
紙の製造工程が家で見られる!?大和板紙株式会社のオンライン工場見学に参加してみた
本、パッケージ、パンフレット、封筒、ノート、タグ……。身の周りを見渡すと、さまざまな紙製品が日常を彩ってくれています。
ペーパーレス化が叫ばれて久しいですが、紙はまだまだクリエイターにとって欠かせない素材の1つ。特にデザインやイラストに携わるクリエイターの皆さんは、作品に応じて最適な紙を選んだり、紙を使った表現の引き出しを増やしたりするためにも、紙という素材への理解を深めておいて損はありません。
今回は、数ある紙の種類の1つ「板紙」を製造している大阪の企業、大和板紙株式会社がオンラインで工場見学会を実施していると知り、参加してみました!
普段見ることのできない製紙工場の内部を見られるだけでなく、紙の成り立ちについて学べる大充実の見学でした。
内容をレポートしますので、興味が湧いた方はぜひ参加してみてくださいね。
文/ヤグチサトコ(ライター/ペーパーアドバイザー)
大和板紙株式会社とは?

※出典:大和板紙株式会社HP
大阪府柏原市にある、創業70年以上の歴史を持つ製紙会社です。
「板紙(いたがみ)」と呼ばれる厚い紙を製造されています。
大和板紙の特徴は大きく2つ。
1つ目は、カラフルな板紙や樹皮を混ぜ込んだ板紙など、さまざまな特徴を持つユニークな紙を開発・製造されていること。
2つ目は、ほとんどの製品が古紙配合率70%以上の再生紙であること。他の製紙メーカーでは扱うことが難しい牛乳パックや酒パックといった難処理古紙を積極的に使用しているそうです。
大和板紙の板紙はデザイナーからの人気が高く、並製本の表紙やお菓子のパッケージなど、さまざまな紙モノで採用されています。
もしかしたら、知らないうちに手に取ったことがあるかも!?
オンライン工場見学の参加方法
大和板紙のオンライン工場見学は、月に1回開催されています。Zoomが使えれば誰でも参加OK!参加費もかかりません。
下記のページから必要事項を記入してフォームを送信すれば、前日までに申し込んだメールアドレス宛にZoomのURLが届きます。
https://daiwaitagami.com/company/factory-tour/
当日はカメラオフで参加できますので、顔を出す必要はありません。あくまでも気軽に、参加のハードルを低くしていただいているところがありがたいですね。
オンライン工場見学レポート
それでは、工場見学の様子をレポートしていきます!
事前説明
当日はメールアドレスに届いたURLをクリックして、入室します。定刻になるとお話がはじまり、まずは事前説明として企業理念や大和板紙の特徴についてお話くださいました。
司会の方のわかりやすい説明を「ふむふむ」と聞いていると、なんと参加型のクイズがスタート!
次のうち、大和板紙で再生が難しい紙はどれでしょう?
A:缶ビールの6本セットの包み紙
B:紙コップ
C:養生シート
参加者はチャット機能を使って回答します。
筆者はなんと、正解できました!まぐれですが……。
読者の皆様はA・B・Cのどれが正解だと思いますか?
答えが知りたい方は、ぜひオンライン工場見学に参加して、確かめてみてくださいね。
続いては設備の概要と古紙から板紙ができるまでの工程の解説です。
実は、紙の作り方には2種類あり、「単層抄き」と呼ばれる1枚の層で作る方法と、いくつもの層を重ねて作る「多層抄き」があります。板紙はほとんどが多層抄きで作られ、大和板紙の製品も多層抄きです。大和板紙には抄紙機(紙を作る機械)が2台あり、1号機は8層、2号機は9層の紙を作っているそうです。
(※事情により本記事には掲載できませんでしたが、見学中はスライドを見ながら、視覚的にもわかりやすく解説していただきました。)
そして原料を仕入れてから板紙ができるまでの工程を、イラストを交えながら解説していただきました。「パルパー」「チェスト」「ピーター」「プレス」……などなど様々な機材を経由しながら原料がだんだんと加工されていき、板紙として完成されていきます。
知らない機械の名前がたくさん並んでいて、「ついていけないのでは……?」と心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、見学では1つ1つの機械について、どういう作業を行うものなのかを丁寧に説明してくださいます。知識がなくても置いてきぼりにされることはありません。わからないことがあれば、その場でチャットを使って質問することも可能です。
もちろん機械の名前まで覚える必要はなく、「こんな風に紙が作られているのか」というのを体感するだけでも十分、紙に対する解像度が上がると思います。
手すき実験
工程の解説の後は、工場の方による手すき実演が始まりました。
なんとリアルタイムで新聞紙から再生紙を作ってくださいます!
