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最新記事一覧クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.34〉―「Phaseの変化を感じた○○」
おはようございます。こんにちは。こんばんは。 時事芸人プチ鹿島さんが「9月になったら大晦日」と 毎年警告しているにも関わらず、気が付けば師走。 Pitchfork「2024年の年間ベスト・アルバム TOP50」 (プレイリストはこちら) Rolling Stone「2024年年間ベスト・アルバムTOP100」 など各種年間ベスト○○が発表されている 只中かと思いますが皆様如何お過ごしでしょうか? 年間ベストが発表される時期ですので 一昨年、昨年に引き続き わたくし北米のエボ・テイラーの2024年の音楽以外の 「2024年クリエイティビティを感じた音楽以外のアレコレ」 を列挙しようかと惰性の限り思いつきました。 [clink url="https://picon.fun/art/20221220/"] [clink url="https://picon.fun/art/20231220/"] 今年のアレコレを思い出す中で 一番聴いていたPodcastである奇奇怪怪 (パーソナリティはラッパーTai-Tan氏/mononoaware 玉置周啓) のことが頭をよぎりました。 本番組は世情、カルチャー、ビジネス、テクノロジー… 様々な角度から話されているのですが、 今年話されたエピソードを聴いていて 私が通底して感じたのは 「あらゆるモノゴトのPhaseが変わった」 ということです。 例えばマクロな政治の話でも 都知事選の石丸現象、神戸知事の辞職~再選、 カマラのbrat現象を経てのトランプの再当選、 韓国の戒厳令からルーマニアの問題… など枚挙にいとまがございません。 そこで今年はクリエイティビティを感じた 音楽以外のアレコレを列挙する上で 「Phaseの変化を感じた○○」を 順不同で挙げたいと思います。 Phaseの変化を感じた展示 昨年に引き続き取り上げ&最早推しである アーティストAICONの個展「DESTROY+REBUILD」 自身のつっかえ感を打破するために 破壊により再構造した作品群は個展の説明文にもある通り、 一旦ぶち壊して突破口を作った痛快さも感じるし、 ぶち壊す過程での陶酔感を経た爽快感も感じる。 そしてnext phase感も。 コンセプトに基づく作品、 空間選びと設計、造作、光、空気の統一感が素晴らしかったです。 Phaseの変化を感じた文学 私、働いて10年以上経ちますが 本は相変わらず読んでいる方なのですが それでも小説を読む量はかなり減少しております。 そんな中でも読んだ小説で印象深かったのが 世界的ベストセラーであり20世紀の金字塔的文学 ガブリエル・ガルシア・マルケス著『百年の孤独』 [caption id="attachment_22291" align="aligncenter" width="421"] 画像引用:新潮社HP[/caption] 世界的名著として名高く、 マジック・リアリズムの代表作であり 高尚なテーマが隠れているのでは?と思って 触手が伸びなかったのですが、 今年まさかの文庫化! 文庫化に際して情報が出るたびにSNSが騒然! そしてNetflixでの映像化! 読んでみたら内容はギャグのつるべ打ち… 自身だけでなく あらゆる人が『百年の孤独』を受容 もしくは世界が『百年の孤独』化しているのでは? 本作を読む人々の感受性が変化したのか? 世界の変化により本作が受け入れられやすくなったのか? 今年発売後10月時点で発行部数33万部以上という 奇妙なPhaseの変化に歓喜しております。 いきなり小説から読むのに躊躇している方は 是非Netflixのドラマをお正月にでも! https://youtu.be/jbNmvLQOtZM?si=feSRm_6L0ewAOHnZ Phaseの変化を感じたビジネス本 ビジネス本にPhase云々もないかもしれませんが リクルート江副氏の『起業の天才!』の著者による 『最後の海賊 楽天 三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』は 巷間ささやかれている著名な起業家の実態と功績、 そのイノベ-ションの真価を顕わにする筆致は見事! [caption id="attachment_22296" align="aligncenter" width="518"] 画像引用:小学館HP[/caption] 楽天が取り組んでいる世界初の通信の仮想化や 最先端のがん治療などのチャレンジは 企業体を常に変化させ挑戦を続けており Phaseの変化による期待を感じさせます。 昨年に引き続き、 気が付けばかなりの紙幅を割いてしまったので ほかにも列挙したい 「Phaseの変化を感じた○○」は来月で。 文・写真 北米のエボ・テイラー ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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「アート思考」で先の見えないVUCAの時代を生き抜く(前編)
