代官山で発見、心やすらぐ “隙間” デザイン。ー「MAISON KITSUNE」「DAIKANYAMA TENOHA」

インテリアデザインの観点から、街並みや建物について学ぶ「インテリア探訪」。代官山編・最終回となる今回は、前回に引き続き、代官山の建築に見られる “隙間” の美にスポットを当てます。

文・野口朝夫(建築家・専門学校日本デザイナー学院校長)

■前回の記事

 

代官山の魅力である「隙間」のことをこれまで触れてきました。この、ある領域とある領域との間に設けられている「間」は空間ではとても大切で、空間構成での魅力の源と感じています。

これまで旧山手通り沿いの代官山の魅力について触れてきましたが、代官山には他にも魅力的なスペースがあります。私が一番気に入っているのは、「MAISON KITSUNE」という店。旧山手通りの一本裏(北側)にあります。

今回調べて知ったのですが、世界的に店を展開しているフランスのブランドの店舗のようです。Webによると 黒木理也さんという方がデザインを手がけたとのこと。

私が惹かれたのは、店舗全体の透明感を持つデザインもありますが、とりわけ道路と建物の間、約3mほどのスペースに玉石を敷き詰めた空間分割手法です。道路と店舗との間に玉石で「中間領域」クッションを意識的に設け、飛び石を踏み店舗に入るデザイン。そのほんの何歩かの動作で、人のこころは集中し、店に入る心構えが整えられます。本当に狭いスペースですが、かつての日本庭園が取ってきた手法が意識され、生かされていると感じます。

もう一つ魅力的だったのが、「DAIKANYAMA TENOHA」という八幡通り沿いの複合施設。残念ながら現在これは取り壊され、新しく「TENOHA 代官山」として賃貸住宅、オフィス、商業施設をもつ複合施設として、最近オープンしました。

もともと、ここには「代官山ラヴェリア」という店舗がありました。この施設にはコの字形の建物で囲まれた庭がありましたが、タイル敷きで大分無味乾燥な印象があり、それほど人出が多い印象ではありません。

それがあるとき一時閉鎖されたと思ったら、大木が何本か植えられ、中木もかなり配され、緑あふれる中庭に変身しました。加えて、設けられた高さ3mほどの鉄パイプの柵とゲートが内外の空間をはっきりと区切り、それまでと全く異なる質を持つスペースに生まれ変わりました。緑に囲まれ、誰でも使えるテーブル・ベンチ・椅子が置かれ、買い物客も通りすがりの方もゆっくりと過ごせる空間。シーズンや天候によっては、空いている椅子を探すのが難しいほど人出も多く、賑わいがありました。

この「DAIKANYAMA TENOHA」は当初から、5年間の限定で開かれたスペースとのこと。残念ながら、しばらく前に取り壊されました。この空間が持っていた、新たな出会いや交流の可能性を提供しているある種の自由さは魅力的でした。

このように代官山には、元からあった隙間を利用して新しい空間に拡張した場所や、意図的に新しくつくった隙間を用いた場所があります。ものを売ったり飲食をしたりする機能だけのスペースではなく、隙間を積極的に生かし、その時間や空気を楽しみ、新しいものに出会う。そんなホッとできる非日常空間があることが、代官山の魅力でしょう。

このような魅力を持つ空間が東京でも増えると、街は人々にとってもっと親しみやすいものになるでしょう。デザインを学ぶ学生は、このことを理解し取り入れていって欲しいと思います。

文・野口 朝夫
日本デザイナー学院校長。一級建築士。
野口朝夫建築設計所代表として、住空間を中心とする各種建築設計監理を手がけている。日本デザイナー学院では、住空間・フィールドワークなどを30年にわたり担当。現在 校長。国際NGO事務局長として40年間にわたり、ラオスでの読書推進活動に携わっている。

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