実際の機械のどの部分に該当する工程なのかを丁寧に説明しながら作ってくださったので、先ほどの事前説明で聞いた内容の復習ができました。
いよいよ工場内へ!
カメラが工場内へと切り替わり、工場見学のスタートです!
今回、作られていたのは「DKホワイトF」という板紙。飲料容器古紙を使用し、ナチュラルな雰囲気が魅力の白い紙です。
まずは、パルパーという紙を溶かす機械に原料であるお酒パックが投入されていきます。今回は約500㎏の古紙を投入したとおっしゃっていました。このあと約1時間にわたり、機械の中で古紙の繊維がほぐされます。
ほぐされた繊維は、パルパーの底にある直径7㎜の穴の中から次のチェストと呼ばれるタンクの中に送られ、異物除去装置などの機械を通って、約3時間後に紙になって出てきます。そしてこの大きな機械が紙を作るメインの機械、抄紙機です。
左が1号機、右が2号機です。
基本的には同じ構造ですが、バットと呼ばれる紙の層を作るための原料が入っている入れ物が1号機は8個、2号機は9個ついています。1つ多く層を作れる分、2号機の方が厚い紙を作ることができます。
バットの中にはワイヤーシリンダーと呼ばれる円柱状の網が入っていて、回転しながら原料をすくいあげ、シート状にします。その後、シートは表面張力を利用してベルト状の毛布に張り付けられ、次の工程に進みます。ワイヤーシリンダーが回転している様子は、事前に撮影された動画で見せてくださいました。
次は、プレス工程と呼ばれる水を絞る工程です。
バット層で作られた直後の紙は水分率が約90%もありますが、プレス工程で圧をかけて水分を絞り、最終的には約55%まで下げられます。
続いては乾燥(ドライヤー)工程です。
上下交互並んだ蒸気の入ったドライヤーシリンダーに沿わせながら紙のシートを乾燥させます。
ドライヤー工程が終わると、普段私たちが触っている紙の水分率である約7%にまで下がっています。
ドライヤーから出た紙は、表面がボコボコで、ざらざらしています。そこで、紙の厚みを均一にし、印刷適性を上げるためにカレンダーと呼ばれる工程に進みます。カレンダー工程は、紙にアイロンをかけるようなもの。たくさん並んだロールの間を通って下から出ていく間に、紙がフラットになります。
その後は検知器で異物がないかをチェック。
検知器で異物ありと判断された紙は次の紙をカットする工程で弾かれますが、弾かれた紙は最初のパルパーに運ばれ、別の紙の原料として再利用されます。
このように大和板紙では、資源を無駄にしないシステムが構築されており、他にも工場内の水をリサイクルしながら効率良く循環させたり、紙にできなかった部分も燃料としてリサイクルされているそうですよ。
カットされた紙はその後、製品として包装されて完成です。
質問コーナー
最後に質問コーナーがありました。
チャット機能を使って質問すると、工場の方が1つ1つ丁寧に答えてくださいます。
筆者もいくつか質問させていただきました。他の参加者の方の質問も勉強になるものばかりで、とても有意義な時間でした。
最後に
以上、大和板紙株式会社のオンライン工場見学レポートでした。
オンライン工場見学に参加してみて、私たちの手元にある紙はたくさんの工程を経て作られているものなのだと改めて実感しました。
ただなんとなく紙を使うのではなく、素材としての紙について深く知った上で使うと、クリエイティブの質も一段と上がるのではないでしょうか。
オンライン工場見学はその一助になると思います。
誰でも無料で参加できますので、ぜひ参加してみてください!
ちなみに、大和板紙では現地での工場見学も随時受け付けされているそうです。興味がある方はそちらもチェックしてみてくださいね。
大和板紙株式会社HP:https://daiwaitagami.com/
工場見学申し込みページ:https://daiwaitagami.com/company/factory-tour/
X:@daiwaitagami
Instagram:@daiwaitagami_book @_daiwaitagami_factory
ヤグチサトコ
ライター/ペーパーアドバイザー(紙のご相談にのります)。
紙の専門商社に約8年勤務後、インハウスのWebディレクターに転職、その後ライターに。
好きな紙はアラベール。趣味はカメラと美術館めぐり。
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