こんにちは。アートとカルチャーをこよなく愛するキャリアコンサルタント・竹島弘幸です。 前回は企業なるものの不思議さについて、企業=残留思念であると仮説を提示しました。今回はもうちょっと現実的な話に戻しましょう。 企業とアートの関係についていくつかの軸で考えてパッと思いつくのは、企業が本社の受付などに設置するためにアートを購入したり、文化貢献のためのスポンサーなどでしょうか。この企業とアートの関係を考えたとき、欧米に比べて日本のマーケットはまだまだ小さいと言われています。 世界最大級のアート・フェア「アート・バーゼル」(※1)と、スイスに拠点を置く金融機関のUBS(※2)が、世界のアートマーケットの動向を調査、分析した報告書「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2024」によると、2023年のアートマーケットの総売上は推定650億ドル(前年度比4%減)です。そのうちアメリカが42%、中国が19%、UKが17%、に対し日本はたったの1%に過ぎません。GDPの規模に対して小さすぎるシェアですね。 文:竹島弘幸(国家資格キャリアコンサルタント) イラスト:EMI. AD / HD @ SIROCCO コーディネート: 竹内基貴 [caption id="attachment_22234" align="alignnone" width="1600"] EMI. AD / HD @ SIROCCO[/caption] 欧米の会社が、アートを事業の重要な一部として位置づけており積極的に購入、活用しているのに対し、日本では企業の中でのアートの市場がとても小さいのです。 あるキュレーターさんに話を聞くと、欧米のアートマーケットの会合などに出てリレーションをつくる日本人は本当に少ないそうです。キュレーターいわく、日本人は英語が下手でもいいからもっと世界に出ていくべきだと話していました。 余談ですが、私は以前ニューヨークやロンドンの金融機関の本社を何度か訪問したことがあるのですが、受付やミーティングルームには現代アート作品がいくつも美しく飾られていて驚きました。 [caption id="attachment_22235" align="alignnone" width="2048"] EMI. AD / HD @ SIROCCO[/caption] 現代アート作品なので抽象的であったりコンセプチュアルであったりいささかショッキングなものであったりしますが、センスのいいオフィスの中にカッコよく現代アート作品が設置されていて思わず見惚れてしまったと同時に、うわ!……これは敵わないなという感覚も覚えました。 アート作品の展示だけではありません。会社のレターヘッドの高級そうなエンボス加工、書類を入れる企業名が刻印された革製のバインダーなどトータルでアーティスティックなセンスに溢れていました。 敵わないなというのも変ですが、正直そう思いました。振り返ると圧倒的なリベラルアーツの教養の差を感じたのですね。欧米のトップ企業は、教養こそがパワーなのです。 アートを楽しみ、文学を読み、オペラやジャズを聴く、サヴィル・ロウ(※3)のスーツを着こなす……。もちろんみんながみんなそうではないと思いますが、欧米のエグゼクティブを見ていると教養こそがパワーという気がしました。事実、私は打ち合わせする前の時点で圧倒されたのでした。 日本の企業の場合はもちろん応接室に絵があったりしますが、あまり統一的なコンセプトを感じるものではなく、特に現代アートはほとんど見かけません。リベラルアーツの教養の厚みを、上手に活用できている感じが見えづらいかもしれませんね。 ということで、まだまだ日本ではアートを含めた教養がパワーになるという考えは少ないように思います。 山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(※4)によると、英国の美術系大学院大学ロイヤルカレッジオブアート(※5)は、一般企業向けに幹部トレーニングコースを拡大しているようです。世界の大手企業は幹部候補をここに送り込んでいる。さらに同著によると伝統的なMBAなどのビジネススクールへの出願数が減少し、アートスクールや美術系大学へのエグゼクティブトレーニングが増えてきているようです。 なぜ欧米ではこのようなトレンドになるのでしょうか。現在はあちこちで言われる通りVUCAの時代です。VUCA:Volatility=不安定、Uncertanity=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity=曖昧の頭文字を取った造語で、元々は米国陸軍が現在の世界情勢を表現するために作った言葉です。 [caption id="attachment_22236" align="alignnone" width="1600"] EMI. AD / HD @ SIROCCO[/caption] 要するに企業は一寸先は闇、未来が見えにくい時代に生きているということですね。 最近ではトランプ大統領が選挙で勝利しました。アメリカの大統領の政策により世界は大きな影響を受けます。地球環境的にも人類の活動が環境へ大きな影響を与え、自然のシステムを変えてしまったと言われています。 このような時代に、論理的思考だけでは企業は勝ち抜けないのです。MBAに代表されるビジネススクール的なフレームワーク(※6)はとても優れた方法なのですが、致命的な問題として競争相手の会社も同じ結論に辿り着く、という点が挙げられます。ロジカルな分析や整理はロジカルゆえに汎用的で誰でもが使えますので、最終的には同じ結論になりがちです。したがって、イノベーションや世の中をあっと驚かせるようなプロダクト、サービスを考え出すことができなくなるのです。 そこでアート思考の重要性が言われてきているのです。 VUCA時代に企業は「カッコいい!美しい!面白い!これ自分が欲しい!」などのエモい感情に訴えかける製品、サービスを生み出す必要があるのです。 長くなりましたので、続きは次回に……。連載第3回では、国内外のいくつかのユニークな取り組みをご紹介していきましょう! 注釈 (※1) アート・バーゼル 世界最大級の現代アートフェアで、スイスのバーゼル、アメリカフロリダ州のマイアミ、香港、パリの4都市で開催される。世界中のアーティスト、ギャラリスト、バイヤーが集まり、写真を含む、幅広いジャンルの作品が展示され、売買もされる。 >本文に戻る (※2)UBS スイスに設立された多国籍投資銀行および金融サービス企業。 >本文に戻る (※3)サヴィル・ロウ ロンドンのストリート。ピカデリーサーカスの北西に位置し、 ビスポーク(顧客と仕立て屋が話し合いながら作る”been spoken for…”が語源。