【展示レポ】尼子騒兵衛漫画ギャラリー~アニメ「忍たま乱太郎」の原作、「落第忍者乱太郎」の原画と日本の歴史に触れる旅~
アニメのキャラクターたちが、いつもの装いとは違った、中世社会の雅やかで美しい衣装や文化に身を包んでいたら──。
そんな情景を『落第忍者乱太郎』のキャラクターで描いた作品の展示が開催されています。
それが、「尼子騒兵衛漫画ギャラリー」で開催中の第3回企画展
「艶やか、雅やか、機能美。衣装をまとった乱太郎たち 時代や異国を感じる趣き〜『尼子騒兵衛作品集』書き下ろし原画を中心に」です。
今回は、尼子騒兵衛作品集の原画展から見る『落第忍者乱太郎』の魅力と、本展示の見どころをご紹介します。
忍たま乱太郎とは?
『忍たま乱太郎』とは、尼子騒兵衛先生によるギャグ漫画『落第忍者乱太郎』を原作としたNHKで放送されているアニメ作品です。
室町時代末期を舞台に、忍者の育成学校「忍術学園」に通う主人公の乱太郎、きり丸、しんべヱの3人組を中心に、学園の生徒や関係者との個性豊かな日常が描かれています。
1993年の放送開始から32年。アニメは観たことがなくても、タイトルを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
長年にわたり愛される本作品ですが、2024年12月に『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』が公開されて以来、人気がさらに加速しました。
この映画は乱太郎たちの担任の先生・土井先生が、とあるきっかけから忍術学園と敵対する組織ドクタケ忍者隊の一員となってしまいます。土井先生を取り戻すために乱太郎たちだけでなく、忍術学園の上級生なども活躍する映画です。
作中に登場するキャラクターの名前には、作者である尼子騒兵衛先生の出身地、兵庫県尼崎市の地名も多く使われています。
この映画をきっかけに、昨今の推し活ブームも追い風となり、尼崎市での作品に関連する地域やお店をめぐりながら、街を楽しむ人が後を絶ちません。
尼子騒兵衛ギャラリー
聖地巡礼の主要ポイントとなるのが、今回ご紹介する「尼子騒兵衛漫画ギャラリー」です。
阪神尼崎駅から南に徒歩3分、尼崎開明庁舎(旧開明尋常小学校校舎)の1階にあります。
庁舎に入ると、ギャラリー前の廊下にはキャクター名が書かれたのぼりがずらりと並んでいます。
ファンの皆さんは、自分の推しのキャラクターが書かれたのぼりを見て大興奮!
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ギャラリー内には「落第忍者乱太郎」の原画を中心にした展示のほか、グッズ販売コーナーやファンの交流スペースも併設しています。
交流スペースにはイラストを描くための紙やペンも用意されているので、全国から訪れたファンによるファンアートを見ながら、自分の推しキャラを描くこともできますよ。
展示スペースには、作者の尼子騒兵衛先生が漫画「落第忍者乱太郎」連載時に使っていた机もあるので、その制作風景に想いを馳せることができます。
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この机から33年にわたる名作が生まれたかと思うと、胸が熱くなります。
「艶やか、雅やか、機能美。衣装をまとった乱太郎たち 時代や異国を感じる趣き〜『尼子騒兵衛作品集』書き下ろし原画を中心に」の魅力
尼子騒兵衛先生の作品は徹底した時代考察に基づいた作画が特徴です。
『落第忍者乱太郎』はギャグ漫画でありながら、登場する道具や風景は歴史的資料や取材を重ねて忠実に再現しているそうです。
作品を見て歴史に興味を持った子どもたちが間違った知識や考え方に染まらず、その本質的な面白さや興味深さを楽しんでほしいという、作者の想いが感じられます。
本展では、そんな歴史的事実を重んじる作者が描きおろした『尼子騒兵衛作品集』の装丁画を中心に、16世紀末〜17世紀(安土桃山時代〜江戸時代)にかけての文化風俗の屏風や絵図をモチーフに描いた作品を展示しています。
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たとえば、「乱太郎・きり丸・しんべヱ 花下遊楽図」は、狩野長信が描いた「国宝 花下遊楽図屏風」のお花見を楽しむ人々を題材に、乱太郎・きり丸・しんべヱを描いた作品です。
当時の最先端のファッションをモチーフにしたため、お馴染みの水色の忍者装束ではなく華やかな衣装ではあるものの、いつも通りの仲良し3人組の面影を見ることができ、変わらぬ絆が伝わる作品です。
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また、「伝子と半助 遊里変姿之図」の元となったのは、17世紀初めに描かれた「彦根屏風」です。
天下統一によって平和が訪れた様子がうかがえる、当時の最先端の風俗が描かれている作品です。
乱太郎たちの担任「土井先生」こと土井半助は、刀にもたれるかぶき者の若衆に艶やかに扮しています。
これは、平和な世の中が訪れた一方で、様々な決め事によって息苦しさを感じている社会への抵抗をファッションで表現したといわれた、屏風の中に出てくるかぶき者です。
真面目な土井先生が少しおちゃらけている感じが、まさに時代の移り変わりを忍たまの世界で表現している気がしますね。
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一方で「山田先生」こと山田伝蔵が扮するのは犬を散歩させる唐輪髷の女性。
唐輪髷は当時の遊女に好まれた髪型だといわれています。
山田先生は忍務での変装時に女装する癖があり、女装中は「山田伝子(やまだでんこ)」と名乗っています。
「伝子と半助 遊里変姿之図」に男性キャラが女装をすると起こりがちな違和感が少ないのは、目線・指先など元の絵の所作の美しさが垣間見えるからではないでしょうか。
当時のファッションリーダーである遊女の姿が目に浮かぶようです。
忍たまファンからすると山田先生の女装「伝子さん」という一種の安心感も感じられます。
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さらに『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』でも活躍し、ファンからの人気を誇る忍術学園の六年生を取り上げた「六年生南蛮衣装之図」も見逃せません。
モチーフは16世紀末から17世紀半ばに描かれた異国との交易を描いた「南蛮屏風」です。
この屏風には、日本人だけでなく、南蛮人(ポルトガル人やオランダ人)も描かれており、様々な文化の様子が描写されています。
六年生一人一人のデザインの違いはもちろん、南蛮衣装と忍者としての得意武器を組み合わせた作品は、まさに文化と忍者の融合です。
尼子騒兵衛先生ならではの、違和感がないデザインが魅力的ですね。
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尼子騒兵衛先生の絵の特徴として、影の付け方にも注目です。
企画展では奥行きと立体感が出るための、陰影や配色などの原画メモも見ることができます。
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会場中央には、ミュージカル「忍たま乱太郎」第14弾内で着用された南蛮衣装の展示もありました。漫画という枠を超えたミュージカル・3次元作品で取り入れられている南蛮文化のモチーフは、華やかで存在感がありました。
終わりに
『落第忍者乱太郎』の世界を通して、日本の歴史と文化の美しさを再発見できる企画展です。
作品の背景にある時代考証や、キャラクターたちの新たな一面を楽しめる貴重な機会。
ファンはもちろん、歴史や美術に興味のある方にもおすすめです。
企画展の会期は 2025年11月24日(月・祝)まで。
尼子騒兵衛漫画ギャラリー(尼崎市開明町2-1-1尼崎市開明庁舎1階)
・開館時間:午前10時〜午後5時 (土・日曜・祝日は午後6時まで)
・休館日:火曜日(祝日の場合は翌平日)
・入場料:大人200円、中学生以下無料
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/manabu/kanko/1038681/1038356.html
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