名画に没入体験!「巨大映像で迫る五大絵師」ルポとデザイナーインタビュー
絵を近くでよく見てみると、重ね塗りした跡が分かったり、描き込みの細かさに感動したり、新たな発見がたくさんあります。
では、さらに近くで、さらに大きく絵を見てみるとどうなるでしょうか?
そんな新体験ができるのが、「巨大映像で迫る五大絵師」です。
巨大映像で迫る五大絵師のポイント
「巨大映像で迫る五大絵師」は、この夏に開催された新感覚のアートエキシビジョンです。
ポイント① 7m×45mの3面巨大スクリーンで日本絵画を鑑賞
本展示のポイントは、なんといっても巨大映像。
高さ7m、幅45mのスクリーンに、日本絵画の名作が次々と投影されます。
普段ここまで大きく作品を鑑賞できることは、なかなかありません。
さらに注目すべきは、20億画素の高画質です。
テレビのフルハイビジョンが約207万画素なので、桁違いの画質であることが分かりますね。
和紙の質感まで感じられ、まるで顕微鏡を使って作品をすみずみまで見ているような感覚になります。
ポイント② 江戸時代の五大絵師の作品が集結!
葛飾北斎、歌川広重、俵屋宗達、尾形光琳、伊藤若冲は、江戸時代を代表する五大絵師です。
これまで個々の特別展が開かれることはありましたが、本展示では五大絵師の作品が集結しています。
中には一般公開されていないため、滅多に見られないレアな作品も。
今回の五大絵師の共演は、映像だからこそ実現できたのです。
展示レポート① 巨大映像に没入するための前準備「解説シアター」
では、さっそく展示を見ていきましょう。
本展示は、「解説シアター」「メイン会場」「Digital北斎×広重」の3部構成です。
最初の解説シアターでは、巨大映像に出てくる作品の解説が聞けます。このあと見るメインの巨大映像にはナレーションが一切入っておらず、BGMだけで映像が展開されます。
解説シアターで事前に作品の意味や見所を聞き、絵の理解を深めた上で、巨大映像の世界に没入できるのです。
展示レポート② メイン会場
解説シアターの後は、巨大映像が見られるメイン会場へ移動します。
会場に入ると、壁一面の大きなスクリーンが登場。
「巨大映像で迫る五大絵師」は、2つのプログラムを日替わりで上映するダブルプログラムです。
では、各絵師の代表作を見ていきましょう。
歌川広重『東海道五拾三次』
まずは、歌川広重の『東海道五拾三次』からスタートします。
注目は、突然の激しい雨を描いた『庄野 白雨』。
斜めに降り注ぐ雨や、しなる竹が雨風の激しさを物語っています。
画面全体に目が行きがちですが、細部を見ることで新しい発見が。
たとえば、駕籠(かご)の中の旅人が、雨や激しい揺れにじっと堪えるように拳を握りしめています。
画面右の笠には、作品の出版元である「竹のうち」の文字が。実は絵の中で宣伝が行われていたなんて、細部まで見ないと気が付かないですよね。
俵屋宗達・尾形光琳『風神雷神図屏風』
『風神雷神図屏風』はもともと俵屋宗達が描いた作品で、80年後に尾形光琳がリメイクしました。
巨大映像では、光琳の『風神雷神図屏風』が先に映し出されます。
雷雨のエフェクトや、顔を大きくアップにした映像は迫力満点。
大胆に力強く描かれた手足とは反対に、髪の毛をよく見ると一本一本繊細に描かれていることが分かります。
宗達と光琳の『風神雷神図屏風』が並んで映し出され、両作品の違いがよく分かるような演出もありました。
作者不詳『⼆条城⾏幸図屏⾵』
本展示では五大絵師の他に、同時代の絵師の作品も見られます。
その1つが、作者不詳の『⼆条城⾏幸図屏⾵』。
天皇の行幸の列を描いた図屏風で、およそ1300人もの人物が描かれています。巨大映像で細部まで見ると、行列が目の前を通り過ぎたような感覚に。こちらを見ている人物は、本当に目が合ったかのように感じられ、ドキッとしました。1人1人の顔は1円玉より小さいのに、しっかりと描き込まれていることに驚きます。
葛飾北斎『冨嶽三⼗六景』
『冨嶽三⼗六景』の中でもっとも有名なのは、ダイナミックな波を描いた『神奈川沖浪裏』でしょう。
荒れ狂う波と船にしがみつく船漕ぎたち、そして画面の中央にどっしりと構える富士山。
波が画面いっぱいに映し出されると、船漕ぎたちと同じ目線で絵を見ているような気持ちになります。
伊藤若冲『仙人掌群鶏図』
巨大映像の最後を飾るのは、伊藤若冲の『仙人掌群鶏図』です。
若冲は、鶏の表情を豊かに描く画家です。
巨大映像では1羽1羽の顔がフォーカスされているため、若冲の技巧がよく分かります。
怒る雌鶏とご機嫌取りをする雄鶏、内緒話をする鶏など、まるで人間社会を見ているよう。
また巨大映像で見ると、羽の表現の美しさに驚きました。
光沢のある毛先や胸の柔らかい羽毛など、画面を通して質感がリアルに伝わってきます。
展示レポート③「Digital北斎×広重」
メイン会場を出て、北斎の富嶽三十六景、広重の東海道五拾三次をモニターで鑑賞できる「Digital北斎×広重」のコーナーへ。
1つのモニターにつき、3〜5作品が1分間隔で映し出されます。
こちらも高画質モニターのため、近くに寄って見ると筆跡や紙の質感を感じられます。
アートディレクションを担当された古井戸篤史さんへインタビュー
今回、「巨大映像で迫る五大絵師」のアートディレクションを担当された古井戸篤史さんへインタビューを行いました。
古井戸さんは本展示で、パンフレット、電車交通広告、チケット、販促物などさまざまな印刷物のデザインを手がけています。
株式会社ZNEM
古井戸 篤史さん /グラフィックデザイナー
2011年に専門学校日本デザイナー学院 グラフィックデザイン科を卒業後、広告制作会社に勤務。その後、空間デザインをメインとする株式会社ZNEMにてグラフィックデザイナーとして勤務。同時にフリーランスとしても活動し、「世界フィギュアスケート選手権2019」キービジュアル、「ひつじのショーン ファミリーファーム」空間グラフィック、富士急ハイランド「トーマスランド」ロゴなどを手がける。
本展示のアートディレクションで、意識したことは何ですか?