俗に言うオーダーメイド)のスーツを扱うテイラーが並ぶ。ちなみに、日本語の「背広」はサヴィル・ロウがなまったもの。近年では映画「キングスマン」の本拠地の舞台にもなっている。 >本文に戻る (※4)ロイヤル・カレッジ・オブ・アート (Royal College of Art: 通称RCA) QS世界大学ランキングで、2024年の時点で10年連続でアート・デザイン分野の世界1位となり、世界一の美術系大学として認知されている。英国ロンドンに所在。卒業制作展も有名で、革新的で多彩な作品が一般に公開され、各国からバイヤーやギャラリスト、企業なども訪れる。2024年の展示では、アートやデザインの最新のトレンドや技術が紹介され、持続可能性やAI、アイデンティティ、革新的な技術、包括性など、現代社会の重要なテーマが探求された。 >本文に戻る (※5)山口周 山口 周(やまぐち しゅう、1970年- )は、日本の著作家・経営コンサルタント。 (Wikipediaより) >本文に戻る (※6) フレームワーク ここでいうフレームワークとは目標達成や経営戦略、課題解決に役立つ思考の枠組み、手法のこと。SWOT / 3C /4P分析などが有名。 >本文に戻る 文/竹島弘幸 (HIROYUKI TAKESHIMA) 国家資格キャリアコンサルタント 外国人雇用労務士 大手通信会社勤務中。 新規事業開発・金融系企業複数社の立ち上げやTOBを実施、執行役員を歴任。近年ではアジア諸国へ出向など。 同時に映画や音楽、アート等の視聴覚芸術、ファッション、現代思想などへの造詣を活用した共生社会の実現のたに、「人的資本経営」をサポートする会社を起業。 コーディネート/竹内基貴 (MOTOKI TAKEUCHI) プロデューサー/コンサルタント 日本写真専門学校卒業後、フォトグラファーになる。その後ロンドン芸術大学(LCC)留学。帰国後はIT企業各社にてWEBマーケティングや新規事業棟に従事。2015年に起業、アーティスト/文化人のマネジメントやデザイン会社の広報業務、企業のM&Aなどを行う。現在は地方でギャラリーを経営しつつ、初心に返りちょっとだけ映像制作も行っている。 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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渋谷・最新の観光スポット!「サクラステージ」をインテリアデザイナーが解説
2024年7月25日に全面開業した商業施設「渋谷サクラステージ」。100年に一度と言われる再開発で、街はどう変わったのでしょうか? 渋谷駅から国道246号線を跨いでわずか数百メートル足らずに位置しながら、かつては小規模な古くからの店舗が立ち並び、昭和の面影を残していたこのエリア。2008年から準備が進められ10年間の調整期間を経て着工、東急グループが主体となり開発が続けられていた一連の渋谷駅再開発(※)において、サクラステージは最後の大型複合施設として完成しました。 サクラステージは、渋谷駅寄りの「SHIBUYAサイド(A街区)」、街区道路を挟んだ「SAKURAサイド(B街区)」、SAKURAサイドに隣接した「C街区」という3つの区画で構成されています。 「SHIBUYA SIDE」に位置する最も大きな39階建ての「SHIBUYAタワー」。地下2階~地上5階に入る商業施設、7階に入る多言語対応の国際医療施設、7階~8階には大学、全体の多くを占める上層階のオフィスフロアにはIT系・クリエイティブコンテンツ系の企業などが誘致されています。 「SAKURA SIDE」の「SAKURAタワー」は、低層階に商業施設、子育て支援施設、中層階には長期滞在が可能な高級ホテル、上層階には155戸の太陽光発電を活用した環境先進型マンションが入っています。 施設全体の構成を見てわかるのは、急成長しているIT企業を誘致することで活気のある街づくりを目指していること。海外からの観光客を見込んだ高級ホテルとして利便性を高めていること。住居が少なく夜間の空洞化が問題となっているため、商業施設としての価値が高いこのような場所にも住宅が設けられていることなど、これからの時代を担う施設に生まれ変わったということです。 また、災害に強い安全な街づくりの一環として、帰宅困難者のための一時滞在が可能な2900人分の空間や、2~3日分の食料が備蓄されています。 今回の再開発で拡張された「渋谷駅西口遊歩道デッキ」は、渋谷駅の山手線、井の頭線、銀座線のプラットホームから地上に降りることなく移動できるようになり、渋谷ストリームにつながる「北自由通路」ともつながったおかげで、分断されていた駅周辺の回遊性が高まり、桜ヶ丘地区の入り口としての役目を果たし利用者に大きなメリットをもたらしました。 「サクラステージ」の名前の由来である地名の桜ヶ丘地区は、名前の通り桜の名所、4月のはじめには、入り口前のデッキから「サクラ坂」をバックに写真を撮る外国人の姿も見られました。 この「サクラステージ」は、一連の渋谷駅再開発ビル群の中で(※)、「アートの発信」という位置づけを担っていて、壁面の四箇所に「スクエア型映像ユニット」を用いてデジタルアートを発信する「壁面を飾るメディアファサード」が設置されていて、様々なアーティストによるダイナミックな映像表現が常に楽しめます。 またビルの数ヵ所に設けられた「サクラテラス」や「はぐくみステージ」といった広場では常に様々なイベントが行われています。 [caption id="attachment_22214" align="alignnone" width="623"] (実は私も先日行われたヨガのイベントに参加してきました)[/caption] 最後に少し個人的な意見になりますが、ここ数年の東京都の再開発は、富裕層向けやインバウンドを意識したものが多いと感じています。今回、サクラステージの開発をもってひと段落しましたが、街区が綺麗に整理された反面、今までそこで暮らしていた生活者の日常を大きく変えることにもなりました。