
横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい× (作り方+分かり方)
横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい× (作り方+分かり方)開催中!
「ピタゴラスイッチ」「だんご3兄弟」「バザールでござーる」「ポリンキー」などの親しみやすいキャラクターの作者でもあり、これまでTVコマーシャルやNHK教育番組、書籍、ゲームなど、さまざまなメディアを通じて発信される斬新かつ親しみやすいコンテンツにより、1990年代以降のメディアの世界を牽引してきた佐藤雅彦さん。2025年2月に全館オープンした横浜美術館にて佐藤雅彦の初の大規模個展そして “作ることを考える” これまでにない全く新しい学びと体験の場として開催中です。

撮影:新津保建秀

撮影:新津保建秀
リニューアルオープンしたばかりの横浜美術館。佐藤雅彦さんの回顧展ともいえる今回の「世界初」となる展示では、これまでの創作活動の軌跡や、これまで彼が世界に送り出してきた多様なコンテンツを楽しみながら体感することができます。PicoN!編集部もワクワクと心を躍らせながら取材に伺いました。
佐藤雅彦さんインタラクティブアート作品「計算の庭」
美術館に入場するとまず目の前に現れる、「計算の庭」。こちらも佐藤雅彦さんによるインタラクティブアート作品です。数字が記されたカードを身に着け、「+8」「-4」「÷2」「×3」「+5」など計算のゲートをくぐりながら、自分の持っている数字を「73」に合わせていきます。

蔵屋美香さん(横浜美術館 館長)、佐藤雅彦さん、松永真太郎さん(横浜美術館 学芸グループ長 主席学芸員/佐藤雅彦展企画)(左から順)

横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景 佐藤雅彦+桐山孝司 ≪計算の庭≫ 展示風景
PicoN!編集部スタッフも挑戦…!ぐるぐると頭の中で考えながらゲートをくぐりゴールを目指します。「73」というゴールを目指すために、考え、迷い、参加者たちは右往左往。計算のゲートをくぐった経路はゴール後にプリントアウトされ、目的を果たすための思考やプロセスには実に何十・何百通りも選択肢や手段があり、そのプロセスを頭と心、そして体を使って楽しむことができる仕掛けになっています。
「作り方を作る」を伝えたいという想いが込められた佐藤雅彦展

横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景
本展示は「作り方を作る」という佐藤雅彦さん自身が大切にされていることを展示作品を通じて来場者に伝えたい、という願いと想いが込められています。展示オープンの数時間前まで、試行錯誤しながら展示方法にこだわられたとのこと。
展示ではとてもユニークで独創的な視点からコミュニケーションデザインの方法論について、そして「作り方を作る」について学ぶことができます。これまで佐藤雅彦さんが手掛けてきた数々のTVコマーシャル、NHK教育番組、映画、美術館ポスター、アニメーション、書籍など実に幅広いメディア・媒体で多くの視聴者のもとに届きました。

横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景
「Theater」では佐藤雅彦さんが電通のCMプランナー時代に制作担当され実際に放映されていたTVコマーシャルや広告をみることができます。誰もが目にしたことのある、聞いたことのある映像にキャラクター、音、そしていつまでも印象に残るキャッチコピー。

[左]だんご3兄弟(NHK「おかあさんといっしょ」 より)[上]フレーミー[下]ぼてじん(上下ともにNHK「ピタゴラスイッチ」より)、画像提供:横浜美術館
佐藤雅彦さんは、文章を読むことも苦手、音楽も苦手、キャラクターが作れるわけでもなく、大学卒業・就職時にデザインが描けるわけでもなかったとご自身の当時を語ります。しかしそんな彼がこれまでユニークで愛着の湧くキャラクターたちや音楽、効果音、キャッチコピーなど数々を生み出してきたのは、佐藤さん自身が研究し作り上げた「作り方を作る」方法論があるからこそなのです。
佐藤雅彦の「ネーミングを作るための方法論」ルール
「作り方を作る」方法として、キャラクターの名前や商品のキャッチコピー、TV番組名などの「ネーミング方法論」が紹介されていました。

[上]ポリンキーの秘密(湖池屋)[下] バザールでござーる(NEC)、ともにアドミュージアム東京所蔵
例えば【新しい構造】として佐藤正彦さんは【ABA’B】【AったらA】などのルールを生み出します。これらは、ネーミングあるいは商品プロモーションにおいて、どの方法が効果的な伝え方ができるかを研究した中で構築された方法論の一つです。
ユニークで印象に残るキャッチコピーや商品名、キャラクターたちの名前は、佐藤雅彦さんの構築したさまざまなルールによって生まれたのです。ぜひ展示会場でじっくりご覧ください。
幼児教育で考え方を伝える「ピタゴラスイッチ」の仕掛け
放送開始から20年以上、現在もNHK Eテレで放送中の「ピタゴラスイッチ」。日用品や文房具、缶詰などを集めて作られた手作りのからくり装置に球を転がしてゴールを目指す「ピタゴラ装置」を間近で見ることができ、実際に装置が動く映像を眺めながら、きっと誰もが夢中になったあの時間を懐かしむことができます。

