切手のデザインって誰がしているの? Vol.1

手紙を出す時にふと気になった。
手紙を届ける時に必ず使っているこの切手は色々な種類があるけど、一体誰が作っているのだろうと。
調べてみると、切手のデザインを専門に扱う仕事があるらしい。
日本全国に流通している切手を、わずか8人でデザインしているデザイナーに興味が湧き、話を聞きに行ってきたので、全2回でお届けしたい。


今回、お話を聞かせて頂くのは、星山理佳(ほしやま あやか)さん。
私が切手のデザインに興味を持ったのは、星山さんが制作された年賀はがきのデザインだったので、お話を聞かせてもらえるのはとてもラッキーだ。
とても気さくな方で、楽しい時間を過ごしながら、色々と教えて頂けた。

取材を受けて頂いた星山さん。

 

年賀はがきのデザイン。公益財団法人 日本郵趣協会 twitter (@kitteclub) より引用

 

お仕事はどのように進められているのでしょうか?

月に一度会議が開催され、そこでコンセプトやデザインが審議・承認されます。
私たちが特殊切手と呼んでいる記念切手は1年以上前から動いているんです。
前年度に、「◯◯記念という切手を出します」という発行計画が1年分まとめて決まって、そこから誰が土のデザインを担当するか振り分けられます。
遅くとも発行の8~9ヶ月前にはスタートしますね。
国の機関である省庁からの推薦による記念切手を例に挙げると、ご担当者とのご挨拶から始まり、題材の打ち合わせをして、会議で題材や表現といったコンセプトの承認を得ます。

承認が得られれば、取材や絵の作業に入って、推薦元とやりとりしながらデザインを進めていきます。
年間で40件ほど制作するので、8人で割ると1人5件ほどを担当し、他の仕事も同時進行で捌きながら作業を進めています。
発行日が決まっており、日程を後倒しにすることはできないので、スケジュールの管理が大切ですね。
デザインが完成したら、校閲や印刷が続き、遅くとも1ヶ月前から全国の郵便局に納品されています。
ここだけの話、切手が出る頃には忘れてしまっていることもあるんです。そういえば、今頃かみたいな(笑)

星山さんがデザインされた切手で、特殊加工が施されている切手を拝見しました。
切手を光らせようなどのアイディアってどこから生まれているのでしょうか?

海外の切手って遊び心のあるものも多いんですよ。
星座シリーズを企画していた当時は、目新しい切手を発行したいという雰囲気があって。
ホログラム加工をやってみましょうってことになりました。
実は星座シリーズを出す前に、1度だけ箔押し加工を採用したことがあるんですよ。
正式にホログラムを使った切手を出そうってなった時に、題材は何がいいかな?星だとマッチするねっとなりました。
じゃあ、誰が担当する?星だから星山さんだねって決まったんです(笑)
そこから特殊加工=星山みたいな流れができました。

星座シリーズ。キラキラ光るホログラム加工が印象的。

 

そんな流れだったんですね。
特殊加工はかなり大変そうですが、なぜ今も続けていらっしゃるんですか?

新しいことをするのは、とても大変ですね。
確認テストをはじめ、手間がかかるし気も使うので、手探りしながら少しずつやっています。
いつか、みんなが自由に使えるようになってほしいので、データを集めているような感じですね(笑)
印刷する側も目新しい技術って簡単には出てこないし、それが切手に使えるかというのは、さらにハードルが高くなるので、少しずつ面白いものを探しています。
あと、時代が変わると、昔できなかったことをやらせてもらえるような土壌もできてきます。
例えば、昔はどこかのメーカーの具体的商品は使えなかったんです。切手で広告をするわけにはいかないので。
もし、そういうものがあったとしても、商品と分からないように加工したり商品名を隠すことが前提だったんですが、しっかりとした理由づけがあれば良いなど、民営化して少しずつ寛容になりました。
このお菓子、どうみてもあのお菓子だよね、みたいな(笑)
いつか、思い描いていることを切手にできるかもしれないなと思っています。

時代が変わって新しい技術も生まれて、できることは増えてきそうですね。

反対の出来事もあって、昔できてたことができなくなるというのもあります。機械や素材がもう手に入らないとかですね。
昔のものが新鮮に見えて良いなと思う時もあるんですが、現実的にできないっていうこともありますね。

制作された作品の一部を見せて頂いた。

デザインをする上で、難しさややりがいなどはありますか?

切手というのは、ターゲットが日本全国の老若男女の方なんですね。だから絶対的な当たりというのがありません。
例えば、切手が小さすぎるっていうご意見もあれば、大きすぎるっていうご意見もでてくる。真逆のことを求めらることがあるんです。でも、その中で落とし所を見つけて形を作っていく。
独りよがりだったり、誰かを不快にさせるようなものであってはいけません。
みんなが使うものであるということを大事にしないといけないという大変さはあります。
でも、こんなにたくさんの印刷物として世に出回るものも少ないですからね。
一度は見たことがあると言って頂けるのは、すごいありがたいことです。
その分プレッシャーはありますけど(笑)

聞けば聞くほど、責任もやりがいも大きなお仕事ですね。

皆さんが使うものなので、ミスが許されない。
気を付けていても起きてしまうものですが、あってはいけないことなので、ことあるごとに、いかに防ぐか、ミスを起こさないようにするか、を皆で検討し改善しています。
たくさんの目でチェックしているけど、多くの目があるとかえって安心して見逃すこともあるんです。
なので、自分が当事者だと意識を持ちつつ、気を張って細かく見ていかないといけないので、胃がギュっとなる辛さはあります(笑)

 

Vol.2へ続く

星山理佳(ほしやま あやか)
東京造形大学卒業後、郵政省(現・日本郵便株式会社)に入社。
和の食文化シリーズ・星座シリーズ・世界遺産シリーズなど、数多くの切手のデザインを手掛ける。
年賀はがきの切手部分に描かれている干支のイラストは、粋な演出として大きな反響を呼んだ。

関連記事