【料理×写真】「おいしさ」を写真で伝える──フォトグラファー井口俊介が語る“料理写真”の真髄
皆さんは、“食の魅力”を写真で届けるフォトグラファーがいるのをご存じでしょうか?
料理や食材が持つ「おいしさ」を一枚の写真で伝え、人の心を動かす写真家──
それが、フォトグラファーの井口俊介さんです。
スタジオアマナでキャリアを積んだのち、独立してMax Kitchen Studio(マックスキッチンスタジオ)を設立。
現在は食品メーカーの広告やパッケージなど、幅広く活躍されています。
料理写真の現場を知り尽くしたプロとして、
そして“食べ物をもっとおいしそうに魅せる”ことに情熱を注ぐ職人として──
井口さんに、料理写真の奥深さと“おいしさを伝える”ための工夫についてお話を伺いました。
これから写真を始めてみたい方や、料理をもっと魅力的に撮りたい方にも、
きっと新しい気づきがあるはずです。ぜひ最後までご覧ください。
井口俊介 / Shunke Max Iguchi
略歴
1980年 兵庫県産まれ1983年 父の仕事でカナダへ4年間移住2005年 (株)アマナ入社2024年 独立 /(株)Max Kitchen Studio 設立
HP : https://maxks.jp/
Instagram : @s_iguchi
──まずは、フォトグラファーとしての活動内容、そして「Max Kitchen Studio」設立の経緯をお聞かせください。
主に料理や食べ物の撮影をしています。広告やパッケージ、商品ビジュアルが中心ですね。
食品メーカーさんからの依頼が多く、パッケージ用の写真をメインに撮っています。
料理そのものだけでなく、料理人のポートレートや調理シーンなど、“食”に関わるさまざまな撮影も行っています。
スタジオを作ったのは、自分の手で仕事を一貫してやりたいと思ったからです。
以前はアマナに在籍し、14年ほどカメラマンとして働いていました。
会社にいると営業が仕事を取ってきてくれますが、独立してからは、企画から納品まで責任を持てるのが大きな魅力ですね。
もちろん大変なこともありますが、やりがいと自由度が格段に増えました。
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「料理写真」とは何を伝えるものか
──井口さんにとって「料理写真」とは、どんな存在なのでしょうか。
一言で言えば、“美味しさ”を伝えるためのものです。
アート的な要素もありますが、広告やパッケージでは「美味しそうに見えること」が最優先。
おいしさの感じ方は人それぞれですが、「これ美味しそうだよね」と誰もが共感できる瞬間があると思うんです。
その共通点を見つけて、見る人全員の感覚をひとつにする──それが自分の仕事の本質ですね。
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「おいしさ」を具現化する技術とこだわり
──写真で“おいしさ”を表現するために、ライティングや構図で意識していることはありますか?
大切なのは「ツヤ感」と「みずみずしさ」です。
果物なら果汁が溢れる瞬間、カレーならルーがご飯にかかる瞬間など、食べ物にはそれぞれ“おいしそうに見える瞬間”があります。
その一瞬を逃さず捉えることを意識しています。
光の使い方も重要です。
逆光でツヤを強調したり、やや斜めのライティングで立体感を出したり。
ただ光だけではなく、スタイリングや質感の作り込みを含めたトータルバランスが大事です。
例えばヨーグルトなら、水切りして少し硬くして形を整える。
代用品は最小限にしながら、“嘘をつかない工夫”でリアルなおいしさを追求します。
-コマーシャルフォト「 おいしい瞬間の撮影レシピ 」掲載作品-
-コマーシャルフォト「 おいしい瞬間の撮影レシピ 」掲載作品-
──撮影現場で特に苦労する食べ物はありますか?
ラーメンは難しいですね。
スープを入れると麺がすぐに伸びてしまうので、麺や具材の位置を決めてからスープを注ぎ、そこからが一気に勝負。
湯気や汁の流れなど、ほんの少しの違いで印象が変わります。
でも、その“決定的な一瞬”を捉えられたときの達成感は大きいですね。
-Max Kitchen Studioの様子-
経験に裏打ちされた構図とバランス感覚
──構図やバランスを決める上で、意識していることはありますか?
「違和感のなさ」を大切にしています。
パッケージ写真では、単にきれいな写真というだけではなく、文字やバーコードが載る位置を想定した構図が求められます。
実際の商品と写真のサイズバランス、誤認防止のルールなど、制約が多い分、考える要素も多い。
そこに広告的な美しさをどう加えるか、経験でしか身につかない部分ですね。
-Max Kitchen Studioの様子-
プロが教える「おいしく撮る」3つのヒント
──スマートフォンなどで料理を撮る人も多いですが、すぐに実践できる“おいしく撮るコツ”を教えてください。
誰でも簡単にできるポイントを3つ挙げるとすれば、
1,背景を整理すること。
ティッシュやナプキンが映り込むだけで印象が崩れます。
お皿の周りを整えて“美味しそうな空気感”をつくることが大切です。
2,角度を変えて何枚も撮ること。
真上からだけでなく、自分の食べる目線や斜めからなど、いろんな角度を試すと新しい発見があります。
最初の一枚より、少し視点を変えた方が断然おいしそうに見えることもあります。
3,自然光を意識すること。
フラッシュは使わず、窓際など柔らかい光のある場所で撮ると、食材のツヤがきれいに出ます。
左右どちらから光を入れるかを決めておくと、SNSでも統一感が出ます。
──やりがちなNGや注意点はありますか?
フラッシュは絶対に避けたほうがいいですね。テカリが不自然になります。
あとは加工のしすぎ。色味をいじりすぎると、料理の温度感が失われます。
明るさやコントラストの微調整くらいに留めておくのが自然です。
📸料理写真撮影を実践してみました📸
Before
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After
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アドバイスを受ける前は、どこか平坦で、色味をいじりすぎたせいか加工感が強く、背景も雑然として“おいしさ”が伝わりにくい写真でしたが、井口さんのアドバイスをもとに撮り直してみると、光と質感が際立ち、料理の魅力がぐっと引き出されました。
まとめ──「いい料理写真」とは?
──井口さんが考える、“いい料理写真”とはどんな写真でしょう。
「見た瞬間に食べたくなる写真」ですね。
情報や説明よりも先に、“感覚的に美味しそう”と伝わること。
それが料理写真のゴールだと思います。
-井口さんが撮影を担当した、有名な商品パッケージの数々-
──最後に、写真を通して伝えたいメッセージをお願いします。
食べ物の写真って、誰もが見て、誰もが感じ取れる“共通言語”だと思うんです。
だからこそ、一枚の写真で人の心を動かせる。
そういう“おいしさの共有”を、これからも追いかけていきたいですね。
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井口さん、貴重なお話をありがとうございました。
取材を通して感じたのは、“写真”という手段を通じて、料理と真摯に向き合う井口さんのまなざしです。
「おいしさ」を一瞬で伝えるために、光を操り、質感を追い込み、食材の“いちばん輝く瞬間”を捉える。
その姿勢は、まさに料理人にも通じる職人技でした。
一枚の写真の向こうには、食べる人、作る人、届ける人──
多くの人の想いが重なっています。
井口さんの写真は、その想いを静かに、しかし確かに映し出していました。
撮影後の柔らかな笑顔が印象的で、
“おいしさを写真で伝える”という言葉の意味を、あらためて感じさせてくれる時間となりました。
文:PicoN!編集部 阪田
写真:PicoN!編集部 黒田
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