想像の世界への探査と遊泳。大須賀馨個展「月と潜水艇 / The Moon and Submarines」開催中

 

夜中、街灯の少ない道路をドライブをしている時、まばらに配置された街灯が夜の空に溶け込んで、星空に包みこまれるような感覚があった。星空の中を鉄の塊に乗り込んで進んでいく様は、宇宙船に乗り込んで宇宙空間を遊泳する様と重なり、海岸に辿り着いた時には私は月面に着陸した宇宙飛行士のような気分になっていた。

私たちがいつも見ている月は、自転と公転の同期により、いつも同じ面を地球に向けていて裏側を肉眼で観測することは困難だ。月面に着陸した気でいた私は、その裏側を見てみたいと月を探査するように、その海岸の探査を始めた。

大須賀馨『月と潜水艇 / The Moon and Submarines』より

大須賀馨
「 月と潜水艇 / The Moon and Submarines 」

2022年1月18日(火)~1月30日(日)
TOTEM POLE PHOTO GALLERY 
12:00~19:00
入場無料

TOTEM POLE PHOTO GALLERY

 

月の裏側を想像しながらその世界を映すということ。

今回の展示「月と潜水艇」は月の裏側をテーマにした作品です。「月の沙漠」と呼ばれる海岸を舞台に、月の裏側をイメージした写真を展示します。今回の作品では、作品の舞台を一つに限定し、月の裏側を想像しながらその世界を映すということだけを考えながら撮影しました。舞台があって、自分の中に脚本があり、そこで生じたエネルギーを吐き出していく作業は、感覚としては演劇に近い部分があるかもしれません。

街灯も少ない薄暗い海岸を、月明かりを頼りに手探りで撮影するので、ストロボが光を放った一瞬だけ目の前の風景が残像となって私は微かに像を認識できます。

記憶が曖昧なまま現像後のイメージを見てみると、認識していた記憶とのズレが生じていて、そこには見たことのない世界が立ち現れていました。その写真達を、私は実際にこの世界に存在するが見たことのない月の裏側の世界に重ねて今回展示しています。

 

携帯電話のカメラで撮った景色を、ポケットにしまっておく満足感。

私が写真を撮り始めた時に使っていたのは携帯電話のカメラでした。元々内向的な性格や親のしつけの影響で家に縛られて生きていたので、部屋の窓から外の風景を撮って、それをポケットにしまっておくことに満足感を得ていました。

高校生の時に進路を決めるにあたって、特に何も考えず暮らしていたので自分が得意なこともなかったのですが、継続的にしていたことが携帯で部屋から写真を撮ることだったので、一度写真を勉強してみようと思い専門学校の道に進むことになりました。

現在は、自主ギャラリーのメンバーとして活動していて、年に数回展示を行いながら、作品を制作しています。

 

自分の感覚と “イメージを裏切られた写真” を大事にすること。

写真を撮るときや制作の時に大事にしていることは特にありませんが、強いて言うなら考えすぎないようにしています。考えすぎると思考が固まって、どんどん作品の方向性を見失ってしまうので、感覚を大事に制作するようにしています。なので、作品には偶然撮れた写真や、こんな写真が撮れているだろうと予想していたイメージを裏切られた写真を作品に多くセレクトしています。

 

新宿四谷「TOTEM POLE PHOTO GALLERY」で2度目の個展開催。

今回展示をするTOTEM POLE PHOTO GALLERYは、新宿四谷にある写真家11名で運営している自主ギャラリーです。メンバーによる定期的な展示を中心に企画展やイベント、ギャラリーレンタルなども行っています。

私は昨年5月からメンバーとして参加しているのですが、4月の卒業のタイミングでは何も決まっていなくて、フリーの作家として展示場所を探しながら活動していくんだろうと考えていました。そんな時に、学校講師の鳥原学先生がすでにTOTEMのメンバーとして活動していた学校講師の田凱先生に自分を紹介していただいて参加する運びになりました。

2021年7月 個展「隣の幻 / Next door illusion」

2021年7月 個展「隣の幻 / Next door illusion」

 

昨年7月には、メンバーになって最初の個展「隣の幻 / Next door illusion」を行いましたが、私が卒業した年では新型コロナウィルスの影響で卒業展示ができなかったので、発表する機会を得られて良かったと思っています。

 

写真家としてのステップアップと新しい挑戦

2021年はどんどん変わっていく環境の変化に慣れることで精一杯でしたが、これからは写真家として新しいことにどんどんチャレンジしていきたいと思っています。まだ明確には決まっていないので、写真以外のいろんなものに触れて、それを作品に反映できればと思います。

また、今後もTOTEM POLE PHOTO GALLERYのメンバーとして展示を重ねていくと思いますが、その他のいろんなギャラリーでも展示の機会があれば良いなと思っています。

 

大須賀 馨 / Kaoru Ohsuga
1998年 千葉県生まれ
2021年 日本写真芸術専門学校卒業
現在フリーランス写真家

Kaoru Ohsuga

 

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