今回、制作をしていく上で意識したことは、直感的な分かりやすさです。
本展示は江戸時代の絵師たちの作品を超高精細画像で、縦7m横45mのスクリーンに映し出す新感覚のアートエキシビジョンというものでした。
最初のラフの段階では最新のデジタル技術をイメージしたデザイン案や、『風神雷神図屏風』、『神奈川沖浪裏』など誰でも知っているような作品を全面に押し出した案を提案しましたが、それだと今回の展示の魅力である巨大な映像空間の大きさが伝わらない。
もちろん、大きさは情報として記載していますが、やはりビジュアルで表現しようと。
誰も体験したことのない展示だからこそ、見た人に「直感的」に想像させることを目指しました。
上映作品のうち、先生が好きな1枚はどれですか?
私は『風神雷神図屏風』が好きでした。
以前から何度も見たことがある作品ではあるのですが、迫力のある音楽と巨大スクリーンにあのギョロっとした目が映し出された瞬間、思わずビクッとしてしまいました。
江戸時代の人たちも、ロウソクの灯りに揺れる風神雷神をみて同じような恐怖感を感じたのかもしれません。
作品の見方は当時と本展示では大きく違いますが、当時の人たちと同じ感情を風神雷神を通して抱けたのかなと少しロマンを感じました。
先生は多岐にわたってご活躍されていますが、幅広くご活躍できるコツは何ですか?仕事で意識していることや、デザイナーを目指す学生がやるべきことを教えてください。
正直、コツがなんなのかは分かりません。
強いて言うなら相手の信頼を得られる仕事をしようとは常々思っています。
デザイン提案にしてもプラスアルファの案を提案するとか、納期をしっかり守るとか、連絡を丁寧に返すとか、相手との話し方にしてもそうかもしれません。
そこで「この人にまた依頼したい」と思ってもらえれば、人が人を呼んでくれて幅広い仕事に繋がるのかなと思います。
学生の間は、色々な体験、経験をして自分の引き出しを増やして欲しいなと思います。
ギャラリーに行くでも、友達と遊ぶでも、今しかできないことがきっとあるはずです。
その経験がデザインする上でいつか繋がる時がくると思います。
デザイナーの仕事のやりがいや楽しさを教えてください。
やりがいは、自分の携わったものが世の中に出て人の目や手に触れて、その人の行動に繋がる瞬間ですかね。
制作している途中では苦しいこともありますが、私がデザインしたものを見て「コレいいな」とそのモノ・コトの魅力が伝わったのなら、やっぱり幸せですね。
基本情報
「巨大映像で迫る五大絵師」
会期:2021年7月16日(金)~9月9日(木)
会場:大手町三井ホール
HP:巨大映像で迫る五大絵師─北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界─
大阪巡回展開催中止のお知らせ
2021年12月3日(金)〜2022年1月30日(日)の期間、堂島リバーフォーラムで開催予定の「巨大映像で迫る五大絵師−北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界−」大阪巡回展につきまして、新型コロナウイルス感染拡大が続く現況を鑑み、開催中止を決定いたしました。(巨大映像で迫る五大絵師公式HPより)
関連する美術館
・すみだ北斎美術館
都内で葛飾北斎の作品を鑑賞するならここ。
葛飾北斎を中心に、さまざまな浮世絵師をテーマにした企画展を開催しています。
常設展には、『冨嶽三⼗六景 神奈川沖浪裏』を拡大して見られるタッチパネルも。
・太田記念美術館
葛飾北斎の他、喜多川歌麿、東洲斎写楽ら浮世絵師の作品を所蔵。