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「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑲ ― ルイーズ・ブルジョワ《 Crouching Spider(かまえる蜘蛛) 》について

ルイーズ・ブルジョワ《 Crouching Spider(かまえる蜘蛛)》について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

今回は、フランス・パリ育ちでニューヨークに移住して創作活動を行なったアーチストです。この作家は立体(彫刻に類する)作品をはじめ、絵画・版画の制作も行っていて幅広い表現領域を持っています。
まずはニューヨークのグッゲンハイム美術館のコレクションの中からご紹介しましょう。

【ルイーズ・ブルジョワ Louise Bourgeois 『妖精の裁縫師 / Fée Couturière』1963年 102 x 54cm ペイントされたブロンズ グッゲンハイム美術館蔵 / NY,米国】 ※画像引用元:グッゲンハイム美術館 HP

シンプルに奇妙な形状のこの作品。上からワイヤーのようなもので吊り下げられた展示になっています。縦長が102cmでほぼ1メートル。白っぽくペイントされたブロンズ(青銅)製ですから、それなりに重量がありそうです。ちょうどこの画像の角度では瓜実顔(うりざねがお)の形に見えています。

この形状と展示台に置くのではなく吊り下げる展示方法によって、そして作品のタイトルも含めて鑑賞者を惹きつける作品です。中央に開けられた穴から見える内部(空洞…?)を思わず凝視してしまいますね。作品をグルリと回って鑑賞したくなります。
この作品のようにルイーズ・ブルジョワは不思議な形態の作品を数多く制作しています。

続いては、

【ルイーズ・ブルジョワ Louise Bourgeois『トルソ 自画像 /Torso, Self-Portrait 』1963-64年 62.3 x 40.5 x 18.8cm 石膏 ニューヨーク近代美術館蔵 MoMA / NY,米国】 ※画像引用元:MoMA HP

この作品の原題にある “ Torso”はイタリア語で『胴体だけの彫像』を指します。

【参考画像】

『ミレトスの胴体』/torse de Milet 』-490 / -385(紀元前5世紀の第1四半期、紀元前5世紀の第2四半期)135 x 76.5 x 43cm 大理石 ミレトス劇場で発見 ルーブル美術館蔵 Musée du Louvre / Paris,フランス ※画像引用元:ルーブル美術館 HP

こちらもユニークな形状ですね。ニューヨーク近代美術館(MoMA)所蔵の作品です。
「トルソ 自画像」というタイトル。参考画像はルーブル美術館の所蔵品のトルソの一例です。
このルイーズ・ブルジョワの作品、見ようによってはトルソに見えなくもないですが…いかがですか?
また自画像(Self-Portrait)ともこの作品を名付けています。石膏製で形を削り出した細かい痕跡があって、そこがまた大理石の古代のトルソの趣(おもむき)がありますよね。奇妙なフォルムとこのタイトルの不思議さがルイーズ・ブルジョワらしさでもあります。

【ルイーズ・ブルジョワ Louise Bourgeois『無題 (萌芽) /Untitled (Germinal) 』1995年 16.5cm ブロンズ(青銅)RISD美術館蔵 / プロビデンス,米国】 ※画像引用元:RISD美術館 HP

画像で確認できる範囲で15の突起が上の方向に伸びている様に見えています。半円状の土台部分は内側にやや窪み、そこからむくむくと伸び出しています。突起部分の一つひとつに動きを想像させ、さほど大きな作品ではないですが、ルイーズ・ブルジョワの表現力が窺える作品です。

※RISD(ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)美術館
引用:Wikipedia

【ルイーズ・ブルジョワ Louise Bourgeois『軟体動物 /Les Mollusques 』1948年頃 24.0 x 16.2cm エッチングと彫刻 ニューヨーク近代美術館蔵 MoMA / NY,米国】 ※画像引用元:MoMA HP

こちらは『版画』作品です。黒色系インクの濃淡とエッチングによる線や点が描かれた全体がしっとりとした雰囲気ですが、『軟体動物』の秘められた生命感が漂っています。
エッチング (Etching)とは一般的には銅製の平板にニードルなどで傷をつけ、その表面を腐食させてインクの溜まる溝で製版する版画の手法ですが、MoMAのこの作品のクレジットでは “Etching and engraving“とあり『エッチングと彫刻』となります。この場合の彫刻はニードルでの刻版作業であろうと思います。
立体作品だけではないルイーズ・ブルジョワの表現の幅の一端を見せています。

【ルイーズ・ブルジョワ Louise Bourgeois 『 ママン(アマ) / Maman (Ama) 』1999年 927 x 891 x 1023cm ブロンズ・大理石・ステンレス ビルバオ・グッゲンハイム美術館 / Bilbao,スペイン】 ※画像引用元:ビルバオ・グッゲンハイム美術館 HP

脚の長い蜘蛛を思わせる怪異なフォルム。そしてこの大きさ、画像で見ると圧巻の迫力ですね。ほぼ幅が9~10メートルで高さが9メートルを超えるという作品。この巨大な脚を動かして、移動している様に見えています。その『動き』の雰囲気は8本の脚それぞれにある筋肉や関節の表情の造形が細部まで行き渡っていることだと思います。作品名『Maman(ママン)』は母親を指す言語でもあるので、ますますこの作品のへの興味は尽きないですね。

※ビルバオ・グッゲンハイム美術館は、スペインの大西洋側の都市ビルバオにあるニューヨークの同名の美術館の分館。ソロモン・R・グッゲンハイム財団の設立

さて、いよいよ今回の作品です。

【ルイーズ・ブルジョワ Louise Bourgeois 『 構える蜘蛛 / Crouching Spider 』2003年 270.5 x 835.7 x 627.4cm ブロンズ・茶色く磨かれたパティナ・ステンレス鋼 森美術館 / 六本木,東京】 ※画像引用元:森美術館 HP

展示室の一角に展示されたこの作品は8本もの長い脚をもつ蜘蛛。神経質に身構えるこの姿は『ママン(アマ)』のようなサイズ感ではないものの、迫力は充分に展示エリアを支配しています。特に画像の手前の左右2本の脚は見る者に何とも言えない警戒心を示しているかの様です。この蜘蛛を収めておくには余りに狭い空間ですね。また、この作家の内面性やスピリチュアリティー(精神性)がその迫力の根源のように感じます。

このルイーズ・ブルジョワの作品「構える蜘蛛」が観覧できる展覧会が、東京都港区六本木にある森美術館の 『ルイーズ・ブルジョワ』展です。
この展覧会のサブタイトル『地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ』がとても興味をそそれられます。

では、最後はルイーズ・ブルジョワご自身の肖像写真です。

【ルイーズ・ブルジョワ Louise Bourgeois 1911~2010年】 ※画像引用元:テートギャラリー HP(London,英国)

 

展覧会情報

『ルイーズ・ブルジョワ』展

会 期:2024年9月25日(水)~2025年1月19日(日)
場 所:森美術館(東京都・港区六本木)
公式HP:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/bourgeois/index.html

 


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