コロナ禍で変わったパッケージデザインとの向き合い方とその中にあるメッセージ/THE LATTE TOKYO
カフェラテ専門店とこだわりのミルクと、期間ごとに変わるパッケージ
これはTHE LATTE TOKYOを表す3つのキーワード。THE LATTE TOKYOとは、3.7坪の小さな複合型コンセプトストア「INN」に常設されているコーヒーショップです。今回は、INNのディレクターであり、THE LATTE TOKYOのクリエイティブ面を担当する甲斐マイクさんにお話を伺いました。
3つを一つの場所で。複合型のコンセプトストアが出来たきっかけ。
ずっとアパレルで働いていて、並行して自分で洋服を作ったり、ブランドをやったりもしていました。独立を考えたときに、アパレルだけだと人を呼ぶということが限定的になってしまうので、何か別のこともやれたら良いなと思っていました。相方である彼(福永英侍さん)と一緒に独立をしようとなったときに、彼はバリスタとして働いていたこともあって、じゃあカフェをやりましょうと。洋服とコーヒー、あとそれに合わせた様々なクリエイターさんを呼べるようなポップアップスペースの3つを同時に一つの場所でやろうみたいな感じに繋がっていきました。
パッケージはディスティネーションストアとしての仕掛け
期間ごとに変わるパッケージは、2015年12月にオープンしたときからやっています。もともとはこの街自体、シャッター街でした。渋谷と代々木八幡の駅を繋ぐこの辺りの住宅に行き来する人たちがただ通る近道、というか抜け道で、活気のあるような場所ではなかったんです。僕はずっとこのエリアに住んでいて、自分がお店をやるならこのゆったりした空気の根付いている場所がいいと思っていたので、ここでやろうっていうのは決めていました。
「お店をオープンします」ってだけだと知っている人は来てくれるかもしれない、だけど人を誘導するとなったときに、それ以上の広がりがない。そこで、カフェと洋服があるこのお店を目的に来てもらうための仕掛けの1つとして、カップにデザインを取り入れることをはじめました。
コロナで大きく変わった考え方
当初は自分でデザインしたロゴなどがメインでした。作家さんと取り組むようになってからは、現代アーティスト、グラフィックデザイナー、写真家、あるいはキャラクターやブランドなど、ジャンルを問わずにお願いすることが多いです。SNSを見て惹かれた方や、昔からファンだったアーティストさん達に声をかけたりしていました。単純に自分が好きだなと思う人にやってもらっていたので、本当に主観でしたね。
正直、パッケージのデザイン選びはコロナ前と後で大きく変わりました。コロナ以前は、作家さんと一緒にかっこいいものを作ろうというシンプルなものでした。でも、コロナ禍になって、人が街に出られなくなり、お店に行くこともはばかられる状況になった。とても長い内省の時間のなかで、社会への不満や自分たちの役割を見つめ直しているうちに、もっとメッセージや意味を持たせることが出来るのではないかと思い始めました。
そこからは自分たちのアイデンティティーや社会情勢に対する思いなど、個人的なステートメントを取り入れるようになりました。例えば、フランスの画家・エドガー・ドガをフィーチャーした企画。コロナ以降、絵画をテーマにした企画は3回目になりますが、緊急事態宣言下で美術館に足を運べなくなったとき、自分のサードプレイスであった美術館を何か別の形で楽しんでもらえるようにと考えた結果でした。
あと、重要なのはメッセージ性。2019年に日本と韓国の関係が悪化した際に、毎日のようにニュースに取り上げられていました。テレビ、SNSから入ってくるネガティブな情報に心がどんどん疲弊して。そのときに、世界中の人たちとの平和を心から願う「From The Latte Tokyo With Love」を始めました。メッセージを発信するツールとして、パッケージは僕たちにとって最適なフォーマットなんです。
選ぶのは、他にはない自分だけの作品の色が出ている人
取り組む作家さんを選ぶ基準としては、色があるというか、自分らしさを持っているというか…。例えば、どこか一箇所に必ず赤色を使っているとか、どの作品にも必ず同じアイコンが付いているとか、なんでもいいんです。自分の作品の中に何か署名のようなものが入っているといいですね。
アーティスト/イラストレーターのfaceさんは、どの作品にも必ず目と口が付いているんですよ。
平山昌尚さんも分かりやすいです。落書きのような感じで、パッと見てその方の作品っていうのが分かるというか。
現代アーティストの加賀美健さんもそういう部分が強いと思います。
なにかしら自分の作品の色が分かりやすく出ている方に惹かれますかね。
今までの心に残っているデザインについて
2周年のときの企画で、faceさんと一緒に某コーヒーチェーンのロゴをオマージュしたパッケージを作りました。これでうちのお店を知ってくれた人が多かったですね。そのコーヒーチェーンへは中学生のときにはじめて行ったんですけど、おしゃれすぎてメニューの見方すら分からなくて。でもそこで買い物をしてるっていう体験がすごくかっこよく思えたっていうか。僕にとってコーヒーといえばそのお店だったので、リスペクトを込めて企画にしました。あと、平野甲賀さんとの「MATSURI」という企画はとても思い出に残っていますね。
コロナが流行し制約がたくさんあるときに、日本のお祭りってすごく大切な行事だったなっていうのを改めて感じました。そこで、甲賀さんの文字にしかない力をパッケージにしたいとお願いをしたところ、快く引き受けてくださりました。甲賀さんはこの企画の半年後にお亡くなりになり、その後奥様から「とっても素敵です。甲賀さんが最後に描いていた文字なので感慨深いです。」というメールをいただきました。それを聞いて、こんな状況下だけどやった意味があったなと感じました。甲賀さんの最後の作品に携われたこと、それ以上に楽しんで下さる方がたくさんいらっしゃったことがとても心に残っています。
まずは飲んでもらうために
あくまでもデザインは仕掛けの1つなので、まずはTHE LATTE TOKYOのこだわりと美味しさを知ってもらいたい。最終的にはパッケージはなんでもいいからカフェラテが飲みたい!と思ってくれるようになったらゴールな気がします。
アパレルのお仕事から独立して、複合型コンセプトストア「INN」をオープンした甲斐さん。意外な場所が自分の活躍できる場所だったりするので、どんなことでも柔軟に対応できる振り幅を持っておくといいかもしれないとおっしゃっていました。
カフェラテはエスプレッソとミルクが2層に分かれ、綺麗なグラデーション。ミルクの部分だけを飲んでみると、東京牛乳のほんのりとした甘みと優しい味わいが感じられます。
2022年7月は、フィンランドの国民的画家・ヘレン・シャルフベックをフィーチャーした限定パッケージ
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渋谷駅から少し離れた奥渋エリアにあるカフェラテ専門店。期間ごとに変わるパッケージのデザインにより、今まで知らなかった画家やアーティストとの新しい出会いがあるかもしれません。毎日営業している安心感やSNS投稿など、これらのすべてがお客さんの日常の一部になっているのだなと感じました。ぜひみなさまもおいしいカフェラテを飲みに行ってみてくださいね!
PicoN!編集部木下