周辺では、再開発の影響で小さな店舗が少なくなり、コンビニ難民やランチ難民などが発生しています。 リセットボタンを押すような再開発ばかりではなく、時代が折り重なった複雑で多様な街の姿や、古き良き横丁文化など、様々な選択肢を生活者に残してほしかったとも思っています。 ※渋谷ヒカリエ - セルリアンタワー - 渋谷スクランブルスクエア - 渋谷ストリーム - 渋谷フクラス - 渋谷ソラスタ - 青山パークタワー - 渋谷マークシティ - 渋谷クロスタワー 文/角範昭 専門学校日本デザイナー学院90年卒。97年有限会社空デザイン開業。 小さな街の飲食店から大型フィットネスクラブまで現在までに1300店舗以上を手掛ける。 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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おすすめ記事
おすすめ記事一覧「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑳ ― 『モネ 睡蓮のとき』展 <国立西洋美術館・東京/上野> について
『モネ 睡蓮のとき』展 <国立西洋美術館・東京/上野> について 専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。 今回は東京都、上野の国立西洋美術館で開催されている(2024年12月現在)『モネ 睡蓮のとき』展についてです。私自身が日本デザイナー学院東京校の「総合イラストレーション科」の3年生とともに見学に出かけましたので、その展覧会の展示作品からいくつかをご紹介します。 印象派の代表格であるクロード・モネ ( Claude Monet 1840~1926 ) についてはこのコラムでも何度も登場しています。第2話でもこの画家の紹介と『印象派』という呼称の由来等にも触れましたが、今回ご紹介するこの展覧会もフランス・パリの「マルモッタン モネ美術館」からの日本初公開となる重要作を多く含むおよそ50点に日本各地に所蔵される作品を加えた展示になります。 ※下線部展覧会リーフレットより引用 では、晩年の作品を中心にモネの描いた風景の世界を一緒に見ていきましょう~。 [caption id="attachment_22107" align="aligncenter" width="700"] 【クロード・モネ Claude Monet 『 睡蓮、夕暮れの効果 / Nymphéas effet du soir 』1897年 73x100cm カンヴァスに油彩 Musée Marmottan Monet マルモッタン モネ美術館蔵 / Paris,フランス】 ※画像引用元:国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』展 HP[/caption] ほの白い可憐な睡蓮の花と葉が池に浮かんでいます。水面は細やかな筆のタッチ(筆致)によって描かれていて、空の色や雲の明るさを反映している色調です。そして青や淡い紫色に織りなされた水面に次第に近づく日没『夕暮れ』の光量の翳りに、花弁の白さが一層明るさを増しているかのようです。こうした時間の経過によるモチーフの変化を画面に表現しようとするのはモネの絵画の特徴の一つだと思います。 続いては、 [caption id="attachment_22108" align="aligncenter" width="643"] 【クロード・モネ Claude Monet 『 睡蓮の池 / Le Bassin aux nénuphars 』1917- 1919年頃 130x120cm カンヴァスに油彩 Musée Marmottan Monet マルモッタン モネ美術館蔵 / Paris,フランス】※画像引用元:国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』展 HP[/caption] 縦長のカンヴァスに池の奥行きを感じます。池に落ちる木陰の濃い緑と空が映り込む水面に睡蓮の葉の明るい黄緑系と花の鮮やかな赤が印象的です。比較して近景(画面の下の方)には力強いタッチ(筆跡)に色彩にコントラストをもたせ、画面中央から上の遠景には柔らかく淡い色使いで描くことで、視覚的な遠近感をもたらしています。四角いカンヴァスに切り取られた光景ですが、池の広がりを感じる作品です。 [caption id="attachment_22109" align="aligncenter" width="696"] 【クロード・モネ Claude Monet 『 睡蓮、柳の反映 / Nymphéas, reflets de saule 』1916- 1919年頃 200x200cm カンヴァスに油彩 Musée Marmottan Monet マルモッタン モネ美術館蔵 / Paris,フランス】※画像引用元:国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』展 HP[/caption] 「 睡蓮、柳の反映 / Nymphéas, reflets de saule 」という画題の作品をモネは複数描いていて、今回の展覧会でも同名のタイトルの他の作品も鑑賞することができます。この作品は2メートル四方の正方形をしたカンヴァスに、睡蓮の浮かぶ池の水面に映り込んだ柳の枝葉が画面の上から下に大きくカーブをしている様子を主に青系の色調で描いています。それは睡蓮の葉と重なり合うことで、かろうじて水面であることと、柳の枝葉が風に揺れそよいでいることを表現しています。その荒々しいほどのタッチ(筆跡)は刻々と移り行くこの水面の表情を一刻も早く描き止めようとしているかのようです。この一瞬の光景ですがこれをほど3年かけてモネは描くのです。 そしてここには具体的な描写から離れた抽象性を感じます。