フォトグラファーのためのカラーマネージメント実践〈第4回〉
第1、2、3回はこちら
照明について
演色性、重要です
色評価用のLEDスタンドと普通のLED照明で、どれくらい見え方が違うのか、実験してみました。
今回用意したZ-208PRO-5000Kは、カラーメーターで測ったところ、色温度が5231Kで、Raが97.3でしたね。
そのZ-208PRO-5000Kを持って、スタジオから廊下に出てみます。廊下もLED照明で、測ってみると、色温度が4680Kで、Raが84.6と出ました。一般的な照明としては良い方だと思いますが、色評価用には適しません。
2つの照明で先ほどのプリントを見比べてみると、花の赤色の鮮やかさが違うことがわかります。色温度が近いので、プリントの白やグレーの色味に違いは感じません。照度は違うので当然明るさは違って見えるのですが、廊下の照明で見ると、赤色の彩度が下がって見えるのです。これが演色性の違いからくるものです。演色性の低い照明は赤系がくすんで出るものが多く、こういった傾向がみられます。
黒田さん「こんなに違うんだ! これは驚いた。こんなふうに見えるなんて知らなかった」
こちらは筆者が著書を執筆した際に実験した結果です。左には一般的なLED照明、右には高演色LED照明を仕込んだ箱に手を差し入れています。左右の色温度は同じ(5000K)なので箱や服の色は同じですが、肌色が明らかに違います。演色性の違いでこれだけ個別の色味の再現に差が出るのです。
ホワイトバランスはきちんと取れていて、服の色はちゃんと出ているのに、肌色がどうも綺麗に出ない。そんなときは、照明の演色性を疑ってみましょう。
色評価照明の規格
少し難しいかもしれませんが、色評価照明の日本印刷学会推奨規格をお伝えしておきます(この規格はISOと同等以上の基準になっています)。
- 色温度…5000K(アンバー〜ブルーの軸です)
- 色度…duv 0.004以下(グリーン〜マゼンタの軸です)
- 演色性…Ra 95以上(R1〜R8の平均値)、Riの最小値90以上(RiとはR9〜R15のこと)
- 照度…2000±500lx(2000lxはかなり明るいです)
色管理をしっかりしている印刷会社の色評価室や印刷工場の色評価台も、この規格に則って整備してあります。印刷会社に入稿した色見本を印刷物と比較されるのがこの環境ということです。つまり、フォトグラファーやデザイナー側にもこの環境を用意しておけば、印刷会社も含めた関係者皆が同じ環境で色を評価できるということになり、コミュニケーションのすれ違いを防ぐことができるのです。
光源を見極めましょう
多種多様なLED光源が出回っている中で、撮影や色評価に適した照明はどれなのか、判断に迷うことがあると思います。そういうとき、演色性までわかるカラーメーターを持っておくと、機材選びに重宝します。
撮影時に複数のライトやストロボを使用することも多いと思います。そういうときにもカラーメーターは重要です。ライトごとに色味が違えば、そのまま部分的な色被りとして写ってしまいますから、一灯ずつ測って色味が揃うようにしておけば、RAW現像やレタッチで苦労したり、クオリティに妥協したりせずに済みます。
特にLEDライトを使う場合は要注意です。5000Kの撮影用照明でも、機種によってはduvがかなり大きいものがあります。そういうものが混ざってくると、部分的にグリーンやマゼンタの色被りが起こり、アンバー〜ブルーの軸と違う不自然な仕上がりになってしまいます。
デジタル撮影でホワイトバランスが自由に変えられるようになって、カラーメーターは過去のものになったと考える方が多いです。確かに、レンズ側にフィルターを当てて色温度や被りを補正することはないでしょう。でも、ライトごとの色の違いや、人工光源の演色性や色被りは、現在的な問題なのです。
[まとめ]
照明特性は、色温度、色度、演色性で判断します。
最新のカラーメーターは、それらを測るのに必要なツールです。
LEDが盛んな現在、その照明が撮影や色評価に使えるのかどうか、しっかり見極めましょう。
エンディング
カラーマネージメントを制作の味方に
「フォトグラファーのためのカラーマネージメント実践」ということで、基本的なところを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
フォトグラファーの表現に必要な実践を意識して、難しくなりすぎないように、理屈っぽくなりすぎないように、また日頃の制作活動とリンクするように書いたつもりです。
フォトグラファーは写真表現の専門家ですから、必ずしもカラーマネージメントの専門家になる必要はないと思います。ただ、デジタルワークフローで表現する以上は、それを上手に使いこなせた方が良いはずです。この記事がその一助になれば嬉しいです。
著書のご紹介
最後に、筆者が書いた本の紹介をしておきます。
プロのフォトグラファーや、プロを目指して写真を学ぶ方に向けた「入門書の次の内容」ということで、「早く・楽に・良い写真」を作るための考え方を解説しています。
『誰も教えてくれなかった デジタル時代の写真づくり』印刷学会出版部 刊
https://www.japanprinter.co.jp/book/978-4-87085-234-1/
発売から2年ほど経つので、本屋さんにはもうあまり並んでいないと思いますが、版元在庫はあるので取り寄せ可能です。もちろんWebでも注文可能です。
この記事よりさらに深いところを知りたい方に、ぜひおすすめします。
文・芳田 賢明
イメージングディレクター/フォトグラファー
株式会社DNPメディア・アート所属、DNPグループ認定マイスター。
写真制作ディレクターとして、写真集やアート分野で活動。フォトグラファーとしては、ポートレートや都市のスナップ、舞台裏のオフショットを中心に撮影。
https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/
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