「遠く離れた地で」- Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー vol.24
学校法人呉学園 日本写真芸術専門学校には、180日間でアジアを巡る海外フィールドワークを実施する、世界で唯一のカリキュラムを持つ「フォトフィールドワークゼミ」があります。
「少数民族」「貧困」「近代都市」「ポートレート」「アジアの子供たち」「壮大な自然」……。
《Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー》では、多様な文化があふれるアジアの国々で、それぞれのテーマを持って旅をしてきた卒業生に、思い出に残るエピソードを伺い、紹介していきます。
(以下、文はフォトフィールドワークゼミ卒業生の白簱有希乃さん)
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ベトナム・ハノイ。バスケットボールチームの撮影初日、これまで経験したことのない緊張に襲われた。普段は初対面でも人と話すことに抵抗はない私だが、この日は食事も喉を通らない。「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせながら向かった先は、フェンスに囲まれた屋外コートだった。風が通り抜け、少し気持ちが軽くなった。
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撮影を受け入れてくれたのは「Tang Long Warriors」というチームだった。英語は単語を並べる程度の私の言葉にも、選手たちは真剣に耳を傾けてくれた。練習前に「こんにちは」「いただきます」と日本語で挨拶してくれる。いただきますのタイミングが違う、と笑いながらも、緊張で固まっていた胸の奥がほどけた気がした。
練習中は「How do you say hot in Japanese?」と聞いてきたり、汗だくな手で私に水を差し出してくれた。きつい練習の中でも気にかけてくれる。彼らの行動のひとつひとつに言葉よりも確かな歓迎を感じた。
わずか3日間の撮影だったが、選手たちと距離が縮まっていくのを感じた。出発の日、仲良くしてくれたQuanくんがサイン入りのユニフォームをプレゼントしてくれた。19歳の未来ある選手の大切なユニフォーム。特別なプレゼントは、帰国報告会で着用して発表した。
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南部のホーチミンへ移動して出会ったベトナムバスケットボール協会で働くティファニーは、今でも大切な友人だ。思いを伝えようと必死に話しかける私の言葉を、彼女は真正面から受け止めてくれる。
都合が合う日は毎回送り迎えをしてくれて、試合がない日には一緒に遊びに行き、食事にも何度も連れて行ってくれた。フォーが大好きで毎回フォーを食べたいと言う私にティファニーは「いつかフォーになりそう」と言い二人で大爆笑した思い出も。くだらないことを言うと万国共通で盛り上がる。
ティファニーの紹介で、ベトナムのプロリーグの撮影もさせてもらえた。観客は太鼓や旗を使い、思い思いに熱く応援していた。
その会場で、ふいに見覚えのある横顔が視界に飛び込んできた。
ハノイで出会い、ユニフォームをくれたQuanくんだった。彼も私に気づいて、手を振ってくれた。会場ではお互いに忙しくて話すことはできなかったが、その日の夜メッセージを送るとすぐに返事が返ってきた。
「すぐ分かったよ。また会おうね!」
1,000キロ以上離れた別の都市で偶然再会できたことが信じられなくて、思わず笑みがこぼれた。
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プロリーグの試合中には、選手同士の激しい乱闘で4人が退場する場面に遭遇した。驚きよりも「ここまで勝負に熱くなれるんだ」という感動の方が強かった。勝利への執念をむき出しにする姿を前に、シャッターを切らずにはいられなかった。汗が飛び散る瞬間を捉えたときの高揚感は今でも覚えている。
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毎日カメラを構える中で、自分の写真に満足できなかったり、迷ったりする瞬間は何度もあった。それでも、選手たちや人々の優しさに支えられながら旅は続いていった。振り返ると自分でもよくやったと確かに思う。でもそれ以上に、見返りを求めない無性の愛を注いでくれたたくさんの人たちのおかげで頑張ったと胸を張って言える日々を過ごせた。
バスケットボールというスポーツがあったからこそ、遠く離れた国で深く人とつながることができた。
この半年間の全てが私にとってかけがえのない宝物。カメラを通してバスケで輝く人を撮り続けることが私の原動力であり、生まれた意味をこの瞬間に感じられる。
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