあるものや、知っているものを見つけて、それらを2つ以上組み合わせてみると、思わぬ発想が生まれるかもしれません。

作業部屋の中を見回してみると、あっ、本棚がある。この「本」を使って、敵キャラの特殊能力をつくれないだろうか? そうだ。たとえば「相手を本に変えて、頭の中を全部読める能力」なんてどうだろう(本+特殊能力)! ……というような具合に。お察しの方もいるかと思いますが、この「相手を本に変える能力」とは、マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する人気キャラクター・岸辺露伴がもつ特殊能力(スタンド能力)にほかなりません。

ユニークな発想は、既存の “断片” を組み合わせることで生まれることも多いのです。

発想術2. 「好き」を突きつめよう!

前章で、アイデアの発想のためには「さまざまな断片をもつこと」、つまり情報にアンテナを張り、積極的なインプットを心がけることが大切であるとお伝えしました。とはいえそれは、ネタ探しのために嫌々、「お勉強」のようなインプットを推奨するものではありません。あくまでも、純粋な「楽しむ」姿勢を忘れないことが大切です。F先生は次のように述べています。

映画を見るときでも、本を読むときでも、ネタ探しの目的で見たり読んだりすることはまったくないです。要するに楽しみのために見ます。そして見終わったら忘れちゃって。けど、見ること自体が刺激になって、何かが触発されて、まるっきり関係のないアイディアがピョコっと出ることもありますしね。

出典:『藤子・F・不二雄の発想術』

あなたの「好き」を突きつめていれば、それに関連する知識が自然と身についていき、アイデアの “材料” が増えていく。その結果、オリジナリティのあるアイデアも生まれやすくなると考えられるのです。「好きこそものの上手なれ」はひとつの真理なのかもしれませんね。

ちなみにF先生はSF映画・文学・落語などさまざまな娯楽も大好きで、『ドラえもん』をはじめとする作品たちにもこの趣味が反映されています。おなじみの「ジャイアンがヘタクソな歌を聴かせたがって、みんなが迷惑する」という設定は落語の『寝床』が元ネタですし、より大胆(?)な例では、『のび太の小宇宙戦争(リトルスターウォーズ)』という、有名映画のタイトルをそのまま拝借している長編作品も。F先生は映画『スターウォーズ』シリーズの大ファンだったらしく、作品の中にたびたび、ダースベイダーやミレニアム・ファルコンを登場させています。

■映画・文学・落語からの影響を受けた作品
・ジャイアンの歌ヘタ設定
←落語『寝床』
・『のび太の恐竜』
←映画『ジュラシックパーク』
・『ドラえもん のび太の小宇宙戦争(リトルスターウォーズ)』
←映画『スターウォーズ』
・『のび太のドラビアンナイト』
←イスラム圏に伝わる説話集『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』
・『のび太と銀河超特急(ぎんがエクスプレス)』
←宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』
・『のび太の創世日記』
←『創世記(聖書)』、『古事記』

ちなみに、長編ではない通常の『ドラえもん』の中にも、ときどきF先生の趣味が暴走する「趣味回」が挟まってくることがあります。特にスネ夫の親戚「スネ吉兄さん」はF先生の分身のような多趣味な青年で、登場するたびにプラモデルやジオラマやラジコンなど、ホビー類のディープな知識を語りまくってはのび太たちをドン引きさせています。ひどいとき(?)には、スネ吉がジオラマの塗り方を解説するだけで1話が終了、なんていう回も(F先生は趣味を語りたい衝動を抑えられなくなったときにスネ吉を登場させ、言いたいことを代弁させているのかもしれません)。

とにもかくにも、「好き」という感情はものづくりの原点にして源泉である、ということを、F先生の言葉や作品は教えてくれるのです。

発想術3. 「水平思考」を意識しよう!