「美術のこもれび」第5話でご紹介した現代アート作家「ゲルハルト・リヒター」の描く抽象作品の表現にも通じると感じています。 [caption id="attachment_22110" align="aligncenter" width="640"] 【クロード・モネ Claude Monet 『 睡蓮、柳の反映 / Nymphéas, reflets de saule 』1916-1919年頃 130x157cm カンヴァスに油彩 Musée Marmottan Monet マルモッタン モネ美術館蔵 / Paris,フランス】※筆者自身が撮影[/caption] こちらは展示室の中で撮影が認められている一室があり、そこで展示されていた作品を筆者が撮った作品です。 モネは1916年~1919年頃の時期に同名の作品を複数制作しました。深い緑系の色で描かれている水面には柳の枝葉がもはや判別が難しいほどに同系色で描かれています。こうした区別がしにくいほどに刻々と夕暮れが深まる池に二つの睡蓮の花が鮮やかさ放っていて印象的です。時間の経過を惜しむように画面の端は描こうとせず、モネはこうした時のうつろいをカンヴァスに刻もうとするかのように繰り返し描いていきます。 [caption id="attachment_22111" align="aligncenter" width="640"] 【クロード・モネ Claude Monet 『 睡蓮 / Nymphéas 』1914-1917年頃 130x150cm カンヴァスに油彩 Musée Marmottan Monet マルモッタン モネ美術館蔵 / Paris,フランス】※筆者自身が撮影[/caption] 睡蓮の白い花と点々と浮かぶ丸い葉に、水面に逆さに映り込んだ水生植物と青空、そして白い雲が明るい色調で描かれています。池を吹き渡たり水面を揺らすような風もない静寂さに、明るい雲だけがゆっくりと移動しているかのようです。晩年のモネがこの作品の画面に一つだけの白い花とこの静寂さを描く1914年から1917年頃とは、フランスはまさに大きな戦争(第一次世界大戦)に参戦の最中だったのです。 色々な思いを持ちながら、ゆっくりと鑑賞することができた展覧会でした。 最後に東京、上野公園内「国立西洋美術館」での『モネ 睡蓮のとき』展のエントランスの画像です。【筆者撮影】 この展覧会はJR上野駅【公園口改札】から出て徒歩1分。駅から最も近い美術館での開催です。銀杏も紅葉しています。 開館時間は17:30まで、基本的に月曜日が休館日(※日程はサイトで確認しましょう)。 日本デザイナー学院は国立美術館キャンパスメンバーズ加盟校ですから、学生証の提示で学生1,200円で観覧できます。 さあ芸術の秋にモネの描く『睡蓮のとき』を満喫しに出かけましょう! 展覧会情報 『モネ 睡蓮のとき』展 会 期:2024年10月5日(土)~2025年2月11日(火・祝) 場 所:国立西洋美術館(東京都・台東区上野公園内) 公式HP:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2024monet.html [clink url="https://picon.fun/art/20241008/"] ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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鉄道撮影紀Ⅱ ~ 鶴見線大川支線~ 去り行く古豪 クモハ12
横浜市の鶴見駅を起点とする鶴見線の大川支線には、1996年(平成8年)3月まで、戦前に製造された電車が走っていた。蒸気機関車のD51よりも古く、昭和4年と6年に作られた「クモハ12」だ。 運転されていた鶴見線大川支線は、武蔵白石駅から大川駅の約1kmの短い路線だが、武蔵白石駅に急カーブのホームがあり、現在走っている通常の20m級の車両が入線できず、短い17m級の車両でなければ走ることが出来ない路線であった。 そんな特殊な路線だったので、昭和から平成に変わっても旧形車両が2両で日々交代しながら運転されていた。 [caption id="attachment_21953" align="aligncenter" width="750"] 高校生の頃に撮影したカット。大川支線ではなく海芝浦支線ですが、昔から行っていたという証拠でもあります。[/caption] しかし、路線の特殊さ故に奇跡的に残った鶴見線のクモハ12が老朽化面で限界となり、1996年(平成8年)3月15日をもって営業運転から退くこととなってしまう。 写真学校入学する前から、時間があれば鶴見線に行き撮影をする日々だったが、運転終了が公式発表されたのを機会に、仕事を一時辞め、鶴見線に通い撮影することを決意。最後の活躍を記録し写真展をする事を目標とした。 [caption id="attachment_21948" align="aligncenter" width="750"] 大川駅へ進入するクモハ12[/caption] 写真展を目標にするからには、30~50枚の作品を見せられる事を想定しながら撮影していくが、列車の運転は朝夕のみの線区なので闇雲に撮っても纏まらない。決まりを作り撮影する事にした。 鶴見線の撮影は、始発から終電まで、運良く自宅から通うことができる場所だった。鶴見線の定期券を購入し、週1日の休みを設け、それ以外はなるべく撮影に行く日常がはじまった。 [caption id="attachment_21947" align="aligncenter" width="750"] 大川支線の始発電車の送り込みを横から撮影[/caption] 朝一番の列車が鶴見線の車庫から出てくるところを撮影するため、5時前に最寄り駅から列車に乗って現地に向かい、朝の運転が終わると入庫の撮影。昼間はフイルムの現像を出しに行ったり、ロケハンしたりして、夕方の出庫に合わせ再度移動。