横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景
「ピタゴラスイッチ」が生まれたのは、当時佐藤雅彦さんが授業を担当していた慶應義塾大学の佐藤雅彦研究室。教育コンテンツを研究する中で、子どもが集中していられる短時間の中でいかに効果的で面白い表現ができるか、という着眼点から生まれたそうです。

横浜美術館「佐藤雅彦展」会場風景
従来は知識を与える幼児教育番組が多かった中で、ピタゴラスイッチという番組は「考え方を伝える」という視点で制作されていったそうです。まさに本展示と重なるテーマ。アルゴリズムやプログラミングの要素も取り入れた「アルゴリズムたいそう」や「10本アニメ」「じゃんけん装置」などのコーナーも非常に面白く、考え方や視点をみつける楽しさを知ることできます。

ピタゴラ装置(NHK「ピタゴラスイッチ」より)、画像提供:横浜美術館
個性をいとおしむ時間と発見が生まれる「指紋の池」
「指紋」は一人ひとり違い、ある意味では自分だけの個性や特徴ともいえますが、日常的にそのことを意識することは少ないですよね。普段は気に留めることもない、自分だけの個性・特徴を「愛おしいな」と思える瞬間を作ってみたかった、と佐藤雅彦さんは仰っていました。

会場風景 佐藤雅彦+桐山孝司 ≪指紋の池≫ 展示風景
「指紋の池」ではスキャンされた自分の指紋が「池」に見立てられた液晶ディスプレイに、まるで小さな金魚のようにひらひらと泳いでいきます。たくさんの指紋が、自由に泳いだり、群れを成したりしていて、次第に自分の指紋は他の指紋たちと混ざって見失ってしまいます。すこし時間を置いて再度指紋を認証すると、先ほど池に解き放たれた自分の指紋が、“おかえり~”とでも言っているかのように群れの中からこちらへ泳いで戻ってきます。思わず「可愛い…。」と声が漏れ、自分の指紋に愛着が湧きます。
世界の見え方がすこし変わってくる、そんな体験ができる佐藤雅彦展

イデアの工場(DNP大日本印刷)
こうした体験型の作品に触れ、学ぶことで、従来にない「新しい作り方」を知り、自分と世界の見え方がすこし変わってくるように感じました。佐藤雅彦さんが “何かを作りだすときには「作り方」から作る” と仰っています。そして、本当に伝えたい事を、「どうしたら分かってもらえるか」と。それこそがまさに本展示のサブタイトル【 新しい×(作り方+分かり方)】なのです。PicoN!読者のみなさまにもぜひ足を運んでいただきたい展示です。
佐藤雅彦展 新しい ×(作り方+分かり方) 横浜美術館にて11月3日(月・祝)まで開催中
<展 示> 横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)
<会 期> 2025年6月28日(土)〜11月3日(月・祝)
<時 間> 10時~18時(入館は閉館の30分前まで)
<休 館> 木曜日
<観 覧> 大人2,000円 大学生1,600円 中学・高校生1,000円 小学生以下無料
<主 催> 横浜美術館、TOPICS
<特別協賛>株式会社電通、株式会社サイバーエージェント、DNP大日本印刷
<協 賛> 株式会社湖池屋、株式会社ビームス
<協 力> NHKエデュケーショナル、アドミュージアム東京、NEC、東京藝術大学大学院映像研究科、佐藤雅彦教育文化財団、みなとみらい線
※そのほか詳細、ご来場にあたっての注意事項などは横浜美術館公式サイトをご確認ください
佐藤雅彦プロフィール
佐藤雅彦(さとうまさひこ)
1954 静岡県田方郡戸田村(現・沼津市)に生まれる
1977 東京大学教育学部を卒業、電通に入社
1987 電通クリエイティブ局に移籍、CMプランナーとして湖池屋「スコーン」(1988)「ポリンキー」(1990)、NEC「バザールでござーる」(1991)、サントリー「モルツ」(1992)などを手がける
1994 電通を退社、企画事務所「TOPICS」設立
プレイステーションソフト「I.Q」(1997/売上本数総計101万本)や「だんご3兄弟」(1999/CD売上枚数380万枚)、などジャンルを横断したコンテンツを次々とヒットさせる
1999 慶應義塾大学環境情報学部教授
2002 慶應義塾大学佐藤雅彦研究室で「ピタゴラスイッチ」(NHK教育)を立ち上げる。以降、国民的幼児教育番組に
2005 佐藤雅彦研究室OBによるクリエイティヴグループ「ユーフラテス」設立
2006 東京藝術大学大学院映像研究科教授(2021年より名誉教授)
2011 芸術選奨文部科学大臣賞受賞
2013 紫綬褒章受章
2014 カンヌ国際映画祭短編部門に正式招待(2018年も)
(横浜美術館公式サイトより引用)

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