【写真学校教師のひとりごと】vol.5 フジモリメグミについて

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼第4回


 

『aroundscape』というタイトルの写真展がある。
辞書をひいてみたが、この単語はでてこない。

作者に聞いてみたら、
「身の回りの風景という意味にでもとってください、わたしの造語です」
とあっけらかんと言われた。

かの女、フジモリメグミが最近まで30年ぐらい生きてきた町の、ごく個人的なメモリーの映像化だ。今までシリーズとしてこの写真で10回展示を続けてきた。

造語とはいえ悪くはないタイトルである。
そのわりに、奇をてらったところをまったく感じさせることのない、ごくストレートな写真群でもある。ありのままのフジモリメグミそのものを写真にしたら、こうなるだろうという感じだ。

2020年「aroundscape」 epSITE Gallery

 

そのフジモリがこの個人的な風景写真の合間に撮っているのが、夫の写真である。
題して「#たまには旦那」
そのまんまのタイトルである。

2023年「#たまには旦那」 Koma gallery

 

いつもかつていた町ばかり撮っているので、ときにはダンナ、と言った感じでつけたタイトルだそうだ。
普通、写真を撮る人間は自分の相方を被写体やテーマに選ぶことはあまりない。ところが、かの女はこういうところが普通ではないのだ。

旦那の写真展は今回で2回目だが、沢山ある旦那の写真のなかで、もっとも地味な、グレーの雲を背景にした顔の写真はなかなか良かったと思う。

 

「aroundscape」も旦那の写真もそうだけど、フジモリはなんてことはない、なんの変哲もないものごとに対して、ごくストレートにカメラを向けるのが得意だ。
つまり私的な世界の観察日記のように、長年住んできた町を離れる者の、ともすればメランコリーになりがちな情愛を、たんたんとさっぱりと表現してしまうのがフジモリらしいのだ。
シャッターを押した瞬間、長年住んでいた町をあっさり忘却してしまうかのように、それまでの個人的な思いを、きれいさっぱりと断ち切ってしまうのだ。ともすれば、つっこみが足りないと感じる向きがあるかもしれない。が、このあっさりさ加減がかの女なのである。

最近はその片鱗も見せないが、かの女の色彩感覚には、強烈な、ひとを引きこまずにはいられないものがある。このかの女の感性を、わたしはかなり前になるのだが、まちがいなくこの目で目撃というか感知している。
あのときフジモリは食べ物の写真を撮っていた。いまの写真とはまったく異なった、別人のようなカラフルな色彩感覚で。
そういった感性はときがたってもなくなったりはしない。ただ休息しているだけなのである。

あの強烈な色彩感覚をいまのこれらのシンプル写真、「aroundscape」にかぶせていったら、どうなるのだろう?面白いと思うのだが。
見てみたいと思うのは、わたしだけだろうか。
あのときのクラスメートだった人たちは、記憶にあるはずだ。

あの強烈な色彩を!

 

フジモリメグミ

2008 日本写真芸術専門学校PFWコース卒業 日本写真芸術専門学校卒業講師
2011 ワンダーシード2011入選
2011 petit geisai#15 準グランプリ
2013 TAP Gallery所属(〜2019)
2015 Nikon juna入選
2017 ユカイハンズパブリッシングより写真集「apollon」を出版
2018 「kairos」銀座/大阪ニコンサロン
2020 「aroundscape」エプソンスクエア丸の内 同年第4回epSITE Exhibition Award』受賞
2021 恵比寿にKoma galleryを開廊
2021 T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 「写真 雑誌 を、屋外で観る、読む、展示」に出展
他展示会多数

Instagram:フジモリメグミ(@fujimorimegumi)
HP:http://fujimorimegumi.com/index.html

2018年 「kairos」 Nikon Salon

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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