運転が終了し車庫に入るところまで撮影し、自宅に23時前に帰宅する毎日。 [caption id="attachment_21944" align="aligncenter" width="750"] 白熱灯の車内。運転終了する2日前の撮影。外で談笑していたら偶然車内に人が居なかったので、撮ったカット。現場にいたファンは数人いて、お互いに話し合いながら、画角に入らない様にして撮っていました[/caption] 撮影時期は1月~3月。日の出時刻が遅く、電車が走行する時間帯は陽がまだ低くて撮影条件は厳しかった。今とは違い、感度の低いフイルムでの撮影だったが、当時は明るい単焦点レンズをメインで撮影していた。 [caption id="attachment_21945" align="aligncenter" width="750"] 朝日が差し込み、木の床を照らしています[/caption] [caption id="attachment_21949" align="aligncenter" width="500"] 朝の運転台[/caption] 路線の大半は道路と並行しているが、線路側は歩道がなく大型トラックの通行も多いので、道路からの撮影は極力避け、安全を最大限に優先して撮影に挑んだ。 武蔵白石駅は急カーブ上にあり、少し走ると大川駅まで長い直線になるので、安全に撮影でき、沿線の工場への踏切、鉄橋、終端となる大川駅、その奥にある工場と短い線区の割に様々な撮影ポイントがあったので、始発から終電まで様々なカットを撮ることができた。 [caption id="attachment_21955" align="aligncenter" width="750"] 武蔵白石を出てすぐのカーブから大川への直線[/caption] しかし、写真展を目標と思い立ち撮り続けてきたが、最終的に季節感が足りないことに気が付いた。撮影できる期間が短く、いわゆる冬らしい写真が撮れていなかったのだ。 横浜や川崎は冬でもなかなか雪が降らない。このまま撮影期間が終わってしまうか、と思っていたその矢先、最終運転終了の直前に降雪があった。それはまさに奇跡的なタイミングであった。雪の中を「クモハ12」が走り抜けるカットを撮る事が出来、冬を強調する写真を撮ることができた。 [caption id="attachment_21946" align="aligncenter" width="750"] 雪の日、ある意味奇跡のカット[/caption] その後、最終運転まで、撮ったカットの見直しや再撮影をしたり、新たに撮影ポイントを探したり、大判カメラで撮影したりと試行錯誤しながら様々なことに取り組んだ。そしてついに迎えた最終日。雨が降る中、営業運転の最後を見送った。 [caption id="attachment_21956" align="aligncenter" width="750"] 武蔵白石で小雨降る中の発車待ち[/caption] [caption id="attachment_21954" align="aligncenter" width="750"] 大川支線での本当に最後の発車シーン、この回送が出て、武蔵白石の大川支線のホームが解体されました。[/caption] 定期運転が終わり、お別れ運転が行われるまで少し期間があり、貸し切りでの運転が行われ、定期運転されていた区間以外にも走ったので、追加の撮影をすることが出来た。 [caption id="attachment_21957" align="aligncenter" width="750"] 定期運行が終了し、貸切で運転された時のカット。マンションの階段から撮影。[/caption] 「クモハ12」のお別れ運転が行われた日、鶴見駅には人が溢れるほど集まった。くす玉割が行われ、イベントが盛大に開始された。お別れ運転を記録し、これで本当に最後の撮影が終了した。 [caption id="attachment_21958" align="aligncenter" width="750"] お別れ運転当日のカット、報道や多数のファンが訪れ溢れかえるホームで、手を伸ばして撮影したカット。 デジカメでは無いので当たりをつけてノーファインダーで撮りました。[/caption] すべての撮影を終え、写真をセレクトして展示点数を揃えた。2か所のメーカー系ギャラリーの公募に応募してみたが、落選。当時は今ほど鉄道写真への評価はされておらず、著名な鉄道写真家でもメーカーギャラリーでは、なかなか展示がおこなわれていなかった。 結局、当時渋谷にあったカメラ量販店のラボが運営しているギャラリーに応募し、無事に採用。念願の写真展を1997年5月に開催した。 写真・文 伊藤純一 ▽使用機材 〈カメラ〉 35mmカメラ Nikon F3P Nikon F4 〈レンズ(全てニコン)〉 28mmF2,8 50mmF1,4 85mmF1,4 85mmF2 105mmF2,5 180mmF2,8 300mmF4,5 20-35mmF2,8 80-200mmF2,8 〈フィルム〉 ・カラー Kodak E100 EPP EPZ Konica 森羅100 (SRS) ・モノクロ 富士写真フイルム NEOPAN 400 PRESTO ▽関連記事 [clink url="https://picon.fun/photo/20220204/"] [clink url="https://picon.fun/photo/20220311/"] [clink url="https://picon.fun/photo/20230316/"] [clink url="https://picon.fun/design/20240802/"] ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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アートが秘める「見える化ツール」としての可能性。DX&AIが拓く、表現の未来とは?
