「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ㉒ ― 岡﨑乾二郎について

岡﨑乾二郎 について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

今回ご紹介しますのは『岡﨑乾二郎』(おかざきけんじろう)。現役の日本人アーチストで現在も創作、発表活動を行っている東京出身の日本の代表的な現代美術家です。美術作品の発表とともにアートを論じる美術批評家として執筆活動も行っていて、私の6歳年上の作家でもあり、若輩の時から作品展を見学し続けて、リアルタイムで触れてきた作家の一人です。
現役の日本人アーチストについてこのコラムでご紹介するのは、第6回の『大竹伸朗』氏以来です。岡﨑乾二郎の作品は日本各地の美術館などに収蔵されています。

 

まずご紹介するのは_

【岡﨑乾二郎 Kenjiro Okazaki『 たまち 』1981年 12.6 x 24.4 x 22cm アクリル、ポリエチレン 高松市美術館蔵 / 香川県, 日本】 ※画像引用元:岡﨑乾二郎公式HP

20センチ前後の立体で、クレジットの「ポリエチレン」との素材からおそらく軽量であろうレリーフ形状の作品です。曲線と直線で形成されたパーツが立体的に構成されています。そしてその面には微妙な色彩がマチエール(画肌)とともに施されていいます。平仮名で『たまち』というタイトルも面白いですよね。この作家は不思議なタイトルも特徴の一つです。

そして…

【岡﨑乾二郎 Kenjiro Okazaki『 そとかんだ 』1981年 14.1 x 33x 39.5cm アクリル、ポリエチレン 高松市美術館蔵 / 香川県, 日本】 ※画像引用元:岡﨑乾二郎公式HP

『たまち』に続いて『そとかんだ』。作品全体の色合いとアクリル絵具のマチエールによって立体的な構成が軽妙なリズム感を生み出しています。写真画像では一つのアングルでしか見られませんが、実際の展示空間では、ゆっくりと移動しながら鑑賞すると違った姿に見えてくるのも魅力だと思います。また軽快な動きを感じる形状ですね。岡﨑乾二郎はこうした平仮名の地域名の作品群によって脚光を浴びるとこになりました。

そして…

【岡﨑乾二郎 Kenjiro Okazaki『 「手出しをするな。ということこそ、私たちにとって唯一の言葉である」ぐんぐん近づいてきたのよ。でもこなかった。音もしなかったし、まだ明るかった。そんなにあんまり呼ばないで。いま自分から行こうとしているのだから。なんであんなことを彼が言っていたのかわかったわ。然るにその日の午後になって、わたしたちの住んでいる住宅地のすぐ近くに、落ちたのです。ええ、私のしっている人は一人だけです。熱エネルギーの移動。これだけは自然のなりゆきにまかせるよりほかはない。いや、やはりそれは自然のしわざではない、化学者のしわざです。「手の下しようもなく、お行儀がいい。だからどうかわたしを日陰におかないで。」あんなことを、なんで彼がいっていたのか分かるでしょう? 』1990-91年 190 x 180x 320cm 鋼 大阪中之島美術館蔵 / 大阪府, 日本】 ※画像引用元:岡﨑乾二郎公式HP

何ともタイトルが…長いですね!しかも口頭口調です。この作品は壁から離れて自立するオブジェとなっています。形状は鋭角的な直線・曲線と平板なパーツで構成され、それぞれのパーツが相互に支持するように絡み合う点では、前の二つの作品との共通性が見られます。鋼の材質とほぼ2~3メートルの立体サイズは展示室でも存在感を放っているでしょう。立体作品はぐるりと周囲を回ってみるとさまざまに姿に変えて見せている、と思うと現場で鑑賞してくなります。そして、タイトルの影響でしょうか、何やら作品がおしゃべりな感じにも見えてしまいます。

さて、続いては…

【岡﨑乾二郎 Kenjiro Okazaki『 サウモクのくさきに クワヒとうつくしみ、 かうむらしむ 』2000年 19 x 45x 36cm セラミック 豊田市美術館蔵 / 愛知県, 日本】 ※画像引用元:岡﨑乾二郎公式HP

何とも不思議な作品です。この作品の材料はセラミック(陶土)とクレジットに表記されています。粘土を素材として像を造形していく一般的に言う彫刻とは違います。この作品のフォルムはこれまでの3点の作品とは異なって作者の手の跡を感じさせない、材料の粘質と柔軟性を素材のままに表出して焼成しているように見えています。この作品からも材料の持つ性質と作者との相互対話が感じられて、それは岡﨑乾二郎の創作のベースにあると思います。

【岡﨑乾二郎 Kenjiro Okazaki『 木炭木を育てる 』1986年 209 x 159cm 綿布、絹 千葉市美術館蔵 / 千葉県, 日本】 ※画像引用元:岡﨑乾二郎公式HP

やや左に傾いだ四辺形をした支持体に布材が切り貼りされています。それらの素材はプリント柄であったり染め物であったりしていて、色面構成として視覚的なコントラストを生んでいます。それら布辺の断線は直線や曲線、そして不規則なシルエットを持っていて、画面からは色彩と生地柄との不思議な混声合唱が聞こえてくるようです。

さて、最後になりましたいよいよ今回の作品です。

【岡﨑乾二郎 Kenjiro Okazaki『 耳を押し当てその向こうの気配を探る。ベールは柔らかな襞を作って、顔に落ち、神秘的で触れられない何かを感じさせる。花嫁のベールほど美しいものはない、透明で儚く脆いのは純粋だから。次の日、彼女は花嫁のベールを買いに行った。 雨が降れば夏になる。丘の頂から湖が見えた。夏はどこにいるのだろう。見晴らしてもすべては春のまま。スミレの花びらは雨を欲して萎れ、身を窄めていた。 何週もの遅れを取り戻そうと冷たい春のあと、暑い夏が慌てて訪れる。リネンの清らかな香りは婚礼のための白い布の束、仕上げのアイロンがけを待っている。 石畳の街に、太陽が降り注いでも石は決して花に変わらず、白壁の家が緑に覆われるわけでもない。太陽は街のあちこちの小さな公園にただ夏の装いをさせる。夏は公園の芝生にも自由に伸びることを許さず、いつも短く刈り揃えられていた。 』2024年 224.0 x 363.5cm アクリル、カンヴァス】 ※画像引用元:東京都現代美術館展覧会HP

こちらも長いタイトルを付与されています。左右と上下に4点の四角形のカンヴァスが組み合わされた作品で、淡く肌色に近い地色をもつその平面に半透明なアクリル絵具で彩色されています。絵の具は荒々しい痕跡で重なり合いつつ柔らかな色合いで描かれています。縦幅2メートル余りで横幅が3メートルを超えるもので、わりと大きいサイズですから、筆跡のストロークも大きなものであることが想像されます。また、カンヴァス一枚の平面ではなく4枚で構成された平面である点が、各々のパーツを組み合わせるこれまで紹介した作品の成り立ちに共通しています。

この作品の実物が鑑賞できるのが 4月29日から開催の『岡﨑乾二郎』展 です。
彼の幅広い創作活動を全体をじっくりと観覧することができます。
この展覧会は東京メトロ半蔵門線【清洲白河駅】から出て徒歩8分。東京都現代美術館での開催です。

春爛漫の空気のなか現代アートを満喫しに出かけましょう!

展覧会情報

岡﨑乾二郎
而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here

会 期:2025年4月29日(火・祝)~7月21日(月・祝)
場 所:東京都現代美術館(東京都・江東区木場公園内)
公式HP:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/kenjiro/

 


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