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デザイン深化論──携帯電話から生まれたエモーションの美学 【Vol.2】心を駆動するデザイン

文 / 写真:砂原哲
コーディネート:竹島弘幸 / 竹内基貴

こんにちは、砂原です。今回は、Vol. 1でご紹介した「au Disign Project」の広がりから、現在の活動をご紹介したいと思います。

「ファッションとしての価値を持つ携帯電話」というコンセプトのもと、様々な苦労の末に発売まで漕ぎつけた携帯電話「INFOBAR」。結果、大変な好評を博し「デザインケータイ」という新ジャンルが生まれる先駆けとなりました。

ⓒKDDI

2007年1月にはニューヨーク近代美術館「MoMA」の永久収蔵品にも選定されました。ちなみに米国で初代iPhoneが発表されたのは奇しくも2007年1月でした。

Function(機能)を超えてEmotion(感情・情緒)をデザインすること。Emotionは「エモい」の「エモ」ですね。「au Design project」では「INFOBAR」の後も数多くの携帯電話やスマートフォンのデザインを手がけていますが、そのデザイン思想の根底には常に「Emotion」がありました。もちろん「機能性」は維持しつつ、「かわいい」「かっこいい」「心地いい」など、時に控えめに時に大胆に人の心を動かすデザインを目指しました。

「au Design project」の活動内容については『ケータイの形態学』という書籍にまとめてあります。ご興味ありましたら是非ご覧ください。無料でau Design projectのウェブサイトで公開しています。

20年を超える「au Design project」の活動を通して、素敵な言葉をたくさんの方からいただきました。「au Design project」がきっかけでデザイナーになったんです!と言われた時は心底嬉しかった。デザインが人の心を動かしてその方の人生に良い影響を与えるとしたらこんなに素晴らしいことはありません。

ある方が「au Design project」のプロダクトについてこんなコメントを寄せてくれました。「毎日、目にし、手にするたびにちょっと幸せな気分になれる」。なんて素敵な言葉でしょう。こんな風に感じてもらえるデザインを一つでも多く世に送り出せたらどんなに幸せでしょう。

2023年11月、この言葉をキーコンセプトにINFOBAR 20周年を記念した展覧会「Digital Happiness / いとおしいデジタルの時代。展」を六本木の21_21 DESIGN SIGHT Gallery 3で開催しました。展覧会では「初代INFOBAR型Apple Watch Case」と「生成AIマスコットUbicot(ゆびこっと)」のプロトタイプを発表しました。

Photo: Satoshi Sunahara

現在「au Design project」の活動は携帯電話やスマートフォンのデザインからデザインやアートそしてXRやブロックチェーン、AIなどの先端テクノロジーを掛け合わせ新たな価値を生む統合デザインへとシフトしています。企画・開発する対象は変わっても「Emotion」をデザインするという根幹は変わっていません。

2020年、コロナ禍の最中に東京国立博物館、文化財活用センターと「5G で文化財 国宝『聖徳太子絵伝』 AR でたどる聖徳太子の生涯」を共同制作しました。

(出典)adp.au.com

現代アートの領域では、2011年に前衛芸術家・草間彌生さんとコラボレーションした携帯電話を開発した流れを継ぎ、彫刻家・名和晃平さんの作品をARで体験可能にする「AR × ART KOHEI NAWA」(2020-2022年)を制作。

(出典)adp.au.com

最近ではバーチャルシンガー花譜などが所属するレーベルKAMITSUBAKI STUDIOとバーチャル舞台劇「御伽噺」の共同制作を行っています。

ⓒKDDI /KAMITSUBAKI STUDIO

このテキストを読んでいただいている皆さんは、クリエイティブなお仕事を目指していたり、既になんらかの形でクリエイティブなお仕事に就いている人が多いのでないかと思います。まだ仕事になっていなくても、デザイン、アート、写真、映像、漫画、アニメ等、ジャンルはともあれ何かを自分の手で生み出す喜びを知る種族に属する人たちだと思います。

その喜びは例えばSNS上での安易な「承認」から得られる喜びよりもずっと深く人生をかけるに値するものです。また、素晴らしい作品に出会うことで得られる感動、享受する喜びも同様です。

「創造する喜び→享受する喜び→創造する喜び……」皆さんは是非この連鎖を生み出す動因であり続けてください。

昨年、染色家の柚木沙弥郎さんが101歳でお亡くなりになりました。Eテレ「日曜美術館」の特集「Оh!SAMMY DAY 柚木沙弥郎101年の旅」の中で柚木さんは「ワクワク」という言葉を何度も口にしていました。私たちがふだん口にする「ワクワク」と違って、柚木さんの「ワクワク」は本物だと思いました。

100歳を超えてなお本物の「ワクワク」を口にできる創造的な人生、憧れませんか?

砂原哲 | SUNAHARA Satoshi
1970年埼玉県熊谷市生。東京都荒川区出身。上智大学文学部哲学科卒業後、映像プランナー等を経て、1998年に第二電電株式会社(現KDDI株式会社)へ入社。2001年、auブランドの価値向上を目的に携帯電話のデザインを革新するプロジェクトを立ち上げ、コンセプトモデルを発表。2002年au Design projectとして本格始動し、2003年INFOBARを開発・発売。以降、深澤直人氏、マーク・ニューソン氏、草間彌生氏など数多くのデザイナー、アーティストとの協働により、70機種を超えるau Design project /iidaブランドの製品企画・プロデュースを手がける。 INFOBAR、talby、neon、MEDIA SKINがニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されるなど、手がけた携帯電話・スマートフォンは国内外様々な美術館にコレクションされている。グッドデザイン賞金賞、DFAアジアデザイン賞大賞など受賞歴多数。著書に「ケータイの形態学」(六耀社)がある。
au Design project ウェブサイト

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