こんにちは。アートとカルチャーをこよなく愛するキャリアコンサルタント・竹島弘幸です。 この連載では、長年一般企業に勤め主に国内海外の新規事業開発を行ってきた僕が「アート×企業」という切り口から、アートに対する新しい観点を探ってみようと思います。 「世俗離れしたイメージのあるアートが、企業とどう関係あるの?」そう思われる方も多いでしょう。しかし、どんなアーティストやクリエイターであっても、何らかのかたちで「企業」という存在には関わりを持つことになるのです。たとえば企業に勤めてアートやデザインの仕事をする人はもちろん、派遣社員をしながら創作をする人もそう。フリーで創作活動を頑張る人も、ギャラリー展示のスポンサーやアート系サイトでの販売といったかたちで、企業に関わっています。 そのほかにも、「アート×企業」の関わりは現代では多様なものがありまして、パッと思いつくのは企業が本社などに設置するためにアートを購入したり、文化貢献のためのスポンサー活動でしょう。またラグジュアリーブランドや自動車会社が自社製品のデザインやマーケティングにアートのセンスを入り込むこともよく行われています。そして経営にアートを取り入れる”アート思考”も数年前から提唱されています。 このように「アート×企業」は結構深い関係にあるんですね。 この連載ではさらに思考をグッと推し進めて、企業自身がアーティストとなり絵筆を持ってアート作品を作成する可能性についても考えたいと思っています。こう言うと、え?企業自身が絵筆をもつなんてできないでしょ……人間じゃないんだから……と不思議に思われるかもしれませんね。でも結論を先に言うと、DX(*1)やAIといったデジタルテクノロジーの進歩によって、企業が”絵筆”をもてる時代が来ているのではないか。僕はそう考えているんです。 (*1)DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がデジタル技術を活用して、業務プロセスや組織、企業文化、ビジネスモデルなどを変革し、競争上の優位性を確立する取り組みのこと。英語の「Digital Transformation」の頭文字をとったもので、「Transformation」のTransに交差するという意味があり、交差を1文字で表す「X」が用いられています。DXと似た言葉に「デジタル化」や「IT化」があるが、目的が異なります。デジタル化は業務効率化が主な目的である一方、IT化は特定の業務プロセスの効率化に焦点を当てます。 文/竹島弘幸(国家資格キャリアコンサルタント・外国人雇用労務士) 企業とは「目に見えないオバケ」である⁉ まずちょっと回り道ですが、そもそも「企業」とは何なのか、をしっかり考えておきたい。 結論から言えば、企業とは「残留思念」、つまり人の感情・思い・記憶といった目に見えないものが集まってできたものである――というお話をします。ちょっとスピリチュアルに聞こえるかもしれませんが、とても単純なことです。 まず企業の所有者は株主です、株主によって企業は所有されています。そして株主は経営のプロを選任して業務を委託します。それが社長や取締役といった人々です。また、企業は多くの従業員、つまり「人」を雇用します。「人」以外の要素についていうと、本社ビルや机椅子とかの備品、設備投資した工場や機械、販売店舗なども企業を構成する要素です。 上記の説明をよ~く読むと不思議なことがわかります。どの要素も「企業の一部」ではあるものの、「企業自体」を指し示していないのです。 [caption id="attachment_21865" align="aligncenter" width="750"] イラスト/ⓒみさきアトリエ[/caption] 「企業自体」はどこに存在するのでしょうか。例えば「トヨタの社員さん」や「トヨタの社屋」や「トヨタの車」ではなく、「トヨタという会社自体」に会ったことがあるよ、という人は、おそらく誰一人としていないでしょう。街で見かけるロゴや広告なども、企業を表す記号だったり、宣伝だったりするので、厳密には「企業それ自体」ではありませんね。 このように考えると、多くの要素の集合体というものが企業であると一旦は言えます。法律的にみると例えば会社法(*2)では企業に対し行動すべきことや罰則が規定されていますし、日常的に行われる契約行為も企業間で行われています。「法人」という言い方はまさに絶妙でありまして、あたかも人のような存在として法的に扱われているのです。このヒトのようでいてヒトでなく、モノのようでいてモノでない曖昧な集合体…これが企業です。 (*2)会社法とは、会社の設立・運営において守らなければならない規定を定めた法律です。会社法は、全8編から構成されており、企業における会社の設立、組織、運営や管理について定めた法律を定めています。会社に関わる色々な法律がありましたが、統合・再編成され、2006年に施行されました。会社法の役割は会社経営の柔軟性を高め、機動力を向上させることです。取引相手の保護、利害関係者の利益確保、法律関係の明確化などが重要なポイントです。 哲学や思想にも明るいマクロ経済学者の岩井克人(*3)は『会社はだれのものか』という著書で、法人という存在の不思議さについて企業の社会的責任(*4)の観点から論じています。 (*3)岩井 克人(いわい かつひと、1947年〈昭和22年〉2月13日 - )は、日本の経済学者(経済理論・法理論・日本経済論)。学位はPh.D.(マサチューセッツ工科大学・1972年)。国際基督教大学特別招聘教授、東京大学名誉教授、公益財団法人東京財団名誉研究員、日本学士院会員。本編では、氏の著書『会社はだれのものか』平凡社、2005年を参照しています。 (*4)企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)とは、企業が事業活動において、環境や社会、利害関係者に対して責任ある行動をとることを求める考え方です。CSRは、企業が利益至上主義に傾倒せず、社会全体に対して責任を果たすことを意味します。企業は、土地や人材、資源などを社会から借りている立場にあるため、それらを大切に活用するという義務があります。 また、その取り組みは、企業の社会的評価や信頼向上につながり、事業の成長にもつながります。また、社会問題や環境問題が注目される中で、CSRはますます重要視されています。 