【写真学校教師のひとりごと】vol.6 當麻妙について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼第5回


 

1990年代の末期にコニカがシリーズ「新しい写真家登場」を立ち上げ、それに対抗するかのようにニコンが、新鋭たちの写真空間と称し、「ユーナ21」を2000年代になってスタートさせた。
双方とも作品募集を若手にしぼり、かれらをターゲットにした写真界が、実に活気のある時代に突入した時代である。

當麻はそんなときに学生として入ってきた。
わたしに写真を見せていた学生たちが、1970年代生まれの写真家ということで、1999年にコニカ・ギャラリーを貸しきってグループ展を開いた。
全員で8人。うち女性が5人。
その中でいまだに写真を撮っている女性は、當麻1人になってしまった。
日本という社会のなかで女性が写真家として生きるのはなかなか大変なことだと思う。

1999年「OBSERVER 1970年代生まれの写真家たち」 コニカプラザ

 

私も写真を撮る人間だ。相方の苦労はこの目で見てよく知っているつもりだ。
當麻の相方は男だ。家事もかれがそこそここなしてきたのだろう。おつかれさん、とその労をねぎらいたい。
そんなかの女のデビュー作について。

1999年「cornershop」 コニカプラザ

住宅街の道路の交差した地点には植え込みや、さまざまなオブジェ的な創作物が見られることが多い。それらに當麻はカメラをむけた。
題して「cornershop」。
イギリスのバンド名を拝借して名付けたという。
人間の営みがうかがえて興味深い写真だ。

かの女の父親は写真家だそうだ。
そういった女性は初期に1人いた。また最近個展を開いた女性の父親も写真家だという。
写真家の娘が写真家になるというのは、そんなに珍しいことではないようだ。

ところで、この當麻は自己主張がかなりはっきりした人間で、写真家に向いている性格と思う。
すんなりとコニカとニコンでの展示をかさねた。

2003年「Tamagawa」 新宿NikonSalon

だが、結婚し、子供が生まれ、子育てに精神力と体力を消耗し、写真に時間を費やすことが難しくなり、30代から40代にかけ、展覧会など、発表ができない時期が続いた。
たいがいの女性はこのときに写真ときれてしまう。
だが、當麻は写真とも亭主ともきれずにこの時期を乗り切った。
その間、写真を撮りたくないと思うことはなかったという。

最近神奈川県が主催した、写真、書、工芸、平面立体などを対象作品にした神奈川県美術展というのがあった。
58回も回を重ねており、歴史があるものだ。
それに応募し、首尾よく賞金を手にしたかの女は、今まで撮り続けてきた写真絵巻を完成させるべく、日々精進しているようだ。

子供も来年はいよいよ大学受験だという。
写真にそこそこの時間をさくことができるようになってきたのだろう。
いままでこつこつ撮りためてきたものがある。自分のこころのあり様をそのとき、そのときに写しとめたものだ。
なかなかデリケートな部分がみてとれる。
自分の身の回りのなんてことはない風景を写しているのだが。
期待したい。

 

當麻 妙(とうま・たえ)

写真家。雑誌や書籍を中心に活動。沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。
共著に『旧暦と暮らす沖縄』(文・白井明大、講談社)
写真集『Tamagawa』
現在、天然生活WEBにて連載「二十四節気ことのはノート」の写真を担当。

publications:
“Tamagawa” private publishing-Tokyo Japan, 2003.
“GR DIGITAL BOX” Tokyo Kirara-sya-Tokyo Japan, collaboration, 2006.
“GR SNAPS II”Pia-Tokyo Japan, collaboration, 2010.
“Shima no kaze wa, kisetsu no namae. Kyureki to kurasu Okinawa” Kodansha-Tokyo Japan, collaboration, 2016.

exhibitions:
“Cornershop”, Tokyo, Japan 1999
“public garden”, Tokyo, Japan 1999
“Tamagawa”, Tokyo, Japan 2003
“chill chill”, Nagano, Japan 2008
“SNAPS”, Tokyo, Japan 2010
“KUDAKA”, Okinawa, Japan 2014

public collection:
Kiyosato Museum of Photographic Arts, Japan 2001

Instagram:當麻妙(@taetoma)
HP:https://tomatae.com/

 

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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