F先生は、マンガの最大の武器は「意外性(=思いがけない発想)」であるとしたうえで、次のように述べています。

ひとつの物事を、正面からだけでなく、裏から斜めから見る。正に水平思考だ。読者は、こんな見方もあったのかと驚かされる。新しい視点の発見は、即ち創造につながる。

出典:『藤子・F・不二雄の発想術』

水平思考というのは、通常の論理的思考(垂直思考)とは異なる、飛躍的な思考法のこと。要するに頭をやわらかくし、普通とは違った角度から物事を見ることを指します。

たとえば「5個のオレンジを2等分するには?」という問題があったとします。このとき、「余った1つを2つに切ればいい」というのが普通の思考(垂直思考)。「オレンジジュースにして分ければいい」というのが水平思考です。

垂直思考・水平思考のイメージ

上図のように、水平思考では、通常の論理思考の横(水平方向)へ迂回するように発想が飛躍していきます。この水平思考によって、通常の思考では解決困難な課題の打開策が見つかったり、意外性のあるアイデアが生まれたりすることが多いのです。

『ドラえもん』のおもしろさのヒミツは、通常の論理から飛躍した「水平思考」的なアイデアやストーリー展開にあるのかもしれません。

たとえば『ドラえもん』でおなじみのオチと言えば、「便利なはずのひみつ道具の副作用が露呈し、のび太がしっぺ返しを食らう」というものですよね。有名な「バイバイン※」のお話では、「栗まんじゅうが増える」というハッピーなはずの出来事が、最後には「増えすぎた栗まんじゅうにより、地球が埋め尽くされて滅びかける」という、アホらしくも大変な悲劇に転じてしまいます。

※バイバイン……ものを増やせる、液体のひみつ道具。バイバインをかけられたものは、2個→4個→8個→16個→……と「倍々」式に増えていく。

水平思考と「バイバイン」

 

通常の論理(栗まんじゅうが増える→たくさん食べれてハッピー)から逸脱した水平思考的な展開によって、『ドラえもん』のストーリーは意外性に満ちたワクワクするものになっているのです。

F先生が述べているように、アイデアに詰まったときは、物事を「正面からだけでなく、裏から斜めから」、さまざまな角度で検討し直してみることがカギとなるようです。

最後に余談ですが、この水平思考を使った「水平思考クイズ(通称:ウミガメのスープ)」というものをご存知でしょうか? おもしろいので、ひとつ例題をご紹介します。

■水平思考クイズ(例題)

Q. あるレストランで、店員が客に向かって銃を突きつけた。すると客は「ありがとう」と感謝した。なぜか?

銃を向けられたのに、なぜか感謝する客……。一見すると奇妙な状況ですが、「水平思考」をしっかり働かせれば、筋の通った答えを得ることができます。なぞなぞやいじわるクイズではありませんから、現実にも起こり得る合理的な理由が答えになっているんですよ。少し考えてみてください。

⌚(シンキングタイム)

はい、タイムアップです。

正解は、「客はしゃっくりに苦しんでいたから」。

このレストランにいた客は、しゃっくりが止まらずに困っていた。そこへ気の利く店員がやってきて、銃を突きつけて客をびっくりさせ、しゃっくりを止めてあげた。だから客は、店員に「ありがとう」と感謝したのです。

答えを聞いてしまえば、「なぁんだ、そんなことだったのか!」と膝を打ちたくなりますが、自力で答えにたどり着けた人は少ないと思います(正解できたあなたはすごい!)。クイズの答えを導くには、常識的な「垂直思考」から脱出して頭をやわらかくし、「水平思考」を働かせる必要があるのです。アイデアに詰まりがちな人は、本やネットで水平思考クイズを探してチャレンジし、発想力をトレーニングしてみてはいかがでしょうか?

 

***

藤子・F・不二雄先生の著書を参考に、その豊かな発想力の源泉を探ってみました。マンガや企画のアイデアがひらめかない、または、もっとすごいアイデアを思いつきたい! というあなたは、今回取り上げた3つのコツ「組み合わせる」「好きを突きつめる」「水平思考」を意識してみてくださいね。

(参考)
藤子・F・不二雄(著), ドラえもんルーム(編).『藤子・F・不二雄の発想術』.小学館. 2014

↓PicoN!アプリインストールはこちら

関連記事