ではその多様な要素をつなぎ止めているものはなんだろうかと考えてみましょう。僕としては、企業に関与する人々の「残留思念」こそが各要素をつなぎ止め、企業自身となるのではないかと考えています。 例えば企業には歴史があります、過去があり今がある。また多くの役員、従業員がいてさらに過去に定年退職していった人や転職していった人々の思い、成功した人、平凡に過ごした人、失敗した人、喜びや悲しみ、怒り、人々の気持ちの交流、魂の交感。このような残留思念が形になったものが企業自身なのではないでしょうか。例えば、自分の人生に置き換えれば、生まれてから今まで出会ってきた人々との関わりの ”記憶” が、過去と現在をつなぎ、それらが現在の自分を形成していますよね。 こう考えると、「企業文化」なるふわっとした言葉も説明しやすいと思います。人々の残留思念が、企業文化の担い手なのです。明確に定義はできなくても企業文化って確実にあります(まだちゃんと働いた経験のない学生読者の皆さんは、企業文化=校風のようなものと想像してみてください)。挑戦的だったり、保守的だったり、面白系、センスがいい、とんがっている、環境意識が高いなど、企業文化をつくるのは最初は創業者の思いだったりしますが、それを人々の残留思念が継承しているのでしょう。 企業の「残留思念」をカタチにする、デジタルアートの可能性 ここで本連載の主題である、企業=残留思念が絵筆をもてるのか? についてです。普通に考えれば残留思念が物理的なモノ、油絵とか日本画の画材を持って作品を作ることはできませんよね。ただ、デジタルテクノロジーはそれを可能にしつつあると考えます。 また横道ですが、皆さんはクリストファー・ノーラン監督の傑作SF映画『インターステラー』をご覧になったことはあるでしょうか? この映画はSFであると同時に、父と娘、家族の物語でもあります。 https://youtu.be/isoTSzwBMKE?si=veEfxTYuK6dKqMzu 宇宙船で異なる次元に旅立った父クーパーは、重力制御の方法を地球にいる娘になんとかメッセージで送ろうとします。しかし次元が異なる世界にいる二人は、メールも電話もできるはずがありません。そこで父クーパーは、地球にいる娘に対し時計の秒針を動かしメッセージを伝えることを思い付きます。これがモールス信号なのです。果たして娘は父のメッセージに気がつくのか!? [caption id="attachment_21864" align="aligncenter" width="750"] イラスト/ⓒみさきアトリエ[/caption] クーパーが「俺の娘だ」と信じてメッセージを送り続けると、ついに娘はその意味を理解します。そしてモールス信号を分析し、重力制御の方法を組み立てることに成功するのです。 本論に戻りますと、残留思念である企業が現実界の絵筆を持ち、アートを作成できるのか? この問いについて、『インターステラー』がヒントを与えてくれます。 「残留思念」は現実世界に存在していますが、物理的な意味で世界とは次元が異なります。しかし両者は、コンピューターの「ハードウェア(=物理界)」と「ソフトウェア(=残留思念)」のような関係にあります。物理的実体のないソフトウェアがハードウェアを動かせるように、残留思念もまたコンピューターのプログラム(インターステラーのモールス信号)を駆動させることはできるのではないでしょうか。残留思念は物理世界に接触できずとも、あるプログラムに対してパラメータ(*5)を投げ込むことならできるのです。 (*5)パラメーター(Parameter)とは、物事の結果に影響を与える値や、外部から与える値を意味する言葉です。もともと数学やプログラミングなどの分野で幅広く使われており、それぞれに意味が異なります。 数学やプログラミングでシステムや関数の挙動を調整する要素として使われていましたが、その概念が派生し、ビジネスシーンでも「成果に影響を与える重要な条件」として活用されています。計画や戦略を調整し、目標達成を最適化する役割を担う概念として頻繁に使われています。 例えば銀行が工場に対して1,000万円融資を実行した。その金額や時期などは「数値データ」というパラメータとして表現できます。このパラメータをあらかじめ用意されたプログラムに投げ込めば、アウトプットとして何らかのデジタルアートを生成できます。そしてそのアートは、1,000万円の融資に関わった営業担当の思い、決裁した役員の思い、借り手の事業者の思い、融資を受けた工場や、その利用者の思い……などがプログラムによって結実した、いわば「思念」の表現であると見ることもできますよね。アーティストの「思念(想い)」が、絵の具という媒体で表現されるのと同じことです。 このように企業活動=残留思念を、デジタル技術を使うことでアートとして見える化することはできるのではないでしょうか。 いわばアートは、企業の残留思念という目に見えないものを見える化する、「妖怪ウォッチ」のような役割を果たせる可能性を秘めているのです。 [caption id="attachment_21863" align="aligncenter" width="750"] イラスト/ⓒみさきアトリエ[/caption] ヒトのようでいてヒトでなく、モノのようでいてモノでない残留思念=企業。この活動を、この連載では考えていきましょう。 文/竹島弘幸 (HIROYUKI TAKESHIMA) 国家資格キャリアコンサルタント 外国人雇用労務士 大手通信会社勤務中。 新規事業開発・金融系企業複数社の立ち上げやTOBを実施、執行役員を歴任。近年ではアジア諸国へ出向など。 同時に映画や音楽、アート等の視聴覚芸術、ファッション、現代思想などへの造詣を活用した共生社会の実現のたに、「人的資本経営」をサポートする会社を起業。 コーディネート/竹内基貴 (MOTOKI TAKEUCHI) プロデューサー/コンサルタント 日本写真専門学校卒業後、フォトグラファーになる。その後ロンドン芸術大学(LCC)留学。帰国後はIT企業各社にてWEBマーケティングや新規事業棟に従事。2015年に起業、アーティスト/文化人のマネジメントやデザイン会社の広報業務、企業のM&Aなどを行う。現在は地方でギャラリーを経営しつつ、初心に返りちょっとだけ映像制作も行っている。 ↓PicoN!アプリインストールはこちら
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